~王様におねがい!~
その日の夜、宿屋に戻ったリコルとゼロは
夕飯を済ませて部屋で一休みをしていた。
リコル「うーん」
ゼロ「・・・・・どうした?昼のことか?」
リコル「うん、やっぱり、気になっちゃって。貧民街を整備して、人が住めるようにしたらダメかな?」
ゼロ「そうすれば、住民は助かるだろうが・・・・実現するには、色々物資やら金が必要だな」
リコル「んー・・・・・おじさんに、言ってみようかな」
ゼロ「カーライル王にか?」
リコル「うん、なんとかする方法はあるから、許可だけ欲しいね。」
ゼロ「・・・・・そうか・・・・なら明日、城へ行って・・・・」
そうゼロが言い終える前に、リコルは指を鳴らした。
リコル「今いっちゃう、渡したいものもあるから!ゼロは先に寝てて!」
ゼロ「リ、リコル!?・・・・・・・・・・・」
戸惑っているゼロを部屋に置いたまま、
リコルは異次元のドアをくぐって、城へと向かった。
―――
リコル「よいしょ~!」
すとんと、リコルは王の間へやってきた。
玉座にはもうカーライルはいない。
王宮の兵士が、リコルを見てざわついた。
「なんだなんだ!!!急に何もない場所から出てきたぞ!!!」
「侵入者か!?」
ざわざわと騒ぐ兵士たちを、リコルはちらりと見た。
「何か不審な動きをしたら、すぐに捕まえるぞ!!!」
そう、一人の兵士が槍をリコルに突きつけると、
周りの兵士も同じように槍を構えた。
リコル「・・・・・手荒なマネはしたくない、王様はどこ?」
そう尋ねても兵士たちは警戒するばかりで、
答えは返ってこなかった。
探知魔法でも使って探すかなーと考えていると、
兵士を諫める声がした。
「武器を下げなさい、この方は王の客人です。」
「かしこまりました!大臣!」
そう言ったのは、紫色のロングヘアーを携えた青年だった。
片眼鏡をしており、脇には本を抱えている。
リコル「あなたは?」
カイゼル「私は、カイゼルと申します。この国の大臣をしております。王は、寝室で休んでおります。あなたは、1度王宮に来たことがある・・・・王が客人と言っていた方ですね。」
リコル「客人・・・なのかな?勝手に遊びにきただけなんだけど・・・・」
カイゼル「見たところ、かなり高度な異次元の魔法を使える賢者様とお見受けしました。そういった方とつながりをもつのはわが国としても国益につながります。何かあるのであれば私でよければお力になりますよ。」
リコル「うーん、とりあえず、おじさん・・・・王様が、寝てないなら、会いたいな。」
カイゼル「かしこまりました、お連れしましょう。」
そう言われて、カイゼルの後をついていくと、
きらびやかな扉があった。
カイゼル「この扉の奥に、王がおります。」
リコル「わかった、ありがとう、カイゼルさん」
ぺこりと、会釈をして
私は扉をあけた。
――
リコル「おじさん!」
そういいながら、部屋に入ると
寝台に腰を掛けるカーライル王の姿があった。
カーライル「なんじゃ!?!そなたは・・・・・・この前の!!」
リコル「うん、税金、下げてくれてありがとう!」
カーライル「・・・・・お前のせいで、私の金の像が・・・」
リコル「ごめんね!!でも、おじさんが税を下げてくれたおかげで、露店のお菓子屋さんが潰れなくてすんだの。これ、お礼ね!」
ぽいと、カーライルの手にクッキーの包みをリコルは投げた。
カーライル「これは・・・・・」
リコル「露店のクッキーだよ、おじさんにお礼がしたくて、買ってきたの!」
カーライル「・・・・・・そうか・・・・・」
リコル「皆、喜んでたよ。おじさん、ありがとう」
カーライル「・・・・・・」
そう、笑顔で言うリコルを見て、カーライルはかつての自分を思い出していた。
王になったばかりの時は、民のため、国のためと滅私奉公してきていたが、
国家間の争いが落ち着き、国政も安定した今は・・・・私利私欲のために、
国を・・・・国民を利用するようになっていた。
税金を、払うのは国民だ。
国のために、民がいるのではない
民のために国があるのだ。
かつての自分から、どうしてここまで墜ちてしまったのだろう。
と考えを巡らせた。
リコル「おじさん?クッキー嫌いだった?」
カーライル「・・・・・いや・・・・」
リコル「それでね、おじさんにもう1個お願いがあるんだ!」
カーライル「・・・・・・・なんだ?」
リコル「貧民街、城下町の路地裏にあるでしょう?」
カーライル「・・・・・・ああ、税金も払えない者たちの溜まり場か」
リコル「あそこ、整備していい?皆が住めるようにしたいの。」
カーライル「・・・・・・むむ、どうやってそれを成すのだ?」
リコル「とりあえず、路上を浄化魔法で綺麗にして、道を補修する。んで、家を建てて、人が住めるようにする。」
カーライル「・・・・そんなことが、出来るのか?」
リコル「出来るよ、土魔法で、簡素だけど家を作る。」
カーライル「・・・・・」
何をそんな、絵空事を・・・・と、カーライルは言いかけたが
リコルの城全体に及ぶ時魔法を思い出し、口を閉じた。
リコル「貧民街の人達も、病気がなくなって、家があって、元気になったら働けるでしょ?そしたら税金も納めてもらえるよ。」
カーライル「・・・・・・そのための、資金や、家を建てる資材はどうするのだ?」
リコル「まあ、魔法でなんとかするかな。おじさんの手は煩わせないよ、お金もいらない。だから整備する許可をちょーだい!」
カーライル「・・・・・構わん、好きにするといい。」
リコル「おじさん!ありがとう!!!」
カーライル「・・・・・・わしはもう寝る。」
リコル「うん、ありがとう!おじさん!また、整備が終わったらくるね!おじさんも見に来てね!」
にこりと笑うリコルに、カーライルはふいとそっぽを向いて
そのままベッドへと入った。
カーライル「・・・・・・・期待はせず、待っている。」
リコル「うん、おじさん、遅くにありがとうね!ばいばーい!」
ふりふりと、手を振って
リコルはドアを出して
帰って行った。
―――
カーライル「カイゼル、そこに居るんだろう?」
カイゼル「はっ、我が王・・・・・・」
カーライル「あの者を、なぜここに案内したのだ?」
カイゼル「申し訳ありません・・・・王へどうしても会いたいと言うので。」
カーライル「・・・・・そうか」
カイゼル「あれほどの、超越した魔法を使う者であれば・・・・・案内をしてもしなくても、探知魔法であっという間に王の居場所を見つけることでしょう。それでしたら、素直に案内をしておき、刺激しないほうがいいかと思いました。」
カーライル「・・・・そうだな、あの者の力は・・・・・・異様だ・・・・・」
カイゼル「・・・・はい・・・・魔力も、使う魔法も・・・・・人間の使える魔法の範疇を超越しております。」
カーライル「・・・・・・あの者は、貧民街を整備するそうだ。出来ると思うか?」
カイゼル「・・・・・そうですね・・・・・通常の、人間が・・・・・ましてや、子供一人では無理だと思いますが・・・・・あれほどの、魔法を使える者であれば、何らかの手段で・・・・成しえるのではないかと。」
カーライル「・・・・・・・・そうだな・・・・・」
カサリと、カーライルはリコルからもらったクッキーの包みを見つめた。
カイゼル「・・・・・それは?」
カーライル「・・・・・・あの者が、私へとくれたのだ。」
カイゼル「・・・・そうですか・・・・毒見役を連れてまいりましょうか?」
カーライル「いや、いい。」
そう、カイゼルを静止して、カーライルは1枚クッキーを食べた。
カイゼル「・・・・・・・」
カーライル「美味いな・・・・・・」
カイゼル「それは、何よりで・・・・・しかし毒見もせずに・・・・何かを口にするなど・・・」
カーライル「カイゼル、お前も食べろ。」
カイゼル「・・・・・はっ・・・・・王の命令とあらば・・・・・・」
カーライル「・・・・・美味いな。」
カイゼル「・・・・・・はい・・・・・・ごく普通の、菓子に思えますが・・・」
カーライル「・・・・・・わしが、税金をあげたせいで、これを作っていた店が無くなるところだったそうだ。」
カイゼル「・・・・・・・」
カーライル「わしは・・・・自分の欲ばかりで、その先にある民の暮らしを・・・・・忘れてしまっていた。」
カイゼル「王・・・・・」
カーライル「・・・・話しすぎたな。寝るとする」
カイゼル「・・・・はっ、何かあればお呼びください、我が王よ。」
そう言って、カーライルはもう1度
床へついた。