待ち時間は作業ばかり
悪魔スズネにセカイの総てを破壊させないために、魔改ナイフを微調整しなくてはいけない。
自販機でフルーツティーを買って飲んだら、すぐにスズネの腕を引っ張りカウンターに向かう。
スズネは、やや不安気だ。
どこまで試していたのか、わからないけれど、わたしの料理が上手くいかない理由を少しは、わかってくれたかもしれない。
カウンターにきてから、オトナしく座っていてもらう。
「わたし……怒られるようなことでも」
「ナイフ少しいいかしら?」
「いやです」
「いいから」
「わたしのですよ……もうわたしのですよ」
「わかってるわよ」
ぎゅっとナイフを引き寄せているため、わたしは手を前にだす。
これで少しは心をひらいて……
「ナイフわたしの……」
「いいから! 渡してよ」
強引に手から受け取る。
そんなに、哀しそうにしないでよ。
「せんぱいもしかして、怒ってますか」
「そんなことないから」
「だって」
「もう弱気すぎ」
そんなにこのナイフが気にいったらしい。
それは、それで嬉しい。
「ナイフもしかして、せんぱいとの相性とかあって」
「ちょっと待っててね」
そんなに、時間はかからない。
カウンターに拡げていたものを一度よける。
そのあと、バックからいくつか調節アイテムを取り出す。
スズネがなんだか心配そうにみつめる。
ナイフの柄の部分を少しずらしていき、少しカバーをはずすと、調節するための魔結晶がある。
ここの魔結晶でセーブモードにしたり、最大級にしたり、付加を変えたりできる。
いまはなにも設定されていない部分だ。
スズネの自身の持つ魔力をそそぐと変化するも、ここの設定である程度まで、増やしたり減らしたりできる。
「それ、魔結晶入っているんですね」
横からのぞきこんでいる。
「そうよ。この加工した魔結晶で調節するの。こちらにわたしの付加した部分があるから、魔力溜めたり放出したり、あとで別の付加をするときにもつかえるわ」
「はあわ!」
「上手く調節しておくから、料理とか焦がさないでね」
「そんな火力でるんですね。ていうかなにもかも破壊するものだとばっかり」
「なにを試してきたのよ」
「いろいろですよ。やだなぁ」
「スズネも無理するから」
「いやだなぁ」
なにかやってしまったのだろうか。
でも、この調節でセカイの破壊は防げるだろう。
「こんな感じかしら」
「リミッター? みたいなのですね」
「よくわかるわね」
少し驚く。
スズネもクラフトに詳しくなってきたのかもしれない。
「えへへ。ネネのクラフトみてるの好きなんです。それはいいけど、付加ってわたしも覚えたらできるんですか」
「覚えるっていうか、スキルの得意不得意じゃないかしら。未来視のようにはいかなくても属性があえば、だんだんとできるのもある」
「もっとせんぱいと勉強したいです」
「スズネは、はじめのころわたし勘違いしていたのね」
「そうですかね」
「ギャルマインドみたいなの言っていたから、軽くプライベートもこなすみたいなくらいかと」
「そんなには、変わってないですよ。あるなら、先走ってたのをおさえてみたり、もっとじっくりみるようにはなったかな」
「心境ね」
「せんぱいたち、まだたくさん教わることあります!」
「それもいいけど、ヒイロの進化と、アマツキね」
スズネと話しこんでいると、ミレイが通りかかった。
「二悪魔して勉強かしら?」
スズネがナイフを丁寧にしまっている。
「ミレイはまだ途中なの」
「そう。休憩ね」
「禁書フロアは相変わらず?」
「そうね。悲鳴だらけよ」
禁書に触れると、強い魔力に影響されてしまうため、引き込まれたり、吸収されたりして、こちらに戻ってこられなくなる悪魔もいる。
「そっか」
「でも、注意がきは増えてるし、なにやら蔵書も増やしてあるから、前よりも管理やそのあとのことも少しは、気をつけているみたいね」
それならば、少し安心だ。
前は、平気で倒れている悪魔を放置していたし、注意も入口のところに貼ってあるだけで、よく知らないでくる悪魔もいたらしい。
飲み込まれた悪魔は、そのあとどうしたのかまでは、知らない。
「未来視は、禁書指定? それとも一部指定?」
「いまみたのでは、部分指定かしら。夢やウラナイ、瞬間的なものもあるから、全部を禁書にはできないのかも」
「わたしのクラフトも、そのうち部分指定みたいなものは、かかるのかも」
「へぇ」
「教会のシスターから、やんわりとスキルのことをたずねられたのよね」
「高圧縮宝石の扱いも、ネネならできるからね」
「……それって関係あるの」
「ま、それくらいは、秘書でもいえるわ」
メディの仕事の範囲らしい。
高圧縮宝石をつかって、わたしがなにか危険になるようなことが、あるのだろうか。
あぁでも、いまスズネがセカイを破壊しそうだったわね。
銃とナイフは、たしかに加工しすぎたのかもしれない。
リミッターつけたし、スズネにとって迷惑にはならないだろう、たぶん。
「秘書も大変なのね」
「それ指輪いいわね」
「でしょ! 贈りものよ」
隣でスズネが照れている。
「わたしももう少し買おうかしら」
「ミレイ買い過ぎじゃないの」
「え、そうだったかしら」
ミレイが少し休憩したあと、また禁書フロアにいってしまった。
そのままスズネと話して仕事すると、今度はメディがきた。
「ひと区切りついたの?」
「あぁ黒鉄待ちだな」
「……黒鉄大変ね」
「これでも、洞窟や草原でできなかったものは、手はつけられたかな」
「……黒鉄大変だわ」
「なんでだよ」
メディが笑いながらいう。
それは、そうだろう。
メディを探しまわりつつ、調整もして、荷物も運んでるんだから、もう一羽いてもいいくらいだ。
「ネネは教会は」
「いって来られたし、いまもこんな感じよ」
「手伝えるものは、あまりなさそうだな」
「まぁね」
範囲が違うため、メディに渡したりスズネにみてもらったりするのは、いまのものではない。
そういっても、スズネは横からなにか参考にしている。
「スズネは、いいのかい?」
「仕事は、はやめに片付けるほうです」
「スズネは、なかなか賢いね」
「ふふん」
「前に担当の黒鉄が違うことも……」
「せんぱい……」
「あ、気のせいだったわ」
メディは、別の資料を探しているらしい。
カウンターにいる間も何度か姿を眼にした。
「ふぅこんな感じかしら」
「せんぱい、すごいです」
「え、なんで」
「わたしの倍は量ありましたよ!」
「スズネも統括になったし、だんだんと量が増えてくるわよ」
「せんぱい仕事による出世ってなんですかね……」
スズネが遠くをみていう。
それに対する応えは、わたしにはない。
「ま、上手く動いてよ。スズネはできるほうよ」
「上手くできない場合は……」
「ナイフで料理でもしてね」
「せんぱいよりは料理上手な……」
ちらっと睨みつける。
「へぇ」
「ご、ごめんなさい」
「なんであやまるのよ」
「怖いぃぃ!」
怖がらせてしまった。
でも、スズネの料理が上手なのは、認めているから仕方ない。
もっと料理訓練しよう。
ようやくアマツキとヒイロが、戻ってきた。
「おかえり」
「おかえりなさい」
「え……うん。ただいま」
なんでそんなに、うつろなのだろう。
「どこかいって来られた?」
少し返事がおそい。
「え……うん。どこだったろうね」
「どこ」
アマツキとヒイロは、いったい中央図書館でなにがあったのか。
「とりあえず休みましょ」
「ドリンクとってきますね」
スズネが、飲みものを買ってきてくれるようだ。
わたしのも飲みものくるかしら。
空いている席に、アマツキとヒイロが座る。
少しカウンターで作業の続きをすると、スズネが戻ってきた。
「はい、せんぱい」
「ありがとう」
「アマツキとヒイロもフルーツブレンドでよかったですか」
「うん」
「ありがとう」
スズネは、よく気がつく。
しばらくそのまましていて、スズネはときどき黒鉄と話している。
またみていても、まだアマツキとヒイロはぼーっとしている。
深くは聞かないでおきましょう。
「ふぅ……一応……言われたのはここまでかな」
「おつかれさまです」
スズネと飲みものをポンッとあわせる。
「じゃ、少し片付けて……」
「けっこう時間いい感じですね」
「そう……っていまどれくらいなのよ」
気がつくと、夜らしい。
うっかり仕事時間にしてしまった。
あまりメディに対して強くいえないな。
「いま……ちょうどいいくらいです」
「ルルファイスくるかしら」
「いえ、ミレイせんぱいとメディせんぱいが探しつかれて、そろそろどこかで果実休憩にしようと提案するのに、いい時間ですね」
「そ……そうなんだ」
スズネがにやりとするのと、ミレイとメディが、こちらの席に向かってくるのは、同じタイミングで、あまりにもスズネのいうとおりだ。
これルルファイスがきたら、また食べるのかしら。
わたし、昼間から食べてばっかりになるんだけどな。