No.5
化学平衡。
部室にて。
「スクロース、炭酸水素ナトリウム…あれ?ホットケーキミックスがありますよ」
少し色褪せてしまっている木製の引き出しの中をガサゴソとしながら、ムギが言う。
「ホントに?じゃあそれも使っちゃお!」
ガラスの扉付きの背の高い戸棚の中をガサゴソとしながら私が言う。
「えっと…おたま、フライパン、ガスコンロ…待って、ガスボンベが届かない…うーんっ」
中学生女子にしては身長が高め(161.7cm)な私だが、1番上の棚には背伸びをしても届かない。
「春織、どーした?…あー届かねーのか。俺がとってやろうか?」
そこに、菊摘(173.2cm)が出現。
10cm以上も差があるの。
羨ましいわ…170cm台。
こいつも身長は高い方である。
…それがこいつをさらにモテ男子にしてるんだろうな。
別に、身長があればモテるって訳ではない。
その身長を活かして「俺がとってやろうか?」なんて言ってしまうからモテるのだ。
優しければ、顔が特別良くなくてもモテることがある。
特別イケメンというわけでもないライトノベルの主人公がモテる理由は、そこにあり。
…って!私はなんで菊摘がモテることに対しての証明をしてるの!?
そんなのどーだっていいのに!
「いい。自分でとる」
拗ねた声で、そっぽを向きながら、腕を組んで私は言った。
私の神術を舐めるな!といった感じで。
(ガスボンベの下に傾斜角45°の板を。摩擦力を無くさずに、できるだけ小さく。落下地点にクッションを)
心の中でそう唱えると、実際に考えていた通りの物が考えていた通りの場所に出現し、考えていた通りに、勢いよくガスボンベが滑り落ちてくる。
…そう。思い通りなはずだったが…。
「おい!」
菊摘が叫んで、勢いよくしゃがみこむ。
「…え…なっ…」
「あ…」
しゃがんだ体制の菊摘は、私のスカートを…
「なっ、なっ……なっ、何やってんのこんの変態っ!死ねえっっ!!きもいきもい早くどいて消えてっ!!!」
「……//」
「ななななんで顔赤らめてんの!ばかばかばかっ!!変態っっ!!!」
「………ごめん」
「すぅ……っ…」
軽く頭を下げながら菊摘が言う。
そんなに素直に謝られるとこっちも困るって…。
…って、許す気ないからね!?
こんな最悪最低変態男を!
「春織の足に落ちそうだったから……落ちなくて良かったぜ」
あれだけ罵倒されたのにも関わらず、菊摘は、ボンベを右手で持って、私に笑いかけながら、そう言った。
「……ん…」
辞めてよそうゆうの…なんか恥ずかしいじゃん。
少女漫画じゃあるまいし。
乙女が恋した瞬間のように、私の胸がぎゅっと引き締まった…気がした。
「……まっ、まあ……感謝…してる」
勇気を振り絞って捻り出した私の言葉に、菊摘は満足げに、よく言えました、とでも言うように、頷いた。
…子供扱いするな。
ちょっぴり恥ずかしくて言えないだけ、なんだもん。
「…ハル先輩がついに…?」
「…さくの想いが…?」
そんな理学部2年メンバーの恋愛模様(?)をじっと見ながら、2人が呟く。
「「…っ!?」」
私と菊摘は同時に振り向く。
「わ〜お似合いれすよ二人ともぉ」
「俺は嬉しいぞー」
ぼそりと呟いた人々…ムギと雷先輩が拍手をしながら言う。
「にゃっ…!?」
「おいお前ら…(^ω^#)」
顔を真っ赤に染めて猫化した春織さんと、ボンベ片手ににこにこ笑顔でキレる菊摘。
「いやー俺は祝ってるだけだぞ?なんかいい感じの雰囲気だったもんで」
「余計なお世話だよっ!」
菊摘をいじりまくる雷先輩はなんだか嬉しそうにしている。
「……まっ、まあ……感謝…してる」
「むっ、むぎ!!あとでどうにゃ……うぅ!!!!」
どうなるか分かってるね!?と言おうとしたのだが、上手く呂律が回らなかった。
「んーっ!今日のハル先輩、可愛いれすねぇ…!」
にゃはは、と私をからかうように笑い、頭を撫でてくるムギ。
「〜っ!」
私はムギを、きーっと睨みつける。
向こうからは
「おいおい、先輩に対してその態度…大丈夫かよさくくん?」
「知らねぇよそんなもん!!」
なんて会話が聞こえてくる。
「大丈夫なんですか…?」
「大丈夫ですよ…いつも通りなので…」
さらに向こう側では、大人びた後輩2人が、テキパキと準備を進めながら、先輩方をジト目で見つめていた…。
準備が終わり、全員が席についた。
「てことでぇ、やりますかぁお菓子作り。お腹空きましたぁ。…まあ、ハル先輩に言えば材料なんでも出てくる気もしますけど」
「……」
いつもなら名指しされると何か反応をする春織だが、今日は名前を出されても反応せず、何やらぽーっとしている。
…まあ、春織がムギを無視するのはいつもの事なのだが。
「やっぱなんかおかしいれすねぇ今日は…」
ムギが何かをぼそりと呟いた。
「ところで、何作るんだ?」
誰かさんをいじり倒した後にも関わらずあっけらかんとしている雷先輩が問う。
「ホットケーキと、ポン菓子れす!ホットケーキミックスが余ったらスコーンでもできますかねぇ」
「ポン菓子!懐かしいな…」
「そーれすね!すぅ、昔ポン菓子大好きだったんれすよ…」
雷先輩とムギが何やらポン菓子の思い出について話している。
そんな、いじり倒した2人とは対照的に、いじり倒された、いつも騒がしい2人はじっと黙っている。
私は、表面上、黙っていることにする。
ムギに、少し怒りを覚えているのは事実だし。
…そんな、菊摘春織とか言うな!!
あーもうっ!思い出すだけで恥ずかしくなってきた…。
「えっと…ホットケーキに必要なホットケーキミックス、卵、牛乳、あたりはあそこの机に置いておきました…ポン菓子に必要なお米、サラダ油、砂糖はその隣の机です…」
「フライパンやボウルなどの必要な道具はそれぞれの机に。それからトッピングに使えそうなものはホットケーキの材料と同じ机に置いてあります。作り方をスクリーンで映し出しておきました。参考にしてください」
偉夜ちゃんとすばるちゃんの優等生コンビは、私たちがぎゃあぎゃあしている間にここまでしてくれていたようだ。
スクリーンに映し出すって…流石である。
因みにうちの部室には黒板に貼る
…てゆーかすばるちゃん…優秀すぎないか?
ホントに6年生?
本当に…入部テストとかどうでも良いから入部してほしい。
それは不平等だからやらないけど…。
「じゃあ、グループにでも分けますかぁ。ホットケーキ班とポン菓子班みたいな」
ムギがそう言うと、
「それがいいと思います」
と、すばるちゃんも賛同。
「どうしますか…3:3…?」
偉夜ちゃんがそう聞くと、ムギと雷先輩は、まるで前から話し合っていたかのように答えた。
「いーやっ」
「4:2でやろーぜ」
そう答えた2人は私と菊摘を見つめてニヤニヤしていた。
「…ってちょっ!二人とも何企んでるの!?」
この空気に耐えられなくなった私は、ついに声を発した。
「いや?何も企んでませんけどぉ。もしかしてハル先輩、期待しちゃったんれすかぁ?」
ムギのその言葉に、雷先輩がこくこくと頷く。
「なんにも期待してないわ!ただ、なんで4:2なのかなーって思っただけで!!!」
「俺も疑問だっ!4:2にする必要はねーだろ!3:3でよくねぇか!?…さっきからなんなんだよお前らなぁ…」
2年生ペアがぎゃあぎゃあと反応する。
「べっつに…な?あれだからだよ…うん」
自問自答して満足すな雷先輩。
「そうそうあれがあれであーだからあれなんれすよね」
意味分からないことを言うなムギ。
あれがあれでも訳分からないわ。
「あれだよ…うーん…あ、」
雷先輩は何かに気がついたようだ。
…いや、あ、ってなんだ、あ、って。
理由が合って、最初から4:2にしたかったんだよね?
「2:2:2で良くね?パンケーキ係とポン菓子係と片付け係」
いやいやいや方面転換すな!!
「じゃあ2:2:2でお願いしますぅ」
と言って、偉夜ちゃんとすばるちゃんに向かって、ぺこりと頭を下げるムギ。
「え…わ、分かった…澄傘ちゃん…」
そう言いながら偉夜ちゃんは、ちょっぴり照れたように、右手で前髪を撫でるように触る。
ちょちょちょっ!?偉夜ちゃんまで乗り気にならないで!?
…偉夜ちゃんは理学部のTheまともで控えめであるが、たまに乗り気になることがある(主にムギの提案に)。
そんな時はいつも決まって、少し照れた顔をしながら前髪を撫でるのである。
「ほら、偉夜も言ってるし。2:2:2でやろうぜ〜」
ニヤニヤとしながら雷先輩が私と菊摘を見つめる。
「「はあぁ……」」
二人揃って俯いて、ため息を吐いたのだった…。
結局グーチョキパーで2人ペアを3つつくった。
私は菊摘と一緒。
これまでの流れからして、あの2人によって仕組まれていたのは明らかである。
恐らく直前に他の2人にも協力を呼びかけたんだと思う。
レシピを調べると言ってスマホを弄っていたのはそういうことだろう。
…だってスクリーンにレシピが示されてるんだもん。
はあぁ…いつの間にすばるちゃんとメッセージアプリのID交換してたのよ…。
「じゃあすぅとすばちゃんはパンケーキ係やります!」
「すばちゃん…?…はい。やります」
しかもムギはすばるちゃんとペアである。
自分だけ年下の女の子と仲良くしようとするとか、ずるいと思うよ?
私にも後輩女子を愛でる権利をくれ。
「俺はポン菓子がいい」
菊摘が何かを言っている。
知らないけど。
「そう」
私は適当に返事しておく。
「ノリが悪いれすねぇハル先輩。ごめんなさいって。盛り上がっていきましょうよぉ」
「別に…」
なんもない、と言おうとして、ふと言葉を止めた。
…折角の機会なのだ。
今日はすばるちゃんも来てくれている。
部長が盛り上がらずして誰が楽しむのだ。笑うのだ。
こんなこと如きで俯いていてどうする。
決まったことはどうにもならない。
現状を受け入れて楽しまなければ。
「…ごめん」
ムギに対して小声で呟き、私は立ち上がる。
「ポン菓子係やりますかあ!そーと決まれば、頑張って作ろ!さく!!」
私が大声で宣言した瞬間、さくは顔を下に向けて、机に伏せ、誰にも見えないように両腕で覆うのであった…。
因みにだが。
春織は先程、名言のようなことを考えていたのだが。
なぜ落ち込んでいたのかは分からない。
そんなに菊摘とペアになるのが嫌だったのだろうか。
…可哀想に…(他人事)。
また、なぜいきなりあだ名で呼び始めたのかも不明である。
本当に、何故なのだろうか…。
ムギはすばるちゃんとペアを組めてご機嫌である。
「すばちっ♪ふわふわなパンケーキの作り方知ってる〜??実はね〜」
なんて、タメ口で話していた。
普段、後輩にまで(荒れた)敬語を使うムギがタメ口とは、相当テンションが高いのであろう。
「はあ。ポン菓子なんて、どーやって作るのよ」
「俺も知らねーよ。…前に書いてあるだろ」
スクリーンを指し示しながらさくが言う。
私の独り言にわざわざ突っ込んでくるな。
「えーっと?『今回は油で揚げる方法を紹介します』…揚げ物なんてやったことないんだけど…」
「多分なんとかなるだろ。『①米を炊き、乾燥させます。お米は既に炊いておきました。実はそこまでの行程で、本来なら2時間半程度かかるのですが、二人の神術で何とかしてください』…は?」
「神術をここで使えと…?」
明らかに酷い作り方である。
でも、お米を炊いておいてくれたのは…まあ偉い。
気が利く子達だなぁ。
通りで、ポン菓子用の机には、既に炊かれたお米が、鍋からほわほわと湯気を出している。
その続きには、『※一応、実際の作り方を紹介しておきます。米を炊いてから、その米を天板に広げ、120℃のオーブンで2時間熱し、水分を飛ばします』と書かれている。
「へぇ…これの水分を飛ばせばいいの?」
(この米の水分を完全に無くす)
心の中で唱える。
すると、次に目を開いた瞬間には、お米の水分はすっかりなくなり、鍋には代わりにカラカラのお米が入っていた。
「よし」
「やっぱりすげーな…」
さくは関心したような目でお米を見つめる。
私じゃなくてお米を、である。
ここは重要である。
「じゃあ次!『②お米を揚げます。まず、鍋に油を入れ、190℃に熱して下さい。お米が入っている鍋を使ってもらって構いません』じゃあ次はさく、よろしく」
「お、おう…」
何故か顔を赤く染めながらさくが応える。
鍋から一旦お米を取り出して、すぐそばに用意されていた大きめの器に入れ、鍋をコンロの上に置く。
少し押し込みながらツマミを回すと、火がついたようだ。
「んで?油を入れればいいのか?」
「そーいうことじゃない?」
「分かった」
さくは、机の上に置かれていたサラダ油を手に取り、蓋をパチンと開け、とぽとぽと鍋に注ぎ込んだ。
「このくらいでいいか?」
「うーん、多分?」
私もさくもよく分からぬまま調理(?)を進めていく。
さっきの神術は調理の一つの行程として捉えていいだろう。
二人とも椅子に座って、ただ鍋を見つめる。
「お〜!ありがとうすばち♪ちょっと生地舐めてみる?」
「え…じゃあ、一回だけ」
「…はい!」
「え…?」
油がゆらゆらと揺れ始めた。
「今何度?」
「110℃を少し超えたところ」
「まだまだだね…短縮できないの?」
短縮できないの?=神術使ってよ、である。
「一応はな」
「えっ、じゃあやってよ」
「は?」
私はそんなさくを少し上目遣いで見つめる。
男子にお願いする時の女子の特権。
結局男子はこういうことをされたい生き物だ。
「…っ!?……もう…しゃーねーな…この油の温度を3秒後に190℃まで上げろ」
3、2、1。
「やったぞ」
「ナイス。…なんで3秒後なのよ」
「構える時間ができるだろ。なんか起こるかもしれねーじゃん」
「私構えてなかったんだけど?…まあいいけどさ……なんもなかったし。んーと、それで?『③網に乾いた米を入れ、網ごと油に沈めます。5〜10秒でご飯が弾けて揚がります』…これで完成?」
「だな」
おっ、遂に最後の行程。
どうやらパンケーキ係は作り終わり、片付け係に片付けを委託していちゃついているようだ。
…ムギ、後でどーなるか分かってるよね?
すばるちゃんを独占するなっ!!
「…春織……('-' )」
「ちょっ、さく!そんな目で見ないでよ!?」
「…なんか、愛に飢えてる人がリア充を見つめる目だったぞ」
その言葉はグサリと私の胸に刺さった。
非常に酷い。ムギよりも。
「もーっ!!!なんb…」
「ナンバー取り消し。余程愛に飢えてんだな…」
「…なんばーさんじゅ…」
「ナンバー取り消し。辞めろって。冷たくなってきてるぞ。早く作ろうぜ…」
「…ん」
確かに、今から作らなければいけないのは本当のことである。
仕方なーく、さくの言うことを聞こうではないか…。
「えっと?この米を油に沈めればいいのか?」
そう言ってさくは、米の入った器を持ち、直接、油に入れようとする。
「ちょっ、違うって!」
私はさくの片腕をパシリと掴んだ。
さくがふっとこちらに視線を向ける。
その直後。
「あつっ」
私の指が、たまたま鍋に触れてしまったのである。
私は慌ててさくの腕を離し、もう一方の手でその指を押さえる。
じわりと痛みが広がる。
鍋に触れた部分が赤い。
軽い火傷を負ってしまったようだ。
「気にしないで。…この網を使わないと、米が鍋に沈んで取れなくなるからね」
私は押さえていた方の手を離し、網を人差し指で差す。
「んな事よりも…手、見せろ」
「いいって。自分で治すから。……No.10」
私がそう唱えると、赤くなっていた指の赤みが引いていく。
さくは、その様子をただ無言で眺めていた。
No.10を、さくはよく知っている。
だから彼は何も言わない。
…少し解説すると、No.10は私自身の身体的な怪我を治癒するものである。
かすり傷から骨折、がんまで、幅広く。
自分の器官や組織の細胞を『複製』するのだ。
「…じゃあ、私がやっちゃうね!ええっと…こう?」
私は、網の持ち手を軽く持ち、その上に、乾燥した米を適度に乗せる。
そしてそれを、ゆらゆらと揺れている油の中へと沈めていく。
約7.6秒後。
米がパチンと弾け、ポン菓子らしき物が油の表面に浮かんできて…
「これは…!」
私は思わず微笑んで、さくを見る。
さくも私を見て、頷き返す。
「やった…!!」
私はポン菓子を網ですくい上げ、天板に乗せたキッチンペーパーに、コンコンとしながら乗せる。
油がキッチンペーパーに吸い込まれ、広がっていく。
初めてできたポン菓子は、少しきつね色で、少し不格好な形で、コロコロと転がっていた。
「じゃーあー…」
(この、自分で『つくった』ポン菓子を複製。大きさは変えず、粒の数を30倍で)
心の中で唱える。
すると、油が染み込んだキッチンペーパーの上に、不格好なポン菓子が、山になって複製された。
どれも似たり寄ったりの形である(複製したものだから、色形、全く同じものが31個はないとおかしいのだが)。
「複製っていいよなー…」
さくが、私の方を、少し羨ましそうな目で見つめてくる。
「じゃあ…って!」
「ん?」
「普通にお皿の中に複製すれば良かった…」
「…」
さくは無言で、キッチンペーパーを両手でそっと持ち上げ、ざっとお皿の中にポン菓子を移した。
「ありがとう。…でももうちょっと大きいサイズの入れ物が欲しいかも…」
と私が呟くと、さくは無言で、バケツサイズの大きな器を持ってきた。
…水上置換で使うやつ…。
「もうちょっとかなー…」
もう一度呟くと、次は大きな袋を持ってきてくれた。
「ありがとう。これを1000倍複製するね」
器に入ったポン菓子を指し示しながら言う。
さくはこくりと頷いた。
私は、器に入ったポン菓子のうちの1粒に、ちょんと触れる。
(自分が『触れた』ポン菓子の山を、この袋内に1000倍にして複製。条件は前複製と変わらずに)
そう唱えると、目の前の袋が、唐突に膨らんだ。
中には、袋がはちきれんばかりのポン菓子が詰まっている。
「…成功?」
「…多分」
「やったあ…!!」
私はさくに、自分の両手のひらを向ける。
さくは戸惑いながらも、私と同じようにし、手を合わせてくれた。
パチン、と心地よい、かわいた音が響く。
私は歯を出して、にっと笑いかけた。
それに、同じように笑い返して答えるさく。
「…作りすぎじゃね…?」
雷先輩は、困惑の視線で、袋を眺めていた…。
「「いっただっきまーすっっっ!!!」」
「いただきます」
「いただきます…」
「…」
「…( . .)"」
お皿に盛られたポン菓子と、ふわっふわのパンケーキを見て、私とムギは、早速食べ始めた。
ポン菓子には、塩、醤油、砂糖、チョコレート、蜂蜜、きなこ、シナモンシュガー、ココアパウダー……など、色々なフレーバーを用意した。
…エナジードリンクに浸してみたりね?
パンケーキも大量に複製して、1枚を6等分に。
…6等分って、感覚じゃ難しいんだけどね?
さくの神術を使えば、パンケーキを切る角度、60°も可視化出来ちゃうんだって。…羨ましい。
そこに蜂蜜、チョコソース、メープルシロップ+バター…などの味や、苺やバナナ、ブルーベリーなどのフルーツやアイスを。
そしてそして、気になるお味は…?
「「おいひい…っ!!!!」」
2人揃ってパンケーキを頬張りながら、叫ぶ。
「ほらっ、すばちもいよたんも!!」
と言いながらムギは、お皿をぐいっと反対側に座っている2人に差し出す。
男子組は、ポン菓子をちびちびと食べていた。
既に自分の分を確保したらしい。
私は、フォークに刺さっているパンケーキをぱくりと一口で食べると、まずは砂糖でコーティングされたポン菓子を手に取った。
口に入れると、懐かしの味がふわりと口の中に広がる。
私は、頬を緩ませて、満足気に大きく首を振った。
どうやらあの2人も、礼儀正しくフォークとナイフでパンケーキを口に運んでいる。
微笑ましくあの二人を眺めていると、雷先輩に声を掛けられた。
「…春織。さっきから思ってるけど、こんな大量のシロップやら粉やらフルーツはどっから出てきたんだ?」
「元々から全部あったよ?」
私はあざとく、人差し指を立てて口に当て、こてっと首を横に傾ける。
「はあぁ…また複製か…」
さくの大きなため息と呆れた声が、部室に響いた。
そんな夜のお菓子パーティーは、わいわいと盛り上がっていた。
…私のスマホから、私を呼ぶ機械音が流れるまでは。
お久しぶりです、甘鷺千鶴です.ᐟ.ᐟ.ᐟ
最近はTwitterばかりのよろしくない生活を送っております。
夏休み!!!!
なのに私は部活と文化祭の準備に追われて毎日学校へ通っております…
皆様、熱中症にはならないよーに!
今回はお菓子もぐもぐしただけ