No.3
ミレニアム懸賞問題。
10の6乗。
葉桜が散る頃だ。
輝和学園2年1組。
教室には、甲高い笑い声。
ふざけて戯れる男子達。
誰かの神術の仕業なのか、ペンが数本浮いている。
そんな中、私は、教室の隅、廊下側の一番後ろで、静かに本を読んでいた。
『理学全書』───全拾弐巻。私の愛読書である。
黒い表紙に、金色で刻まれた題名。
厚さは1冊で平均約5.64cm。
縦33.3cm、横20.0cm。
まるで魔術書のような怪しい本。
今読んでいるのは第壱巻。数学の話である。
まあ、もう、何周目か分からない程読んでいるから、内容は完全に把握しているが、やはり面白い。
学校の授業でやることは、簡単すぎるのだ。
しかも私は、前世でも同じような授業を受けている。
流石に飽きる。
だがしかし、この本にも問題はある。…古いのだ。
時代に伴って新しく発見されるもの___例えば素数や円周率なんかは発行当時のものである。
だからどんどん新しい版が出てくる。
全ての版を買い揃えようとすると、お金はどんどん減っていく。
一応私は学生だが、幸変組織で活躍すれば、年齢に関係なく金が貰える。
そう、幸変組織では、年齢は関係ない。
実力が全てなのだ。
だから私は、金が大量に貰える。
Sクラスだから。
それにもかかわらず、私には金がない。
研究費用は学校から山ほど出るのだが、それでも足らないのだ。
何故なら私たち理学部は、すぐに部室を破壊してしまうから。
うちの部室は、校舎とは別の場所に、ぽつんと小屋のように存在する。
私が部活を作る際に、顧問になってもらった2年A組、つまり私の担任の若屋先生が手配してくれた。
若屋先生は、20代の、フレッシュな感じの教師だ。
歳が近く、授業も分かりやすく面白いため、私以外からも人気がある。
顔もそこそこ良く、悩みも親身になって聞いてくれるため、親からも評判が良い。
担当教科は化学である。授業内容はいつも実験ばかり。
しかも、私が初めてやるような実験もしてくれる。楽しい。
…まあ、どう考えても中学生が習うことではない実験ばかりなのだが。
話がズレたが理学部の部室は、屋根がすぐに飛んでいく。
確か初めに壊したのは私。
炎を複製する実験をしていたら、間違えて上に放ってしまい、ぼわっと。いってしまった。
それから4回はやった。
誰かが。
…そろそろ部活行こうかな?
さっき2限目が終わったばかりだが。
私には、というか理学部部員全員には、特別許可が降りていて、授業を受けずに部活をしても良い。
Sクラスがいることや、幸変組織から、アブソリュート、理学部というグループとして依頼されることが多いこと。
そして理学部部員は、将来的に、後世に残る開発をする可能性が高いからだそうだ。
もうひとつ、許可が降りている部活があるが、それはまたその時に話す。
嫌でも話す時はやって来るから。
次の授業は……出た、数学。
中年男が教科書を長々と読み上げるだけの、どちらかといえば歴史に近い感じである。
つまらないので部活に行こうと思う。
やはり先程の私の考えは正しかった。
私は本を閉じて立ち上がり、荷物をまとめて教室を出た。
「またれすかぁ、ハル先輩」
時計を見ると、私が部室に入ってから、5時間程度が経過していた。
ちょうど、授業が終わった時間のようだ。
部室に入ってきたのは一人の少女。
小さくて可愛らしい身長。
まるで子犬のように丸くて大きな瞳。
栗色のふわふわした長い髪を、高いところで2つに結んでいる。
私は、軽く手をあげる。
「授業さぼっちゃダメなんれすよぉ、はぁ…」
小麦原澄傘。
彼女は自分のことを「すぅ」と呼び、私の事を『春織』という名前から「ハル先輩」と呼んでいる。
私は彼女の事を『小麦原』という名字から「ムギ」と呼んでいる。
そして彼女は、Aクラスの神術者。
神術名は『金属使い』。
その名から分かる通り、金属を操る神術だ。
変形、操作…なんでも彼女におまかせあれ。
いつか刀鍛冶にでもなれるんじゃないか…という少女である。
因みに彼女はそういうのに全く興味が無い。
…話を戻して。
彼女は私のように、何も無いところから金属を生み出すことはできないため、どこかに保管しておく必要がある。
そのため部室の外の小屋には㎦レベルの多種多様な金属保管庫があり、そこに金属たちは厳重保管されている。
特に水銀保管庫は頑丈(水銀は人体に有毒だし、液体だから…)で、正体不明の物体からできている。
…彼女が生まれた時に腕で抱え込んでいた謎のケースである。
彼女は元々『水銀使い』だったそうだ。
初めは少量の水銀しか扱えず(というか水銀を入手することができなくて、水銀体温計のほんの少しの水銀だけでやっていたとか)、応用性もないためCクラスだったが、彼女の努力で多様な金属を扱えるようになったそう。
また、私が水銀と、水銀保管庫を複製しまくり(水銀は有毒だが、髪の毛1本でも触れれば複製可能なのが私の神術である)、多くの水銀を扱うこともできるようになった彼女は、Aクラスにまで上り詰めた。
彼女がAクラスであるのは、金属自体を扱うことができるからだけではない。
酸化物、硫化物…。
金属原子が含まれているものは、全て扱うことが可能だ。
…ちなみに彼女は、生まれつきの神術であった水銀が大好きで、水銀を、その元素記号「Hg」から「ハグちゃん」と呼び、犬のように扱っているのだとか。
自覚のないPSYCHOPATHである。
そんな、逆鱗に触れたら水銀で殺してきそうな小麦原澄傘は、理学部の一員だ。
貴重な女子部員である。
私のひとつ年下で、1年生。
エースの1人だと、自分の事を豪語していた気がする。
…本当かもしれないけど。
「ハルせんぱーい。聞いてますかぁ?…ダメれすねぇ、これは…」
彼女の話し方に疑問を感じた人もいるかもしれない。
彼女の「れす」は「です」の意味である。
滑舌が悪い訳ではないが、何となくそっちの方が可愛いから、らしい。
語尾を伸ばすのも同様の理由で。
「どもー…」
ムギに続いてまた誰かが来た。
まずその人を見て視界に飛び込んでくるのは、金髪だ。
そして少し目付きが悪いが、質の良い顔立ち。
前髪をかきあげながら入ってきた彼の名は、柚木雷。
「ライせんぱーい。ハル先輩が無視してきますぅ…」
「いつも通りだろ?」
「そうれすけどぉ…」
雷先輩は、ムギと同じAクラス。
神術名は『運動エネルギア』。
彼は、ただ位置エネルギーを減らし、運動エネルギーを増やすだけでなく、力学的エネルギーを増やして運動エネルギーを増やすことも出来る(つまり位置エネルギーは減らさない)。
運動エネルギーを増やしてできるのは、物体の質量、運動の速さを操ることである。
そこからついた別名は『神速王』。
彼は速さを操ることを最も得意としている。
これは、私たち『アブソリュート』が禍物を倒す上で、最高の神術なのだ!
「雷先輩、こんにちは」
「おう」
「は、ハル先輩!?なんでライ先輩は良くてすぅは無視されるんれすか!?」
「雷先輩、あと1ヶ月くらいで新しい発明品が完成しそうなんです。でも、たまに不具合がおこってしまって…私の実力不足です」
「そうか…俺にできることがあれば呼んでくれ」
「はい!」
「…なんでハル先輩はいつもライ先輩に媚を売ってるんでしょうか…?」
「…」
「だ、だから何か言ってくらさいよぅ!」
私自身、そんな自覚はなかった…。
「こっ、こんにちは…今日もよろしくお願いします…」
続いて誰かが、おどおどとしたか細い声で両手でドアノブを持ち、頭を下げて礼儀正しく入ってきた。
桃色の髪をマッシュヘアーにし、惑星型のキラキラとしたヘアピンをつけている。
一人称は『僕』……。
…成風偉夜。
前に紹介した2人と同じように、Aクラス(というか、そろそろ察する人がいるかもしれないが、理学部には、AクラスとSクラスしかいない。最後の1人もAランクである)。
神術名は『奇跡の医者』。
別名『聖女様』___。
直接戦闘することは殆どないが、その代わりに裏方で怪我人の手当てを積極的に行っている。
輝和学園最高峰の、医者だ。
怪我人を手当てする姿はまさに聖女。
そこからこの別名が付いたのである。
…因みにだが。
この話を聞いて、そちらの世界ではおかしいと感じるかもしれない。
中学生なのに医者?おかしくないか?
免許とかあるのか?任せても大丈夫なのか…と。
結論からいえば大丈夫である。
こちらの世界でも、医者免許というものはある。
…しかし、幸変組織に属していれば、免許がなくても怪我人の治療が可能なのだ。
信頼できなければ、免許を持った医者を探せばいい。
…幸変組織、特に『流星軍』に属した人間は神術者ばかりである。
この世界で、神術は絶対だ。
だから『医者』の神術を持った人間は殆ど、高レベルの技術を持っている。
そこに年齢は関係ないのだ。
……そういうことなので、成風偉夜は、普通に医者の仕事をしている。
「いよたぁんっ!今日も尊いムギの嫁ぇ…」
むぎゅーっ。
「ふえぇ…澄傘ちゃん…く、くるしい…」
「「……」」
とまあ、これが理学部の日常です。
…最後の1人遅くない?
部活忘れてないか?
許さんぞー春織さんは…!
理学部は遅刻厳禁!早く来るのは大歓迎!な部活である。
実際のところ、早く来るのは部長のみだが。
基本ゆるゆるだるだるな部活なので、罰はNo.98くらいで十分かな。
あいつがドアを開けた瞬間にぶちかましてやろう。
(動体視力を複製)
おぉ、ムギが偉夜ちゃんにスリスリしてるのと、それを見て呆れてる雷先輩がスローモーションに見えるぅ。
私の『複製召喚』はとてつもなく有能である。
さっきのように、体力などの元々から持っている力や、髪の毛、身長とかも複製できる。
自分で作り出したものだからね。
無くすことも出来る。
例えばつきすぎちゃった脂肪とかね!!
…うっふ…つまり私はこの世界でチート能力を振りかざして生きていけるのだ!( *¯ ꒳¯*)ドヤッ
「なーんか部長が怪しいこと考えてんなー…」
細い目をさらに細くしてこちらに向ける雷先輩。
いーやっ、怪しいことじゃありませーんっ!
女の子なら普通に考えるような事だもんね!
ガラッ
「なんばーきゅうじゅうはちいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!!!」
ぼわあああああああっ
「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!なんばーとりけしいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!!!まじでごめんなざいはおりざまああぁああああああああああああぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!なにがだめなのかわかんないげどおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!」
「わかんないのはもっとだめだろおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!なんばーきゅうじゅうにいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!!!」
ばばばばばばばああああああああんっ
「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!なんばーとりけしいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!」
「「「…(--;)」」」
……落ち着いたところで。
仰向けで倒れてる奴の説明をしよう。
…あーその前に。
(動体視力の消去。複製前に戻れ)
心の中でそう唱えると、今までゆっくりに見えていたモノの動きが元に戻る。
さて。じゃあ話を(戻したくないが、仕方なく)戻す。
こいつの名は菊摘朔真。
(最悪なことに)私のクラスメートである。
おぇ…(‐д`‐ll)
こいつはいつも教室でふざけて怒られている奴の1人である。
うるさい。本当に。黙れ。って思う。
気持ちが分かる人は多いのではないだろうか…?
ほんとに静かにしてほしいやつ。
でもこいつは何故か、皆に人気なのだ。
男女ともに。
『さく』『さくくん』という愛称で親しまれ、休み時間は皆に囲まれ、しかもモテる。何故か。
ファンクラブなんかがあるくらいだ。(私は入らない。てゆーか入るわけがない)
菊摘の顔がいいという話は聞く。
私はそう思わない。
私的には雷先輩の方が好mi(((
べっ、別に好きって訳じゃないんだからねっ!?
例え菊摘の顔が良いとしても性格が悪いでしょうが。
なんでモテてるの?それって皆顔しか見てな…(((
…話を戻して。
こいつはAクラスだ。
なんか憎たらしいなぁ…。
神術は『数の支配者』。
数を無くす、数を変える…つまり数を操る、という神術だ。
それに加え、後天的に彼が身につけたものとして、数値をすぐに判断することも可能だ。
…えーっとつまり…例えば木の年齢とか。
パッと見では分からないものの数値が分かるらしい。
……そしてこいつは悲しいことに、理学部入部後、努力によって手に入れた『数値がすぐに分かる』という追加された能力で、私とムギにボコされた。
可哀想に。
…女子の体重をね?調べようとするとかね?そーゆーのは分かっちゃダメなんだよ?(*^^*)
…とまあ、変な風に乱用されたりもしているが、パッと聞く限りだと「え?なにそれ最強じゃん、Sクラスで良くね?」と思うかもしれない。
…「お前より強くね?」は私傷つくよ、辞めてね?
彼の『数の支配者』にはいくつかの制約がある。
だから菊摘朔真はAクラスになってしまうのだ。
1.数字を∞にすることは不可能である。
2.世界の定義のような数字を、変えるまたは消すことは不可能である。
3.数字を消す際には×××の××が××××。
特にこの、2の制約のせいで、彼はAクラスと判断された。
『世界の定義のような数字』___。
…それが何なのかは分からない。
でも、1+1=3になる日は来ないし、10<9になることも永遠に無い。
そういうことではないか、と私は思う。
そんな『世界の定義のような数字』までは操ることが出来ないから、Aクラスなのではないか、と。
…気になった人が多いと思うが、3に関しては意味不である。
×が多すぎるんだ。
この×部分は、本人も知らないんだとか。
生まれつき植え付けられていた知識でも、神術鑑定者による助言でも、×は×。
この不明要素がさらに彼をAクラスにする原因となっているのだろう。
…因みにさっきの私の神術、No.98(ガスバーナーの炎をわざと赤色にして大きさを最大にしたもの)やNo.92(カラフルな花火)を唱えた後、「ナンバー取り消し」と言ったのは…そういうことだ。
数字を操ったのだ。
悔しい!…いつものことだけど。
まあ、私が普通に神術を使って炎を出したとする。
その炎は数から出されたものではないから、そのまま炎を受けるしかない。
→火傷などの怪我
そうなると私は殺されるだろう。
『さく様ファンクラブ』に…。
だから手加減してあげるしかないのだ。
ただでさえ同じ部活というだけで、少し部活関係の話をしただけで殺されそう(目が!目が怖いよ皆さん…)なのに、怪我なんかさせたら殺され確定だろう。
…なんでこんな奴が『理学部入部テスト』に合格したんだ、私の個人的事情で不合格にしたかったなぁ…。
でも、私情を持ち込みたくなかったから、公平に合格。
「設立したい」と書かれた部員募集のポスターを作って学校中に貼り、沢山の人が集まってくれたときは嬉しかったなぁ。
その時、理学が好きな人数名に声をかけてくれたのは彼だった。
例えば雷先輩は、菊摘が声をかけた人の内の1人である。
だから…感謝してないことはないけど…。
「…んで、なんでさっきいきなり撃ってきたんだよ、春織?」
は?分かんないの?ばっかじゃないの?
遅刻したお前が悪いんじゃん…。
「は?分かんないの?ばっかじゃないの?遅刻したお前が悪いんじゃん…。なんばーはちじゅ…」
思っていたことがそのまま声に出てしまった。
私がNo.88を唱えようとした時に。
「はい、やめやめ!お前ら喧嘩はやめろ?仲良いのは分かったからさぁ…」
「「それはなぁいっ!!」」
雷先輩、それは絶対ないですよ!??!?!!?!
何言ってるんですk…
「そーれすよぉ。人前でいちゃいちゃしないでくらさぁい」
「「さらになぁいっっ!!!」」
「思いっきりハモってんな…やっぱ仲良いじゃねーか…」
と呆れ顔の雷先輩。
「そーれすねぇ…ほんとに。早く付き合っちゃえばいいのに」
ん?不穏な言葉が聞こえたぞ?
「…澄傘ちゃあん♡後で春織お姉さんと遊ぼっか♡」
「Σ(っ゜Д゜;)っヒッ………ライ先輩だって…」
「ふ・た・り・で・ね?♡」
「誰か助けてくらさぁい…」
がしっ
私はムギの腕をしっかりと掴む。
「こっちこよっか、澄傘ちゃん(*^^*)」
「シンダ…ヘルプミー…」
「頑張れよー…」
「……(´・ω・`;)」
一人、困り果てる偉夜ちゃんであった…。
そして。
「…//」
何故か照れている菊摘がいた…。
読んでくださりありがとうございますm(*_ _)m
お久しぶりです甘鷺千鶴です!
今回からは語彙力が崩壊しています。
(最初からでしたすみません)
語彙力が欲しいな。計算力が欲しいな。
この2つがないのでこの小説が途中から可笑しくなりそうです॑⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝⋆*
神術で科学では有り得ないことを説明しそうです。
「まあそちらの世界では有り得ないと思うが…」
このフレーズ見たことがある…!?
次回は次回は!
4話目です٩(ˊᗜˋ*)و(見れば分かる)
今回は人物紹介ってのが大きかったかなと思いますが、次回はバトルします!(ネタバレ)
良かったら読んでいってください!