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10:クラフト!コレクト!クラフト!

名称:魔力ワイン

魔力:7

特徴:命と魔力が癒される


 え、マジ? マジらしい。

 解析結果だけなのでどの程度の効力があるのかは検証が必要だが、期せずして回復薬的な代物を作れてしまったらしい。

 いや待て。魔力的な特徴はアウレーネが解析した通りなのだとしても、実用で問題になるのは物理的な特徴、つまり酒だという事だ。

 ダンジョン攻略中に負傷したり魔力を消費したからといってバカスカ酒をカッ食らうか? そこアウレーネ、ステイ。

 可能なのは瓶をラッパ呑みしてケロリとしている蟒蛇くらいだろうし、少なくとも俺は嫌だ。

 回復薬として実用するならこのワインからアルコール分を抜く必要があるだろう。

 魔力的な特徴が回復特性ならば、魔力をフィルターしてアルコールを抜く、つまりアシ布でフィルターを掛けた蒸留装置の残渣液を回収すれば目的の物が得られるだろうか。宝箱品の魔防の手拭いでもいいが既に肩に巻いてしまっている。使うなら一度洗濯したいし、網目の細かさを変えて効能が持つのかは不透明だ。まずは以前よりも細かい目のアシ布をアウレーネに作って貰うのが確実だろう。

 あの細かくて単調だった仕事の再来に不満そうだったアウレーネも蒸留すると更に強い酒になると聞いて手のひらを返した。こういう時の扱い易さは大変助かる。実際魔力を上手く残渣側に捕集出来るなら分離した蒸留ワイン、ブランデーはアウレーネのご褒美になるだろうし是非頑張って欲しい。


 他にも蒸留装置自体を作らなければならない。超機能恒温装置やエアクランプなる指定した気体を固定する装置はクラフトベンチの備品にあるくせに、蒸留装置はゲームでも作らなければならなかった。

 なので俺は近場でボグハンド狩りだ。流石マジッククレイ。拾っても拾ってもまだ足りない。

 アウレーネの邪魔にならないよう彼女の人形の通信圏外には行けないが辺りを包むアシ湿原の中に踏み込めばどこかしらにはいるだろう多分。あぁ、その前に彼女が織るためのアシを適当に引っこ抜いて上げた方が早いな……。



―――

――――――……。



 物欲センサーの修理が終わったのかマジッククレイのドロップ率は25%だった。つまり狩猟数は4体だった。

 まずボグハンドは大体アウレーネが吸い取り殺してたのを思い出したのがアシ束をアウレーネに渡した直後。

 気炎を上げてアシを解し始めるアウレーネの手を煩わせる訳にもいかず、かと言って結局マジッククレイがない事にはどうしようもないのでソロ討伐する事にした。

 ソロ討伐は案外何とかなった。腕の不意打ちを回避して呪物しっぽを叩き込めば大体光の泡になって帰って行った。

 問題は踏み込んだ湿原の中にそれ程数がいなかった事だ。苔島の隠し道にはあの狭い範囲で同数居たのに解せぬ。正直ボグハンドを叩き潰すよりマジッククレイハンドでハゲ地を作る方が骨が折れた。

 かなり時間も食ってしまったし一旦引き上げる事にする。アウレーネの方の準備が整ってしまっていたら……。ワイン壷用に取っておいたマジッククレイを1塊潰して当てるしかないな。2塊あればワイン壷1つ分の規模の蒸留なら出来るだろう。


 アウレーネはきっちり仕事を終えていた。その熱意で火傷するわ。

 仕方がないので懸念した通り、取り置きのマジッククレイを1つ潰して拾ってきた塊と合わせて蒸留装置を作る。蒸留器の上層部、気体導管に繋がる部分にアウレーネ謹製の魔力逸らしのアシ布フィルターを重ねてドーム状に成形していく。ワインの注ぎ口と残渣液の取り出し口を作ってこちらは完成。蒸留液の受け口は……容器を考えていなかったな。蒸留したとしても投入液全量の2割にも満たないはずだ。超機能恒温装置の暴力に期待して気体導管部分と冷却層を縮小し、余剰の粘土で蒸留液の受け瓶を作る。

 完成した蒸留装置にワインを注ぎ込んでクラフトベンチの一角、小さな浴槽みたいな装置、超機能恒温装置に置く。蒸留器部分の区画を80前後に、気体導管の下り坂が始まっている部分を境界面と設定してそれ以降の区画を常温に設定してスタート……の前にフラッシュボックスと同じような窪みにオタマ魔石をセットしてスイッチオン。後は熱交換とか色々丸無視して設定空間を設定温度環境に変えてしまうのがこの不思議装置だ。

 開始してすぐにポコポコと小さく沸騰音がし始め、ややあって収集瓶に透明な液体が垂れてくる。

 ワインの蒸留酒ブランデーって琥珀色っぽい色をしていなかったか? いやウィスキーも寝かせるという話を聞くし、この蒸留酒もまたフラッシュボックスで寝かせる必要があるのかもしれない。

 この後について思案をしている間に沸騰音が収まり、収集瓶に垂れる液が途絶えた。

 一作業終えたが動力に使ったオタマ魔石がまだ生き残っている。恒温装置の燃費がいいのかフラッシュボックスの燃費が極悪なのかどっちだろう。……多分後者だろうな。内部時間の加速とか訳が分からんし。

 収集瓶に飛びつこうとするアウレーネを制して深血色で少し粘度も増した残渣液を壷に戻し、解析を依頼する。蒸留したらフラッシュボックスで寝かせると決めたばかりでしょうが。


名称:深血色の残渣液

魔力:9

特徴:命が癒される


 ……魔力の癒し効果はアルコールと共に抜け出たらしい。魔法使いは吞兵衛になれとでも申すか。

 蒸留酒部分も解析して貰ったが殆ど反応は無かったらしい。多分魔力が癒されるかも?と自信なさげに首を傾げてた。

 とりあえず魔力回復薬はまた後で考えるとして、今はこの仮称生命回復薬のアルコール度数と効能だ。

 俺はベルトポーチからサバイバルナイフを取り出して腕に切れ込みを入れる。すぐに血が盛り上がってきてつぅー、と滴った。

 まず仮称生命回復薬を掌に垂らして舐めてみる。ふわりと甘い香りがするがアルコールらしさは感じない。甘酒よりも弱いだろう。

 効能は今のところ血は元気に滴り落ちている。飲んですぐに塞がるわけではないらしい。掌の残りを指に付けて傷口に塗布する。……うん、両方血色で紛らわしい。

 ともかく外の泉から汲んできた水で洗い流すと血は止まって傷は塞がっていた。……塞がっていたものの微妙に痕が見えるな。回復力はそれ程大きくはないようだ。

 これはもう一段階精製して純度を高めるか、あるいは醸造工程から見直すかが必要そうだ。

 どちらから、と検討した所でマジッククレイの在庫数というボトルネックがクリティカルヒットして来たのでこの深血色の残渣液を精製する事にした。おのれ物欲センサー。


 大事そうに抱えた蒸留酒の収集瓶をフラッシュボックスに配置するアウレーネ人形を眺めながら残渣液の精製方法について思案する。

 魔力濃縮と考えると手持ちにあるのはアシ布フィルターだ。液体にせよ気体にせよ流動体を通して個体などの残渣側に魔力を移す。現状で愚直にこの液をろ過した所でおおよそ難溶なブドウ成分が個体になってフィルターにこびり付くだけだろう。そのこびり付きに魔力が籠るとどうなるのかは興味がない事もないが今やる事ではない予感がする。何とかアシ布、そもそも蒸留装置に使ったからまたアシ束からって、あ……。


 俺は思い付きを実行できるかクラフトベンチを見回す。環境はある。しかし容器が足りない。おのれ物欲センサー定期。

 再びボグハンドをしばき倒しに行くのもいいが、もう物欲センサーに嗤われるのは懲り懲りだ。

 俺は軽食用に持っていたお茶ペットの中身を捨て、泉の水で洗ってから超機能恒温装置の中に置く。

 続けて深血色の残渣液が入った壷の口にサバイバルナイフで長さを整えたアシ束を一摘まみ、正確に言えばペットボトルの口に入るだけ束ねて壷の口にあて、魔力を捏ねて変形させ壷を密封する。

 密封された壷からはアシ束が突き出ている。

 これを逆さにしてペットボトルの口に挿し、……少し超機能恒温装置の高さを超えてしまったので壷を変形させて……、いや恒温装置要らんな。壷の内圧を上げるならそのまま変形させればいい。

 俺は加圧し過ぎないよう慎重に見据えながら少しずつ壷内の体積を圧縮させる。

 やがて、ペットボトルの口に挿されたアシ束を伝って液体が滴って来た。


 原理的にアシ布フィルターは繊維方向に魔力を逸らす事で実質透過方向への魔力の伝達を防いでいる。

 ならば根本的にアシ繊維の縦列方向に並べたアシ束カラムフィルターを作ってやれば魔力はフィルター方向に流れて透過するが、アシ繊維内を通れない粒の大きいものなどは取り残される。

 暫く見ている間に液体は溜まっていき、鮮やかな薄い緑色を呈してさらりと揺れた。

 お茶ペットでは壷の内容物全てを収めるのに足りなかったようだ。ペットボトルの肩まで浸かった所でろ過をやめ、途中の壷は念のためアイテムボックスの中に移しておく。

 いつの間にか根っこを伸ばして収集瓶の中を突いているアウレーネを……ってこらこら銀蝿するなお酒はダンジョンを出てからだ。

 収集瓶を取り上げて魔力を込めて口を変形させて密封してから、アウレーネに薄緑色の二次精製液を解析して貰う。


名称:薄緑色の二次精製液

魔力:10

特徴:命の傷を癒す


 どこが変わったのかと思ったが、聞いてみると微妙にニュアンスが変わったらしい。

 色々聞き方を変えてみた結果、より傷という現象に対しての影響力に特化しているようだ。

 そうとなれば試さずにはいられない。

 まずサバイバルナイフで先ほどの痕の隣に切れ込みを入れ、景気よく血を滴らせる。

 次にペットボトルから精製液を掌に垂らして舐める。匂いは、分からない。多分していない。味もこれがブドウから出来ているのか分からないくらい変わっている。一応微かに甘味はあるが、糖の味というのとは違う気もする。

 味わっているといつの間にか血が滴り落ちなくなっていた。外の泉で洗って見ると先ほどの痕の隣には傷ついていた形跡すら見当たらない。

 痕の反対側に同じように切れ込みを入れて血が滴るのを確認してから掌に残った精製液を傷口に塗りこむ。

 傷口が一瞬温かな熱を持ったかと思うと揉んでいるのに切り傷が開く事もなく、手を離して見れば傷は消え去っていた。


「これを、この液を……、回復薬とする」

「ふーん、そう……」


 俺は回復薬の作成に成功した。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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