ミレイの部屋朝はじまり
目が覚める。
カーテンが引かれた窓から、薄明かりが射している。
晴れているのだろう。
真ん中にいたはずのミレイはいなく、隣には、スズネがわたしの手をとっている。
「そっかぁ。ミレイの部屋だ」
寝返りをしようか、迷うものの、スズネの手を放していいか、迷ってそのままにする。
壁には、ミレイの推しのポスターがあり、
反対には、グッズやアクセサリーが飾ってある。
「広い部屋ね」
ボーッとそんなことを考える。
まだ眠気があるため、
またスズネの方向をみると、スズネのパジャマがハダケていて、胸がちらりとみえている。
「ワザとよね。もう。これって」
セクシーさのアピールかしら。
ただ、無防備なだけならいいのだけど、
スズネって、あざとをよくやるのよね。
そういえば、と少しスズネのはじめの頃を想いだす。
ミレイの後輩として、入ってきたスズネは、明るくそんなにギャルっぽくもなかった。
ただ、女の子好きなところは、ミレイに似たのか、はじめからなのか、ネネに対しても、ベタベタしたり、隙あれば、胸やお尻をねらってくる。
「でも、メディのことは、けっこう特別扱いしてるわよね」
後輩悪魔にも男の子は大勢いるのだけど、
悪魔メディナナタリアに対して、ネネやミレイと同じくらいに、好きを表にだしてくる。
もし、会う順番がわたしでなくて、スズネが先だったら、スズネが、メディにべったりしていたのかもしれない。
いや、とられるとか、そういうじゃないか。
スズネは、ときどき悪魔寝言をしている。
「ね……せんぱ……みれ」
なんだろう。
スズネは、こうみえて積極的で、
それでいて、繊細だ。
メディが、スズネをかわいがっているのも、知っている。
わたしも、ときどき無茶するな、と想いつつ、なんか、つい許してしまう。
ミレイだって、そうなのだろう。
きっと、スズネは、この先統括エリアマネージャーで、活躍していくだろうし、できれば、メディ以外のいい男の子悪魔を連れてくるかもしれない。
「メディ以外かぁ」
わたしは、そこを考えだすと、少しずつ、嬉しいのと、焦りと不安が一緒になる。
メディ以外に、これまで近よってくる悪魔は、大勢いた。
でも、堕悪魔は、身体目的や魔力をねらってくるし、ほかの悪魔たちも、
顔が好みとか、脚がとか、なんかあやふやで、あいまいだ。
ときどき、なにが特別なのか、と考える。
ミレイは、未来視があるからなのか、自信あり気だ。
ベットにかけてある、ネックレスの先端の宝石が、キラリと動く。
スズネが、少しだけ動いたようだ。
「め……せん……え、いこと」
なんか、寝言でも、怪しい気がする。
いや、気の所為か。
気の所為よね。
「はぁ。なんだろ。メディのことといい、ミレイのことといい、なんかわたしって振り回される」
振り回されるのは、悪くない。
わたしって、ちょっと変かしら。
いえ、でも、とにかくメディは、
なにかを隠している。
「ともかく、スズネの手をはずして」
なかなかはずれない。
かえって、ギュッとなる。
これは、これでかわいいのかもしれない。
いえ、ミレイもスズネも甘えるから、甘やかしてしまうから、いけないのかもしれない。
手をはなす。
「ねね〜」
ホントは、起きてないかこの子。
ようやく解放されて、ベットに座る。
少し離れたキッチンからは、もの音が聴こえてくる。
ミレイが、なにか調理をしているのだろうか。
一応、スズネを起こさないように、静かに扉をあけて、キッチンに向かう。
キッチンで、果実の調理をしているミレイが、振り向く。
「あら、おはよ。早いわね。まだ、支度中よ」
「おはよ。ミレイこそね」
「わたしの部屋だもん」
「まだ眠そうね」
「それはね」
「メディは?」
「まだ、だと思うわ」
「そう、あ、手伝うわ」
「え、じゃ、お願いね」
果実を渡されて、それを少しずつ剝いたり切ったりする。
少し静かな空間だ。
包丁の音やスープの鍋の音、足音だけが、響く。
そういえば、ミレイとは長いけれど、
ホントのところ、悪魔メディナナタリアとは、どうなりたいのだろうか。
秘書として、活躍しているけれど、未来視からは、ミレイ自身がメディとどうなるかや、わたしとの関係は、もうずっと視えているのでは、ないかな。
そうすると、こうして料理することやわたしが、いまからの話題も実は、もう準備されたもののような気がしてしまう。
疑り深いというより、中央図書館でヒイロと逢うくらいから、ミレイの隠し事は、おおくなってきた気がする。
でも、いま聴かなくちゃいけない。
「ねぇ。ミレイ訊ねてもいい?」
「なによ」
「ミレイには、なにが視えているの?」
「なによ、それ。抽象的ね」
たしかに、そうかも。
「具体的にだと、わたしやメディの未来に関すること、どれくらいわかるの?」
「う〜ん、またそれも、難儀な質問ね」
「はぐらかさないでね」
「違うわよ。作業しながら、だから」
ま、そうよね。
切った果実を盛り付けし、
ほかにジュースをつくる。
「あ、そのジュース、ヒイロとアマツキかな」
「ええ。悪魔数分は、必要かしら」
皮をとったり、ミキサーをつかう。
「それで、質問のことなんだけど」
ミレイは、ミキサーをとめて、急に静かになった室内で、ネネをみつめてくる。
少しの間、そうしている。
わたしは、このぽっかりと空いた時間が、なにを意味するのか、考えようとして、そして、考えるのをやめた。
「ねぇ、ミレイ。あなた変よ」
「どうしてかしら」
「だって、その」
「もう、なに?」
「いつもなら、ネネって抱きついてきたりキスしたり、スズネとイチャイチャしようとするのに、いまは、なんか」
「そんなに、わたしが消極的だと、おかしいかしら」
「おかしいっていうか、様子が違うじゃない」
また調理を開始すると、ミキサーや調理器具の音がする。
でも、ミレイの様子は、さきほどと変わらない。
「ちがう、ね」
「そうよ」
「ネネってさ、ヒイロとアマツキが、今後どうか、って考えない?」
ヒイロとアマツキのこと?
メディではなくて。
「ヒイロは、まだ不安はあるけど、素質もあるし、まだ年齢は低いけど、これからよ」
「アマツキは?」
「天使だけど、いまのところヒイロとはうまくいってるし、アヤネもついてるもの。アマツキも少しずつ、アマツキらしく成長できるわよ」
「そう」
また、少し考えてしまっている。
やはり、変じゃないのか。
なんだろう。
ミレイから、なにも言われたわけでないのに、
胸がざわつく。
いやだ。
「ねぇ、やっぱりなにかあるの」
「どうしたの、ネネ」
「ミレイ、なにか隠してる」
「隠してないわ。はやく盛り付けもおわったし、並べちゃいましょうよ」
「ミレイ、なにを視たの? ううん。なにを知ってるの?」
「もう、なんの話しなのか、わからないったら。たしかに、未来視は、よくつかってるわ。でも、それだけよ」
「ちがうちがう!」
「ちがうの?」
「ここ最近のミレイって、なんていうか、前と違うわよ。上手く言葉にできないけれど」
「ふ〜ん。じゃ、そうなんじゃない」
「じゃ、ってなによ」
「先に、並べおえて、ゆっくり話しましょ。それに、ネネの不安がなにか、わからないのよ」
キッチンでつくり終えたメニューをリビングのテーブルに並べていく。
少しの間、ミレイの部屋を眺めてみる。
凝った照明器具、壁ぎわには棚が並び、
テーブルも整理されている。
一悪魔には、広いのではないかというこのビルの部屋は、ミレイの生活感をおおきく映し出している。
秘書として、働いている姿もきっとテキパキして、ほどよく雑なのだろう。
以前、メディのことどう、て聴いたときは、好きと言っていた。
でも、それは、恋悪魔になりたいのか、結婚したいのか、ミレイの本心はわからない。
ようやく、テーブルに準備が揃うと、そろそろみんなを起こさなければいけない。
テーブルに用意されたメニューは、冷めたからと、まずくはないものの、早めに食べたい。
でも、その前に、ミレイと少しでも、話しておきたい。
こんな機会は、またしばらくないかもしれない。
「ミレイ、あなたこのままでいいの?」
「どういう意味、ネネ」
「メディとは、秘書だし、わたしともうまくいってると想う」
「うん」
「だけど、なんていうのかな、一番なことを伝えてくれないのは、わたし寂しいよ」
そうか。
理解った。
これだ。
わたし、ミレイとの距離感が寂しいんだ。
「……そう」
「そう、ってなによ」
「だって、それしか、言えないもの」
「話してよ」
だんだんと、声が高くなってしまう。
ミレイは、黙ったあとで、
まだカーテンを引いたままの窓をみつめる。
外は、明るいのだろう。
カーテンから、光が漏れている。
「ごめんなさい。話せないわ。きっと、あなたは、知らないままのほうがいい」
「それって、どういうことなの?」
「未来視について、ネネはどこまで知ってるかな」
「触ったり俯瞰でみたり、遠隔のもできるって」
「そうね。特に触れた者に関する未来は、かなりはっきりでるわ」
「それなら、わたしのあとの出来事は、すっかりわかってるってわけね」
「断定はできないわね」
「はっきりしないわね」
ミレイは、ふぅと、ため息をつくと、
ネネの眼をやさしくみつめる。
そこには、たしかに愛を感じる。
でも、なにも言ってはくれない。
なぜ。
なぜなの。
やっぱり未来のこととしか、想えない。
「もう、ご飯たべよ」
「そうね。メディ起こしてくるわね」
「ヒイロとアマツキも」
「スズネもね」
ネネとミレイでそれぞれ、寝ているメンバーを起こしていく。
メディは、途中からもう起きていたようで、準備をしていた。
もしかしたら、なにか、聴いてしまっただろうか。
「おはよ」
「おは」
「おはよう」
「おはよう〜」
リビングに集合して、
テーブルに並べられた果実メニューと、果実ミックスジュース、それにハニーティーを食べたり飲んだりはじめる。
「まだ眠いね」
「そうね」
「あ、これいいね」
「でしょ」
「あれ、果実切れてないよ」
「あ」
「それは、ネネね」
「もう。ミレイかもでしょ」
それぞれで、好きな会話をしていると、
さきほどのミレイとの会話は、まるでなかったかのような場所になる。
でも、ネネの心のなかの不安は、徐々に形になっていく。
これは、よくない。
わたしが、ミレイが、メディが、というような対象の不安じゃないんだ。
隠されている未来のなにかは、漠然としたものからはっきりしつつある。
それが、ミレイと話すことで、わかった。
話せてよかった。
でも、教えてくれないことに対する不安は、いずれもっと、おおきくなる。
きっと、これは、とてもイヤな出来事の
ひとつのサインなんだ。




