悪魔ミレイと天使アマツキ
「天使いる。わたし死んだ」
かたわらにいる天使は、やや不安そうにしながらも、ふるふる頭をふる。
「死んでない……よね」
「あぁ、アマツキね」
アマツキだった。
「お水……いる?」
「それより、少し話し相手になってくれる?」
アマツキが、隣にある空いてる椅子に座る。
身体を起こそうにも、身体が思いっきりダルい。
寝たままアマツキに、話しかける。
「……夢みてたみたい……小さいときの夢」
「ユメ?」
そっか、と思う。
ネネの小さいころの夢をみていた。
そのおかげで、わたしは無念で倒れて、いまや天使に連れていかれて異界にいく手前なのかと思った。
「……ネネ、可愛いの」
「そう……ミレイもいいよ」
アマツキが冗談かと想ったけれど、真剣な表情だ。
アマツキは、天使なんだなと想う。
悪魔たちの信条とはだいぶ違うらしい。
わたしたちといる、そのずっと前から、こんな感じなのだろうか。
それだとしたら、あまりに素直だろう。
汗をかいているらしいため、改めて服装を確認すると、着ていた服が違う。
「わたしいつ着替えたんだっけ」
アマツキに聴いてもわからないだろう。
「たぶん、看てくれた悪魔だと思うよ」
「そうね」
着ていた服を探してみるも、すぐにはみつからない。
あとで聞いてみるしかなさそうだ。
「それで……」
アマツキが、続きを聴いてくる。
「夢の話し。ネネの小さいころのなの」
「うん」
「固有のクラフトで、上手くいかないから修行することになってね。秘書たちに聴きながら、何年かかけながら、旅していたのよ」
「たび!?」
「はじめは、近場からはじまって、スキルの学校に通いながらも何年も続いたわ」
「学校もいってたんだね」
「そうそう。魔列車に乗ったりしながら、かなり遠くまでね。あまりに帰ってこないときもあるから、秘書たちがすごい心配していたわ」
「そうなんだ」
「ネネのクラフトは、特に材料が必要だからね。わたしがミライを視て、ネネが材料探して、わたしと協力しながらお互いにレベルを高めていったの。何度もナンパされて、わたしは何回蹴りを繰り出したのかしら。いまのヒイロとアマツキね」
「そっか……ミレイモテるから」
「違うわよ。ネネの後をつけてくるやつが多くて、それでどこか触ろうとしたり、いやらしい言葉投げつけてくるから、わたしが代わりに蹴飛ばすのよ」
「そうなんだ」
「勘違いしないでね。ネネの代わりっていうのは、ネネがトロピカルガンを撃つと、加減がムズカシくて、相手が飛ばされたり、ナイフでひと刺ししそうだから、相手の安全を考えてなのよ?」
「タイヘン」
「そうなの。あの氷のような麻痺させるネネの表情はいつみてもキレイでゾクゾクするから、わたしは役得なんだけどね」
「……タイヘンじゃなかった」
「そうね。わたしは瞬間がとても印象に残ってるわ」
「ミレイって、ネネのことほんとに好きなんだね。ぼくは、まだ少しだけ」
「ふ〜ん? アマツキは、素直だけど隠すのはイマイチね!」
「……隠す?」
「アマツキは男の子だから、仕方ないけど、ヒイロをみてるときのアマツキは、どこか友情ではなくて、もっと感傷てきなものよ」
「へぇ〜、知らなかった」
「アマツキは天使の女の子には、興味ないの?」
「天使といっても、アヤネくらいしかちゃんと知らないよ」
アマツキは、知らないフリを通すらしい。
それとも、天使は無自覚なのかしら。
まだ、体力も魔力もそれほど戻らないから、上手くアマツキに絡みにいけない。
ジタバタすると、アマツキが手をのばす。
「まだ、熱ある?」
「さぁわたし、不調には強いからね」
アマツキが、ホントに心配そうに言うから、少し可哀想になってしまう。
「ミレイってもっとわがままかと想っていたけど、勘違いなんだね」
「なによそれ」
「メディに気をつかったり、ぼくにウソついたり」
「わたしはメディの秘書だからね」
アマツキが、手を引っ込める。
その手を少し座る膝の上で、キュッとしている。
「ミレイは、そんなにムリしないといけないの?」
アマツキの言うことはとても優しい。
もう少し年齢が上になってきたら、わたしの好みになっていくだろうか。
でも、いまのアマツキを見ていると、実はずっと子供のままでいてほしい気がする。
「ムリしてる、ようにみえる?」
「みえる……ていうかしてるでしょ?」
「そうねぇ……」
無理してるように、みえるらしい。
熱があるけど、そのことではないだろう。
ネネに隠しごとをするようになったのは、実はもうずっと前からだ。
メディも長くはなってきたけれど、それは契約して秘書になったからで、それまでは、メディはどちらかというと、これから出世するタイプの出逢いだったからだ。
事実メディは、もうずっと階級では上にいる。
「秘書ってタイヘン?」
「秘書が大変ってわけじゃないわ。メディのお世話が大変」
「そうなんだ」
「秘書の仕事上いえないこともあるけど、まぁ大変よ」
「そうなんだ」
アマツキが、少し笑っている。
なんとなく伝わるらしい。
「ヒイロは、どうしたの?」
「いつも一緒にいるわけじゃないよ」
アマツキが、苦笑いしつつ話す。
ヒイロは、ここにはいないらしい。
「あまりヒイロのこと、眼を放さないでね」
「……どういう意味なの?」
アマツキは、実はわかってるような気がしている。
それか、無自覚でいる。
「ヒイロは、あなたがいたほうがいいし、アマツキには、ヒイロがいるのがいい」
「よくわからない。ヒイロはそのうちもっといい悪魔とかみつけるかも」
「それでも、一緒にいなきゃ」
「……ムズカシイ」
「そう、ムズカシイことかも」
アマツキはイスから足を伸ばすと、今度はイスの上に器用に足を載せて抱える。
イスの上で少し丸くなる。
「最近ヒイロに冷たいときあるわ」
「冷たい……かな」
「態度のことよ」
「メディと話すのが、いいときもある」
「メディとはわたしも話したいけど、ヒイロはいいの?」
今度は、少し首を傾げている。
仕草は子どもっぽいのに、視線はなかなか男の子だ。
「ミレイは、未来が視えるでしょ」
「ええ」
「もし、ミレイがメディに振られる未来がわかっていても、それでも未来なの?」
「ふふ、違うわね。わたしは未来は変化させるわ」
「……ミレイはそっか」
「それに、ひとつの未来につき、ひとつの選択肢しかないってことではないのよ」
「え……と。ムズカシイ」
「書くものあるかしら」
アマツキが少し周りをみて、近くのテーブルにある小物類から、ペンと書けそうなものを渡してくれる。
「これ」
「ありがとう」
まだ、あまり起き上がれないため、受け取ると寝転びながら上手く書く。
上手くは、書けていない。
図というより、説明文になってしまった。
「これが未来?」
「これで、こう、でこれ」
「う〜ん……」
「それで、これ」
「う〜ん……」
あまり伝わらない。
「わたしのスキルの風景でも、観られればいいのにね」
「風景かぁ、そういうスキルいいね」
「そういえば天使スキルは、悪魔のと違うらしいわ」
「もっと勉強したい」
「そのうち、ヒイロもアマツキも修行かもね」
「アヤネに、もっと教わればよかった」
「アマツキは、あの頃よりずいぶんと前向きよ」
「それっていいこと?」
「それはね! 思考的には、わたしに近いかも」
「ミレイに」
「あのときは、アマツキは暗い眼をしていたし、ヒイロが話しかけたときも平気かなって心配だったわ」
「まだ考えるときあるよ」
「……天使たちのこと?」
「ううん。捨てられたんだってこと」
「……うん」
「捨てられたことがショックなわけじゃないんだよね」
「どういうことかしら?」
「あのバーにいても、だれもが、ぼくのことをいてもいなくてもいいやつって認識されていることが、すごくニガテだった」
「アマツキが寂しいから」
「違うみたい。ヒイロと話してると、よくわかる。どこにいても同じなら動きたいのに、どこにいきたいのかもわからなくて、なにもできないこと」
「……そっか」
「いまは違うよ。もしここで分かれても、今度はぼくがしたいことをみつけたい」
「ふふ。少し強くなった?」
「そうかな。ヒイロやみんながいるから」
「……ヒイロから眼を放さないでね」
「側にいられるか、いつまでか、わからないけど、できるだけはミレイの望むような感じにするよ。未来から観る」
「もし、アマツキのスキルが上手くいかなくても、立ち止まってもいいからね」
「そんなに、子ども扱いしないで」
「まだ、子どもよ」
「はぁ。子どもっていつまでなんだろ」
「ヒイロに聴いてみたら?」
少し汗がでてきた。
まだ回復途中だから、らしい。
やっぱり喉は乾いた。
「飲む?」
「そうね」
アマツキが、テーブルに置いてあるボトルから、飲みものを入れてくれる。
カップは、ここにあったものだろう。
「はい」
受け取り飲むと、扉のところに少し影がある。
「着替え、どこかしらね」
「治療の悪魔、もうすぐくるよ」
「少し探してみてもいい?」
「あ、ぼく探すね」
アマツキが、ありそうな場所をみてくれる。
その間カップで飲んでいると、気分はよくなってきたけれど、また少し身体が重い。
こんなのは久しぶりだ。
魔力負荷や栄養管理は、メディのことを気にしていたから、自分のことは忘れていたのかもしれない。
少しずつ頭が重い。
眠りがまたくるようだ。
着替えくらいはしたいのだけど。
「少し眠るかも……」
「あ、うん。着替え聴いてみる」
カップを置くと、まだ影はある。
眠るとまた未来を視るだろう。
「お願いね」
「あ、ヒイロ」
アマツキが、ヒイロが扉のところにいることに、いま気づいたようだ。
わたしもいま気づく。
わたし、天使もいけるわ。




