教会の地下にあるシスター部屋
教会は静かだからいいよね。
わぁ〜
きゃー
わぁ〜
走りまわる悪魔子どもたち。
ときどき転んでいても平気そう。
一応教会のなかなんだけどね。
静かじゃなかった。
「久しぶりね。ネネ」
「そうですよね。どれくらいだろ」
「そうね」
フードつきのをかぶり少し背が高く、悪魔修道服を崩して着ている。
悪魔修道服は、少し刺繍があったりでおしゃれだ。
前にたずねたときには、胸が……といっていた。
あぁ胸ね。
そうね。
「ネネはここの辺り来たことあるの?」
「ううん。シスターはここの地域は少なくて、この一悪魔なのよ」
「そうね」
ヒイロとアマツキよりさらに下なのだろう。
子どもたちは、わたしたちの周りをまわったり、イスで隠れたりしている。
「だれ!? わたしのお尻触っていったの」
ミレイが絡まれている。
「わ、わたしです。わざとじゃ……わざと……じゃ」
女の子だ。
意図的に触っていたらしい。
「あ、天使の羽だ」
「羽だ」
アマツキも絡まれている。
ヒイロも小さい子相手で、少し困っている。
シスターが微笑している。
けれど、たしかこのシスターはあとになって怒る怖いタイプだ。
いまはみんながいるから、すぐに怒らないようだ。
「それで、ネネにいくつかお届けものと、あと教会事務の手続きとあと……」
「あ、うん。そうですよね」
「とりあえずこちらへ」
教会の入口は開けたまま歩きだす。
裏の懺悔室、療養施設も揃った廊下を案内される。
「子どもたちは平気ですか」
「ええ、いつもなんです。時間までは走りまわるんです。あとで怒……じゃなくて言わないとね」
裏にある事務室のような場所で席につく。
ほかにもいくつも部屋があるらしく、けっこう広い施設なのだとわかる。
アマツキもヒイロも造りをみたりしている。
あとで遊びにいくかもしれない。
「さきにこれです」
そういって渡されたのは、天使アヤネからの手紙だ。
「アヤネからです」
「緊急ではなさそうですが、黒鉄から転送されたようですよ」
「わかりました」
手紙を受け取ると、可愛い便箋だ。
以前読んだときにも、かなり丁寧だったことを思い出す。
「あと事務書類と手続きが端末でありまして……」
「そ、その辺りはもう少し話しを聴いてからで」
「そうですか」
いけない。
このままだと、わたしの仕事をみんなに手伝ってもらうことになる。
「これみていただいていいですか?」
ヒイロがカバンから、ビンに入ったままの花と種をだす。
テーブルにコンと置く。
「花ですか。種は同じものですか」
「そうです」
シスターが、手に取り少し眺めている。
「あまりみたことのない花ですね」
「妖精が持ってきたといわれてる花なんです。花は中央図書館でいただきました」
「図書館で飾られていたのですか」
「正確には図書館司書が預かり、事務室で保管していたみたいです」
シスターの反応は薄い。
あまり詳しくないのかもしれない。
少し眺めたあと、また元に戻す。
今度は立ち上がるため、そんなに興味もないのだろうか。
「あったかしら」
壁際に並ぶ本棚をよく眺めると、なにか不思議なタイトルのものが多い。
「そこにあるのは、どういったのですか」
メディが不思議そうに聴くのは、項目がなにもわからないからだろう。
「そうね。召喚や契約、新魔導書、生活お役立ちから精神的なものまで、幅広いわ」
「雑多してるんですね」
悩んだあと、探すのをやめてしまう。
「ここには、ないわ。でも、倉庫にはあるかも。あとで手伝ってもらっていい?」
「いいですよ。倉庫?」
教会の敷地にあるのだろうか。
「そう。書庫のほうがあってるのかも」
「書庫あるんですか?」
ヒイロが驚いている。
さっき図書館にいたのに、また本を探しまわるらしい。
ヒイロは研究者に向いていると想う。
「倉庫として使っていたんだけれど、要望もあって本を仕入れるうちに、本棚のほうが多くなってしまったわ」
「わぁ、楽しそう」
「要望とは」
「年に数回視察にくる地域の悪魔や子どもたちに教えを説いてくれる神父の要望がそういうのがおおいのよ」
「シスターだけじゃないのね」
「ここの地域は、広い割に神父は一悪魔なため、こちらにくるのも数は少ないの」
「それで、本などで補助するのね」
「わたしは、数日ごとに移動して、ときどき臨時のシスターも雇うわ。よかったら……」
「いまは遠慮するわ」
「そう。だれかいい悪魔いないかしら」
たしか、前に来たときにも誘われた気がする。
ずっと悪魔不足なのかもしれない。
一度立ち上がると、飲みものを用意してくれたため、少しここで話しをする。
「探しものは、花なのね」
「簡単に話すと、花の妖精の居場所ね」
「妖精……」
「シスターは、ここの辺りではみたことは」
「ないですね。環境はいいとは思うけれど、妖精たちが住む話しは、いまのところ聴いてないわ」
「そうですか」
アマツキが扉のほうを気にしている。
ときどき子どもたちがのぞきに来るからだろう。
入っていけないとは、言われないだろうけれど、事務室は入りづらいのかもしれない。
「天使アマツキに、少したずねてもいい?」
「はい」
「悪魔界で旅のようなことをしているみたいだけど、どこかでゆっくりとは考えませんか」
「いまのところなにもないです」
「悪魔界で天使の友だちができることはあまりないとも思うのだけど」
「平気です。ヒイロも一緒だし」
シスターの仕事のひとつのようだ。
少し長いかもしれない。
飲みものを飲んだあと、まだ続きそうなため、席から立ち上がる。
「少し施設をみてきてもいいかしら」
「ええ、どうぞ」
「いってくるわね」
すると、アマツキとヒイロ以外は来るようだ。
部屋から離れたあと、訊いてくる。
「いいの? なんだか身辺を詳しく話してるみたい」
「いいの。シスターの役割なのよ。わたしも施設の管理を少し調べたいし」
「ヒイロ平気かな」
「平気よ。これからも教会や保護施設によると、何度も聞かれることよ」
「そっか。そういうのも役割あるんですね」
「スズネはあまり来ない?」
「少しだけ。でも長居はしないです」
「そう」
シスターの話しが終えるまでは、管理を調べることにする。
みんなはついて来なくてもいいのだけど、多少なら邪魔とかにはならない。
メディもなんだかいろんなことを気にしているから、メディの範囲で調べることもあるのだろう。
上層にいくほどに、考えるべき範囲が違うのは、このところわかってきた。
メディは拡げすぎなのだ。
「ネネせんぱいは、担当で」
「メディは仕事ね」
ミレイが言うのだから、やっぱり仕事だ。
「ミレイはいいの?」
「わたしは休みよね」
「メディせんぱいは、休みってなんですかね」
施設の半分をみてまわり、点検しつつ通ると、まだアマツキと話しをしていた。
そのため、さらに半分をみていき戻ると一時間くらいは経っていた。
「話しできたかしら」
「ネネ、なんか大変だった」
「アマツキがもうへとへとよ」
そう言いつつなんだかヒイロは、楽しそうだ。
「シスター話しは済んだ」
「とりあえずはわかりました」
「じゃ、案内してもらっていい」
「そうですね」
「ぼくは、少し散歩してくるね」
アマツキは、ぐったりしているため、そうねと返事をする。
「こちらにどうぞ」
シスターが先頭に進むと、教会のなかに戻っていく。
子どもたちは、いまは休憩中のようだ。
祭壇近くにいくと、その側に扉があり、開けると階段があった。
扉は壁の色に混じる。
隠してあるというよりは、避難用の通路かもしれない。
ヒイロは一緒に来るらしい。
「アマツキはいいの?」
「まずは書庫を確認しなくっちゃね」
アマツキは、ぐったりしていたからどこかで休むのだろう。
「ていうか、なにここ?」
通路には、植物や薬草のようなものが置かれていて、進むと実験器具のようなものもある。
階段があり下りていくと、別の通路もある。
外に繋がるのかもしれない。
「神父の趣味です」
「あなたのじゃないの?」
「わたしでは、ないかな」
「でも、神父は月に一度も来ないのでしょ」
「……そうね。神父のよ」
怪しい感じだ。
書庫ともなにも書いてない扉を入ると、本棚も複数並ぶけっこう広い空間だ。
けれど、角にはテーブルやボトル、ビンも並び、研究室になっているのだとわかる。
「全部中身を知っているわけでは、ないの」
「いいです。好きにみても構いませんか?」
「いいわ。できれば項目とタイトルもメモしてください」
「え、うん」
「できれば、テーブルにある項目のも発見したら、報せてね」
「もしかして、ですけれど……」
「はい」
「整理ニガテですか?」
「そんな、シスターは忙しいんですよ」
うふふっと、笑っているも誤魔化しているらしい。
ミレイがあきれている。
シスターの本業は、こちらの研究がそうらしい。
「妖精……」
「花……」
天使のスキルに関係した書物は、みつかるだろうか。
でも、並ぶタイトルをみていくうちに、気分は上がってきた。
あまりみたことのないものが、多いからだ。
これは、どこから仕入れるのだろう。