104:慮外の小包
* * *
宅配業務も続けていれば慣れてくる。
指定通りに積み込めばナビが目的地と行程を表示してくれる。
いつも通りにコードを読み込もうとして……小包の一つがエラーを吐いた。
「あれ、おかしいな?」
読み取りミスかと思ってもう一度コードリーダーに翳すも再びエラーを吐き出したので何事かと首を傾げる。
―――いつも通りの伝票だね。
伝票に問題は見当たらない。
もう一度コードリーダーに翳して再びエラーが出たので諦めて直打ちで番号を入力する。
偶にあるのだ。こういう読み取り辛い伝票が。
―――仕方ないね。
番号を入力すれば今度はしっかりと目的地と行程が表示された。
最後の積み込みも終われば後は戸配だけだ。ここからが本番とも言うけど。
溜息を一つ吐いて冷房が効いた車内へと逃げ込むように乗り込んだ。
――― 見 つ け た 。
ウィンカーを出して曲がろうとして……すんでの所で道を間違えていることに気付いた。危ない危ない。
少し気が緩んでいたか。……いや?
―――運転中は集中しなくちゃ。
まずは目的地まで行ってから考えるか。そうだな。
住所と宛名は、と。
……尾崎さま、ね。
* * *
障害のある場所を対策して通過したら推定順路すっ飛ばして裏回りしていた。
やっちまった感はあるものの、それはさておきすっ飛ばせるならすっ飛ばした方が探索が捗るのは事実だ。
後日英気を養ってから再び神殿遺構や湖岸周囲、溶岩閉鎖区画両岸の坑道を探索し直した。
やはり湖に近付くと赤熱カエルの縄張りになるようで、溶岩河の河岸程ではなかったものの、そこそこの頻度で溶岩湖からの伏撃を受けた。
とはいえ流石に毎度の事なので慣れるし、伏撃を受けるのは概ね飛び回っている精霊たちだ。
彼らは警戒心はさておき戦闘経験は豊富なようで不意に飛んでくる火球や舌先を軽やかに躱しては反撃していた。
そんな彼らの好敵手はゴリラヴァゴーレムだ。
神殿遺構を徘徊する図体のデカイ冷え固まった溶岩塊のこいつら相手は神殿通路という閉所条件も相まって俺のサポートなしだとかなり危うい戦いになる。
逃げ場が広く無いからな。
観戦した所、ゴリラヴァゴーレムの突進に対しては土属性の精霊たちが防壁や足を引っかける段差を作り出して時間を稼ぎ、捻出した時間で他の精霊たちが倒し切る、あるいは後方へと抜けて距離を取るなど連携して戦いを進めているようだ。
こちらが避けにくいのと同様デカブツのゴーレムにとっても通路の閉所環境は殆ど回避を捨てざるを得ない環境だ。
そういった相手が避けない条件が精霊たちにとって楽しいらしい。
多少の知恵が働くものの基本的に脳筋な精霊たちを引率して神殿内を探索すれば程よいゴリラヴァゴーレムと何人か確保してウヅキに引き渡した笛告精、それから隠されたように閉ざされた膝上程度の高さの潜り戸の先にあった宝箱を発見した。
名称:ラピスソフィア
魔力濃度:42
魔力特徴:宿霊
見た目は鮮やかな朱に近い緋色といった感じの金属だ。
鑑定ぽんこつ先生の良く分からん特徴はアウレーネの見立てでは魔力を沢山貯蓄できるそうな。コアの強化版みたいなものか。
暇が出来たら性能検証をしてみてもいいが、これもお蔵入りかな。
とりあえず記憶に留めておいて必要な時が来たら想い出せることを祈ろう。
溶岩湖畔でのめぼしい探索成果はこんなものだった。
翌日は耐溶岩ヘビ型ドローンで溶岩閉鎖区画を渡って神殿側坑道の再探索だ。
巨影騎士は当然スルーする。
意味もメリットも無いからな。
あの後期待はしていなかったが一応ステータスを確認してもレベルの上昇は見られなかった。
名前:尾崎幻拓
種族:精霊憑き
レベル:44(↑1)
魔法力:291(↑9)
攻撃力:97(↑1)
耐久力:94(↑2)
反応力:182(↑12)
機動力:90(↑1)
直感力:146(↑2)
特性:精霊契約(アウレーネ、オルディーナ、ユキヒメ、サンドラ)、魔力制御、魔力変質(耐久力、魔法力、攻撃力、反応力、機動力)、混成魔法、アイスウィザード、土魔法
スキル:怪力、鑑定、識別
名前:アウレーネ
種族:精霊
レベル:44(↑1)
魔法力:311(↑7)
攻撃力:9
耐久力:61(↑1)
反応力:206(↑10)
機動力:28(↑1)
直感力:149(↑5)
特性:精霊魔法、魔力変質(耐久力、魔法力、反応力)、混成魔法
ここ1、2週間の成果もお隣ダンジョンの第4階層を攻略した際に辛うじてレベルが1だけ上がったっきりだ。
それはさておき、あいつを叩くなら術者を叩かなきゃいけない。
まともに戦っても相手をするだけこちらの損だ。
そして都合よくスルーできる手段をわざわざ用意したのだから使わない道理が無い。
裏回りで溶岩閉鎖区画をヘビ型ドローンで泳いで通過し、向こう岸の神殿側坑道でメタルゴーレムを身体ごと転移させる。
そして再び精霊たちを呼び出して前回同様探索させた。
収獲は金色謎鉱石柱が5本。
オリハルコンとミスリル、あとシュードプラムという灰紫色の鉱物も出て来た。
おそらく竜人像の素材になった金属だな。こいつも呪力を沢山貯められるとかいう謎の性質があった。お蔵入り決定だな。
前回の時点で半分ほどは探索できていたと思っていた神殿側坑道。
実は今回の探索で主道の端近くの側道から梯子が伸び、それを昇れば更に別の主道へと続いていることが分かった。
上階へと上がるにつれてぽつぽつとゴリラヴァゴーレムと実入りが増え、金色謎鉱石柱が複数本生えている階層も出て来た。
ここまで来る手間を考えるとそう頻繁に来たい所ではないが気が向いた時に金色謎鉱石柱が復活していないかどうか調べて見てもいいかもしれないな。
最終的に主道が崩落した箇所まで探索し終えて今回は引き上げる事にした。
さて、次の探索ではいよいよ溶岩河の上流へと向かう予定だ。
第7階層入口からそのまま河岸を行くルートはひたすら赤熱カエルに集られるので一度神殿遺構側へと向かい、溶岩湖の狭隘部から対岸へと渡って岩棚の上を行くルートを取ろうと思う。
敵の密度的に考えてもそちらの方が進みやすい。
「ごめんくださーい」
家事を済ませていざダンジョンへという所で玄関のチャイムが鳴る。
優待か? それにしては少し時期が早い気がする。
出鼻を挫かれつつも玄関を開ければいつもの宅配業者。
「こちらお名前、尾崎さま。間違いないですか?」
「…………えぇ」
「ありがとうございます。それでは、また。よろしくお願いします」
宅配の若いのが小包に貼られた白地の紙から何かを剥がすような真似をしたあと、ナニゴトもなかったかのように去って行った。
……その小包にはあるべきはずの物が何もなかった。
伝票も、当然送り主も内容物記載も。
ただ一つ。一文だけ白いシールの中央に記載されていた。
―――アイスウィザードさんへ、と。
拙作をお読みいただきありがとうございます。