ヒイロの夢二
「ねぇ、さっきのノートだけど」
「はい」
「わたしも持ってるみたい」
ヒイロは、悪魔ノートをとりだす。
「これ」
「えぇ。貴女の悪魔ノートよ」
開いてみると、名前と固有スキルが描いてある。
「ヒイロ」
「貴女の名前ね!」
「わたし、"ヒイロ"なのね」
ほかにも固有スキル、基礎スキル、特徴が描いてある。
けど、わたしの知りたいことは、描いてない。
「もしかして、記憶がないの?」
「うん。名前はいまわかったけど、それ以外、ほとんど何もわからないの」
「みせてもらってもいい?」
「うん。どうぞ」
ルルファイスは、わたしの悪魔ノートを読んでいくと、珍しそうにしている。
ルルファイスは、紺の長めスカートに、薄いブルーのブラウス、上着にきっちりした紺色のジャケットをきている。
公園のベンチに座っていても、どことなく目立つのは、顔たちがはっきりしているからかも。
薄い化粧をしているのだと思うけど、眼が横長で、口も艶っぽく、この悪魔はモテるな、となんとなく分析する。
「魅了スキルね。スウィートテン」
「魅了」
「あなた、基礎スキルはクリアしているけれど、もしかして、まだ未老期間かしら?」
「ろう」
「未老。まだ成長期ってこと。かわいい!」
「えっ」
「悪魔は、未老期間を過ぎると、あとは歳は数えても基本老化しないわ」
「そうなんですね」
「それで、飽き飽きして、転生してく悪魔もいるけどね」
「転生?」
ふわ、とルルファイスは、立ちあがると
「じゃ、いこ」
「えっ」
「わたしのところ」
「でも」
「わたし、こうみえて魔力も高いし、面倒見もいいのよ。貴女かわいいし」
ヒイロは、なんとなく身の危険を感じてしまう。
「あ、やっぱり」
「いいから、いいから、いきましょ」
「えーー!」
ルルファイスに、強引に連れられながら、ついたのは、ホントに図書館だった。
「おおきい」
「でしょ。悪魔中央図書館の司書をしておりますのよ」
「うん。てっきり、あなたの家に連れていかれるものと」
見るからに、四階建以上ので、ビルとも言っていい。
「ふふっ。なんだぁ。わたしとイイコトしたかったのかしら」
わたしは、首をふる。
「そういうじゃ、ありません!」
「いいから。おいで」
中央の玄関部分を入り、ホールになっているふきんは、窓ガラスが多く、とても明るい。
「わたし、こんなおおきな図書館はじめて」
「うんうん」
なんとなく、わたしは町なかにある、小さめな図書館のことかと思っていたため、こんなに広い場所に連れてこられて、少し慌ててしまう。
「あの、ルルファイス、わたし入っていいの?」
「あ、こっちね」
ホールを入り、カウンターをのぞいたルルファイスは、カウンターの裏にあるゲートに入っていく。
さらに、わたしは、迷ってしまう。
「ルルファイス、ちょっとまって。わたし図書館のなかもっとみたい」
「えっ、裏でもっと詳しく話したいと想っているのだけど」
わたしは、落ち着いてもう一度、ホールを眺める。
壁ぎわには、たくさんの本があり、
階段が見える。
いくつかの場所では、悪魔が座りこんだり、よりかかったりしながら、読んでいる。
一階は、ラウンジもあるらしく、
少し遠い場所で、談話している。
こんなに、ワクワクするところは、なかなかない。
これは見なくては。
「ごめんなさい。なかもっと観たい」
「もう」
ルルファイスは、悪魔司書であるバッヂをつけつつ、カウンターにいるもう一悪魔に、話しかける。
「ライリア」
「なにぃー?」
カウンターの下に隠れていた、ライリアが顔をだす。
ライリアは、青い短い髪に、青い瞳、
耳には、イヤリングをしている。
ルルファイスと同じような柄で、短いパンツ、上は白シャツで、上着に少し長い作業着を羽織っている。
ルルファイスは、長いスカートなため、ライリアは、脚がスラッとしてみえる。
「作業中?」
「ううん。いいよ」
「あの娘、赤い髪の」
「うん」
「ヒイロなんだけど、中央図書館初めてみたい。迷ってたら、声かけてあげて」
「わかった」
「あと、交代」
「あ、じゃ、これ片付けるわ」
「はい」
ライリアは、手早くカウンターに置いてあるいくつかの図書を三つの分類にわけて、同じくカウンターにある端末やカードなどを元の位置に片付ける。
ルルファイスは、端末を見ているから、引き継ぎなのかもしれない。
「できた。あとはお願い。休憩」
「はい。ゆっくりね」
「ヒイロ、いいわよ。あとこれ」
ルルファイスから、渡されたのは、カード型の端末で、なにか登録するようだ。
「あの。これ」
「あぁ、そのまま使っていいよ。ゲスト用だけど、変更して、チャージもしてあるし」
「うん」
よくわからないけど、もっておく。
ルルファイスは、仕事に戻るようで、キリっとしている。
とりあえず、中を観てきていいようなため、わたしは、一階にある"案内"をみておく。
玄関を入ってすぐの右がわと左がわに、置いてあるのをみると、
階段が右周り左周りとあるようで、二階、三階にいけるのだろう。
「どちらでもいいのよね」
わたしは、左周りがいいかなと思いつつ、まず一階のフロアを進むことにする。
カウンター
ラウンジ
絵本
遊び場所
絵本コーナーがあり、悪魔なこどもたちが、コーナーのなかのクッションフロアで、走り回っている。
窓もおおきめに造られていて、外がよく観られる。
窓がない壁ぎわには、映像が映りだされている。
スクリーンに、映されたそれは、子どもたちに向けた悪魔教育のものだろう。
窓のそばには、外にでられる扉もあり、外のアスレチック広場で、数悪魔がハシャいでいる。
「うっ、混じって遊びたいかも」
でも、走るの好きだけど、いまは図書館のなかだよね。
くるっと回って、右側をみると、中央カウンターの反対がわは、ラウンジと新作と描かれている棚が並ぶ。
新作の棚には、写真集、短編、詩、など多方面のジャンルのが、表紙を向けて並び、ヒイロは、棚を右にいったり左にいったりする。
ふと、ラウンジが目に入り、歩いていくと、イスに座って談笑する悪魔たちの壁に、絵が飾られている。
少し近よってみると、
"再会の丘"
作者名、不明
となっている。
「キレイな絵。こんな場所あるなら、いってみたいな」
また新作の棚まで戻り、次に階段を上がることにする。
一度カウンターの前を通りすぎるもルルファイスの姿はなかった。
左側から、階段を上っていくと、少しずつ一階フロアの全体が見えてきた。
二階のフロアに上がってすぐに、
一般書、旧魔導書、自習室フロアと案内の表示が、壁にあった。
貸し出し禁止エリア、自販機、喫茶コーナーもある。
「自習室、ここで魔法やスキルも学べるのね」
自習室のさらに奥には、練習場もあるみたい。
「自販機。魅惑のミックスジュースと、怠惰な甘トロティーがある」
でも、どうやって購入するのかな。
デビルズ自販機に書かれた説明を読むと、魔力交換と、カード決済と水だけ、とある。
「カード、そういえば、渡されたよね」
試しに、カードと描かれている部分に、タッチすると、ビビッと音がした。
「あ、魅惑を押せばいいのかな」
押してから、またタッチすると、ビビッと音がしたあと、開け口でガシャントコ、と音がした。
「そっかぁ。それで渡してくれたのね!」
飲みものを持ったあとで、喫茶コーナーにいってみる。
「うわぁ、いい眺め」
二階の窓から、街並みが少しみえる。
さっき、街なかをフラフラさ迷っていたのが、ウソのように、いまは気分が浮ついている。
「ふふっ。わたしもこの街に詳しくなったわ」
街の上空を黒っぽい鳥が飛んでいく。
ときどき、こちらの窓をにらみつけてくる。
飲みものを飲みおわったあと、回収ボックスに入れて、また歩きまわる。
途中に何名も悪魔たちとすれ違う。
一般書をみて自習室をみて、
さらに進もうとすると、貸し出し禁止エリアになる。
「ここのゲート、どうすればいいのかしら」
ヒイロは、さらに、上の階にいこうか迷うが、とりあえず、この先が気になる。
途中司書が通りかかったため、きいてみる。
「あの」
「はい。なんでしょうか?」
バッヂが、ルルファイスと違う。
「ライリア、でしたっけ?」
「はい」
「この先のエリアにいきたいの」
「あぁ、えとパスはお持ちですか?」
「パス」
わたしは、とりあえず持っているカードを見せる。
「それで、通れるはずです。ゲートにあるタッチ部分に載せて、通ってください」
「自販機、使ってしまったのですが」
「いいですよ。なかのチャージ魔力がなくなるまで、使える仕様ですので、喫茶での食事や自販機、レンタルに使えます」
「ありがとうございます!」
ゲートにタッチすると、ゲートの扉が開く。
「ゆっくりどうぞ!」
ゲートのすぐ近くに、
"貸し出し禁止エリア"
"持ち出し禁止、コピー許可あり"
案内が表示されていた。
わたしは、窓に近いカウンターに席をひとつとり、いくつかの本を棚からだすと、そこに座る。
「ふふっ。楽しい」
「まだ上の階あるのよね」
お腹も少しすいてきているけど、なかなか読むのをやめられない。
いつの間にか、なかのBGMは、何曲も通り過ぎていた。
いくつかのに目を通しては、返却に戻し、また取りにいく。
途中から、二冊から三冊になり、
だんだんと、机に積んでしまう。
「わたし、なにを探してるのかな」
ライリアが、見つけては声をかけてくれる。
「お昼は、食べられたの? 喫茶に案内しましょうか?」
「あ、もう少し読みたい」
時間が経って、悪魔たちの集まりが多くなる。
「ヒイロ、休憩しなくて、いいの?」
「あ、うん」
わたしは、夢中で探していて、あまり時間を気にしていなかった。
ふと、窓からの日差しの当たりかたが、違う気がして、顔を上げると
「二時間くらいは、経ってるのだけど、そろそろ食べましょうよ」
ライリアの影が、机にのびている。
「えっ、そんなに経ってるの?」
「えぇ。あまりお腹すかない?」
「お腹はすいてるかも。でも、そのスキルが気になっていて。固有スキルと進化」
「貴女のスキル?」
「そう」
「悪魔ノートは」
「あ、そうだ。
すっかりと忘れてたわ」
わたしは、悪魔ノートをバックから取り出すと、開いてみる。
ライリアが一緒にみてくれる。
「いまみてるのは、進化なのね」
「そう。スウィートテンって魅了よね」
「ふーん。魅了と基礎スキルは、カバーしていて、あとはぼんやりしてるわね」
「うん」
「そっかぁ。貴女記憶がないのね。それで、スキルを探しているの?」
「はい」
「とりあえず休憩にしましょ」
「わかった」
返却するのをライリアが手伝ってくれる。
二階のフロアを横切り、喫茶コーナーに入る。
自販機が並び、そのなかに魅惑の果実もある。
ライリアが、果実を購入して渡してくれる。
わたしは、それを受け取り、イスで窓の外を眺めながら、食べる。
でも、中央図書館の司書は、どうしてわたしに優しいのだろう。
不思議だ。
ライリアと食事をすませて、トイレをすませて、また持ち出し禁止エリアで、本を進めていく。
夕方が過ぎるころには、三階のフロアでも探しまわり、ルルファイスが声をかけてくるまで、ずっと読みふけっていた。
「貴女は、帰らないの」
ルルファイスが来て、話しかける。
「わたし、帰るところもないし、名前だけだから」
「そうよね」
少し考えたあと、
「貴女、わたしのところか、ライリア、レミリアのところに泊まるので、いいかしら?」
「そんな、泊まるところまで!」
ルルファイスは、にこりとする。
わたしは、このあとから、ルルファイス、ライリアとレミリアの双子悪魔の場所と、転々と泊まるようになり、いつの間にか中央図書館で、昼間から夕方暮らすようになっていった。




