悪魔なメディの選択戸惑い
そこは、薄く霧のかかっているような、それでも光かがやく場所だった。
空間になにかの文字が浮かんでいるが、読める文字はなく、それが夢のなかのように、現実感がない。
辺りを見回すが、他にはなにも見当たらない。
幸い服は着ているし、身につけているものも、普段と変わらない。
黒のなかに、少し青い髪がまじるこの者は考えていた。
たしか、あれは階段で、黒っぽい羽根を見つけたときだ。
古そうなビルで、階段のてすりが低いため、道具をたくさんつめたカバンが重く、カバンがてすりの向こうにすべり落ちそうになったため、慌てて、抱えなおそうとしたところ、結局は、自分もバランスを崩した。
てすりの向こうに、落ちそうになり、たしか、何かに捕まった気がしたが、でも、それ以外はあまり覚えていない。
「ここは、どこだろう」
辺りは光かがやく空間以外何も見えなく、
どこまでも続いているようだ。
不思議なことに、どこからか、声が聴こえてくる。
"転生先を決定してください"
その声をきいて
あ、そうか、死んだのか。
もう陸上はできないのか。
そう想った。
そして、じゃ、ここは、何か選ぶ場所なのか。
悪魔か天使か。
そう、少し前に舞台で悪魔と天使の悲劇を観た。
そう考えていたら、ノートが二冊落ちてきていた。
ひとつには、天使とかかれて、もう一つには悪魔とかかれている。
表紙になにか描かれているが、ほかの文字は何てかいてあるか読めない。
天使ノートに悪魔ノート、かもしれない。
しばらく、二つのノートを眺めていたが、
悪魔ノートを手にとることにした。
理由は、きっと悪魔の世界を観てみたいと想ったのと、悪魔なら契約とか結んで、
また陸上の続きでもできるのかも、と思ったからだ。
天使は優しいイメージがあるから、もしかしたら、天国か、さらによくわからないことになって、そこで余生になるのかもと思うと、もうちょっと先でいい、とそう想ってしまう。
悪魔ノートを掴むと
"転生先は、悪魔でよろしいですか"
と聴いてくる。
次に、転生に際して追加できるスキルの話しになった。
さらには名前まで決めるらしい。
名前、でかなりの時間がかかったが
メディナナタリア
にした。
実際には、文字数はさらに重なり、長い名前なのだが、略称はそれだ。
意識を失うと、次に観えたのは、少し暗い空に、手には悪魔ノート、そして、公園のなかのような場所で、ベンチに寝ていたようだ。
服や装備や小物は、いまの自分の体型にあったものだが、ところどころ破けていたり、デザインが変わっているのは、悪魔の装備品に合わせたからだろう。
「え、なに、ここ、どこ?」
"転生、成功しました"
遠くから、その声が聴こえて、次に悪魔ノートが光り、一ページがひらくと、悪魔転生の文字が追加されていた。
さらに転生ショック、記憶の部分的な消失。
「そうか。これ、記録帳みたいなのか」
「もしかして、ここで寝てたけど、転生者?」
「えと、そうみたい。きみは?」
「わたしは、悪魔のネネ。アナタ名前、わかる?」
起きあがり、靴を確かめた。
転生ショックのためか、前の記憶が薄れているなか、声をかけてきたのは、美少女な悪魔だった。
ピンク模様の入った紺の翼をしている。
ミニスカートをはいて、でている足はスラっと細い。
これが、悪魔ネネとの出逢いだった。
メディナナタリア、という任意な名前を思い出したのは、少し時間が経ってからだった。
三日過ぎ一週間を過ごし、百日過ぎると、オフィサーという責任者に任命された。
あるときネネが、デビルズウォータースモーキーの箱を持っていた。
横には、デビルズJTの文字。
ネネは、紙っぽい巻いてあるそれを口もとにやり、魔法で火をつけようとする。
「え、タバコじゃん。ダメ」
取り上げると、
「え、なんで、とるの?」
「見るからにタバコじゃん。吸うもんじゃないよ。ダメ」
「そんなぁ。これ健康 嗜好品で、そこのデビコンで、売ってたんだよ。返して」
なぜかムキになる。
「癖になるから、よしなよ」
「健康品なんだってば。水でできてて、煙がでて、ただ火をつけるだけ」
ポケットにしまって言った。
「子どもに悪いかもだし、影響考えたら、止めといたほうがいいよ」
すると、急に喜んだ顔をするネネ。
「え! もしかして、子つくりのこと? なんだ、そうなら、早く言ってよ、もう!」
「え、な、なにが」
「じゃ、いこっか♡」
「どこへ?」
「いいじゃん。ホテルだよ」
ゲホ、う、ぐ
「は、え、な、急に、なに、え!」
「ここの公園じゃ、イヤだしなぁ」
「なんのことだよ、このぉ」
「とぼけるなぁ。いやらしいこと、したいんでしょー♡」
違う日では。
ミレイがデビホをよくチェックしている。
「デビルスマホに、デビルラジオに、よくできてるよね」
「たしか、デビルズZONYエンターテイメント、デビルズジャパンネットラティクサービスだよ、創ってるの」
「は、なに、いま日本って?」
ミレイは否定する。
「違うよ。たしかに企業の創設は、転生者みたいだけど」
「悪魔界でも、やりたい放題だな」
「なにか」
「いや、企業って、どこでも商売なんだな。魔力商売」
「ほかにも、あるよ」
「まさか、デビウェアデビックスでゲームとか、DJRで列車とか、ないよなぁ」
「あ、魔力列車はあるよ。東Rデビル社と西Rデビル社だっけかなぁ」
なんだか、頭痛くなってきた。
「デビルズつけたら、なんでもありなわけじゃないよなぁ」
こんな日常を続けているときに、転生魔法使いの話しになった。
「悪魔界では、四名の転生魔法使いがいるけど、一名のところは、四百年待ちだって。行列できてたよ。悪魔でも、そのうち死んじゃうよ。
あと一名は、たぶん異界なんじゃないかなぁ」
「あとは?」
「あとは不明。でもいるよ」
「そっかぁ」
この話しをきいて、不思議と落ち着く。
そして、思い当たる。
もしかして、悪魔転生したけど、戻りたいのか、ヒトの世界に。
たしかに、エネルギー体を回収しにいったりして、ヒトの世界の様子を見ることはあるけど、またそこに戻りたいのか。
ネネやミレイを置いて、いつか再び転生魔法で。
そして、少しずつではあるが、ヒトの世界にいたときの記憶が戻ってきつつあった。
たしか、りりあに転生魔法をかけてもらったんだったなぁ。
「ははっ、懐かしい。いや、うん。りりあって誰だ」
「えー、誰のこと?」
ネネが聴いてきたが、細かいことは思い出せなかった。
そのうちに、三年が過ぎて、
メディナナタリアは、統括エリアマネージャーになっていた。