中央図書館改装中
ミレイやメディも少しおそめに着いた。
わたしもだけど、それぞれで着いたときに用をすませてきたらしい。
ヒイロやアマツキは、冒険から返ってこない。
中央図書館は、ルルファイスがいるけれど、ヒイロやアマツキはなかじゃなくて、外にはいるだろう。
前からヒイロもアマツキも、離れたときには違う場所で探しものをしたり、別の悪魔と話していたりする。
なにかみつけることが、多いらしい。
スズネは、装備をひとつ増やしたけれど、つけるものはないらしく、カバンにしまう。
ナイフに魔力までは、補充できなかったから、そこはあとでスズネに自身でしてもらおう。
思えば、わたしの魔改ナイフもだいぶつかいこんできた。
使うたびに、みがいてはいるけれど、魔力の消費によってだんだんと、ナイフも摩耗していく。
スズネに渡したのは、できるだけ長持ちするように、工夫した。
スズネがなんだか、まだにやにやしている。
「ミレイは、荷物ちゃんと片付けられた?」
「あんなに買ったとは、わたしも驚きよ」
「一番驚いたのは、あなたの黒鉄だと思うわ」
「いいのよ。あとで黒鉄にお礼しておくから」
「わたしの分も上乗せして、ほめてあげてね」
「メディは、あまり買ってなかったわね。ていうか、旅さき仕事しかしていないような」
「ミレイがいると、安心して仕事ができる」
「いくらほめてもいいけれど、仕事は増えていくばかりよ」
ときどきミレイを連れだしたほうが、メディにはいいようだ。
合間でミレイを散歩にでも誘おう。
「アマツキたち、どこまでいったかな」
「もう来るわよ……たぶん」
「ヒイロとアマツキ、でかけるたびに、険悪になったり仲良くなったりしてるわ」
「天使と悪魔だからね」
「悪魔同士なら違う?」
「悪魔同士なら、もっと険悪ね」
「そうね。ミレイの意見と同じ」
スズネがゆっくりしている。
中央図書館の公園をみているみたいだ。
黒鉄は、忙しいらしい。
わたしの担当ではないけれど、いくつも空中を飛びまわっている。
天使同士、悪魔同士の話しをしていると、ヒイロとアマツキが戻ってきた。
なぜかぐったりしている。
「どこまでいってきたの」
「え、うん、なんか」
「遠く……まで?」
なぜ疑問なのだろう。
とりあえず、中央図書館に入ることにしよう。
ルルファイスはいるだろうか。
入ってみると、前よりは落ち着いている。
前にスキルの話しを聴いていたときには、かなりざわついていて、悪魔たちはみんな調べものでウロウロしていた。
天使界での噂もあったようで、なにか危ないようなそわそわしていた。
「前より、のんびりしてるわね」
「天使たちの噂も、けっこう経ったから」
「結局なんだったんですか、あの噂たち」
スズネが言っているのは、天使たちがいまにも戦いを起こそうとしている、という内容のことだろう。
たしかに、わたしたちが天使から戻ってきてすぐのタイミングで、よくわからない出来事だった。
噂とは、なにかあるときに起こるのだとは思うけれど、返って噂だけで、なにもないときもある。
入ってすぐのカウンターに向かう。
カウンター前には、少し悪魔がいるため、そこに並ぶ。
カウンターにいるのは、ライリアのようだ。
こちらをみつけて、少しだけ手をふってくれる。
ライリアの前にくると、すぐに話してくれる。
「久しぶりね! ヒイロ大きくなった?」
「そんなに背は変わらないよ」
「そっかぁ! なんか女の悪魔の顔してるよ」
「なにそれ。女だよ」
「オンナよ、オンナ!」
「なにいってるかわかんない」
「レミリアにも知らせようっと」
「なにを知らせるっていうの」
ライリアがさっそくレミリアを呼びだしている。
ルルファイスは、どちらだろう。
「ルルファイスはいる?」
「入ってるけど、禁書か新しいエリア、かな」
「新しい?」
「改装する予定なの。まだ準備中」
「中央図書館、改装なんだ」
ここは旧い場所もいくつかあるけれど、取り扱い注意の蔵書もあるし、入口をあけておきながらの作業では、大変だろう。
「閉めて、やればいいのに」
「そうもいかないのよ」
スタッフのライリアがいうのだから、そうなのだろう。
レミリアが小走りでくると、ヒイロの頭をなでている。
ついでにアマツキもなでている。
アマツキは、恥ずかしそうだ。
会話している間ではあるけれど、旅の話しをしだしたら、図書館が夜になってしまう。
「ルルファイスはみた?」
「あ、連絡いま取れてないから、改装のほうかも」
「連絡とれないの?」
「改装前ではあるけど、打ち合わせや蔵書の点検や表つくったり、なんか慌ただしいのよ」
「そ、そっか」
「会うだけ、会う? 話しは、少し待たないとだめかも」
「わかったわ」
場所を教えてもらうと、わたしとヒイロ、アマツキで向かう。
忙しいならここでほかの悪魔は、待っているということになった。
「ライリア元気だね」
「ヒイロに会えたからよ」
「でも、あれはまだ七割よ」
「え……」
「まだ三割は仕事ね」
「あ、そうね……」
たしかに、仕事場所の図書館では、あまりはしゃぐことはないかも。
いや、そうだろうか。
ライリアは、よくはしゃいでいる姿をみていた気もする。
ルルファイスのいると聴いた場所は、まだ改装中といっていたそのままの通りだ。
近くまでいくと、改装中につき立ち入り禁止となっていて、窓の向こうは建設も進めているらしい。
立ち入り禁止の看板を無視して、なかに入っていく。
悪魔が何名か動きまわっているも、壁ぎわには資材が置かれ、内装も途中らしい。
棚も少しだけしかなく、たぶん、資料置き場に使っているのだろう。
「ルルファイスいるの」
「あ、ネネ!」
相変わらず、スラリと美悪魔でよく目立つ。
少し髪は、伸ばしているらしい。
なにかの作業を中断してから、こちらにくる。
そして、ヒイロとアマツキに抱きついている。
少しヒイロにセクハラのようにもしていて、ヒイロはジタバタはたいている。
いつもの通りらしい。
「ヒイロ、アマツキよくきたね」
「ただいま」
「ヒイロ少し表情が違うわね」
「ライリアにも言われたわ」
「あ、連絡つかなくてごめんなさい。いま改装中なの」
「そうね」
みるからに、ここのフロアは資材しかなくて、まだ作業中だとわかる。
立ち入り禁止にはしてあったけれど、特別にまだ危険があるわけではないらしい。
ほかの悪魔たちは、また作業の続きをしている。
「妖精たちには、会えたかしら?」
「ええ! なんか接待うけてきた」
「ふふふ、変わってるでしょ」
「あ、いま……」
「ゆっくり話したいけれど」
「スキルと、それに天使のこと、もっと詳しく教えてほしい」
「そうね。夜になるわ。どこかいい場所をあとで知らせて」
「わかった」
わたしがもういいの、と聞くとヒイロもアマツキもとりあえず離れていく。
夜まで、ルルファイスを待つことになりそうだ。
けれど、ヒイロはやはり嬉しいらしい。
にやにやしている。
「ヒイロ嬉しそうだね」
「アマツキもよ」
「ぼくは、いつものだよ」
アマツキのは、照れ隠しだろう。
みんなのいる受付に戻ると、レミリアがカウンターにいた。
暇そうに話していたけれど、司書たちは忙しいらしい。
「ルルファイス手が空かないわ」
「そっか」
「どこかいい休憩場所で、夜にまた会うことになったわ」
「どこか移動……」
「図書館のなかいるね! いこ」
ヒイロとアマツキは、図書館のなかをサッサといってしまう。
隠し通路にまた入ってしまうのだろう。
「夕方に一度ここに集まって、あとは夜ね」
「わかった。そうしましょう」
ミレイがおおまかの時間と、連絡を提案してくれるため、それで決めて解散する。
わたしは、どうしようか。
ミレイが禁書のパスをほしがったため、渡してしまう。
「入るときは、呼んでね」
「わかった」
ミレイは自身のスキルを調べにいくのだろう。
「スズネはどうする?」
「あ、わたしこれ少し試してきます」
ナイフをちらりとみせる。
まだ、つける装備用具が足りない。
バックに入ったままだ。
「メディは……」
と声をかけようとするも、もう黒鉄と話している。
また仕事をもらってしまったらしい。
わたしは、どうしようか。
中央の近くの教会には、いけたし、スズネのクラフトも落ち着いた。
少し仕事を片付けようか。
中央図書館のなかをいくつか周ると、二階のカウンターに、広く使えそうな場所をみつける。
周りの悪魔もそんなに、騒いでいるわけでもないため、集中できるかもしれない。
テーブルに、持ってきていた小物を並べたり、黒鉄を喚んだりする。
「はい、これとこれとこれ」
「また増えてる……」
「ネネがしばらく放っておくから……」
「はい! わかったわよ」
このところ悪魔の仕事は、増えるばかりだ。
実際本格的にしたいのは、もっと教会や子どもたちの仕事で、悪魔の仕事の異界送りやそれに関するもの、また、上層からおりてくる仕事は、そろそろくぎりにしたい。
「悪魔の仕事、やめようかな」
そう思うことが増えてきた。
ミレイの見立て通りだったのかもしれない。
メディのように、上層にのぼり仕事をこなし、それでもできるのは少数で、だんだんと重要なことが増えてくると、辞める悪魔は多くなる。
その代わりに、また仕事は増えてくるため、また辞めたくなる。
本来の仕事とは、なんだったろうか。
ファルティは笑うかもしれないけれど、悪魔も目標や夢は、もっと必要なのだろうと思う。
「ネネは、どうありたいの?」
ふと黒鉄が聴いてくるため、手をとめてしまう。
「わたしは、いつも自分勝手よ。クイーンに言われたこと以上のは、わたしがしたいことだけ。ただ、メディのことは……少し違うわね」
「違うの?」
「もう……ずっと前のことよ」
あのころのわたしを思い出す。
追いかけ回され、変な言葉を投げかけられ、やさしく丁寧にいうなれば、とても感性の変態な異性しか、よってこなかった。
ミレイがいるときは、ミレイが猛悪魔にらみしていた。
それでも、それらがなくなることはないのだから、罪過ぎる。
もうミレイの婚約の申込みでもうけてみようかと、本気で考えていたのが、あのころだ。
はじめてわたしは、男の子に近寄ってきてほしい、話してほしい、少しくらいなら、スキンシップしたいとおもった。
いま振り返ると、ミレイには未来視的に、もうわかっていたはずだ。
それでもメディナナタリアとともに、旅しようとしてくれた。
「ネネは、恋とかいらない悪魔かと……」
「失礼ね。わたしは少しはまともな悪魔に会いたかっただけ」
今度は、反対にわたしがなにをどうすればよかったのか、いまでもはっきりしない。
ミレイは既にあきれまくっているし、スズネは、なんだか意味深だし、ヒイロは魅了でなんとかしようとするし、わたしは、いまだに恋を意識しだすと、だめになる。
「そんなに考えないでよ」
「恋って……なにかしら」
「……ネネがおもうようにすればいいじゃない」
黒鉄は、そういってまた飛んでしまう。
次の仕事だろう。
仕事の書類をめくったり、タブレットを取り出したりして、確認しつつ、アタマの隅で考えている。
「メディを追いかけたいんじゃないの。ただ隣で同じセカイを進みたいの」
どの程度経ったのかは、わからない。
少し周りに悪魔が増えている。
まだ外は夜ではないらしいけれど、ミレイもスズネも戻ってきていない。
少し休憩してから、また続きにしよう。
荷物はそのままにして飲みものを探しに、自販機に向かうと、スズネの指輪が眼に入り、ちょうどスズネがそこにいた。
「スズネ、ナイフはどうかしら?」
「せんぱい! せんぱい!」
「なに」
「これ料理から空気から、セカイまで総て破壊できますよ!!」
「……ちょっと調節してみるわね」
「え! なんでですか」