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天使儀式に呪文はなし

 天使アヤネからの手紙により、天使スキルの初期スキルの儀式がわかった。

 黒鉄とメディの翻訳のおかげだ。


 アマツキは、自身の天使ノートの手順をじっくりみている。


 実際は、周りのスズネやシスターが、その儀式を整えてくれそうだ。

 一部足りないアイテムは、いまわたしがクラフトしている。

 スズネがのぞいてきて、ミレイもみにくる。

 ミレイは、わたしのアイテムより手元を気にしている。


「できそう?」

「もう少し」


 なんで、ジッとみるのだろうか。

 違う感じがする。


「ねぇミレイ変な眼でみるのはやめて」

「いつわたしが変なことしたの?」

「いま」

「いまってみてるだけ」

「眼つき」

「眼つきだけでわかるとか、もはやわたしたち眼だけで、会話できるわね。嬉しい」

「じゃ、とりあえずわたしの気持ちよ」

「……わかったわ。えろ……」

「まったく伝わってないわね」

「遠慮なく」

「遠慮じゃなくてね……」


 ミレイはちょっと作業に集中できない要因になる。

 スズネがミレイに話しかけるのは、気をつかってくれているらしい。

 だんだんとスズネが、ミレイのお世話役になってきている。


 メディの秘書のミレイのお世話係なため、結果的にはスズネが、一番しっかりしている。


「せんぱいのスキルいいなぁ」


 スズネからの指輪がキラリと光るのは、ここの地下は照明が暗く、ここのテーブルの周りだけ明るめにしてあるからだ。


「スズネのが謎過ぎるのよ」

「えへへ」


 アマツキのスキルもだけど、本来は使い鳥と契約してからのスキルの付加や補助になる。

 固有スキルを使いこなすには、使い鳥も一緒に契約をみてもらわないといけない。

 アマツキにはいないため仕方ない。


 スズネは、一体クロクロとどんな契約になっているのだろう。


「それで、どんなの造ってるの」

「浄水と花のエキスはできてるけど、探索するには共鳴が必要でしょ」

「そうね」

「さっき浸していた、花の魔力に反応するなにかを造らきゃ」

「水のときのように、道とか見えればいいのに」

「それは、水の妖精たちが目印で魔力付加したんだと思うの」

「水の妖精たちにも会ったんですね?」

「そうです」

「いいなぁ……水の実験材料……いえ、なんでも」


 シスターは、水の魔力ももっと欲しいらしい。

 花の妖精を探すにしても、あとをついて来そうだ。


「とりあえず、アマツキの魔力から目印になりそうなのができればいいかな」


 アマツキをみると、その前にメディが翻訳した天使ノートを読んでいるみたいだ。


「どう? アマツキ」

「やってみないと」

「それは、そうね」


 一応形にはなりそうだ。

 ネックレスやナイフでは、造るのに時間がかかりそうであったため、簡単に作成できるもので準備してみた。

 もし、使い勝手がわるくなったら、また改造してみよう。


「ネネはできたの?」

「はい、これよ」


 それは、ブレスレットだ。

 ブレスレットの真ん中に、石をつける輪をつくり、石は固定するため布で編み込みした。


「可愛い」

「でしょ。なかに魔結晶入れてあるの。小さいやつ」

「わたしも欲しいかも」

「ふふ、ヒイロは今度ね」

「アマツキ……」

「そんな眼でみないでよ」

「わかってるわ」


 アマツキが気に入るより先に、ヒイロの目に止まったらしい。

 ブレスレットの魔結晶は、ほかの魔力がほとんど入っていない、ほぼ魔力空っぽのものだ。


「それと、あとは黒鉄……は」

「外に探しにいったわ」

「そう」

「たぶん子どもたちに絡まれてる」

「そう……なの」

「シスターがいまは、外の時間だって」

「そっか」


 しばらく戻って来ないかもしれない。

 わたしも天使ノートの内容を確認して、アマツキに使い方を教えていると、五分ほどで黒鉄が戻ってきた。

 よれよれだ。


「持って……きた……」


 子どもたちに追いかけられたようだ。


「ありがとう」


 テーブルに材料を並べつつ、アマツキが気合いを入れて、立ち上がる。


「やってみよう!」

「そうね」



 天使儀式、天使初期スキルの時間。


 材料……一覧


 浄水。

 魔結晶たくさん。

 花。

 ブレスレット。

 天使ノート。

 馴染ませた布。

 魔力。

 使い鳥……不明。

 愛……不明。

 精神……鍛え中。

 希望……観測。

 対象……アマツキ。

 白紙……ページ。



「代理はクロクロお願いね」


 スズネが、先に呼んでおいたクロクロを前に出している。


「スズネ……灰鐘になったらどうしよう」

「そんなことあるんですか!?」

「使い鳥契約を複数持つなんて、聴いてなくて鳴く」

「代理だから!」

「使い鳥契約……天使……灰……代替……」


 なんだか、スズネの黒鉄が鬱っぽくなっているけれど、とりあえずはじめましょう。


「呪文とかあるの?」

「ない」

「契約書には」

「サインだけ」

「魔力は」

「充分」

「ブレスレット」

「つけた」

「布は」

「さいご」

「花」


 アマツキが青い花を手にすると、天使ノートに文字が浮かぶ。

 持っていない手の指で、その文字に被せるようにアマツキの名前を書いていく。

 最後まで書いたところで、ノートがふわりと空中に浮かんだ。

 そこに浄水を一滴垂らす。

 水がサインに集まると、サインの描いた順番に色が変わっていく。

 サインの最後の部分まで色が変わると、クロクロが話す。


「天使アマツキの第一固有スキルの名称を決めてください」

「名称……?」

「どんな名前でも、ぴったりと想像したスキルになります」

「名称……名前……か、書くもの」

「ここのノートに直接でいいです」


 " "歪んだ世界よりも優先される唯一の灯り" "


「こちらで本当に契約していいですか」

「はい!!」

「複数アイテムの初期化と異界の扉の管理者名簿にアマツキを登録しました」



 初期化しています……


 初期化しています……


 初期化しています……



「あっ! いい忘れ……!」


 気づくとアマツキが意識を失っている。

 いや、意識は別のところにある。

 契約のときは悪魔も天使も同じだったらしい。


「アマツキもう聴こえていないみたいね」

「少し待ちましょう」

「そうね」

「ねぇアマツキどうしたの?」

「契約の儀式のときにはだれもなかには入れないのよ」

「だれも?」

「ある意味無敵時間っていうのかしら。あとはアマツキが決めることよ」





 ここは、どこだろう。


 気づくとみんないなかった。

 さっきまで教会の地下にいたはずだ。

 でも、意識がふと途切れたあと、眼をあけるともうここの空間にいた。


 いや、空間かどうかも怪しい。


 とりあえず寝てはいるけれど、感触があるような……ないような。

 夢でないことは、たしかみたいだ。

 装備もいつものだし、羽根もしっかりとある。


 いや天使ノートだけない。

 失くしたわけではないだろうから、これからまた元に戻ってくるかもしれない。

 失くすと、クイーンに怒られると聴いたことがある。

 稀にスキルを奪われたり、悪用されて事故になるらしい。

 これは、天使アヤネに会うより前に聴いたことだ。


「一応、起きてみる……かな」


 寝てるのか、座ってるのかもわからないのは、天井もなければ壁もないからだ。

 でも、なんとなく上をみている気がするから、地面はあるのかもしれない。


 起き上がる。


 でも、みても上も前も後ろもなにもない。

 灰色の地面がなんとなくあるのがわかるだけだ。


「歩くのかな。それとも、地面さえないのかな」


 いまは立っているけれど、この先になにもないため、いきなり落ちても、いきなり跳んでも驚かない。


「ここは、なにをするんだろう……」


 起きた瞬間の感想をまた想う。

 スキルの儀式の途中なわけだから、なにかしたほうがいいのだとは思うけれど、天使翻訳した限り、ここの空間だかもよくもわからない場所でなにかすることは、書いていなかった。


 結果なにをすればいいかわからないため、前をみて、後ろをみてまた前を向く。


「そういえば、ブレスレットもしたままだ」


 ネネが渡してくれたブレスレットは、こちらにきたらしい。


「だれもいないんだから、まずは落ち着……」

「あ……ま……つ……き……」


 ビクッとしてしまった。

 声の主はいないのに、ここに声がする。


「だ、だれ!?」

「アマツキで読み方はいいか?」

「うん! だれ?」

「扉の前にいる」

「は、え!?」

「いまは扉の前にいる。悪魔がくることはしょっちゅうだが、天使がここにくることは、久びさだ。紹介は必要ないとは想うのだが、扉の主と呼ばれている」

「扉?」

「姿をみせる必要はないだろう」

「なんで」

「第一スキルを得にきたのだろう。好きなだけいればいい。天使たちの扉、向こうのやつには話しはいっている。アマツキが取得するまで、好きにすればいい」

「う……うん」


 ぼくが返事をすると、眼の前に文字がでてきた。

 思わず後ろに下がる。

 文字はそのままだ。

 天使語で話していたと、いま気づいた。


「ねぇ天使の言葉わかるの?」

「長命種だからな。千年から先は数えていない」

「千……年」


 ぼくが驚いたからか、返事がなくなる。


「あの……」


 もういないのかもしれない。

 そして、肝心なことは聴けていない。

 スキルを覚えるのに、心で覚えるって想うだけではだめらしい。

 まだ眼の前の空中に文字があるため、試しに触ってみる。

 けれど、魔力の文字らしく感触はない。


 初期化を完了しました。


「初期化。なにを初めたんだろ」


 そういえば、天使ノートのときには、手で書くだけで文字がノートにでてきた。

 とにかく初期化したらしいから、それに返事をしてみる。


 はい。


 登録名アマツキ。

 年齢不詳。

 固有第一スキル、なし。

 所属、教会。

 代理天使、アヤネ。

 使い鳥、未定。

 代理使い鳥、悪魔スズネ契約、黒鉄鳥。

 こちらで間違いないですか。


 はい。


「次の説明だ」


 契約するための書面であることはわかったけれど、まさかそれから三十分近く読むのにかかるとは思わなかった。

 ようやく読み終わり、はい、と返事をしたところで、また声が聴こえてきた。


「こちらにくるときに、所持していたアイテムのほとんどは初期化された。魔力残量はあるけれど、付加されたものや誤ってかかってしまった病気などもほとんどないだろう」

「そ、そうなんですね」

「ネネから受け取ったそれは、役に立ちそうだな」

「これ」

「そのブレスレットに、これから書き込むスキルの契約の一部や分解された魔力はそこに収めることにする」

「はい」

「花の魔力、水、光、少し属性等の付加、探索、ほかにも複数、素養があるようだがなにを組み合わせるんだ」

「組み合わせして、どうなるの?」

「代理使い鳥と、この扉に契約をする」

「それだけ?」

「よく考えるんだな」

「……光、それか属性を選んだり、アイテムをなんとかしたい」

「なんとか、の詳しいのがないとな」


 なんだか、ヒイロの話していた通りになった。


「欲しいものが、したいことがなにか……」

「そうだな」


 それっきり、また途切れてしまう。

 千年以上も生きていると、そうなるのか、それともこの扉の主が元からなのか。

 こちらを急かすことも、慌てさせることもなく淡々としている。

 少しは落ち着いてきたかもしれない。

 立っているだけでは、なにかボーッとしてしまうため、歩いてみる。

 文字は、ついてくるわけでも消えるわけでもないらしい。


 ここの幻だかもわからない場所で、ずっと先まで歩いた場合、もしかしたら戻ってこなくてはいけないのかもしれない。

 でも、椅子があるわけもなく、テーブルもないため、やっぱり歩いてしまう。

 扉の主が側にいなくてよかった。

 いや、観てはいるのかもしれないけれど、少なくともぼくからは、視えていない。


「メディはなんで光なんだろう……」


 そう、ずっと前からの疑問がある。

 ミレイは未来をみようとしたんだと思う。

 ネネは、きっとなにかを造るのを楽しめるからかもしれない。

 ヒイロは、向かいあう相手がいたほうがいい。

 スズネはよくわからない。

 メディは光をイメージして、なにをしようとしたんだろう。


 それとも、光がメディを選んだのだろうか。


「スズネもメディも、きっとなにかあったんだよね」


 すると、少しだけ扉の主が笑った気がした。

 やっぱりぼくから視えていないだけのようだ。

 具体的なことを決められないまま、抽象的なことばかり描いていた。

 それでも、なにも名前がつかなかった天使に、名前をつけるように、どうにかスキルと呼べそうなものを組みたてた。

 文字の前に戻り、待機状態になっていた文字に触る。


 スキルは、決まりましたか。


 はい。


 名前を書いたあと、そのスキルの詳細を描き込み、決定してください。


「決まったか」

「うん。天使にあって天使にないようなものだけど、アマツキにはこれかも」

「そう緊張するな。天使には補助も含めて第三スキルまで登録できる」

「……なんだ! それ言ってよ」

「悪魔になくて天使にだけある誓約と徴だ」

「いいよ。好きにするよ」


 決定しますか。


「はい!」


 扉が開いたような、閉じたような音がしたあと、笑い声が響く。

 扉の主ともっと話したかった。

 でも、戻らないと。

 意識が急に薄くなるなか、巨大なドラゴンのような影をみた気がした。





「……アマツキ! ……アマツキ」


 なんだか泣きそうな声がして眼をあけた。

 ベットの傍らには悪魔(ヒイロ)がいる。

 いつの間にか寝かせられていたみたいだ。


「……扉」

「起きた!! もうっ! 叩いて蹴っても、キスしても魅了しても起きないから、もう戻ってこないかとおもったわ!!」


 叩くのも蹴るのも仕方ないけれど、キスと魅了はしないで欲しいな。


「うん……起きた」


 悪魔が泣き笑いで応える。


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