これって修行じゃない
アマツキの声が聴こえる。
アマツキが天使じゃなくても、わたしはアマツキと一緒がいいなと、そんなことを考えている。
でも、キレイにお手入れされている天使の羽をみると、やはり天使のほうが羽は、触り心地がいいかもしれないとも思う。
なにか願えるなら、天使になるもいいかもしれない。
それとして、なぜみんなそんなに驚いているような、疲労しているのだろうか。
ふわりと悪魔ノートを手にとり、みると魅了の文字は消えている。
代わりに転生となっている。
「これって……なにがあったのかしら」
眼の前で手を出されるため、アマツキの手をとる。
「ヒイロ……ねぇなにも覚えていないの?」
「なんのこと、なにか本を持っていたのだけど、それからは」
「そっか……よかった」
みると、ネネが銃をなでている。
なにをしているのだろうか。
「それじゃヒイロは、なにも意識しては覚えていないんですね」
スズネが慎重に聴いてくる。
言われて、身体がずいぶんと重たい気もする。
「うん」
「ばくはつしたり渦ができたり、滝みたいになったり、すごかった」
「ばくはつ……たき?」
「ルルファイスが準備を整えたら、急に変化して」
「そのあと、ネネが持っていた銃の火力でずいぶんと魔力消費しながらも、被害まではならなかった」
「トロピカルガンは、七色八色変化なのよ」
なんだかよくわからないうちに、中央図書館が吹き飛ぶところだったらしい。
そういうのは、ルルファイスは先に言ってほしい。
「あ、ヒイロその眼……」
「ルルファイスと一緒?」
「眼が変化したのね」
鏡をみると、ルルファイスよりメディに近い色になっている。
転生者と同じ色。
それで、転生ショックという文字をみたことを思い出した。
もしかしたら、わたしは一度転生したのかもしれない。
「……眼ってことは、ヒイロ魅了はどうしたの」
「失くなったわ。もう使えないはず」
「そっか」
メディが頭をなでてくれる。
少しだけわたしにも感じとれるのは、これもメディの仕事の範囲だったのかもしれない。
ルルファイスが以前少しだけ、話してくれたことがある。
クイーンの仕事に近づくほどに、魔力も体力も底なしでないと、やっていけない。
わたしは、仕事を辞めてしまったわ。
司書は、向いてるかわからないけれど、前職よりはいい。
そういうものだ。
「ヒイロは、それじゃ深化できたのね。嬉しいわ。よかった、無事で」
「ルルファイス、これから一から教えてね」
「そうね!」
そういってルルファイスが近づくため、それは避けておく。
また抱きしめられそうだったからだ。
「教えてもらうたび、抱きしめるつもり?」
「そこは、よけないで」
ルルファイスを師匠と呼んだほうが、いいのかしら。
でも、そう何度もルルファイスから抱擁されるのは、やっぱり違う。
もう子どもじゃない。
これからは、一悪魔前になるために、悪魔一倍頑張って修行して、アマツキと一緒に成長しよう。
「でも、アマツキはこれからどうするの」
「ぼくは、どうしようか」
「したいこと、あるんですよね」
「スズネ、わかるの?」
「それは、もうわかります」
「そっか……」
アマツキは、なにを求めているんだろう。
ルルファイスと打ち合わせをしている間、アマツキはメディやネネと話している。
アマツキがしたいことは、わたしがしたいことと重なるようなことを言っていた。
いまもそうなのだろうか。
わたしは、転生の素質があり、ルルファイスはそこをみつけたのだろう。
固有の魅了は元からのものでも、きっと転生のほうが、悪魔にも天使にも役に立つ。
ときどきルルファイスの話しで、ずっと続けるのは、かなりの労力、魔力、気力が必要よと言われる。
「体力は、アマツキより、ないかも。だけど、魔力はかなり高いわ。それにルルファイスからもこれから教わるし」
「やめたくなったら……」
「そう簡単には、辞められないでしょ」
「そう……そうね」
寂しそうだ。
ルルファイスだって、それを離れるときには、かなり悩んだし、かなりいろんなものを手放したのだろう。
「平気よ。アマツキいるし」
「ぼくがずっといるの」
「あら、いないの?」
「そう言われると、困るな」
めずらしい気もする。
アマツキは、本当にしたいことができつつあるみたいだ。
ほんの少し前には、ぼくはなんでいるの、とか、いなくてもいいよ、みたいなことを言っていたのに、ずいぶんと変わった。
アマツキをみてきた。
ルルファイスと修行期間に入った。
少なくとも一年は、かかるらしい。
ルルファイスの転生魔法修行休暇届け……は、受理されるはずもなくて、中央図書館の改装の担当……も外されるわけもなくて、ルルファイスはおお忙しのなかで、わたしもなにか手伝うことになった。
司書補佐という名称がいつの間にかついている。
アマツキは、ここしばらくは中央図書館に通いつつ、メディやネネとたくさん勉強している。
お互いに会話が少なくなってしまったけれど、ときどきわたしが休憩していると、いつの間にかその側にアマツキがいるときがある。
なにしてるの、と聴くと、ネネたちと鍛えてるよ、と言う。
身体は、まだそんなに鍛えられてはいないから、スキルのことだろう。
またネネたちと旅をしたいけれど、ルルファイスに教わることも多いし、図書館の改装の区切りがつくまでは、なかなか機会がないかもしれない。
教わることの大半が、転生の基礎的なものとほかに、転生スキルの種類についてだ。
「わたしたち転生魔法使いは、ファルティが持っているような、特殊な権限があるのよ」
「転じるということ」
「それよりももっとタイセツなのかも」
「どういうの?」
「転生後や転生前の対象相手に、条件を提示して転生者となった際に、得られるスキルを作成したり、その条件を限界つきにすることだったりね」
「ゼンブとか、そういうことね!」
「そう……総てのスキルをくださいとか、あなたを一瞬で消し去るとか、わたしたちに限界があるように、あなたにも限界があること……それに、わたしたちができることと天使、妖精にできることは違うのだと」
「じゃ天使にできることでも」
「悪魔にはムズカシイこともあるの」
「妖精にあって」
「悪魔にないものもあるの」
そうかと、少しわかった。
わたしたちに種類が存在するように、転生にもそのカタチがあるのだと。
転生者は、じゃなにをする者たちなのだろうか。
「あ、次これね」
「はい」
修行期間に入ってはみたけれど……雑用がおおすぎる。
これ修行じゃなくて、悪魔補充よね。
もしかして、これって修行じゃない……かも。
「次はこっちね」
「ねぇルルファイス」
「なに」
「これって修行……」
「うん! そうそう!」
「ゼッタイ違う……」
「違わないわよ」
「じゃスキルのこととか」
「あ、待ってね。あとあと」
「ゼッタイ違う」
魔法修行でも、スキル訓練でもない。
これ立派な図書館司書の補助とかなんじゃないかしら。
師匠間違えたかも。
ライリアとレミリアが目の前でどんとぶつかった。
二悪魔の持っていた本たちが、バラバラと崩れている。
アマツキも呼ぼうかな。