悪魔なネネの天使に会って
このところ、統括になってから忙しい日々になり、休みの日になりメディやミレイ、ときにスズネと遊ぶとき以外には、仕事のことで、手一杯なことが続いた。
特に、統括の仕事では、異界送りにする回収のときに、エネルギー体の数を把握したり指示だしたり、取残されているエネルギー体がいないか、チェックしたりと気をつかうことが多い。
「はぁ、なかなか手が空かないなぁ」
「だんだんと、スムーズになるわよ」
「そうかな」
エリアが、重なったときにミレイに励まされたりする。
そんなエネルギー体の回収では、よく天使にも出会う。
天使の仕事内容も似た感じなのか、あちらこちらに散らばる、死んでエネルギー体となった、ヒトや妖精や、その他いろんな者たちを忙しく回収している。
ミレイは、そんな天使たちは、エネルギー効率が悪くなるから、エリア重なってほしくないよね、と言ってたりするが、わたしは、悪魔以外にも異界送りのようなこういう想いをしている仲間に想えている。
そんなときに。
「あれ、あの 娘、まだいる」
一時間ほど前に、わたしが回収しているなか、呪縛されて残された子のそばに天使がいて、その天使がまだいるのだ。
何かずっと話している。
「あれ、まだ」
二時間ほどして、また側にくると、まだそこで話していた。
気になる。
「あのぉ。」
「はい!」
ピンクの髪に、薄いブルーの瞳、肩だしのピンクのシャツと、セミロングスカートで、ピンクの模様の翼、ブーツ姿の天使が、取残されているエネルギー体の女の子と話している。
ヒトの女の子は、現世の姿をまだ形保っていて、みると制服っぽく高校生くらいだ。
「あの、その子と、何時間くらい話しているの?」
「そうねぇ。三時間くらいかなぁ」
「え!」
「他のエネルギー体は、グループのメンバーが回収したんだけど、この娘だけ、いま説得中なの」
「あの、このまま天使は、ずっと話してるんですか?」
「そう。いま、異界送りについて、話してたの」
「そのままだと、一日経っても終わらないんじゃ」
「うん」
天使は、よほど優しいのだろうか。
それとも、仕事熱心?
エネルギー体の色の薄い身体で、高校生くらいの女の子は、話しだす。
「だから、わたしはもうこのままでいいの。もうずっと、何にもなりたくない」
「ねえ、どうしたの?」
「あなた悪魔? とにかくこの天使に言ってあげて。もうかまわないで」
「ごめんなさい。あの、事情わからないけど、わたしたちは異界送りが仕事なの。それに、呪縛されたままだと、魔力つきるまで、なにもできないのよ」
「うん。いいの。彼のこと、ただ恨むのよ」
「ねえ、天使に話したような、わたしにも話して」
ミレイだったら、たぶん放置して、魔力が減るのを待つか、強制で魔力交換をしてしまうのかも。
「はぁ。幽霊みたいになっても、まだ貴方たちみたいな者と、顔を合わせないといけないなんて。はぁ」
「あの」
「わかったわよ」
「うん。わたしはネネ」
そして、話しをきくと、この真上のビルから転落死したこの娘は、高校一年生で私立の学校に通っていた。
三歳上の大学生の彼氏と付き合っていた。
でも、結局彼のほうは、本気ではなく、本命彼女がいたらしい。
「わたしと会うたびに、エ○○なことをしてくるの。一回めはとても嬉しかったけど、デートのあと、必ずなにかいやらしいことをしてくる」
「うん」
「だから、三ヶ月経って、会うたびはイヤなの。もう身体とか、もとめないでよ。て言ったら、フザけんなよ。じゃ、いらない、だって」
「えー!!」
「それで、はじめてエ○○した、この公園で、死にたいって思って、近くのビルからにしたの」
「彼氏に未練があるの?」
「ないよ。本命がいるんだもん。その女と、エ○○して写真も撮ったりしてた。見たの。最低クズだよ」
「うわ、イヤだな。○してやろうかな」
「え! あなたなら、できるの?」
「いや、悪魔召喚してくれてたら、できたかも。いまはあまり干渉できない」
「そう。もう、いいよ。ただ、そいつが死ぬ気になるまで、呪いたいだけ」
「そっか」
みると、天使は泣いていた。
仕方なく、天使の頭と羽をなでてあげる。
なんで、わたし天使をなぐさめてるんだろう。
「もうすぐ来ると思う。いつもだから」
「でも、そいつの寿命つきるまで、観てるの? 死んでまで、時間をつかうなんて」
「あ、来た」
「え」
ジーンズに茶髪、シャツに長袖上着をきた、見るからにチャラついた大学生のその男と、となりでベタベタしている高校生っぽい制服をきた女の子二人が、ビルのなかに入っていく。
「このなか、一階ゲームセンターなんだ」
「うん」
「三十分くらいで、でてくる」
「うん」
待つと、手にぬいぐるみを持っている女の子とその男は、でてきた。
少し暗いなか、隣にある公園のなかに入っていく。
「ベンチでやるから」
「え! な、なにを!」
「決まってるよ」
「あ!」
天使も驚く光景だ。
薄暗いが、電灯もついているため、通りからでも、よく見れば、二人がなにをしているか、わかるだろう。
天使、悪魔、前彼女が見ているとも知らずに。
はじめ手をつないで、イチャイチャしていたが、やがてキスをはじめた。
そのうち、制服の上から胸をさわりはじめ、脱がせていく。
そして、○○をさわり、ピーーで、
ピーーで、ダメなことをとにかくピーーしていく。
もうみてられない!
天使は真っ赤な顔でぷるぷるしている。
こんな光景は、見たことがないのかもしれない。
わたしだって、その、ほとんどない。
「だ、ダメ! 見ちゃ。ここから離れよ」
「なんでよ。もう二日おきにはきてて、七人めだよ」
「はぁ! バッカじゃない! いや、とにかく、高校生の女の子がみるものじゃないよ」
「ああいう娘が、ほかにもたくさんいるんだよ。はぁ」
「とにかく、ダメ!」
仕方なく、三者は最低男の事が終わるまで、ビルの前で待つ。
四十分くらいかかって、ようやく公園からでてくる。
「それで、あいつ帰ってくのだけど、たぶん、他にもこういうことする場所あって、代わるがわる女の子を狂わせてるんだよ」
「はぁ。堕悪魔もたくさんみてきたけど、ひどいね」
「て、天使男子たちは、あんなことしません」
「天使、男たちは、みんなあんなこと、しようとするんだよ」
「しません。わ、わたしは、天使たちを、信じます」
「はぁ」
もう何度かわからないため息をつくネネ。
それから、さらに一時間ほど、この娘と話しを続けた。
天使も粘りつよく、説得する。
やがて
「もう、わかったわよ。異界送りについていって、さっさといなくなればいいんでしょ」
「違うわ。異界送りは、異界ドラゴンに選んでもらう場所だよ。きっと、その先に転生魔法使いがいて、転生してくれる。次の人生を生きて!」
「でも」
「大丈夫。幸せになれるかは、わからない。けど、これからもまた選べるの。いこう、堕落しないでね」
天使も、つかれながらも同意してくれる。
「あ、でも、連れてくのはわたしですぅ。悪魔には任せません」
「もう、それで、いいわよ」
「貴女、名前は?」
「りん、高校一年生、だった」
「わかった、りん、いこう」
すると
「これあげる」
「え」
りんは、手のひらに何かもっていた。
それをネネに渡す。
「わたしが使っていたカチューシャなの」
「うん」
「何故か、この姿になっても、これはついてきてた」
「そう。きっと、魔力が結晶となって、そこに収まったのね。ありがとう」
「うん」
「じゃ。天使お願いね」
「はい。しっかりと」
りんに、さよならをする。
「ドラゴンは、怖いけど、しっかり想い伝えてね」
「うん」
天使が模様の入った翼を拡げて、りんと一緒に、昇っていく。
そして、転移の陣が上空に現れて、消えていく。
「りん」
手には、ネコのシルエットになっているカチューシャがひとつ。
「天使の名前、ききそびれちゃったな。また会えるかな」