水の洞窟アマツキとヒイロ
洞窟内で破裂音がした。
花火? まさか。
少しパラパラ石が落ちる。
崩れないよね。
音がしたあとは、また静かになる。
少しだけ水音がするのは変わらずだ。
ヒイロが聴いてくる。
「崩れないみたいだから、先進む?」
「休憩しなくていいの」
洞窟内にくる前から、ヒイロは歩きっぱなしだ。
水の魔力の案内があるから、焦ることはないはずだけど、はりきっているだけなのかもしれない。
「先のスズネやメディたち、迷子にならないかしら」
「むしろ、迷子なのはこっちかもよ」
ヒイロが、少し不安な表情だ。
「いちおう、案内通りのはずなんだけどね」
とはいっても、洞窟に降りた辺りから、不安定なのだ。
路を間違ったわけではなくて、ここのなかの問題かもしれない。
たぶん最後にくるメディは頼りになるため、無事なはずだから、合流で分かりやすいところに留まるのがよいかもしれない。
ときどき、洞窟の隙間から光が降りてくる。
それ以外は、ヒイロの基礎魔法で、光をたびたび付け足している。
ぼくは、基礎魔法が不安定で、あまり役に立っていない。
代わりに、いろいろ探している。
「特に、ヒイロの案内に疑問があるわけじゃないよ。でも、灯りをそのたびに足すのも大変だし、早くに合流できたほうが、動きやすいよね」
「……ふぅ、少し休みましょ」
「うん」
ヒイロが、休むところを探し始める。
洞窟の内側は、湿っていてあまり腰かけるようなところは少ない。
歩いてきたなかの少し前まで戻れば、階段がある。
そこに、座るのもいいけれど、戻ることになるため、ヒイロは違う場所をみているみたいだ。
少しウロウロしたあと、あまり湿っていなく、でこぼこしている段差のような場所に、とりあえず座ってみる。
少し間はあるも、こちらも似たような場所を見つける。
まだ中間に来たくらいかもしれないし、もっとずっと先があるかもしれない。
薄い灯りのなか、持っている天使ノートを読んでいると、なにかヒイロが見てる気がして、ヒイロを見てみる。
「どうしたの?」
「アマツキ、なんか冷静だね」
「そうかな」
「うん、それに、なんだかいまは静かっていうか」
「特に気にしてなかったけど、もっと探検はしたいかな」
「……なんていうか、わたしだけハシャいでるみたい」
「さっきは海で走りまわったし、疲れただけ、かな」
「アマツキ、少し前からなんか様子違うんじゃないかな」
ヒイロが、手に持っているものをコロコロしながら、話す。
もしかしたら、前から聴こうと想っていたのかもしれない。
少し暗くなると、またヒイロが灯りを飛ばす。
「気の所為だよ」
「違う、と想うけど」
「どうして?」
「なんていうのかな……」
それっきり少し途切れてしまう。
「……うん」
また手を天使ノートにのばす。
メディに聴きたいことがあったのだ。
それを思い出した。
「アマツキ、なにか遠慮とかしてる?」
「してない」
「じゃぁ、なにか困ったとか」
「困ったことかぁ……」
「それとも」
「う〜ん、ちょっと待って」
「うん」
ヒイロがなにか言いたいのは、わかるのだけど、なにを聴きたいのか、よくわからない。
天使ノートを始めのほうから、読み進めるもやはりよくわからない。
記憶と連動しているのか。
はじめの部分の記載が少なすぎるのだ。
「思い出したくないから、思い出せないのか、落としたものは戻らないのかな」
「前のこと」
「うん」
「いいじゃん、なくても。アマツキ、思い出したいことあるんだ」
「想い出がっていうよりも、もっと上手く使えないかと思ってる」
「アマツキは、いまのままでも充分だよ」
ヒイロが、優しくしてくれるもぼくとしては、どうにも落ちつかない。
スキルが上手くいかないのもそうだけど、ネネやメディにあまり負担をかけたくない。
元より身体などどうでもよいと思っていたから、助けてもらったからには、今度はもっとさまざまに出来ることを増やしたい。
ルルファイスが言っていたことも気になる。
天使の救済。
「悪魔とは、また違うなにか、あるのかも」
「アマツキは、なぜそんなに焦るの? 洞窟は出られたほうがいいけど、天使はまだこれから長いんでしょ」
ヒイロが、少し暗いなかこちらを見ているのがわかる。
ここ最近ヒイロは、よくぼくのことを理解しようと、いろんな角度からの質問をしてくる。
それ自体はイヤではない。
でも、それをされるとなんとなく、悪魔と天使の違いを認識してしまう。
「ヒイロは天使がするべきことは、ちゃんとしたほうが、いいと想う?」
「なにそれ。アマツキは天使の仕事まだやってないじゃん」
「成長してないってことだよね」
「そうはいってないけど」
「ううん。体力や魔力はついてきたけど、まだ鍛えないと不安だし、仕事もいまからできることないかな」
「アマツキは、なに、そんなに焦るの?」
再びヒイロは、同じ質問をしてくる。
これは、焦ってるだろうか。
なにか、もうひとつ進みたい。
それは、ヒイロにとっては、天使の成長というより、ただ不安の解消をしてるだけにみえるのだろうか。
「あまり、ヒイロにメイワクかけないようにするよ」
「いや、そんなこと言ってないわ」
「ヒイロから見てると、子どもっぽいでしょ」
「う〜ん、なんか違うんだよね」
ヒイロが、なにか言いたいらしい。
けれど、よくわからない。
なんだろう。
少しは休めたからと、立ち上がろうとすると、まだ続いてるみたいだ。
「アマツキは、もっと迷惑かけたり、したいこと探すんでいいと想うわ」
「メイワクは、かけたくない」
「う〜ん、じゃしたいことは?」
「したい、こと……」
考えてしまう。
天使のしたいこと?
それとも、アマツキがしたいこと。
それとも、ヒイロとしたいことかな。
一瞬、過去の記憶の欠片が降ってくるも、またすぐにわからなくなる。
過去のアマツキは、したいことあったのだろうか。
それは、いまのしたいことなのだろうか。
過去といまは、ぼくはなにか違うのだろうか。
もっと深く考えてみるべきなのか。
「結局、考えてもでてこないんだ」
「そう」
「聴いてみるけど、ヒイロのしたいことって、なに?」
「わたし?」
「ぼくのことばかり聴くから」
「わたしは、みんなのこと知りたい」
「なんだ、ぼくだけじゃないのか」
「ふふ? アマツキのことだけじゃなくて、がっかりした」
「いや、そうじゃないけど……」
「わたしのしたいことかぁ。あんまり考えたことないや」
「え、そうなの」
「いま、したいことはたくさん!」
ヒイロは立ち上がる。
一緒に立ち上がると、薄暗がりのヒイロのところにいって、手を引く。
少し水で足元がすべる。
ヒイロを少し支えてあげる。
なんだか、ヒイロが近い。
距離ではなくて、ヒイロが笑っているからだ。
「なんで、そんなに笑ってるの?」
「えっ」
「無意識?」
「そんなわけない、ない」
「笑ってるし」
「うふふ」
なんだろう。
暗がりのなかでは、少し落ちこんでいるようなそんな印象だったのに、近くにきたらニコニコしている。
特になにか、したかな。
少し歩いていくと、洞窟の天井の隙間から光がはいる。
「隙間があるんだから、そんなに降りてないのかな」
「どうかな、こう暗いと高さが不明」
「うん、たしかに」
声が反響する。
ほかに声は聴こえてこないから、まだスズネもメディたちも遠いのだろう。
少し進むと分かれ道になり、そこを曲がるとまた次の分かれ道になる。
「上ったり下ったりしてるね」
「一度降りてきたのだから、地下よね」
「あまり深く潜らないように、しないと」
「え、そうなの」
「分かれ道も多いし、スズネやメディたちが探してるでしょ」
「ま、たしかにそっか」
ヒイロは、なにか考えごとをしているのだろうか。
今度は、少し静かにしている。
灯りを飛ばしているのはヒイロなため、ヒイロの足の速度に合わせている。
湿度が高いせいか、ゆっくり歩いていても汗をかいている。
袖で何度かふく。
ヒイロがときどきふいてもくれる。
静かなのは好きなのだけど、ヒイロがあまり話さないと、洞窟のなかはさらに静かだ。
ときどき水を踏む音が響く。
そういえば、手を繋いだままだ。
やけに距離が近いな、と思っていたらそうだった。
でも、特に手を放す理由がない。
「ヒイロは、なにかしたいことあるんだ」
曲がったり下ったりがないと、あとは薄灯りの平坦なため、ボーッとしてしまう。
まだ体力はあるつもりだから、話しの続きでも聴いてみる。
「……うん。たくさんあるよ」
「どんなの」
「そうだね……」
なにか考えている風だ。
「あれほしいなとか?」
「うん」
「遊びたいなとか」
「うん」
「これやったことないとか」
「うん」
「これじゃ、ぼくがしたいことだよ」
「ははっ、そうね!」
「ここいきたいとかは?」
「いまは、探検してるからね!」
たしかに、洞窟探検中だ。
でも、なんだかもっとしたいことはありそうだ。
「いいなぁ」
「え」
「ヒイロは、したいことすぐに浮かぶんだね。ぼくは、これまで天使界のホンの少ししかみてないから、悪魔界のどこみていいかもわからないのかも」
ヒイロが、少しこちらを見ながら、表情をまた少しニコリとさせる。
「アマツキは、そういうところ、いいと想うわ」
「どういうとこ?」
「天使たちの意志に固まってないところとか、悪魔たちの位置に素直なところとかかなぁ」
「よくわからない」
「そう? わたしは、アマツキのところ、また少しわかったよ」
「ええ? さらにわからなくなったよ」
「したいこと、アマツキのこともっとよく知りたいわ」
「……それは、観察っていうんじゃ」
ふっとまたひとつヒイロが灯りを飛ばす。
ヒイロの灯りは、魔力を小さめにだしているのだろうか。
後ろにある飛ばした光は、もう消えかかっている。
灯りがあると、ヒイロの表情がよく見える。
でも、観察してもヒイロのしたいことがひとつうまったことくらいしかわからない。
「天使アマツキの……監視? ふふ」
「ねぇ、なんか怖い」
「あ、ちがった。観察ね」
「わざと」
また汗をかくため、ヒイロがふいてくれる。
「これ、迷子だよね」
「メディにもう少し話し聴いておけばよかった」
「また会えるわよ」
「死者の話しじゃなくて、光のスキル教えてもらえたほうがよかった。この先も必要だね」
「そうね……生きてれば会える」
「ときどき物騒だね」
光が上からはいる。
何度か地面の埋まっている結晶に当たりきらめく。
「そういえば、ルルファイスの話しする?」
「うん、いいけど」
「ルルファイスって、女の子も男の子も好きなんだけど、けっこういい加減なのよね」
「うん」
「メディみたいなのってニガテらしい」
「そうなんだ」
「くっついても、離れても態度が変わらないと、優しくされたときにパニックになるって」
「優しさなら、とりあえず預かればいいのにね」
「アマツキもそうじゃない?」
「えっ」
「優しいけど、やさしくない? みたいな」
ヒイロに言われると、なかなかに刺さるものがある。
笑顔で言っているところが、さらに怖い。
思わず手を放すと、ヒイロが手をまた握ってくる。
いや、痛いのだけど。
「えと、なにか怒ってるの?」
「なんで?」
ふぅとため息をついたあと、仕方なくヒイロに向きなおり、もう一度たずねる。
「したいこと。話しでしょ」
「やだなぁ、アマツキ。特に怒ってないわ。したいことの話しでしょ」
「メディに光の扱い方教わりたい」
「わたしのスキルももっと進化したい」
「海みたから、次は妖精かな」
「わたしは、もっと結晶について知りたい」
「天使の役割ってなんだろ」
「悪魔にできることもっと探さなきゃ」
「天使ノート、思い出したい」
「もっと想い出も増やしたい」
「天使と悪魔って」
「悪魔と天使って」
「「もっと仲良くすればいいのに」」
「うん、ホントだね」
「アマツキもだよ」
「うん、わかってる」
ヒイロは、今度は優しく手をにぎり、ふふふと笑う。
「なにさっき怒ってたのに」
「怒ってないわ」
またヒイロが、ふっと灯りを飛ばす。
そのたびに、進む側が明るくなり、ヒイロの表情がまたよくみえる。
「したいこと。探してみる」
「できれば、わたしも一緒に」
「ヒイロも探してくれるの」
「一緒に探すって言ったわ」
「そうだったかな」
「アマツキのは、トボケなのか忘れたのか、フリなのか、よくわかんないわ」
「フリってなに?」
「そういうのがあるの!」
「そ、そうなんだ」
また曲がってから、階段を降りる。
階段の途中で、ヒイロが灯りを飛ばしていき、でたところの壁に、なにか目印がしてあった。
なんだろう。
ヒイロは、読めるかな。




