~お互いのコト、これからのコト。~
リコル「とりあえず、これからどうするか考えようか。」
テーブルの上に、収納魔法でしまっておいたリンゴと、パンと干し肉とミルクを並べながら、
私はゼロに問いかけた。
ゼロ「ご主人・・・じゃなくて・・・・リコルは、どうするつもりなのか?」
リコル「何も決めてないんだよね。実は、家を出てまだ初日だし。」
ゼロ「・・・・・・何か、事情があって家を出たのか?」
リコル「事情?何もないよ。身内や家族はもう一人も生きてない。元から一人で暮らしてたけど、退屈だったから外に出てみてるだけ。」
ゼロ「そうか・・・・」
リコル「ゼロ、ご飯たべよ。ゼロのことも、教えて欲しい。」
ご飯を食べながら、ゼロの話を聞くと、ゼロのお父さんとお母さんは
ゼロがいた闘技場で戦っていた奴隷剣闘士と、剣闘士専属の娼婦の子供だったらしい。
父親は度重なる闘いで命を落とし、母親はゼロを生んでそのまま死に、
ゼロは産まれてすぐ、剣闘士になるために育てられてきたらしい。
ゼロ「・・・私も・・・・・家族も親戚もいない、孤独な身です。」
ぽそりとゼロが、呟いた。
リコル「じゃ、似たようなもんだねぇ。あと、敬語はダメ~!ゼロは、「私」より、「オレ」って言ったほうが似合うよ。体格ごつくてかっこいいし。」
テーブルの上のリンゴをしゃりっと噛みながら、私がそう言うと
ゼロは少し照れたように
ゼロ「・・・・リコルが言うなら・・・そうする。」
と返事をした。
リコル「とりあえずね、これからのことは全く考えてないんだ。ノープラン。家の外にもロクに出たことが無くてね~・・・・暇だし、城下町をぶらつこうと思ってたの。」
ゼロ「そうだったのか。」
リコル「ゼロは、行きたいところとか、食べたいものとかある?」
ゼロ「・・・特には浮かばないな。」
リコル「じゃあ、折角だし、二人で色々見て回ろうか。」
ゼロ「ああ・・・そうだな。」
リコル「今日は宿もとったし、ここで一泊してのんびりしよ!」
ゼロ「・・・・・ああ。」
リコル「じゃ、そうと決まれば私は風呂入って寝るよ。ご飯食べてお腹いっぱいなったし。」
ゼロ「・・・・・わかった。」
リコル「ゼロ、残りの物、全部食べちゃって~!!」
ゼロ「ああ、頂くよ。」
そう言い残して、私はお風呂場に駆け込んだ。
――――
ゼロ「・・・・・・・・」
部屋に、独り残されたゼロは、
自分の身体をまじまじと見た。
つい、先ほどまで
斬られて激痛が走っていた身体の傷も、
もうかすり傷一つ残っていない。
まるで、奇跡が起こったような・・・そんな気分だ。
もう、死んでもいいと思っていた。
むしろ、自分はここで死ぬんだろうと思っていた。
それを、リコルは救ってくれた。
救っても、特に利益もない命を。
今日1日でどれほどの返しきれない恩を受けてしまったか。
一生をかけて、この恩を返していこう。
そうゼロは、そっと一人で心に誓った。
――――
リコル「はぁ~!気持ちよかったぁ~♪」
鼻唄まじりに、お風呂場を出ると、
ゼロが一人で何か考えごとをしていた。
リコル「・・・・・ゼロ?」
ゼロ「・・・・・あ、リコル・・・・・風呂から出たのか」
リコル「うん、さっぱりした~!ゼロ、考え事?」
ゼロ「・・・いや・・・・・その、リコル・・・・」
リコル「・・・・ん?」
ゼロ「改めて・・・その・・・助けてくれて、ありがとう・・・・俺を、救ってくれてありがとう。」
と、かしこまってゼロは急に私に頭を下げた。
リコル「どういたしまして。ゼロは、今まで沢山辛い思いをしてきたでしょ?だから、これからは一杯楽しいことしようね!」
にかっと私が歯を見せて笑うと、
ゼロもつられて笑ってくれた。
さあ、明日から何しようかな?
なんて考えながら
私は眠りについた。