未来夜の瞬き
ミレイの探しものはなんだろう。
ヒイロやアマツキの探しているものと、ミレイがたずねていたものは、実は違っているらしい。
たしかに、花を探しているはずなのだけど、ミレイはまた違う見方なのだろうか。
「ミレイは、どこにいくつもりなの」
「ま、ちょっとね」
「ふ〜ん」
何度か夜になってから、歩きつつ話すのだけど、まるで話しの先がみえてこない。
これは、ミレイにしてはめずらしい。
いつもなら、決まってるでしょとか、これがあるからとはっきりしているのだ。
「メディとスズネ置いてきちゃったけどよかったかしら」
「スズネは、アマツキの面倒みたいらしいし、メディはまた黒鉄と連絡とってて、すぐにいないから」
わたしもできれば、メディの近くにいたかったけれど、ミレイが探しものがあるなら、せめて二悪魔のほうがいいはずだ。
山の上に向かうらしいのだけど、飛ぶのではなくて歩きだ。
「疲れた?」
「ううん。でも、上からみてこようか」
「たぶん平気じゃない」
やはり目的はあるらしい。
ついこうしてミレイと歩くと、思い出すのは、小さい頃だ。
ミレイも背は小さかったけれど、わたしのあとを追いかけてくるのは、しょっちゅうだった。
まだ装備のトロピカルガンも魔改の途中であり、安定していなかった。
そのときは、わたしが先頭になり、アイテムや魔結晶を探していたのだ。
魔結晶は、そこの場所の魔力を吸収して育つため、川なら水、山なら土、空気に近ければ風と魔力の比重が違う。
それでも危険はあっても思い出すのは、ミレイがくるおかげで手間も省けるし、わたしがミレイを見捨てるか、と想うことはあっても、わたしをミレイが見捨てることは絶対になかったため、クイーンはそこは安心していたらしい。
「懐かしいわ」
「山? それとも花」
「違う。ミレイと歩くことよ」
「昼間は、みんなといるわ」
「違う。こうして冒険みたいなことよ」
ミレイが、割とのんびりいくものだから、
わたしものんびりした気で話す。
「ネネとはよく魔結晶探したわね」
「そう。ときどきミレイがやけに難しい場所でみつけるから、登るのに苦労したり、水のなかに入ってみたりね」
「壊せばいいのにって思うのだけど」
「そのたびに周り破壊するんじゃ迷惑よ」
そういいつつ、ミレイは笑っているため、冗談のようなものだろう。
スズネとは、対称的にミレイはよく笑うようになった。
それはいいのだけど、なぜか前と違うように感じている。
メディもミレイも、変わっていくのだ。
「ネネはなにか探しているの?」
「ううん。ついてきただけ」
ミレイは、山の頂上を目指しているわけでは、なさそうだ。
それなら、飛べば早いのだ。
でも、なにか見つけたいなら昼間のほうがいい気もする。
「アマツキは熱心だけど、やっぱり天使よね」
「そう思うよね」
「助けたいから、助けるとか、ヒイロに頼りきりになるよりは、覚えるとか、そういうの悪魔とは違うわ」
「でも、いてくれると嬉しい」
「そうね」
「ねえ、昼間のほうが見つけやすくない」
ちらっとこちらをみるも、また前に向きそのまま歩いている。
「メディの光にも欠点あるのとかわかる?」
「メディの話し。光にあるのは、やっぱり強い魔力が必要とか、調節が難しいとか」
「惜しいわ。もう少し」
「う〜ん、それじゃ明るさ」
「まぁそれね」
言いたいことはわかってきた。
「それで夜ね」
周りをみると、暗いものの空からの明るさで、そこまでは濃くない。
それでも足元や頭の側には気をつけないと、ぶつけてしまう。
だいぶ進んだかとは思うけれど、まだ先にいくらしい。
わたしが足をとめる。
「休む?」
「ううん。でも、そういえばここまで歩くのも久しぶりかも」
「羽があると飛ぶから」
「空からの景色わたしは好きよ」
「でも、もう少しね」
少し進むと、少し木が開けてきた。
先の上の部分をみると、明るい部分もみえる。
汗ばむくらいの頃に、木が少なくなり広場のようになる部分についた。
ここらしい。
「ここになにがあるの?」
「ネネはあまりイベント時期に、眺めたことはないのね」
なんとなく小さい頃、みた記憶にたどりつく。
「そっか……もしかして」
「この時期なのよ」
広場のようになる部分で、ミレイが適当に腰かけるため、同じようにわたしも座る。
しばらくは観えていなかったけれど、眼が慣れてきた頃、淡く光るものが観えてくる。
「魔力夜景だわ!」
山の高い部分にいるために、地表ふきんから淡く立ち上る魔力の浮きがよくみえる。
「魔力反射とも反魔力とも、魔界トビラの路ともいわれたりするわね」
しばらく見入ってしまう。
「これアマツキにもみせたかったな」
「魔力ダウンしてるからね」
原因はよくわかっていないらしい。
開戦から何年というイベントの起こる時期になると、地表ふきんから魔力が上に上にと浮き上がり、天空にそれが散ってゆくのだという。
「浮き上がった魔力は、異界にいくのかしら」
「ファルティに聴いてみるのもいいかもね」
いつも寝てばかりいるドラゴンの姿を想い出してみる。
悪魔界にいると忘れてしまいそうになるけれど、ヒトも妖精も天使も回収されて最期は魔力として、異界にいく。
それぞれに違う異界の見張りであるドラゴンに、遺った総てを渡して次を待つ。
そうして総てのものが、また転生られる。
「最近逢ってないわ」
「わたしも」
ミレイがくすくす笑っている。
わたしが忘れていたのに、ミレイが覚えていたのだから、ミレイは何度もこの季節に観ているのだろう。
「ありがとう。ついてきてよかったわ」
「あら、これなにかしら」
ミレイが足元をみるため、わたしもみる。
魔力に反応して、青い花の花びらがいくつか落ちている。
「これ妖精のかな」
「でも、花びらだけよ」
ほかに周りをみても、山にある花はいくつもみつけられても、この花は見当たらない。
「持ってかえりましょ」
「持ち歩いているとか?」
「それか、ここの景色をみにきていたとかかしら」
まだ魔力夜景は、続いている。
どちらにせよ、発見できてよかった。
上手く探して歩けば、もっとみつかるのかもしれない。
今度は、わたしが先頭に歩いていく。
「ヒイロやアマツキに言ったら喜ばれるかしら」
「ついていくっていう話しになったんじゃない」
「……それもそうかも」
山から戻る道は、案外らくそうだ。
魔力夜景の灯りがあるし、さきほどよりもここの辺りの景色にも慣れてきた。
妖精たちも高い場所に魔力夜景を観にきたりするのかもしれない。
これではルルファイスが苦労するわけだ。
ルルファイスは、花の妖精をみつけるのに数年かかっていたらしい。
ルルファイスの手記は、だいぶ長いものだった。
わたしたちはたどるだけだから、まだみつけやすい、はずだ。
「足元気をつけて」
「帰りは飛んでいく?」
「……ううん。少しゆっくりいきましょ。まだもう少しだけど景色を観ていたいわ」
ミレイがゆっくりできるのは、いいことだ。
最近ミレイもいそがしくしていたし、図書館でも、地下室でもしばらく、活躍していた。
ときどき、ふと山のなかにも魔力の浮きがみえる。
土の魔力は、地面の近くがおおいため、重いらしいのだけど、それでも魔力が浮いてくるのだから、不思議だ。
だいぶ下ってきた。
「つかれたでしょ」
「平気よ。返ってここの景色ならメディにもみせたかったわね」
「うん」
メディと観たい景色は、いくらでもある。
だけど、この景色は特別だと思わせるくらいには、魅力的だ。
下りてきて宿泊施設に戻ると、ここからは魔力夜景はみられない。
「スズネ、アマツキは起きてる?」
「起きてますよ。少しは回復してきました」
「悪いわね」
「……どこかいってきたんですか?」
「夜景みてきたの」
「え、いいなぁ」
「そうよね」
「メディせんぱいは?」
「メディはいないの」
「黒鉄が飛びまわっていたから、せんぱいかと思った」
また仕事を集めてきたのだろうか。
そういえば、部屋に置かれた仕事の資料は、完全に無視してしまった。
夜中にかけてやろう。
「ヒイロも今度みにいきましょう」
「アマツキが回復して元気なときにね」
「今夜はちょうどよかったのよ。イベントまでもう少しあるから、また観られるかも」
「ミレイって不思議ね」
「えっそう?」
「未来に頼るのではなくて、なんか漂う感じ」
「いま観られるものは、いまだもの」
「じゃ未来のは?」
「未来にかけてみられたら、それはいまよ」
「……一緒にいきたかったかも」
「ヒイロ今度ね」
わたしがアマツキの隣にいる、ヒイロのところにいき、少しなでてあげる。
「次はみんなで」
「わかったわ」
そう言いつつ、ミレイはまた未来を視ているのだろう。
「あ、メディ」
「どこにいってたの?」
「魔力夜景をみてたわ」
「……そっか。もう時期なんだね」
「それはなんですか」
「あ、あぁ山でみつけたの」
「分けてもらってもいいですか?」
「ええ」
スズネに渡すと、メディとスズネがさっそくビンや布を取り出して作業している。
「スズネもメディも覚えたの?」
「シスターに教わったよ」
持ち帰った花びらを少しは加工して、残りはビンに分けた。
「アマツキのおかげよ」
「もう少しですね」
「ルルファイスの手記よりは、かなり短いわ」
ミレイが、近くの椅子に座る。
みんなこの部屋に集まってしまった。
アマツキがまだ、くらくらするというので、その場でさきほど観てきた山と夜景の様子を話している。
ミレイが話すと、わたしが話すよりずっと詳細に景色がわかるようだ。
おそらく、ミレイは話すためにもじっくりみてきたのだろう。
「ミレイ今度、もっと話し聴かせてよ」
「ネネのお話しなら、たくさんあるわよ」
「それもいいけど、ミレイの話しは?」
「わたしのは……少し困る部分もあるわね。ふぅ、飲みものもらってくるわね」
ミレイが近くの売店に向かうようだ。
「ミレイの眼って、ときどきなんであんなに深く沈むような感じなんだろう」
「未来視って、選ぶことなんだってミレイは言ってたわ」
「未来?」
「視てきた総てをミレイはいまも選んでるの」