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転生魔法のつくりかた

 転生の条件は、複雑で時間もかかるらしい。

 おおむねは、前回ルルファイスにたずねたものと共通もする。


 ルルファイスからの悪魔界逃走計画の合間での話しなため、もっとしっかりと聴きたいのだけど、じっくり進むのでいいみたいだ。


 そういうのは、覚えてからの修行期間があり、少なくとも一年は見習いというか、ほかの悪魔たちに試しつつ、覚えていくらしい。

 失敗した悪魔たちは、どうなっていくのだろう。

 聞いておいたほうがいいのだろうか。


 転生失敗、やめておきましょうか。


「つまり、以前発見した転生なろうは不完全なのね」

「少し違うわ。鍵でひらくとべつものになるの」

「それがよくわからない」

「ネネはクラフト深化は、ないのね」

「ないわ」

「転生って複雑でね……」


 ルルファイスが持ってきていた手帳をひらく。

 何冊もルルファイスはつかいこなしているらしく、手記にするほど知識は豊富だ。

 元より優秀な悪魔なのだろう。


「そういえば、ファルティも少し特別だとか話していたかしら」

「そうね……ドラゴンたちは、千年くらいは軽く生きてるから、転生だけじゃなくて、いろんなセカイをみてきたのだと想うわ」

「千年……以上」


 百年や二百年だと、まだ短いらしい。

 それでは、いつも寝てばかりいるのは、もう退屈してしまったのだろうか。


「高魔力宝石に転生なろう、それに、ほかにもあったかしら」

「ほか?」

「そう……たしか、鍵になるほう、いえ、扉かしら」

「扉?」

「あの本が扉ね。だから、鍵が必要だわ」

「本に鍵とか、よくわからない」

「ふたつで一つの本なのよね。転生扉と転生鍵」

「天使と悪魔みたいだね」


 アマツキが天使ノートを開くため、わたしも悪魔ノートを開く。


「なにが違うのかしら」

「……制約」

「え、なに」

「天使制約があるように、転生にもあるんだね制約」

「そう。アマツキは、とっても賢いわ」


 ルルファイスがもう疲れている表情のまま、アマツキをポンポンする。

 アマツキは、されるがままにしている。

 ルルファイスが疲れているのを気づかっているのだろう。

 アマツキは、代わりにルルファイスの羽根をつくろってあげている。

 天使だ。

 けれど、天使にある制約が転生にもあるらしい。


 アマツキは、天使スキルについてだいぶ詳しく覚えてきたようだ。


「けれど、悪魔に誓約をするなら、ヒイロは、なにかを交換するんでしょ」

「ヒイロが心配なのね」

「ルルファイスもでしょ」


 アマツキとルルファイスで話しがわかるものがあるみたい。

 わたしは、制約の意味を考えてしまう。


 アヤにもあったのだろうか。

 天使にあるということは、アヤもそれを受けていたはずだ。

 それで天使やってるだけと、アヤは思い浮かべていたのかもしれない。


「転生鍵の本をみつければ、いいのね?」

「すぐにみつかるわ」

「どうして」

「扉の近くに存在するのが、鍵なのよ。ね、天使と悪魔みたいでしょ」


 そういって微笑する。

 くたくたになってまで、話してくれたのだから、親切だろう。


「じゃネネ、話しの続きだけど……」

「ほかにもあるのね」

「司書が三悪魔じゃ、悪魔不足なのよ。中央図書館なのに、中央の都市なのに、それってあまりに……」

「それね」


 ルルファイスの続きとは、仕事の途中からの話しだった。

 いったいいくつためこんでいたのか。

 でも、気持ちもわかってしまう。



「ルルファイスおやすみ」


 アマツキがそういうまで、さらに一時間は話していた。

 アマツキと顔をあわせる。

 アマツキも話しつかれたらしいけれど、どこか笑っている。

 わたしも笑う。


 こうしてみると、アマツキも男の子の表情がでてきた気がする。

 天使の男の子は、これからいくつのキレイな気持ちを抱えていられるだろう。

 少なくとも図書館の仕事は、苦手になるのではないかな。





 前の日の深夜まで話していた。

 次の朝もうルルファイスは司書として、中央図書館で仕事をしていた。


 本当は別の悪魔なのだろうか。

 そう思うくらいには、テキパキ……ヘロヘロしている。

 やはり活動には影響しているようだ。


 ルルファイスと夕方に合流してから、ヒイロのスキル深化をすることになる。

 それまでに、転生の本といくつかのアイテムを揃えておくことになった。

 もうそれほど、大変な作業ではないだろう。


「いよいよですね」

「ヒイロ深化」

「羽生えちゃうかな」

「もう生えてますね」


 メディとミレイが禁書フロア、ほかのメンバーで違うフロアをいききして、ルルファイスから言われたものを集めておく。

 足りなさそうなら、買いにでることになる。


「転生魔法使いになろうは、どこでみつけましたか?」

「忘れたわ」

「そうですね。また探しましょう」


 スズネがはりきってくれるため、探しまわるのは、スズネにおまかせしよう。

 でも、たしかにスズネのいう通りだ。

 水や花の妖精に出逢い、さまざまにアイテムを集めてきたのも、ヒイロのスキルを上げて、後継者になってもらうことだ。


「わたし、進化するのね」

「ヒイロなら平気だよ」

「アマツキもいるからね」

「ぼくは、協力するだけだよ」

「アマツキがいるから、なにも恐れないわ」

「それはよかったけど、ルルファイスがいうには、制約を考えなくちゃ」

「アマツキ考えてね」

「なんでぼく」

「協力してくれるんでしょ」

「思考放棄し過ぎ」


 ヒイロもはりきっている。

 というか、ヒイロは少しテンションが高過ぎる気がする。

 昨夕は図書館のなか、隠し通路にずっといたらしい。


「前きたときには、なにか探してましたか」

「さぁ。ルルファイスのお手伝いじゃなかったかしら」

「ライリアとレミリアだよ」

「頼まれごとね」


 そういえば、みんなで司書になろうともしていた。

 ルルファイスがあぁいうのだと、司書になるのは、考えてしまう。

 激務というより悪夢らしい。


 それでも図書館内にいるのだから、そこはルルファイスもすごいと思う。


「さぁ探しましょう」


 まずは一階と二階に分かれて探し、それでみつからなければ、再度話して二階から上を探そうと打ち合わせをした。

 中央図書館のなかは改装中の場所があり、ときどきそこを避けつつ歩く。


 一階、二階、三階といき集合したころには、だいたいのものは、揃っていた。


「これが転生なろうだね」

「……こっちも転生なろうだよね」


 どちらが鍵なのだろう。

 いや、扉か。


「ま、いいわ。とりあえずルルファイスを待ってみて……」


 わたしが言うときには、ヒイロがふたつの本を手になにかしたのがみえた。

 その瞬間、瞬間シンパシーのような声が全員に聴こえた気がした。

 それを感じとったあと、みるとヒイロはもういなかった。

 ルルファイスが来た。

 でも、驚くことはなかった。


「これって」

「こちらはこちらで準備しましょうね」

「ルルファイス、ヒイロは……?」

「平気よ。セカイは常にいくつも存在していて、ヒイロはいまは深化のセカイよ」


 いつの間にか、ふたつの本はひとつの本として活動していた。





 ここは……

 なにもないセカイだ。


 何度か来たことのあるような、それでいていまはじめてみた。

 服は着ているため、とりあえず起き上がると、服をはたく。


 ルルファイスから教わったことだ。

 わたしが、しばらくルルファイスとあまり話しすらしなかった頃、ほとんど服装など気にせずにいると、そんなじゃだめよと、新しい服を買ってきた。

 可愛くひらひらした、似合いそうにないものだ。

 ヒイロは、可愛いものを着るといいわとそのとき言って、崩れていそうな服のか所をパシパシはたく。

 スカートがめくれていないか、ベルトがシャンとしているかなど、たしかめるのだという。

 いまは可愛い服も好きになったけれど、その頃はまだ好きになれなかった。


 けれど、座ったあと立ってすぐなど、一度はたしかめる。

 アマツキに、そんなに気にするのと言われたときに、これがもう癖にまでなっていたと気づくことができた。


 ほかにもルルファイスに言われて覚えたことも、アマツキから言われてなおすようにしたこともある。


 仕事用とプライベートで、お化粧や服装を替えるのは、ルルファイスだし、あまりに、髪や手を汚すとキレイにしようとしてくれるのは、アマツキだ。

 ほかにも、それぞれみんなに少しずつ教わることがある。



 つまり、なにもないセカイなため、景色を眺めるでもなく、歩きまわるわけでもなく、ただ広くひろく開けている地面だかなんだかよくわからないところで、ぼーっとしていた。



 少し経つと声がした。


「ヒイロだな。思ったよりは早い時期にきたな」

「……ファルティだね。お久しぶりです」

「まだ準備中らしいが、こちらはこちらで、進めているのでいいだろう」

「姿みせてよ」

「それは無理だ。この空間はヒイロの内側だ。もし来られるなら、アマツキくらいかもしれないな」

「アマツキ呼ぼうかな」

「制約の話しだ。天使にある制約は、それだけ強力なものもある」

「ファルティなら、できるでしょ」

「……それより転生つかいになるんだろ」


 そう、ここでそれを覚えなければいけない。

 でも、準備中といっていた。


「準備中……って、わたしはなにをしたらいいの?」

「準備をしているのは、向こうの悪魔や天使たちだ。一悪魔でおこなうときもあるが、みんないるんだ。任せればいい」

「それでわたしはなにを」

「深化させたいのは、どれのスキルだ。なんでもいいわけではないが、少なくともそれは失くなるだろう」

「……魅了で。固有スキルの魅了を差し出すよ」

「魅了。もう一度伝えるが、差し出したスキルは変化しカタチすら違うものになり、戻らない。ヒイロは隠しているものもあるだろう」

「……封印と再臨のことね。固有でいいわ。こちらの二つのほうが、悪魔にとっては貴重なの。アマツキにも役に立つわ」

「そうか。悪魔ノートの空白部分に、文字が浮かぶ。魅了と書くことで向こうの準備と同時に、ひとつが二つとなり、二つはひとつの深さになる。転生ショックと同じようになるが、反発しあうために加速する」

「……ムズカシいこと言わないで」

「魅了は分割されて、高圧縮されしスキルがやがて転じて生まれる役割となる。生まれることと死ぬことは同じになるということだ」

「……ムズカシいこと言わないで」

「もう少し勉強もして欲しいのだが……」

「……じゃ今度ファルティも教えてよ」



 知識とはやがて滅びるのではなく、堆積してやがて、回転していく。


 転じるというのは、加速して分解すると統合するようなものなんだ……だから……



 ファルティの声がききにくくなる。


 わたしが魅了と書いたからか、空間が変質していく。

 回転しているような、加速しているような、飛んでいるような、止まっているような、それすらよくわからない感覚で魔力が吸い取られていく。

 身体の重さに負けないように立っていると、ふいに軽くなった。


 今度は声の代わりに片目だけ痛くなる。

 みていると、いつも使う魅了の眼だ。


 分解されていく。

 眼の前で再構築されていく。


 水と花の景色がひろがる。

 ファルティはなにか言っているのかもしれない。

 あまりに突然に、転生の意味が理解できるようになる。

 誓約により、はじめにわたしの身体や魔力として転生が使われるらしい。

 淡くひかったあと、わたしの周囲がぼやけていく。



 そして……そして……

 ファルティの笑い声だか、ため息だか、それとも、歌かもしれない音だけが聴こえてきた。


 わたしが再構築されていく。


 魔法は、料理だとネネが言っていたのは、そんなに間違いじゃないのかもしれない。

 転生ショックと浮かんだときには、パチンッ! と意識はとんでしまった。



 次にみると、みんながいて呆然としている。

 どうしたのだろう。

 たしか……あのとき、中央図書館のなかで本をかさねて……かさねたあと、なにかしたような気がする。

 だれかの歌声を聴いていたのに、それは遠い記憶にしか残らない。

 わたしの悪魔ノートがふわりと浮かんでいる。

 手にとった。

 周りはなんでこんなに嵐に遭ったように、驚いているのだろう。

 なにか……した。


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