天使にあるもの
ネネがアヤネに手紙を書いてくれたらしい。
ぼくも今度教わってアヤネに書こう。
魔力ダウンは、一日で治まった。
朝にはまだダルかったけれど、お昼近くにはもう通常と同じくらいだ。
昨夜は、ネネとミレイがでかけて、魔力の花の一部をみつけてきてくれた。
やっぱり方向はあっているらしい。
ぼくが休んでいる間、ヒイロはここの町を探検してきて、いくつか報告してくれた。
ネネやメディは仕事をしていたらしい。
スズネはぼくが回復するまで、しばらくは側にいてくれて、何度か離れてもすぐに戻ってきた。
なんだか、最近スズネは過保護だ。
間でなにか連絡がくるらしく、そのあと戻ってくるときは、あまりいい表情ではない。
素直にいって、スズネになにがあるのか、気になってしまう。
「アマツキはもう動けそうですか?」
「うん! でも、また一日がんばって」
「それですよ。一日がんばり過ぎるからですよ」
「えぇ〜」
「探索するにしても、魔力を消費おさえて、できれば回数も自身で決めてかないと」
「スズネは、じゃ回数制限とかあるの」
「うん、まぁそこそこ」
回数とかあるのか。
「魔力の消費も考えないといけないんだね」
「まぁそこそこ」
消費もけっこうあるらしい。
「とにかくがんばる」
「一日あんまりがんばり過ぎないでくださいね」
「はぁい」
そうもいっていられない。
妖精の花を探さないと、ヒイロを待たせてしまう。
ヒイロがそれを気にしていないことはわかってる。
この旅で、そのあとヒイロと一緒にいられるかわからない。
それでも、少しずつ成長したい。
「せんぱいたちの準備ができてから、山越えて先にいきますからね」
「うん! 魔力もけっこう回復してきたし、張り切っていくようにするよ」
「……アマツキ話ししっかり聴いてましたか」
「え、うん!」
スズネが少しあきれているけれど、回復したのだから、平気だろう。
ヒイロが駆けてきたらしく、足音がする。
この宿泊施設は、そんなに広くはないし、もうおおかたの場所は、調べつくしただろう。
「アマツキ」
「おかえり」
「元気になってきたね!」
「朝ともうそんなに変わらないよ。元気」
「スズネ、ほかのみんなは?」
「まだ準備してますね」
「スズネはいいの?」
「昨夜のうちにできそうなことはしてました」
「なんだ。スズネが一番しっかりしてるね!」
「そうですかね。ヒイロは準備はいいんですか」
「走りまわるのが準備かな」
「準備?」
「つまりは、アマツキが寝てる間にもうだいたいできた」
「えらいですね」
「魅了すれば、もっと早く治ったかも」
「それは、あまりえらくないです」
「スズネも一回魅了しておく?」
「なにその、栄養剤いっておく? みたいなノリ」
「スズネは魅了されたらどんな気分か……」
「わたしはたぶん効かないやつです」
「ええ! そんなこと」
「ネネからのアイテムもあるし」
「なにそれ」
「これからもらうの。いいでしょ」
「え、いいなぁ」
スズネは、魅了がきかない体質らしい。
そういえば、天使もほぼ耐性があるときいたのだけど、本当だろうか。
「ヒイロもあまり魅了し過ぎると倒れますよ」
「平気。魔力これでたくさんあるのよ」
ヒイロは、そういえばいまのところ、魔力ダウンしたところをみたことがない。
単純に、魅了禁止ばかりされているからなのかもしれない。
ヒイロが、ここの施設の説明をまたしてくれる。
その話しを聴いているうちに、ミレイがきて、メディがきた。
「だいぶ元気になったね」
「もう平気」
「一日無理し過ぎないようにね」
「ミレイもね」
なんだか、心配してくれるのはいいけれど、やはりまだ頼りなくみえてしまうのだろうか。
もっと鍛えなくてはいけない。
天使は見た目重視と聴いたし、筋肉もつけようか。
「あ、ネネ」
「向こうの部屋は、片付けたわ」
「メディのところは?」
「あぁ、書類がもう少し」
「じゃ片付けてきて」
「はい」
「さ、メディのがおわるまでには、この部屋もでられるようにするわ」
ネネが掛け声をかけて、それぞれ動きだす。
ぼくもなにかしようとするも、ほぼ休んでいたため、手元にあるバックやノートなどを確認していると、それでだいたい終わってしまう。
四悪魔も揃うと、することがない。
「ちょっと、メディの部屋いってくるね」
自分の荷物だけわかるようにして、それからでる。
そういえば、ここの施設はあまり探検できなかった。
ヒイロから話しは、よく聴いた。
「メディ! いる?」
「どうぞ」
部屋に入ると、カバンや書類や黒鉄が散らばっている。
いや、黒鉄は散らばってはいないか。
「黒鉄はどうしたの?」
「あ、手持ちの束を数えだした辺りで、投げやりになってる」
「つかれてるね」
「アマツキ……今度……手伝って……」
「うん。ぼくでよければ」
天使が手伝っていいものかわからないけれど、返事はする。
「さっきまでは、ミレイも確認してたんだけど、あ、ちょっとっていってアマツキの場所にいったね」
「手伝いつかれたんだね」
たしかに、どうしてこうなったという風景だ。
「アマツキは、じゃ机のところに物集めてもらって」
「わかった」
黒鉄は、ほうっておいていいのだろうか。
とりあえず側にいってなでると、クロクロしている。
「アマツキ使い鳥は、タイセツにしてね」
「うん……契約したらそうするね」
紙の束やよくわからないものは、みんな机に並べていく。
メディは、またなにか目を通している。
あれは、進まない。
仕方なく移して、積んで、少し並べかえた。
一日だから、ホコリはそんなにないけれど、掃除をしてみる。
メディの周りだけ、片付けられない。
「えらくなるのも大変だね」
「アマツキは、いい秘書になるかも」
「メディの側にいると、みんなこうなるよ……」
軽く絶望を覚える。
仕事中毒だから、とよく聴いてはいたけど、一度はじめるとメディは集中するタイプらしい。
でも、もうでかけるはずなんだけどな。
「天使たちとの……」
「あのメディ、そろそろでかけるんだよね」
「あぁ」
あぁではないと思うんだけど。
普段からメディと話しているときには、しっかり者悪魔で、ミレイも頼りにしている感じかと思っていたのだけど、なにか没頭していると、ぼーっと考えている。
メディ、メディと呼びかける。
仕方なく、さわっていいかもわからないけれど、まだいくつか残る足元の束やなんだかよくわからないメモを集めていく。
天使。
スキル。
禁書。
悪魔の調査。
聞き取り。
「え……と……」
魔力の集中。
結晶の欠片。
過去。
「これ読まないほうがいいやつだよね」
メディがようやく気づく。
「あ、アマツキはあまり見ないほうがいいかも」
「そうだよね」
裏返してから集めていく。
「ミレイにはナイショに」
「怒られるようなことなの?」
「怒りはしないんだけど、そんなに管理あまくてどうするの、とか言われたことはある」
メディって仕事できるんだよね。
思わず聴きたくなって聴いてしまう。
「集中すると、なにもみえないタイプ?」
「うん……そうなるかな、いや違うかも」
「どっちなんだろ」
「階級上がると、みんなこうなるかも」
「なにそれ。上にいくとなにか待ってるの」
「アヤネの話しは、少し聴いたかい?」
アヤネの話し。
天使での仕事の話しは、あまりしなかった。
特にヒイロやアヤネにまだ助けられてばかりだったから、そんなに多くは聴けなかったともいえる。
「天使の仕事だよね」
「アヤネは、えらくなることでできないことのほうが、いやだったんだよ」
「天使にもできないことあるの?」
「たとえば、こうしてアマツキがいま悪魔界にいるように、上手に立ち回れないときもあるよ」
「……メディもなの?」
「いや、これは違うけど」
メディが持っている書類は、おわったらしい。
なにかサインしている。
「お水……自分で入れるか」
「いや、ぼくが入れるよ」
なんだか、ふいにメディが話してくれそうなため、作業をとめてお水を入れにいく。
「天使も悪魔も昇進すると、今度はほかのことも気にしなくてはいけないだろう」
「はい、お水」
「ありがとう」
メディがお水を飲みつつ、こちらをみる。
黒鉄は、ぼくがまとめた束を回収している。
「周りを気にしないと、なにもできなくなるの」
「なにもみえてなくて、走れる悪魔もいるけど、そういう後輩は、長くは続かなかったな……」
「メディは、気を使い過ぎなんだよ。アヤもそうなのかも」
「アヤネは、そうだな。そうかもね」
メディは、なにかに集中しているときのほうが、いろんな話しをしてくれる。
変わっている悪魔。
覚えておこう。
「ほら、黒鉄も。いくよ」
メディと黒鉄とカバンを引っ張るようにして、部屋をでた。
ちょうどヒイロの部屋もでられるらしい。
「アマツキの荷物」
「はい」
慌てて荷物を持つと、ヒイロが部屋にあいさつしている。
ぼくも同じように、部屋にあいさつしてからでる。
宿泊施設をでると、ネネたちは昨夜の話しをしている。
ぼくは魔力に集中して、前回の魔力の続きを追いかける。
ノートと布を抱えて集中すると、やはり山の向こうに続いているようだ。
ネネたちの花びらの魔力も同じだとわかる。
スズネが隣にくる。
「アマツキ、それカバーにでもしましょうか」
「この魔力布?」
「カバーじゃなくても、なにか別のに」
「そっか。ノートと一緒に使うのでもいいのか」
「グローブ? しおり? なんだろ」
「ありがとう、スズネ」
「考えてね」
メディやミレイの黒鉄は、もういないため、また伝達などで飛びまわるらしい。
山の上空遠くに、黒鉄鳥の群れがいる。
山の上にでても、まだ山は続いていて、
町があるわけじゃなかったらしい。
だいぶ上にきたあと、少しだけ降りられる場所を探しておりたけれど、すぐにまた上に羽を拡げる。
「ここの山高いし、先がけっこうある」
「飛ぶときに、体力平気って」
「うん、そういうことだね」
ヒイロが山の間に出て、流れる河を下にみる。
「ここから落ちたらって考えると」
「しぬとおもうよ」
「高いね」
「あまり考えないことだね」
ふらふらヒイロが飛ぶため、少し心配になる。
「ヒイロふらふらしてますね」
「荷物重い?」
「景色みてる」
「まだ先あるから」
ネネやミレイが、そう言う意味がだんだんとわかった。
「まだ続いてるよ」
「そうね」
「先あるね」
「そうね」
これもしかして、なんだけど。
「これすごい高い山なの?」
「三角地帯って呼ばれてるわ」
「三角?」
「高い山が三つあって、さらに小さい山が密集していて、かなり先まであるわ」
「あ、悪魔倒れてる」
「そうね」
「助けにいかないの?」
「黒鉄集まってるでしょ」
「……うん」
「倒れてるのは、ここの山を越えられなかったのね。悪魔救助呼ばれてるから、そのうち悪魔が飛んでくるわ」
「そのうち?」
「死んでなければね」
「こわい」
でも、異界送りがあるのだから、死んでいても悪魔はくるのかもしれない。
いや、天使がくるのかな。
「まだ……だよね」
「ヒイロ休もうか?」
「いいえ、平気。でも、こんなに長時間飛ぶのは、はじめて」
「アマツキは、まだ飛べそう」
「いける」
眺めをみつつも、ここまで飛ぶのだとは思わなかった。
たしかに、魔力切れの状態で三角地帯越えはできなかっただろう。
「スズネのクロクロは、ついてくるんだね」
「あ、そうなんですよ。ほかの黒鉄と連絡は取り合ってるみたいですよ」
「そっか」
「アマツキの代理鳥だから、連絡もきますよ」
「ぼくの連絡は、特にないんじゃ」
「そんなこと、ないかも」
そのまま、しばらく上空にいて、山をふたつ越えたところで、一度広いところに降りた。
でも、少し休憩してすぐにまた飛ぶ。
以前魔列車が大変といってたけれど、自身の羽を使って魔力を調節しながら、ずっと上空を維持するのも疲れるものだ、
超長距離になるなら、魔列車に魔力を吸収されながらの旅も、悪くないのかもしれないと思う。
ようやく三つめの山を越えると、少しずつも下りになり、川沿いに進むと小さい谷の町もみえる。
「次の場所ってあとどれくらいなの?」
隣のスズネに聴いてみる。
「もう少し先で降りる広い街ができていますよ」
黒鉄やほかの悪魔と何回もすれ違ったあと、街に降りると、はじめの元気はもうそんなになかった。
今度は魔力切れよりも、羽を使って飛び続けた疲労だ。
降りてすぐ、ネネやミレイたちが羽つくろいをしている。
真似してぼくもする。
ヒイロがこちらをみる。
「なに」
「わたしにもさせて」
羽つくろいのことらしい。
天使の羽根を少しずつ、触ってもらう。
「また休む?」
「それより、飛ぶ前よりは、花の魔力が強くなってる」
「そう!
やった」
ぼくのスキルが、役に立っているのは嬉しい。
でも、これは実際の天使スキルの使いかたとは、少し違うみたいだ。
少しずつだけど、スキルの契約のときの意図がわかってきた気がする。
「クロクロいい?」
「なんだい、アマツキ」
少しスキルについてたずねてみる。
誓約のためにヒイロには、聴こえていなくても、クロクロにはわかるらしい。
「……天使スキルもっとできるかな」
「焦ることじゃない。悪魔百年」
「天使半分にならない?」
「半分の使いかたで半分かも」
「……クロクロ、あれなに?」
街の悪魔などでにぎわうなか、薄い青の反射がみえる。
ヒイロから離れて拾いにいくと、なにかの一部らしい。
布だか羽根だかわからないけれど、キレイな薄い青で、拾い上げるとヒイロの持っているノートが反応している。
「ヒイロ」
「え、なに」
ふと香りがする。
このなにかの欠片からするらしい。
「ノートになにか書いてなかった」
「ちょっと待ってね」
ヒイロが手をとめて、こちらにくる。
香りの成分。
「特長が書いてあるわ」
たぶんだけど、この欠片からしてくる香りとよく似た成分なのだろう。
そんな気がする。