妖精の花はいい香り
アマツキがなにかみつけたらしい。
スズネと眼があう。
スズネは、ここ最近すごくみんなのことを気にしている。
だから、わたしがなにかあると思うのと、スズネがみているタイミングはよくあう。
「アマツキ、なにかみつけましたか」
「スズネ、これ」
なにかの欠片らしい。
青色ではあるけど、布なのかそれとも別のものの一部か、よくわからない。
「それ、どうかしましたか?」
「香りする」
「香り?」
スズネとわたしで、それの近くによると、たしかに香りがする。
「悪魔でなにか、知ってる?」
「ううん、わたしはわからない」
「わたしも、です」
少なくとも、わたしたちが見知ったものではなさそうだ。
アマツキが、ノートを触るとそれも淡くひかる。
「妖精の……かな」
「そうみたい」
スズネが、なにか小さいハンカチみたいなのを取り出し、一度受け取りそれを包む。
「う〜ん、近くでみても、服の一部なのか、破れた小物の一部か、よくわからないです」
スズネもわたしも、それが妖精のかはわからないけれど、アマツキの魔力にもヒイロのノートの書き込みにも合っているのだから、そうなのだろう。
「少しずつ近づいてるかしら」
アマツキのスキルは、探索ではないらしいのだけど、役に立っている。
どういう天使スキルなのだろう。
「次はどうするの」
「とりあえず街の悪魔に聴くのと、休憩場所探しましょ」
メディとミレイが、わたしたちの様子をみながらそう決める。
やはり長距離飛んだからだろう。
わたしもそうだし、ミレイたちも疲れているのだと思う。
街の中心部にいくと、悪魔の像がひとつある。
そこを目印にして、聞いてまわったあとで、そこに集合することにした。
わたしは、スズネと歩くことになった。
「アマツキのスキル不思議ですね」
「そうよね」
「どういう仕組みになってるんでしょ」
「アヤの儀式みたいなのをみても、天使にあって悪魔にないような縛りがあるのかしら」
「縛り……ですか」
「わたしたちの契約使い鳥との取り決めとか」
「ふ〜ん。なにかをあわせたりとか?」
「そうかも」
スズネは、今日も熱心に聞いてまわっている。
なかなかいい話しは、こないけれど、ここの地域では山や自然に関する話しをよく聞くことになった。
特に、ときどき不思議な結晶が落ちていて、しばらく前には鉱山もあったらしい。
「妖精は、見たりとか」
「それは、ないな。けど、不思議な結晶があって、それを集めてまわる旅の悪魔がけっこういるよ」
「そうなんですね」
わたしたちと目的は違うけれど、なにかを探してまわる悪魔がよく来るらしい。
目印にしている像にくると、まだミレイやヒイロたちは来ていない。
わたしが悪魔の像を少し眺めていると、スズネが声をかけてくる。
「せんぱいは、ヒイロとアマツキは花をみつけたあと、どうするのがいいと思います?」
「急にだわ。どうするって、わたしたちはヒイロのスキルを完成させるために、探しているし」
「わたしは、ヒイロとアマツキはできれば一緒にいてほしいって気はします」
「それは、そうだけど」
「離れると、そこから立ち直れないっていうのもあるし」
「わたしは、ヒイロもアマツキもしっかりしてるって想ってる」
スズネがこう話してるのは、なにか理由があるんだと思う。
メディも最近アマツキとよく話すし、詳しくはわからないけれど、なにか教えているようだ。
「じゃせんぱいは、ミレイせんぱいやメディせんぱいと離れても、平気ですか?」
「ミレイは……たぶんずっとついてくるわね。メディは離れることはあっても、ずっと会えないとかは……」
「ないとは、いえないですよ」
「そうなのかな」
「ネネせんぱいは、それでも割り切れますか?」
スズネが寂しそうにいうものだから、こちらも真剣に考えるようになる。
「メディは……そうね。会えないと寂しいし、ちゃんとお話しはしたいけど」
「なんか意地っ張りですね」
「そ、そうかな」
スズネが変に指摘してくる。
たしかに、素直な気持ちをちゃんと言ったわけじゃない。
そもそも素直になれていたら、メディに抱きつくくらいはしている。
「そ、そっちはどうなのかしら?」
「どうって」
「メディのこととか、やっぱり気になるんでしょう」
とりあえず、反撃してみた。
「わたしのは、だいたい伝わってると想いますよ。まぁいい具合に」
「な、なにそれ!」
気になることを言われてしまった。
「ネネせんぱいは、ニブいからなぁ」
「そんなことない」
駆け引き的には、スズネのほうが上手らしい。
そういえば、クロクロも言っていた。
わたしたちがいない間、ずっとなにかクロクロに愚痴をしていたらしい。
「ミレイせんぱいのようになれると……それはまずいですよね」
「ミレイのように……は、ちょっとまずいわよね」
「あれはなんていうか愛情の兇器」
ミレイの兇器はともかく、もっと愚痴らしいことを言ったほうがいいのかもしれない。
「今度スズネに聴いてもらおうかしら」
「わたしのは、あんまし参考には……」
「でも、マトモに話しできそうなのは、黒鉄か、スズネでしょ」
「それは、そうなのかもしれないですけど」
ヒイロは魅了だし、アマツキは天使過ぎるし。
スズネと少しの間、恋のようなただの相談のようなことを話していた。
みんなが集まってきたため、中断になったけれど、スズネはまた話しましょうね、と言ってくれた。
スズネは、本当に変わってきたと想う。
「そちらは、なにか聞けた」
「ううん」
「そっか。ヒイロたちもそんなにはなかったらしい」
休憩できそうなのが、なにかあるかと、探してみると、山のもう少し下った場所で湖がいくつか点在していた。
湖のそばで、建物がある。
なかに入っていくと、観光施設らしい。
入って真ん中辺りに、案内所があるためそこでも聞いてみる。
「妖精? う〜ん、キレイな自然現象とか、景色の話しはいくらでもあるんだけどね」
「そうですか」
とりあえず、周りの観光場所を紹介してもらえた。
「なかなかいい情報ってないですね」
「この先、また少し街が少ないらしいの。点々と小さい建物がいくつかあって、その先しばらくは、道沿いに進むんだって」
「そうですか」
ヒイロとアマツキは、もういない。
たぶんここの観光施設もなかを一周してくるのだろう。
「もう少し先にいけるかしら」
「アマツキとヒイロは平気?」
「平気なんじゃないですか。走りまわってる」
「さっきまで疲れた顔してたのに」
ここのなかもみたあと、黒鉄とも相談して、先に進むことにした。
山を越え谷を越え、街も通り過ぎ湖もみた。
いくつかの街並みを通り過ぎつつ、アマツキは、何度も魔力の方向を目指して教えてくれる。
「そろそろ休む?」
「うん……もう少し」
スズネとわたしが、降りた先、なんとなくなにか違う気がした。
「なにか違います」
「なんだろ」
「なんでしょ」
なんだろうか。
考えていて、同じタイミングでわかる。
「香り」
降りた瞬間香りがしたのだ。
でも、メディやミレイはわからないようだ。
「わかった?」
「いや、よくわからない」
ヒイロもよくわからないみたいだ。
普段から気を使っているミレイがよくわからないのだから、少し疑ってしまうけれど、アマツキは、わかるらしい。
「香りするの?」
「すると想う」
わたしとスズネ、アマツキがさっき触っていた香りに近いのかもしれない。
「でも、どこからするのかしら?」
「キレイな豊かでふんわりした……」
「果物? 食べもの?」
「それなら、メディせんぱいたちもわかりますよね」
「えぇわからない」
食べものとは、言っていない。
「……妖精の香り?」
「そんなのあるのかしら」
アマツキがさっき包んでいたものを取り出す。
やっぱりそうらしい。
「これに似ているよ」
「花?」
「わからない」
とにかくまた近づいたらしい。
スズネとわたしで、どの辺りからくるのか、辿ってみる。
ふんわりしたような、甘いような。
「甘い」
「柔らかい」
「ふわふわ」
「……それいったいなんの話しなの?」
ミレイが鋭くいってくる。
「香りなんです……」
スズネがふらふらとどこかにいく。
わたしもどこからか、上手くいえない。
けれど、どこか風にのってくるような感じでわたしもふらふらといく。
「ちょっと、どこまでいくのよ」
そんな声を聴きつつ、わたしとスズネは進んでいく。
洞窟と湖と、それに、なにもなさそうな砂浜のような場所にいく。
「どこでしょうか」
「洞窟? 湖?」
わたしとスズネでくるくるすると、アマツキが上から追いつく。
「砂浜……?」
アマツキが降りてから、指差すのは砂浜だ。
「砂浜」
「そうね」
わたしとスズネ、アマツキで砂を呆然とみつめる。
「砂」
「浜」
「ですね」
もう一度確認してしまう。
いや、何度でも確認してしまう。
砂だ。
ここに香りといっても、やはり砂だ。
けれど、どうしてか、アマツキはそこから香りがしてくるという。
羽をパタつかせながら、アマツキが一歩ずつ砂に入っていく。
はじめサクサクしていたかと思うと、なにか足取りが違う。
「アマツキ、そのまま進む?」
「砂だけど草」
「草?」
だんだんといってしまうため、同じように歩く。
「草……」
歩いてみると、景色が変化する。
砂浜かと思っていた景色が、細い草の道になっている。
どんどんと先に続く。
慌ててほかのみんなも後ろからついてくる。
はじめ細い道が少しずつ太めになり、歩いていくとそれが分かれ道になった。
「どうしましょうか」
アマツキに追いついたスズネが、アマツキの表情をみながら話す。
「二つ」
「どちらかしら」
アマツキの魔力でも、そんなに細かくはわからないらしい。
「チームでわかれる?」
「ううん。それはやめておいたほうがいい気がするよ」
まだ砂浜のなか、途中の草の分かれ道だけど、アマツキが悩んでいる。
「香りする?」
「左、かな」
「いくしかない……よね」
アマツキが進む。
アマツキがため息をしている。
それもそうだ。
少し進むと今度は三つだ。
「三つ」
草の道は、どんどんと拡大し、眼の前が緑になっていく。
「四つ」
草原だ。
「五つ」
香りがする。
「六つ」
景色と一緒に、分かれ道は増える。
「七つ」
ルルファイスが言っていたことを思いだす。
「八つ」
妖精はきまぐれだ。
「九つ」
そして、妖精はとても不思議らしい。
「十」
いつしか、わたしたちの眼の前はとても広い草原のなかで、複雑な色の花であふれている。
そして、いま十字路の真ん中にいる。
「ここから、どうしたらいいのかな……」
緑の道は、淡い光の道になり、その真ん中で、とうとう方向がわからなくなってしまった。
けれど、きっとこれでよかったのだとわかった。
「いい香り」
妖精の花は、とてもいい香りがする。