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それぞれのみかた

 七日経って宿泊施設も慣れて、図書館も住み慣れたような感じがした八日めに、メディがサラッと話しかけてきた。


「もう、見つかると想う」

「そうかしら。もしかしたら、このまま一年くらいかかって、ずっとかもよ」


 わたしが少し冷たく言うと、メディはわたしの眼をゆっくりとみた。


「ネネは、調べつかれたの」

「ま、そんな感じかも」

「少しみせてもらってもいい?」


 わたしがまとめたノートをメディに出して見せる。


「よくまとめてある。キレイだね」

「そ、そうかな」


 もう慣れた様子で、メンバーは目当ての本や端末をみつけて、検索したり、それをテーブルに集めたりする。


 今日は朝から混んでいるようで、真ん中のおおきめなテーブルは、先に使っている悪魔がいるため、カウンターの前に何席か確保した。

 そのカウンターで、メディが座るため、わたしも隣に座る。


 そういえば、メディの怒っているところ、あんまりみたことないな、とぼんやり考える。


「詩集や妖精の民話みたいなのも調べたね」

「民話は、絵本とかになってたわ」

「ほかは」

「資料集みたいなので、それぞれで何百年か前の妖精の様子や話しかけられたときのこととか」

「そう」


 まだ、朝集まってすぐなため、わたしは余り頭が、回転していない。

 メディもそうなのだろうか。

 他のメンバーが、図書館を歩きまわるなか、メディはわたしのノートに、目を通している。


「悪魔界のもだけど、妖精界の花も不明なのが、たくさんあるんだね」

「クイーンの話しでは、魔力に当てられて、性質が変化していくらしいわ」

「種は……」

「この辺り」


 隣から、ノートを捲ってあげる。


「種における魔力は、すごく微量だよね」

「サイズが、小さいからね」

「魔力探知でも、わからないかもね」

「専用のスキルが、必要になるかしら」


 メディが少し考えている。

 眼は覚めているようだ。

 動作はゆっくりだけど、眼はとてもはっきりしている。


「前に光で言われたのは、固有は変化させるのに向いているらしいよ」

「誰にそんなこと聴いたの?」

「異界のドラゴンだったかな」

「ファルティってメディのこと、気にいってるのね」

「そうかな」

「わたしにそんなこと、話しかけてこないわ」


 固有スキルは、変化させられる。

 クラフトもそうなのだろうか。


「魔力探知以外でも、できることはありそうな気がするな」


 いまのところ青い花に繋がりそうな話しも、それを記した具体的な記述もなさそうだ。

 ノートにあるのも、みつかるヒントかもと、メモしてあるだけの内容がおおい。


 それでも、メディが自信あり気な言い方だ。


「スズネもミレイも、すっかり調べつかれたみたいだよね」

「ミレイは、元気になったばかりだったけど、調べものばかりだからね。メディは平気なの」

「身体動かすほうがいいけど、妖精については興味もあるからね」


 メディは機械系や端末に詳しいけれど、もしかしたらヒイロと同じで、図書館が好きなのかもしれない。


 ときどき歩きまわっているのをみかけるけれど、大抵変な場所で立ち止まって、眺めている。

 それは、小さな窓の外側だったりをみたり、ポスターだったりするけれど、よくわからないことがおおい。

 あとに話しかけてみよう、と探してみるといないときも多く、いまなにしてたの、とたずねると「外をみていた」というときもある。


 わたしも眺めたりはするけれど、メディはなにか違うことを考えている気がする。


「それで、なにかわかりそう?」


 メディがノートをしっかりみていて、ただわたしの字をほめているだけでは、ないだろうからなにかあるのだろう。


「そうだね。調べかたを変えよう」

「どんな」


 メディも自身の悪魔ノートを取り出して、書き込みはじめる。


「水の妖精たちのときも想ったけれど、妖精たちがわかる魔力みたいなのがあるんだと思う」

「う、うん」

「小さい青い花も種もあるし、やっぱりあとは、旅の手記みたいな足跡、羽跡みたいなのをみていこう」

「旅の妖精……」

「ルルファイスもあれだけ、旅をしたんだ。ヒイロが覚えていることや詩、景色みたいなのを集めよう」


 順に、ミレイたちがカウンターに来ると、それぞれに、いま集めたものと、ここの図書館で調べたなかで、気になったものを再度確認することになった。

 指揮は、わたしがだすらしい。

 メディじゃないのね。


「ヒイロとアマツキは、どういうの」

「似た花と、それに似た種や季節を調べたりしたよ」

「季節?」

「花にもあう季節があるから、もしかしたら寒い季節は隠れるかも」

「そっかぁ。スズネはどういうの」

「わたしのは、鳥たちを調べてましたよ」

「鳥? どうして」

「くろくろたちは、魔力の残る欠片を探すんですよ。花にも魔力があります。鳥たちはたぶん詳しいかと」

「そういう視点ね」

「ミレイせんぱいは?」

「わたしは、そうね。花や種の改変について少しずつね」

「改変?」

「魔力で品種が変わってしまうけれど、種族によっては自分たちで改良する種もいるかも」

「そっかぁ」

「メディはどうしてたの」

「まとめ役?」

「え、ずるい」

「あとは、そうだな。微量の魔力を見分ける方法とかかな」

「そんなのあるかな」

「まだ、もう少しだね」


 こうしてみると、同じ目的を持っていても、見方が違うことがわかる。

 まとめ役も必要だったのかもしれない。


「それで、どう探せばいいかしら」


 誰にいうでもなく、言ってみる。

 アマツキが、そーっとなにかを話すため、もう一度聞き返す。


「なに、アマツキ」

「……入れ替えよう」

「なにと、なにをするの」

「天使が悪魔になるように、悪魔を天使にするの」

「……どういうこと?」

「あぁそういうことね」


 わかったのは、ヒイロだけだ。


「なに、ヒイロ」


 ヒイロがなぜかアマツキが開いていた天使ノートになにかを書く。

 そして、こうと示してくれる。


「わたしと、アマツキを入れ替えるように、みんなが調べていた項目をほかの悪魔天使で分けるのよ!」

「そういうことね!」


 アマツキらしい考えだ。

 天使は、もしかしたら悪魔とは観察が違うのかもしれない。


「じゃ、それぞれ分けましょ」


 カウンターの上に並べられていた、本たちを持ってきた悪魔天使とは、違う悪魔天使が手にとる。


「わたしは、これね」


 わたしは残っていた一冊をとって、席について読みはじめる。

 これは、だれが選らんで持ってきたのだろうか。



 "精霊たちの意志をたずねる"


 悪魔や妖精より、さらに不可思議な存在の精霊。

 実の身体をもたないといわれていて、視える者、視えない者がいるらしい。

 本体は、その精霊が宿るなにかであって、でも、そのなにかが消えても、そこにあるらしい。


「転生より、さらに複雑ね」


 無意識に首から下がる宝石を触る。

 まいが、ここにいることは理解っている。

 きっと、意識だってあるのだろう。


 でも、ヒトとしての身体を失ったまいは、居場所はここしかない。


 夢にあの頃のまいがでてくる。

 でも、悪魔としての役割のわたしは、まいの契約の通りに連れてきたけれど、もし現在のわたしなら、どうしただろうと、ときどき考えてしまう。

 まいに伝えていなかったことのなかで、もっと上手くできれば、まいはいまヒトだっただろうか。


 本の内容は、精霊たちの存在をもっと知ろうとして、伝説のようになっている話しをたどる旅の者の話しだ。

 けれど、あちらこちらに寄り道をしていて、途中からは冒険者の話しが主になる。


「身体があるのも苦労してしまうから、どうしたってひとまずは、眼の前のことになる」


 悪魔として、異界送りをたくさんしていても、ミレイのように割り切れるわけではなくて、その都度なにかしら想いを抱える。

 いま探している花の妖精たちも、そうなのだろうか。

 それでは、精霊はどうなのかな。


「花の香りは不思議だ。同じようにカタチも不思議だ。種から育てるのは大変だろうか」


 ねね、ネネと呼ばれていることに気づいた。


「ネネはどう」


 みると、メディが伸びをしていた。

 読みおわったらしい。

 わたしも集中していたらしい。


「なに?」

「いまのはどういうのかな」

「冒険者の話しみたい。あぁ精霊と種の話しかも」

「そっか」

「でも、たぶん逢えないのね。なにか、精霊たちの痕跡をみつけようとしてるのだけど、いまみつけたのは、見知らぬ土地でみつけた香りだけ」


 まだ、読み終えていないメンバーもいるらしく、メディとミレイが話している。

 わたしのは、長そうだから最後になるかもしれない。

 スズネが途中席をはずして、ヒイロも休憩していたみたいだ。



 ここまで七日経った。


 いや本のなかは、丸三年は旅していたらしい。

 四年めの季節が暖かくなる頃、もしかしたら、旅のなかでは逢えないかもしれないけれど、いつしか長い時間のあと逢えるかもしれない、という話しで終わりそうだ。

 ヒントになりそうなのは、香りや精霊幻想の言い伝えみたいなところだろうか。

 巻のおわりかけで、香りのレシピなどを残すそうだ。

 もしかしたら、そういう研究の悪魔なのかもしれない。


 メディの光の予感も当たらないかもしれない。


「そろそろだわ」


 最後のおまけのような話しを読み進めていると、ふと静かなため周りをみる。

 いつの間にかスズネが、悪魔ノートに懸命に書いている。

 メディが少し前にまとめをみていたから、わたしのまとめたものを進めているのかもしれない。


「ふぅ終わったわよ。ねえ、どうしたの」


 スズネとヒイロが、これでこうじゃないと話している。

 ミレイがふふふと笑う。

 もう一度、どうしたのかたずねようとしたら、ミレイが話してくれる。


「できるみたいだわ」

「できるの、なにが」

「妖精の庭にいく方法かしら」


 メディがまたいなかった。


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