休憩中
奥様とエリオスとゴドランがのんびり(?)している閑話です。
「お父様と言えば……」
うららかな午後。
海の見えるお気に入りのテラス席で、私は戦板の駒を片手に顔を上げた。
「なんだ?」
「お父様が遠征先の国の戴冠式に出かけたときに、あなたが口髭を生やしていたのは、あれはなぜ? ここに帰ってきたときも口髭を残していらしたわよね」
私の隣に座って水を飲んでいたエリオスは息を詰まらせ、盛大にむせた。
「それは! 別に特に理由は……」
「アトーラの男性は髭は剃る習慣だし、イスファールのあった地方でも顎髭はあっても口髭は剃る人が大半なのではなくて?」
「詳しいな」
「調べてもらったから」
エリオスは、まだ気管に水が残っていたのかゴフっともう一つむせた。
私は駒を板において、エリオスの背中をさすった。
「あれはその……気の迷いで、本当に何にも理由はないんだ。……前から聞こうと思っていたのだが、そもそも、なんで貴女が髭の一件を知っているんだ? カササギか?」
「あいつめ余計なことを」と顔をしかめたエリオスに、うちの大事な伝令部隊長のカササギを絞められると困るので、私は笑ってとりなした。
「いやぁね。カササギは私が調べてきてって言ったことしか報告してきてないわ」
そんなことはないが、そういうことにしておく。それにこの件のおおもとの情報源はカササギではない。
「ねぇ、ゴドラン。私にこの話をしてくださったのは貴方ですわよね」
「ん? そうだったか?」
私の卓向かいで、自分の駒を手に戦板を睨んでいたゴドランは、顔を上げて怪訝そうな顔をした。
「ほら、西征の戦勝祝いで遠征隊が一度こちらに帰還なさったときに、ゴドラン様だけ先にこちらに来ていただいていたでしょう」
「ああ、あのときか」
「ええ、あの折は色々とお世話になって、本当に助かりましたわ」
「特に何もしてはおらんかったように思うがな」
そういうゴドランは私の隣のエリオスをちらちらと気にしている。この二人は戦友で長く一緒に旅をした仲でもあるからなのかアイコンタクトでの以心伝心が妙に多い。普通の人ならば気づかないようなそっけない素振りなのだが、お父様直伝で鍛えられた観察方法で傍から見ていると実に面白い。
「お前か! 彼女にいらんことを吹き込んだのは」
「吹き込んだとは人聞きの悪い。ただ有ったことを教えただけだ。素直に話さんお前が悪い」
あの時は私もぎこちない対応をして悪かったと思っている。戦勝祝いの式典だなんだと託けて、エリオスとはろくに話さなかった。むしろ一足先にこちらに来てくれていたゴドランとの方が、他愛のない雑談はできていたように思う。
どうもその辺りに関してはエリオス自身も思い当たる節があったのだろう。彼はなにやらもごもごと口ごもっていたが「くそぅ」と、ちょっと自棄になったように、ゴドランを恨みがましくにらんだ。
「こうなったらお前のアレやコレやも全部話してやる」
「待て! 何だそのアレやコレやというのは?! 俺にはそんな不都合な行動の覚えは……」
「覚えがないなら全部バラされても気にしないでいいだろう」
「待て!ちょっと待て!!」
「そういえば、お前の隊に滅亡した国の神殿に残された宝物を取りに行ってもらったことがあったよな」
「その話は全然関係ないだろう!!」
これは、私の得にしかならない展開だわ。
私はゴドランが慌てて差した戦板の駒の位置を確認すると、決めの一手を打った。
「この勝負いただいたわ。さあ、ゆっくり聞かせていただこうかしら」
ニッコリ笑った私と卓の上の戦板の配置を見て、ゴドランとエリオスは同時に「うわぁ」と言いたさそうな顔をした。
先日、第26回書き出し祭りという匿名企画に参加した折に、25作の中から作者を当ててね!とお願いしたところ見事に当ててくださった方へのお礼SSです。(書き出し祭りについては活動報告参照ください)
ゴドランが不憫というよりは英雄もろともかわいそうな感じですが、こんなもんでいかがでしょうか?
なんとこれ「白」の感想欄ネタなんですよ! 気が長いことしてるなぁ、我ながら。
なお、この書き出し祭り参加作「戦場から夫の鎧が帰ってきました」は新連載として掲載中です。
https://ncode.syosetu.com/n1830lf/
祭り参加作100作中の一位いただいた自信作です。
本作の奥様と似た感じのクールでタフな女主人公が活躍する話なため、皆様には秒でバレましたw




