天使中央区美術館
「さぁ、いくわよ」
「お願い」
アヤネが、転移陣を拡大させると、ヒイロとアマツキが、一緒にそこに飛びこみ、
メディ、ネネ、ミレイと入っていく。
アヤネが、後ろを振り返ると、
まだ、城の扉は開いていた。
秘書たちは、またいそがしく、動きまわっているのだろう。
次に移動した先は、美術館のある場所だ。
三階建てほどの建モノではあるけど、
横に長めで、外側も凝ったデザインをしていて、カラフルだ。
美術館前に、広場ができていて、少し溜池になっている。
なにか、水の匂いがしてくる。
ヒイロとアマツキは、転移酔いだろうか。
うう、とうなっている。
たぶん、すぐになおるとは、思う。
「ここの広場キレイね」
「クイーンの城の広場に似せながら、つくってるからね」
「そうなんだぁ」
メディと、ミレイは羽をつくろっている。
アヤネが、それを観ているらしく、こそっと感想をネネに話す。
「悪魔の羽って、天使とは違って上品ね」
「そう?」
「天使のは、色どりはたくさんいるけど、キラキラしすぎっていうか」
「あら、アヤネのもキレイよ。さわらせて」
「えぇ。ま、ネネならいいんだけど」
ネネが、アヤネの羽を触ろうとすると、サッと、避けてしまうため、
少し追いかける形になってしまう。
「もう。なんで、逃げるのよ」
「だ、だって、なんか、恥ずいし」
「ちょっと触るだけじゃん」
「やっぱりなし」
「だめ。触りたい」
「えぇぇぇ。ミレイみたいね」
「ミレイは、エ○だけど、わたしは違うの」
しばらく、追いかけまわしてしまう。
ヒイロとアマツキも、気分がよくなったらしく、追いかけてくる。
「ちょっと、なんで、くるの?」
「羽触らせて」
「はぁ」
仕方なしで、立ちとまり、はい、と後ろを向く。
「ちょ、ちょっとだけ、なんだからね」
「えっちぃこと?」
「違うし」
ペタペタと、アヤネの羽を触ってみると、ほどよく弾力があり、色あざやかでキレイで、ヒイロとアマツキも、一緒に掴んだり、なでたりする。
「いや。まって。あんまり」
「なに」
「だから、そこ」
「どこ?」
「そこ、あんまり、ほら、うう」
どうやら、羽が弱点らしく、アヤネがぷるぷるしている。
顔が赤くなっている。
「アヤネ、エ○」
アマツキが、素直に感想を言ってしまい、すぐ、アヤネが離れてしまった。
「もう! だから、イヤなの!」
「ふふっ、そっかぁ、アヤネ羽が弱いんだぁ」
「ネネなに、その顔! なんかいやらしい」
「アヤネ、かわいいぃ〜」
「やめて。もう。恥ず」
メディが、ネネに近よると、
「ほら、やめてあげな。ネネもふざけすぎじゃ」
アヤネは、バッとメディの背中に隠れると、ぴとっとくっついて、防御する。
「メディ、あなただけ。やさしい」
「あぁ、ずるい、アヤネ。わたしも」
「ネネは、だめ」
「アヤネ!」
「はぁ。そろそろ、なかに入らないか」
メディが、なんとか収めて、ようやく、美術館に入ることになった。
美術館のなかは、とても明るく、左右に廊下が延びて、中央と左右のどこからでも、周れるようだ。
「悪魔の美術館と、天使の美術館、そんなには、違わないね」
「たしか、いくつかの建モノは、同じ建築家が設計してた気がするよ」
「そうなんだ」
ヒイロとアマツキは、ひとまわり眺めたあと、走りだしそうな勢いだ。
「あ、まって」
とアヤネがとめる。
「うん」
「四階のフロアの広めな展示室に、大きい絵があるの。それは、観てほしいな」
「うん。わかった」
そう返事をしてヒイロが歩きだす。
アマツキも隣をいくようだ。
「一階のフロアをみて、それから、順番に上がっていきましょ」
「わかった」
一階のフロアには、案内のほか、ここの美術館のテーマの説明や売店、企画展示室、会議室、化粧室が並ぶ。
「美術館って、テーマもあるのね」
「ここのは、天使と悪魔、それに、いくつかの種族にわかれた、出逢いと魔法について、の展示がおおいわね」
「そうなんだ」
アヤネが、一階を少し説明して周ると、企画展示は、後日公開になっている。
「二階にいきましょ」
「ええ」
右の階段をつかって、ネネ、ミレイ、メディ、アヤネは、二階につく。
二階は、反対がわが窓が多くあり、こちらは、部屋がいくつかに分かれている。
「手近なところからね」
部屋の前には、簡単な説明書きと、案内の天使が、あいさつしてくれた。
「あら。アヤネ。また観にきたの」
「うん」
「悪魔たちも一緒なのね」
「うん。また声かけるから」
「はい。では、ごゆっくりご覧くださいませ」
この部屋は、右側左側に仕切られていて、壁とその仕切り壁に、絵がいくつか掛けられている。
「わぁ。キレイね」
ネネとミレイが、観ているのは、
抽象的な絵で、色つかいが派手なものだ。
「どう観ていいのか、わからないんだよね」
「メディは、絵画ニガテ?」
「観るのは好きだよ。でも、どう感じとればいいのかな」
順番に歩いていくと、ここの部屋は、抽象的なものがおおく幾何模様もおおい。
次の部屋にいくと、今度は、踊りをテーマにしているのだろうか。
「天使たちの独特な踊りなのかな」
「悪魔も、音楽にノッてくると、踊ったり、ハシャイだりするよね」
ミレイは、じっくり観ている。
解説も読むところが、ミレイの観方らしい。
部屋をでると、さっきいたところとは、反対側の廊下で、窓から日差しが入ってきている。
「まぶしいね」
メディが、窓の外の光に、目を細める。
「次は、三階ね」
三階にあるフロアもいくつかの展示室にわかれていた。
順番にたどり、ぐるっとまわる。
さきほど、来た階段とは、反対側の階段を上っていく。
案内をみると、こちらは、一階とは別の企画展示室に、披露宴会場にもなりそうな広めの空間と、もうひとつ、大フロアがあるようだ。
「大フロアには、天使いないみたいね」
「こっちは、魔力探知セキュリティが入ってるからね」
アヤネは、何度も来ているらしく、説明してくれる。
「いきましょ」
階段のある空間から離れると、少し薄暗く感じるものの、すぐに、眼は慣れてくる。
「え」
「すごいね」
「大きい絵」
なかに入ると、二枚の絵がひとつの壁と、反対側の壁にかかっているだけだ。
ほかには、展示物はないらしく、
この二枚を飾るために、利用しているのだと、わかる。
ヒイロとアマツキもきていて、真ん中で、ジッと観ている。
ミレイが、眼鏡をかける。
たぶん、見えすぎるのだろう。
「なにこれ」
「ほんと」
かなり大きな絵で、妖精をモチーフにしているようだ。
「二枚とも、妖精なんだわ」
「キレイね」
「でも、反対側のは、少し寂しい表情だよ」
一枚めのは、
"妖精の再会の部屋"
になっている。
二枚めのは
"妖精の別れの部屋"
となっている。
「こんなに、大きい絵って、なかなか見ないよね」
「うん」
アヤネが、観てほしいと言っていたのは、この二枚の絵のことだろう。
ネネとミレイは、再会の絵に少し近よって、細かくみている。
メディは、別れの絵をみている。
「ヒイロとアマツキは、すぐにここに、きたの?」
「ううん。さっき来たところ」
「そうだよ」
「そっか」
アヤネが、ヒイロとアマツキの側で、絵を観ている。
メディが観ている"別れ"は、ある部屋の風景だ。
部屋のなかには、雑多したものであふれていて、ゲーム機やトランプが散らばり、テーブルや棚にはアクセサリー、クローゼットには服もあるようだ。
なぜ、これが別れなのだろう。
でも、向き合う二妖精は、たしかに、表情が哀しいように、みえる。
「不思議だね」
アヤネが、メディの側にきて、静かに話す。
「解説だと、ここの部屋は、二妖精の想い出の部屋なの。でも、片方は、この部屋からでて旅をしたいのに、そのまま残っていて、もう一妖精は、その妖精を迎えにきた様子みたい」
「そうなのか。そしたら、このあと、別れてしまう前の絵なのかな」
ネネとミレイが、近よって観ている"再会"は、さまざまなものであふれている部屋の様子だ。
なにかの衣装が、ハンガーにかけられていて、壁ぎわにある段ボールのなかには、小道具のような細かいものが、中にある。
窓からは、日差しがあり、それが真ん中にあるテーブルとイスを照らしている。
二妖精が、テーブルの前で、抱きしめあっているけど、片方の顔だけがこちらを向いていて、嬉しそうに泣いている。
顔が隠れている妖精の衣装は、ドレスで華やかだ。
「キレイ。でも、部屋は、雑然としてるね」
「結婚式にしては、部屋は狭いし、でも、表情は、とても嬉しいようだから、再会したときなのかしら」
ネネとミレイが、話しながら、観察する。
メディが、ヒイロとアマツキの側により、
反対側をみる。
ネネとミレイは、ヒイロとアマツキの側により、反対側をみる。
「別れ」
「そして、再会」
アヤネが、自然とネネの手を繋いでいる。
「悪魔と天使ね」
「そうね」
妖精の別れと再会は、ネネとアヤネのいまの状況のようだった。
「アヤネ。言いたいこと、なんとなくわかった」
「そう。よかった」
「ミレイ、この先わたしたちがツライ未来があって、いまの気分なんて、大したことなくても」
「うん」
「それでも、ここの絵の前で、悪魔と天使が手を繋いでいられる、瞬間が存在してるのには、意味ってあると想う」
「わたしも、そう想っているわ」
「未来悪魔に、そう言われると、自信になるわね」
メディが、ミレイの隣にきて、ミレイの頭をなでる。
「どうしたの」
「ミレイが、なんだか、寂しそうだった」
「そう。変わらず、メディは、そのままで」
「うん」
しばらくその場にいる、みんなで、
絵に魅入っていた。
ヒイロとアマツキが、あきるほどに絵を観たあと、
「そろそろ、いく?」
とアヤネが聴いて、食事スペースに、移動することになった。
部屋をでると、三階には、披露宴会ができる会場があるほか、ラウンジがある。
移動すると、ラウンジのカウンターには、
エンジェル自販機が二台並んでいた。
「お腹すいた。なにか食べよっか?」
「なにがいい?」
アマツキも食欲は、戻っているようで、
自販機の前で、ヒイロと何がいっかな、と話している。
「魅力な果実は、教会であんまり食べてなかったから、これにしよ」
「うん」
メディが、それぞれの希望分をきいて、自販機で魔力交換していく。
そのたびに、
ガシャガシャン。
ガシャ。
と音がしている。
「はい」
「ありがとう」
ヒイロとアマツキは、
カウンターに座ると、窓の外の景色を観ながら、かじりはじめる。
「ネネとミレイも」
「ありがとう」
「アヤネは、なにが?」
「え、いいのに」
「じゃ、これだ」
メディが勝手に決めて、それをアヤネに渡す。
「もう」
みんなが、カウンターに並ぶと、
さきほど観た絵の感想を話しはじめる。
メディは、みんなの声を聴きながら、端の席で、ボーーッとしているようだ。
「妖精にも、会ってみたいなぁ」
「でも、なかなか姿を見せないから、妖精界は、けっこう閉じてる場所なのかも」
「でも、リンヤは旅していたのでしょ」
「珍しいんじゃないかな」
「妖精が、かな」
「ううん。旅をする妖精は、きっと何か探していたんだよ」
「転生かな」
「恋かもね!」
「詩について、考えていたんだよ」
「キレイだよね」
「見てみたいな」
魅力な果実を食べて、
おしゃべりをして、
カウンターで日差しに眼を細める。
少し日が傾いてきたところで、
アヤネが、呼びかける。
「よかった。ここに来られて。よかった。みんながいてくれて」
なんだか、泣きそうなアヤネがそこにいた。
「どうしたの、アヤ?」
「そうだよ。楽しいじゃん」
「そうだけど、それが、儚いの」
「アヤネ」
「うん」
「昇級して、天使たちのリーダーになって」
「えっ」
「アヤネは、ううん。アヤネが、天使たちを変えて」
「でも、そんなの。こんな軽いわたしができるわけないよ」
「違うよ。アヤネだから、言うんだよ」
「わたし、だから?」
「そう。悪魔たちとのこれからを考えてほしい。貴女に」
「ネネとミレイは?」
「わたしたちは」
ネネは、メディを見ると、またメディは、寂しい、遠くを観る目つきをしている。
ネネは、少しずつ理解っていく。
「ヒイロと、アマツキたちに引き継いでいきたい。いいかな?」
今度は、ヒイロが驚く。
「わたしたち、まだ、なにもわかってないよ」
「ぼくも、天使のこと、いま知りはじめたばかり」
「うん。わたしからみて、ヒイロもアマツキも、充分に素敵で、しっかりしてきてるよ」
ミレイが、一瞬ネネと眼をあわせる。
ミレイは、うなずいてくれる。
きっと、未来でヒイロとアマツキ、それにアヤネが、
悪魔と天使のいまのわたしたちのように、
食事したり、いいあったり、
ときに一緒に旅をしている、その姿を視たのだろう。




