花って何種類あるのかしらとだれかが言った気がする
調べるにしても、どのくらい調べるかよくわからないまま三日間くらい図書館に通うことになった。
ミレイがみつけてくれた図書館にほどよく近い宿泊施設に泊まり、買いものなどをして、また図書館に通うを続けた。
ヒイロやアマツキはすっかり歩き慣れたらしい。
ミレイは元気なのだけど、わたしたちは少し疲れがでてきてしまった。
妖精の花と悪魔の花と、天使から持ち込まれた花があり、ほかにも不明な種類はたくさんあるらしい。
一日でみつからないからと、あとは気長にとは思ったけれど、なかなかヒントがない。
「水の洞窟のときは水場でよかったけど、花のって」
「そうよね」
「季節によっても違うし、場所でしか咲かないのもあるし、魔力の干渉もあるわ」
「……あんまりショックになるようなこと言わないで」
「できる限りここで、わかりそうなところ調べないと、あとは行った先で迷走よ」
「……あんまり先読みしたくないわね」
ミレイは、元気になったのはよかった。
でも、未来悪魔の余裕なのか、単純にわたしの嫌そうな表情が好きなのか、合間で疲れることを言ってくる。
無視すればいいことなのだけど、ミレイの場合には、無視されると余計に喜ぶからこちらが、驚いてしまう。
そこは、もっと悪魔らしくかっこつけてほしい。
メディがときどきいないことがあるのは、仕事と休憩とどちらなのか気になるけれど、メディは魔煙草は吸わないし、食欲もそんなにないらしいし、景色をみにいってなければ、あとは仕事の可能性が高い。
寧ろ、いまの調べもののほうが休憩なのかもしれない。
休憩して仕事なのか、仕事から休憩なのかもはやわからない。
どうせなら、少しは女悪魔遊びでも覚えたほうが、悪魔らしい気もする。
遊びいきたい。
「おわらないね」
アマツキが真剣にいうのとは違いヒイロは楽しそうだ。
「ヒイロはなんでそんなに。勉強キライとか言ってなかった」
「勉強はキライかも。でも、図書館は好きだし、これは調べものよ」
「悪魔生命かけて、ずっと勉強ですよ」
スズネが、やや妖しい。
この三日ほど、わたしとスズネで交代して、手間のかかることはしてみているけれど、スズネはだんだんと空元気になっている。
「平気? スズネしばらく休んでいていいわよ」
「そんなわけには。ネネせんぱいは、もう少し手休めて、気晴らしでもいいですよ」
「ううん、もうちょっとなのよね」
そう。
けっこうわかったこともあるのだ。
ただ、肝心の居場所やみつけかたが、わからない。
「妖精、そんなに簡単には居場所教えてくれないんだね」
アマツキが、やや落ち込んでみえる。
「姿をみかけないのは、それだけ警戒心があるのよ」
「ゼッタイみつけてやる、とか想うよね」
さっきのは違った。
沸々と妖精をみつけることに、情熱を向けているらしい。
「アマツキは、勉強好きだね」
「勉強っていうか、もっと知らなきゃ」
「全部のことみたいね」
ヒイロがいう全部とは、たぶん天使や悪魔のこと全部なのだろう。
「そう。ぼく知ることは、どんどんやってみなきゃ」
「すごいなぁ」
アマツキやヒイロは、前より貪欲だ。
アマツキは、前にはやっぱりいなきゃよかったみたいなことを口にすることもあったのに、いまはしたいことを探しているみたい。
ヒイロが側にいることもあるだろう。
だけど、アマツキはきっとこういう天使なのだ。
「こっちのは読んだ?」
「そっちは平気」
「こっちのは」
「そっちはまだ」
このわたしの隣の山になる本は、もういいらしい。
「スズネ、これお願い」
「はぁい」
スズネに少し片付けをお願いする。
これなら、片付けもついでに休んでくれるだろう。
ミレイは、まだ真剣に読み進めているため、メディに頼みたい気もするけれど、メディはいない。
「わたしもいってくるわ」
スズネにひと山のを任せて、そのあとわたしも立ち上がる。
本を積み、スズネと一緒に歩く。
返却口に返したあと、わたしは別のを探しにいく。
「あ、一緒に探します」
「いいわ。スズネは少し散歩でもしていて」
「そうですか」
なんだか残念そうに言うけれど、これでスズネは休みにはいくはずだ。
スズネと分かれてから、いくつか棚を移動する。
さっき調べていた内容で、いくつか気になるものがあった。
そういえば、中央図書館でリンヤの詩がたくさんあったのだ。
ここの図書館にもあるのだろうか。
花ばかり探しているけれど、少しでも知っている妖精についても調べてみよう。
たしか、旅をしながら詩を聴かせている妖精だった。
もうずいぶんと前のことらしいけれど、妖精は長生きだし、リンヤはまだいるかもしれない。
棚のいくつかを歩いたあと、詩集や写真集のようなものをみてまわる。
リンヤは妖精のなかでも、写真で評判がよかったらしい。
けれど、なかなかみつからない。
悪魔の詩や魔力に関するものは多いけれど、妖精詩はあまり扱いがないのだろうか。
行きつ戻りつをしていき、戻ろうかと途中で考えてしまった。
「せんぱい」
「え、スズネ」
「探してるんですよね。一緒に探します」
「スズネ休憩は?」
「もうしてきましたよ。お手洗いも飲みものもいってきました」
不思議そうな表情になる。
そんなに時間が経っていたらしい。
「そっか」
「どういうのですか」
「それじゃ。妖精の詩を探しているの」
「詩ですか」
「旅好きならなにか知っているかも。妖精のリンヤっていうの」
「リンヤ! うん。わかりました」
スズネとまたいくつかの棚をみていく。
そんなに数は多くないはずなのだけど、端末で検索してみても、よくわからないのもおおい。
スズネと何往復かしたあと、みせあう。
「これと、これ」
「どうでしょう」
「とりあえず、持っていきましょ」
あまり参考にならないなら、また探そう。
「ありがとう」
ヒイロやアマツキのいる場所に集める。
ミレイは、いないようだ。
「これ追加です」
「う〜ん」
「少し疲れたでしょ」
「うん、そうね」
ヒイロが素直に返事をする。
アマツキは、なにも言わないため、まだ新しい発見はないみたいだ。
「ヒイロもアマツキも、休憩してきてもいいわ」
「これは」
「追加のよ。詩だけど」
「うた?」
「ええ。少し思い出したことがあるから」
「そっか」
ヒイロがアマツキに声をかけている。
ひと休みみたいだ。
代わりに、スズネとわたしでまた作業を進める。
メディが戻ってきたため、とりあえずでも説明してみる。
「少し調べかたも変えましょ」
「どういうの?」
「思い出したの。妖精も旅するのよ」
さらに二日ほど、交代で宿泊施設に買いものと、調べものをしていた。
これまでにわかったことをノートにまとめている。
はじめた頃よりわかったことが増えて、わからないことも増えてきた。
だれかが、調べて少し経ってから言った気がする。
「花って何種類くらいあるのかしら」
ノートにまとめながら、覚えていたその言葉を書き足す。
そうよ。
ひたすらに花や種を調べるのもひとつの手だけど、ルルファイスが見つけたやりかたをそのままいくのは、長すぎる。
場所も年代も変わっているなら、もう少し考えてみなくてはいけない。
「詩について、なにかありそうかしら?」
わたしの作業の横から、眺めつつミレイが聴いてくる。
「妖精が旅していたでしょ」
「リンヤよね」
「そう」
「わたしたちより、長い時間旅したんだろうから、それを体験としてなにか残したんじゃないかしら」
「体験」
「日記みたいなでも」
「悪魔出版されてるかしら」
「さぁ」
「そうね。でも、これだけ足跡があるんだものね」
ミレイが示すのは、テーブルに並べられたいくつかの本だ。
詩の本や写真集、紹介記事など目立つ存在だったのだとわかる。
「妖精って隠れるものじゃなかったのかな」
「妖精写真集って、なんかセクシーなのよね」
写真集は、キレイなきらめいた自然のなかの写真もあるけれど、なかには素肌をみせて妖艶な写真もある。
アマツキやメディに見せようか迷ってしまったのもある。
紹介記事は、複数の場所でインタビューされたもののようだ。
追っかけのカメラでもあったのだろうか。
「記事つくったのも妖精かしら」
「それか、悪魔で妖精の追っかけね」
「キレイよね」
ノートには、大量に調べた内容が、もう書き込んである。
なかには、必要かどうかもわからないものも書いた。
スズネも独自に、書いているようだ。
ミレイは、お任せになっている。
体験記か、せめて会った様子がどこかにないものだろうか。
「そう簡単には、みつからないわね」
「長くなるかしら?」
「ネネ次第じゃないの?」
「なにそれ」
スズネをみると、少し前からぐったりしている。
考えすぎているのかもしれない。
メディは、またいない。
仕事だろう。
ミレイはお任せだし、なるほどそうすると、わたしか、ヒイロとアマツキの合同のどちらかが一番近いらしい。
スズネへのナイフの作業は、このところできていない。
夜中も調べの続きだったり、黒鉄と話したりするからだ。
図書館でも、ときどき黒鉄が飛びまわる。
使い鳥は、ここでも忙しそうだ。
「スズネ、これ頼める?」
「はぁい」
わたしの前にある山を指して、お願いする。
「ゆっくりでいいわよ」
「そうですか。わかりました」
このところミレイもスズネも、あまり進んでいないのは、明らかだ。
花の種類で探すには、悪魔の花も妖精の不確かな花も多すぎる。
前に、クイーンにたずねたことがある。
悪魔界には、なんでこんなに見知らぬ花があるの。
「魔力を帯びると、性質が変化しやすいの。悪魔たちや自然からの魔力を受け取ると、また姿を変えてしまう。品種改良というより、変化そのものよ」
クイーンは若い時代には、好んで旅していた。
よく知っているわけだ。
結局この日も、なかなか思った成果には、ならなかった。
ここの図書館の閉館時間も覚えてしまった。
中央図書館は二十五時間、開いているため、その便利さが少し羨ましくなる。
片付けをしながら、メディに話しかける。
「まだ、かかるかな」
「もう少しでみつかると想うよ」
「そうなの……かな」
「こっちの黒鉄との話しも、けっこう進んだよ」
「メディのは仕事よね」
「仕事……まぁそうなるのかな」
「そう、よかったわ」
少し冷たくなってしまうのは、わたしも少し疲れたのだろうか。
「花の妖精、どんな妖精たちだろうね」