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唯一のアマツキ誓約

 ヒイロに散々なじられたあと、少しだけ収まってきたヒイロの怒りのような寂しさのようなものを聴いていく。

 説明だと数時間経っていて、いまは真夜中らしい。


「でも、扉のところにいた記憶もその前の実験の記憶も薄いんだよね」


 天使スキルを得たという確信はあるのに、その前後の記憶がとんでいるらしい。


「ネネがいうには、転生ショックのように、スキルの契約ショックなんじゃないかって」

「……みんなは?」

「夜中よ。ミレイもネネもあまり心配していなくて、子どもたちと話したあとは、シスターに案内されて地上の施設で寝てるわ」

「ヒイロはずっとここに」

「なによ。ずっといちゃいけない?」


 少し怒り気味にそう言う。


「いや、いてくれてありがとう」

「え、そんな」

「でも、本当に覚えていないんだよね」


 気になって、天使ノートを探すと、ベットの側にある机の上で、淡く光って浮いてる。


「ノート……」

「浮いてる」

「さっきは、開いてなかったわ」


 まだ頭がボーッとしているぼくとは違い、ヒイロはベットから降りて、机に近づく。


「なにか」

「文字が書いてあるわ」


 触ってもいいかはわからないため、ヒイロが覗いている。


「契約書かな」

「文字読めないわ」


 天使語なのだろう。


「翻訳とかできないの?」

「忘れたの? 黒鉄鳥が翻訳していたのよ」


 そうらしい。

 たぶんぼくが触るのを待っているのだろう。

 そんな気がする。


「ちょっと……待って」


 まだなにか頭がすっきりしないけれど、ベットの縁に手をかけて降りる。

 ヒイロが戻ると、手をだしてくれるため、その手をつかむ。


「立てるの」

「たぶん」


 ずっと寝てたからではなくて、魔力疲労なのだろう。

 たしかミレイが、魔力ダウンで寝込んでいたときにも、そんな感じだった。

 ふらつくと、ヒイロに寄りかかるようになる。


「アマツキ甘えてるの?」

「違うよ。疲労」

「ふふ、甘えてみてよ」

「いやだよ」


 ヒイロは前よりも打ち解けて、素直に言うようになった。

 いや慣れ過ぎて、悪魔っぽくどんどん強気になっていく。

 これ平気なのかな。


 ヒイロに支えてもらいながら、机に近づく。

 天使ノートは、淡く光った状態のそのままだ。

 前後の記憶がいまはないため、どうすればいいか迷うも、手を伸ばす。


「ぼくのノートだよね」

「そうよ」


 右手でそれに触れると、契約書を読むよう言われている気がする。

 まだ浮いているため、持つ力は要らない。

 契約書と思い浮かべるも、なぜ契約したのかから、始めたい。


 それくらい、なんだか薄ぼんやりとしている。


「……とびら」

「扉?」


 ヒイロがここの部屋のをみる。


「ううん。スキルのときの扉。上手くいえないけれど、そこで契約をしたんだよね」


 ヒイロが首を傾ける。


「そうなの」

「そうなのって、ヒイロは契約してないの?」

「わたしは、ルルファイスに拾われる前の記憶は、ほとんどないから」


 そうだった。

 中央図書館で覚えたものは、そのほとんどを吸収していったヒイロは、スキルの始まりや自身がどこにいたのかをまるで覚えていないらしい。


「じゃヒイロも初めてだね」

「記憶がある限りのなかでは、初めてね」


 ノートの開いている部分を読むと、契約鳥が、代理鳥スズネの黒鉄になっている。

 そのほか細かくどう使うのか、どういったことで魔力が消費されるのかのあとに、ぼくの名前がサインしてある。


「アマツキのだね」

「サインあるからね」


 読み終わったあと、どうしようかと想い、スキルの名前をみる。

 そうか。

 たしかに、こういった名前をつけた気がする。


 閉じようと両手で持ち直すと、自然とページがめくれている。


「次のだわ」


 隣でヒイロがのぞく。

 今度のは、スキルの話しではなかった。


 天使の誓約とある。


 そのほかに、代理天使のアヤネの名前もある。


「天使って……大変らしい」

「え、なんて書いてあるの?」


 一瞬口に出そうとするも、言葉はでてこなかった。


「…………みたい」

「えっなに」

「……うん。……とかきみに話せないや」

「どういうこと?」


 誓約とはそういうことらしい。

 そういえば、アヤネも言葉を選ぶ時間が長かった。


「せい……やくって、誓いと制限らしいよ」

「よくわからないんだけど」

「口に出せない……できごとみたいな禁書みたいなことがあって、それについては翻訳も書くのも禁止だって」

「禁書よね! わかった」

「それでわかる?」

「禁書って、決まりごとの説明のほうが長いのよ?」

「そうなんだ」


 ヒイロは中央図書館で長かったから、制限には慣れているらしい。

 よく死なないで、生きてる。


「ほかは? なんて、書いてあるの」

「ほかのは……」


 空中に浮いているノートの文章を読み進めてみる。

 誓約以外に、解除するときは代理天使のアヤネに、サインをもらうこと。


「あとは、使い鳥を早めに契約してほしいことと、第二スキルなど契約を増やすときには、また儀式をすること、その儀式の短縮方法とか……かな」

「アマツキスキルは、なにしたの」


 当然聴いてくるも、詳しく言えないらしい。

 そもそも書いてある内容は、わかっても、覚えた実感がないのだ。

 使えるということだけ、なぜかわかる。

 これが契約なのかと、納得する。


「使えるとは想う。でも、上手くできないかも」

「上手くできないのは平気よ」

「そうかな」


 ヒイロが隣でにこりとする。


「アマツキは、もっとアマツキを信じて」

「あまり信じられないよ」

「じゃわたしを信じることね」


 それなら、できるかもしれない。


「わかった」


 右手でノートのサインに触れると、フッと力がぬけるような感覚があったかと思うと、そのあとノートが落ちそうになった。


「あわ」


 ヒイロがキャッチしてくれる。

 これで契約書の内容は終わりのようだ。

 ぼくの力もなんだか抜けてしまい、スルッとヒイロの手から離れてその場でへたり込む。


「……ひどく身体が重いよ」

「契約……疲労?」

「ショックとか疲労とか、天使って大変だ」

「それなら悪魔になる?」


 しゃがみこんだぼくの眼をみてそう言う。


「悪魔になるのは、ぼくがなにも手に入れられなかったらだね」

「そうね……そういう話しもあったわ」


 ふふふと笑っている。



 またヒイロが寝かせてくれる。

 少し前のミレイの気持ちがよくわかってしまう。


「みんな呼んでくる」

「まだ寝てる時間でしょ」

「あ、そうだわ」

「少しここにいてもらってもいい」

「ええ、いるわ」


 ベッドの横に座ってくれる。

 ヒイロも疲れたらしい。

 横に座ると、吐息をしている。


「少し熱あるの?」


 触れている付近が熱いように気がする。


「そうなのかしら……」


 手を触れてみると、たしかに熱っぽい。


「昨日から、ハシャいでて寝てないんでしょ」

「……それもある」


 いつも不思議に思う。

 一天使のときには、寝ようとしても眠りは浅く、かといってどこにいけばよいかも、わからなかったため、動く時間すらバラバラだった。


 でも、いまはよく寝られる。

 寝られるから、それがぼくのひと息できる場所なのだろう。

 それが体調もよくしてくれる。


「少し寝なよ。ぼくも疲労感あるし、たぶん寝ると思うよ」

「じゃ、ここで寝るね」

「……いいけど、今度のはただ寝るだけだから、変なことしないでね」

「起こしちゃいけないの?」

「ゆっくり寝かせて」

「あぁそういうことね。おやすみアマツキ」


 ヒイロは、本当にその場で丸くなる。

 この悪魔はかなり気まぐれだ。

 でも、熱っぽいらしいから、ちゃんと休んだほうがいい。


 これでようやく、花の妖精の手がかりがわかるだろう。


 ヒイロに話しかけられるまで、一応寝ていたらしいけれど、やはり重く疲労感があり、隣のヒイロをみつめながら、眠る。





 朝はひどい目覚めだった。

 カーテンを引いてあるはずの窓から、日差しでも入ってきているのか、身体が熱い気がして、汗もかいているみたいだ。


 厚い毛布でもかかっているかな、と横をみるとまだヒイロがいた。

 熱源はヒイロだった。

 側にいるだけで、どことなく火照る感じがして、ヒイロの頭に触れると、熱がでている。

 まだあまり頭は動かないけれど、だれか呼んだほうがいいと身体を起こす。


 もう廊下では、子どもたちが走りまわっているのか、騒がしい感じだ。


「だれか……」


 みると、ネネが入ってくるところだった。


「アマツキ、ようやく戻ってきたのね」

「ネネ、ヒイロが熱があるみたいなんだ」

「え!」


 ネネが後ろを少し気にしつつ、部屋に入ってくる。


「……どう」

「そうね。熱高いわ。それにひどい汗も」

「昨日夜に話したときには、まだそんなには」

「……そう。昨日の夜に話しできたの」

「深夜」

「夜おそくね。わかった」


 ネネがなんとなく後ろをみるため、ぼくもみると、廊下を子どもたちとシスターが走っていく。


「どうしたの」

「あぁ悪魔子どもたちも、何名か熱だしてるの。たぶんヒイロも接触して感染っちゃたかな」


 騒がしかったのは、遊んでいたわけではなかった。

 シスターは、忙しいようだ。


「まだ起きないみたいなんだ」

「悪魔は、熱だすと魔力も奪われるから、魔力低下もしているのかも」


 夜に話していたときには、そこまでとは気づかなかった。

 動こうとすると、ヒイロがなにかを掴んでいるのか、すぐに動けない。


「あのネネ」

「いいわ。アマツキももう少し休んで。いま呼んでくる」


 ネネが言ってすぐに、ドアに向かい離れていく。

 よくみると、ヒイロがぼくの服の裾を掴んでいる。

 放そうと手を近づけると、さらにギュッとなる。


「動けないな」


 汗をかいてるから、タオルくらいはあって欲しいところだ。

 ヒイロは、熱のせいかまだ寝て起きない。

 それでも服は放してくれない。


 すぐにネネがだれかを連れてきた。

 スズネだ。


「ミレイたちは?」

「あっちも忙しいみたい。とりあえずスズネがなんか持ってるって」

「それは便利そう」

「アマツキ……どうでしょう」


 ヒイロのすぐ近くにきたあと、様子をたずねてくる。


「ぼくは夜中にもう起きられたから。魔力疲労はあるよ。ヒイロが熱」

「うん……アマツキは、魔力回復待ちですね。ヒイロは……」


 スズネがヒイロの様子を近くでみてくれている。

 なにかバックからいろいろ出している。

 少し場所が狭い。


「スズネ場所移動する?」

「うん、ちょっと待ってくださいね」


 先に調べたいらしい。


「この手はずしたい」

「あ、摑まれているのね」


 ネネが外そうとするも、またギュッとなる。


「詳しくは広いところでみますが、疲れと、やっぱりここの子どもたちと似た症状ですよ」

「そっか」


 スズネがバックにものをしまうと、ネネと一緒に、ぼくとヒイロを抱えてくれる。

 ごめんなさい、といった感じだ。


「とりあえず、ミレイたちの場所に移動するね」

「もうすぐ広い場所ですから」


 廊下をまたシスターが忙しいそうに通り過ぎるなか、ネネとスズネに抱えられて移動する。


 天使スキルは、使ってみないとわからない。

 でも、回復のスキルではない。


 第一スキルから、次の第二スキルを選ぶときには、回復か、それに近い補助のを選びたいと夜に戻ってきて、朝もうそんなことを想う。


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