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魔法は料理です

「まずは小さじ一杯ね」

「はい」

「次にひとつ水をたらして」

「はい」

「なんだか、料理してるみたいですね」


 スズネが拡げたテーブルの前で、感想を言っている。

 アマツキは、やや緊張気味にテーブルのものをひとつずつ丁寧に扱う。


「魔法は、料理みたいなものよ」

「そうなんですか」

「料理みたいな感じなため、料理のようにできて」

「つまり?」

「魔法は料理です!」

「料理なんだ」


 アマツキは納得してくれたけど、周りにいるほかの悪魔は、ややあきれている。

 少し強引でもいいじゃん。


「ねぇそれで、次は」

「黒鉄、次はどうなってる」


 黒鉄鳥を喚びだしたのは、数分前。

 教会の地下なため、来てくれるか不安だったけれど、使い鳥召喚をしたら平気だった。


「次は、少し待ってね」


 器用に羽根を使いながら、ページをめくる。


「黒鉄がいてくれて、助かるわ。天使翻訳は自信なくて」


 アヤネの手紙には、とりあえずでわかりやすくしてくれたのだろう、天使スキルのメモが書いてあった。

 けれど、肝心な箇所は天使語になってしまい、読めなかった。

 アマツキにたずねても、知らない言葉も、あったため、黒鉄を喚ぶことにした。


「少し水が馴染むまでまって」

「はい」


 水は、ここの地下でいま浄水したものを使っている。


「浄水にするとどうなるの?」

「要らない魔力を落として、水の魔力が強まるの」

「そっか」


 わたしは、慌てて自身のノートを開き、隣でメモをとる。


「せんぱい、真面目ですね」

「クラフトにも役に立ちそう」

「……わたしも書く」


 スズネも書くため、ミレイとメディがそれを見守ってくれている。

 ヒイロとシスターは、アマツキと一緒に、いくつかの本を見比べながら、アイテムを準備している。


「シスターは、いつもこういうのをしてるんですか」

「いつも……ではないですよ。ええ、いつもでは」

「子どもたちのお世話の間でも、集中できますか」

「合間は、ありますから。子どもたちも普段は、オトナしかったりして、今日はハシャいでいるんですよ」

「そうなんですね」

「わたしが、こちらに来ているのはナイショなため、そういうときは上の子どもたちが自分たちで管理もしていたりするんです」

「えらいですね」

「わたしが怒……ときどき言うと、反抗してしまうこともありますから」

「大変ですね」

「ネネも悪魔教会を複数管理しているのだから、大変でしょ?」

「わたしの場合は、中央に近いしシスターも複数いるところが多いかなぁ」

「まぁそれじゃ研究しほうだい……違う、お世話が少しはラクですね」


 このシスターは、もはやシスターというより研究者に近いらしい。

 もしかしたら、シスターになったのも研究ができる環境だから、なのかもしれない。


 この地域の神父は、たしか年齢が上の悪魔なため、割とゆったりと運営しているのかもしれない。

 アマツキが緊張のためか、ときどき物を落としたり、ヒイロの足を踏んづけたりしている。


「アマツキ、なんでそんなに」

「……緊張とかしてないからね」

「緊張とかしてるじゃん」

「ヒイロは」

「わたしは中央図書館で初期スキルから、基礎叩きなおして、新魔導書調べたりしてたからね」

「始まりのことだよ」

「そんなに覚えてないわ」


 アマツキが深呼吸している間も、黒鉄の翻訳からシスターとヒイロが、だんだんと準備を整えている。


「なんだかヒイロはりきってるね」


 思えば、ヒイロも孤独な図書館生活なはずだったのに、アマツキと図書館の話しをするときには、随分と楽しそうだ。

 アマツキは、相変わらずときどきネガティブになるけど、ハイテンション天使とネガティブ天使は、紙一重らしいとアヤネから教わった。


「ひとまず初期の準備はできましたよ」


 シスターが服の裾をはたいている。

 なんだか、とても満足そうだ。

 このシスターは、地下研究者だった。

 今度中央にかえるときがあったら、研究所に空きがあるか、たずねてみよう。


「黒鉄、この次は」

「う〜ん、ここの翻訳はムズカシイよ」

「え、どれ?」

「魔力の……かけら……水の……」

「しずく?」

「しみる? かな」

「あわせる……きょう魔……しんどう……め」


 どうやら天使語のなかでも、読みづらい字のようだ。


「シスターはこれ?」

「ごめんなさい。わたしも本当に簡単な文字しか」


 なかなかに手強い。

 メディが近くにくる。

 けれど、なにか考えているのか、特になにも言わない。

 メディがちらっとミレイをみている。

 なんだろう。


「天使語の翻訳間違いがあると、どうなるの」

「爆発とかする?」

「爆発……魔力の量を間違うとそうなるかな」

「離れていようかしら」

「それより、初期の段階からしてみない?」

「そのあとのがわからないと、またはじめからなんじゃないの」

「ミレイ、それなら翻訳してよ」

「任せるわ」


 ミレイは、メディの秘書ではあってもほかのことは優先は低いみたいだ。

 でも、そういえばこういう悪魔だった気もする。


 う〜ん、と黒鉄が羽をパタパタさせつつ悩んでいる。

 それは、それで可愛い。


「黒鉄は、天使たちの灰鐘とは話せるのよね?」

「短い会話ならね」

「それでも、わからないか」

「会話なら、音だけでなんとかなるけど、文字だと、少しの違いが別の意味になってたりもしたら大変」

「はじめの頃かぁ。よく覚えていないのよね」

「固有スキルを覚えるときは、それなりにスキルショックがあるからね」

「そっか」

「そこの辺りの空に、灰鐘とりあえず飛んでないかな」

「それは……ちょっと……」

「捕まえてくる?」


 ヒイロはなんで、そんなに楽しそうに言うのかしら。


「使い鳥攫ってきたら、ちょっと騒ぎになっちゃうかな」

「平気よ。ちょっと捕まえて、ちょっと話しきけばいいんでしょ」


 ヒイロなら、マジしそうな気がする。

 悪魔としては、正解……なのかな。


「いやいや、ヒイロ可愛いから、反対に攫われちゃうわ」


 ヒイロが眼をおおきくしたあと、くすっと笑う。


「それもそうね」


 よかった。

 とりあえず、止まってくれたようだ。


「ミレイはどうおもうの?」


 メディがたずねている。


「わたしは特には」

「そう」

「なにかわかりそう?」


 すると、メディが自身の悪魔ノートをだして、なにか試している。

 シスターの図鑑のようなものと、さっきつくっていたスズネの試薬をみて、思いついたらしい。


「少しアマツキの借りるよ」


 アマツキが、天使ノートを貸している。

 天使ノートの空白ページを開くと、メディが光を飛ばしている。

 さらに、アヤネの手紙の文字も確認しているみたいだ。


「少しチカチカするかも」

「離れる?」

「いや平気」


 わたしは平気なのだけど、ミレイとスズネとシスターは離れていく。

 そんなに怖いことには、ならないはず、だ。

 メディがスズネの試薬を触ると、それを数滴空中にたらしている。


 けれど、それがノートに染みる手前で、浮かぶ光にぶつかると、試薬が霧のようになり、ノートにかぶさっていく。


「ネネナイフ貸して」

「う、うん」


 わたしのナイフをメディに手渡すと、メディがそのナイフをレベル微弱にして空中を裂く。

 霧がフッと消える瞬間に、なにか声が聴こえてきた気がした。


「あっ!」


 アマツキが声を上げたときには、天使ノートに文字が定着していく。

 天使語と悪魔語の両方のようだ。


「翻訳……できたか」

「ねぇ! これどうやったの!?」

「なに、なに?」


 離れていたシスターとミレイ、スズネが来る。


「スズネの試薬とアヤネの手紙、黒鉄のおかげだよ」

「え、メディは天使読めたの?」


 わたしの黒鉄がたずねている。


「違うよ。黒鉄の翻訳とアヤネの手紙にあったのをスズネの花の試薬で文字解析したって感じかなぁ」

「それで、なんでアマツキのノートに写るのよ」

「解析できれば、インクに起こせるから」

「メディって、そんなスキルまで覚えたの?」

「覚えたっていうより、いま作成したかな」

「え!? いま」

「スキルっていくつかを併せると、別のカタチに」

「すごい!」

「メディなんでも」

「いや、なんでもはできないと」

「光ってなんでもなのね」

「いやそうでもないんだけど」

「メディ、そういうことにしておけば?」

「そ、そうかな」


 メディの光スキルの応用で、天使語翻訳ができた。

 これで、アマツキに初期のスキルを覚える儀式ができる。


「魔法は料理ね……わたしも料理がんばろ」


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