終わりの始まり
こんにちは初めての投稿です。
こういう系のジャンルはなろうでは珍しいですが、最後まで読んでもらえたら嬉しいです。
第一章 終わりの始まり
奴らに都合の良い者ばかり見せられ、納得していた無知な自分を嘲笑うかの様な視界。
鼻につく硝煙の匂い。耳に響く子供の泣き声。
今俺は、自分達が無知だった頃の代償を払わなくてはいけない事を悟った。
事実は小説よりも酷なり。
彼は自分の身の丈に合わないリクルートスーツを着て、来たる時まで心臓を震わせながら椅子に座っていた。
絶賛、就職中である彼は中小企業の面接に来ていて、次の番という所である。
学生の時、短距離走で誰しもが味わうであろう、周りの音が脳に雑音として処理され、心臓の無機質な音だけが頭に響く、というあの状態に似たものを彼は覚えていた。
暖房がついていて適温であるはずの室内ですら、彼は寒気を感じる程にである。
防音であるのか全く中の音が聞こえず、どんな様子か、どんな質問がされているのかわからない。
そんな些細な事でさえ、彼を不安にさせた。
「次の方どうぞ」
ここに来てどのくらい経ったのか覚えてはいないが、沈黙から覚めたこの部屋の空気で気が付いた。
自分の番が来てしまった。
「ありがとうございました」
30分に及ぶ闘いが終わりを告げた。
ある記事で見た話だと今時の企業は、コミニケション能力や人柄を重視するようになったとか。
しかしコミニケション障害、いわゆるコミュ障である自分は、その波に乗れるはずもなかった。
心なしか空が曇って見える...
今、そんな事を考えるべきじゃないな。
そうだ、ご褒美として寿司食いに行こう。
ふと、気になってスマホを見てみると、電話が鳴っていた。
しかも非通知。
「怖っ!え?なに!?」
電話を切ってみる。
........しかしまた掛かってくる。
同じ非通知。
全く身に覚えがない。なんだって、ちゃんと有料のやつ見てたからだ。
流石に怖いが一向に収まる気配がないため、出てみる。
『もしもし?川崎だよ。君の先輩の。覚えてる?
「ん?あー先輩ですか...覚えてますよ一応。3年も連絡寄こさなかったからほとんど覚えてませんですがね」
『えーヒドイ。まあいいや。今から3時くらいに、新宿のいつもの場所で落ち合おう。じゃあね』
「え?今から...」
聞き返す間もなく、電話切りやがった。
いつもいつも、自分の都合を押し付けて、少しは人の事も考えて欲しい。
お洒落なシャンデリア、フローリング、そして地味に流れているジャズ。
全体的にレトロな雰囲気漂い、良い味が出ているため、彼が個人的にとても気に入っているためよく利用していた喫茶店。
「お疲れ様です」
「お、秦野くん、お疲れ。てかマジで来てくれんだね」
「自分でも疑うぐらいだったら、呼ばないでくださいよ」
「ごめん、ごめん。まあ今回は、君にいい話を持ってきてあげたから」
「いい話?」
「おっとその前に、聞きたいことがあるんだけど、君は大学で国際政治学専攻で、日本語含めて5各語を喋れるんだっけ?」
「ネイティブは無理ですけど、多少はできます。てかなんでそれ知ってるんですか?」
「いやーよかった。就活で困ってる君に、初任給30万のとってもいいところがあるんだけど入る?」
「ええ!30万!マジですか!そんな好待遇なところが?入ります!」
「そう言ってくると思っていたよ。ちなみに私の会社だからね」
「え?」
「その反応。知らないの?」
「知ってるわけないでしょう。起業してたなんて...」
「大学では有名だったんだけどね。まあいいや、うちの会社、求人サイトとか検索サービスとかを運営している企業でね。最近ネット記事にも手を出したんだけど、芸能人のスキャンダルだけじゃあ味気ないから、国際情勢とかもう少し、性に合った事をしたいなって。そんなわけで採用。この後本社来てね。名前はイーストデータ。本社は自分でググれ」
「いや待って。早すぎません?唐突すぎてついていけません!」
「まず、本社来てから話するから今日中にお願いね」
いつも通りのラフな格好で不良とも形容したい人使いの荒さ。
彼女は何もかもを自分の都合に合うように無理やり調整する。
しかも俺の様なコミ症は特に扱いやすいだろう。断れないのだから。
彼女は自分にとっていわゆる、天敵というものだな。
彼女は本当に起業しているみたいだ。
何せ、あの性格だ。いや、あの性格だからこそ、就職に受からずに起業したのかもしれない。
しかも、結果的に成功しているのだから、世の中、奇妙な事もあるものである。
無駄におしゃれなデスクが並べられ、私服のサラリーマン達が若干、雑談をしながら悠々と仕事をしている姿を見ながら彼は、そう思う。
「採用だから、明日から来てね」
しかも初任給30万という事を考えれば、あまりにもいい話だな。
入社から約一年
信号機の音、車のクラクション、行き交う人々の話し声が事務所に響く沈黙に水を差す頃、事務所内でこんな声が聞こえ始める。
「お疲れ様です」
「お先に失礼しまーす」
所々にヒノキが使われているこの事務所は、傍から見ると誰しもが羨む様であろうが、現実は人手不足だからと人を奴隷として酷使する、クソ会社である。
何せ奴隷として酷使されている俺が言うのだから間違いない。
入社してかれこれ1年経った。
彼は虚ろな目で彼の母国語ではない言葉が使われている会見を翻訳している。
「もう少しで新卒が来るのか」
「今回はどうだろうな」
事務所のどこかでそんな雑談が交わされている。
そんな会話を聞いた、彼は優秀な新卒が来るといいなと思いながら今日で5個目のモンスターを飲み、仕事に従事するのであった。
もう少し、文化的な生活が出来る様になるのは何時になるだろうか。
ある春の日曜日
人材不足が解消され、久しぶりにゆっくりとしようとしていたのも束の間、大学時代の後輩に呼び出された。
「先輩、お疲れ様です」
「お疲れ」
無性に生えた髭を搔きながら、応える。
「あれ?先輩、クマひどくないすか?そして髭も...」
「お前も社会人になったらわかるよ...」
「えぇーわかりたくないです」
「その方がいい」
「それで?疲れているから早く話してくれ」
「そうでしたね。その前に先輩。なんか、とにかくたくさん外国語話せますよね」
「え?またそれ?」
丁度1年前に同じ光景を見た気がする。これはデジャヴってやつか。
「何がですか?それよりもお願いがあるんですけど」
「聞かなきゃダメ?」
「ダメ」
「そんなぁ」
「...実はお父さんが中東で行方不明になったんですよ...」
デジャヴ通りだ。唐突になにかやばい事が起こるというのはこれまでも見てきた。
どいつもこいつも、俺が断れないからって無理を押し付けてきやがって。
「いや、最初から重すぎ。そんな話俺には荷が重すぎる」
「でも、頼めるの先輩しかいないんですよ」
「えぇ...」
「それで先輩に探して欲しいんです」
「いやそれ、あっちの方にある大使館とかそこら辺に頼めばいいじゃん」
「見つからないんです」
「その人達が見つけられないなら俺には無理だよ」
「先輩、あのイーストタイムズの記者でしょ?それなら特派員として志願できないんですか?」
「俺殺す気か?下手したら普通に死ぬんだぞ」
「でも、こんな事できるような人は先輩ぐらいなんです。お願いします!」
そう言って会釈をする。
「.....正直、俺からはなにも言えない。特派員として行ったとしても、許可をもらわないと外に出れないみたいだから。どうしてもって言うなら、社長に直談判してみる?」
「いいんですか?」
「許可だすか別にして、俺からのお墨付きだったら無視はできないと思う。ここまでデカくできたのは俺のおかげだし」
「本当ですか!ありがとうございます!」
イーストデータ社長室
無機質な高層ビルが連なる大阪の街を見下ろす、部屋の床から天井までのガラス張りからの夜景。
応接用の黒いソファーに腰をかけ、自分と藤沢が社長と対面で話す。
「君が秦野くんの後輩、まあ私の後輩でもあるけどね」
「初めまして。藤沢沙也加と言います」
「秦野くんから聞いてるよ。お父さんが行方不明なんだってね。大変だね。それで早速、話を聞かせて」
「お父さんはフリーのジャーナリストでした。それで今、中東で起こってる紛争を世界に伝えると、1年くらい前に中東に行きました。
だけど半年ぐらいした時、ある電話が掛かってきました。
その時、お父さんはもうすぐ死ぬかもしれないと、それと自分の事はなにも調査するな。それだけ言って切れました」
「名前は確か、藤沢正二でしたっけ。丁度半年前にニュースになってましたね」
「はい」
「それで、お父さんの方は探さないでくれと言ってるけどいいの?」
「納得のいかないまま、この件を終わらす事はしたくありません」
「お父さんを諦めきれないと...それ以外のところに調査を依頼した?」
「大使館にはお願いしましたが、見つからなかったそうです。その他の新聞社にも色々と声を掛けたんですけど全部断ってきて」
これはかなり危ない。ジャーナリストの彼が探すなと言っているのだ。
妻と娘を守るために。
「なるほど。いいよ、その話乗ってあげよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「えぇ?」
小声で社長に語り掛ける。
『マジすか?流石に危なくないすか?』
『大丈夫、大丈夫』
「だけどこれは、あくまで私たち個人で引き受けたことだから。それと解決できた証には記事にしてもらうよ。これだけは言っとく」
「わかりました。本当にありがとうございます!」
それからしばらくして、彼女が帰る時、彼女は余程嬉しかったのか、大きくお辞儀をして行った。
「誰が探すんですか?こんな危ない事やる人いるんですか?」
「君以外に誰がいるの?」
「は?」
「それじゃあよろしく」
「待って下さいよこればかりは無理です。殺す気ですか?明らかに殺意ありますよね?俺なんかしました?」
「大丈夫、一生遊んで暮らせるぐらいには手当金だしてあげるから」
「いやダメです。前も金で釣ろうとしてましたけど、今回は騙されません。自分の命は金よりも重いんです」
「無理にとは言わないから危なくなったらすぐ、引いていいから、とにかく、中東特派員行きは決定だから」
「それでも十分危ないですが」
「そもそもこんな事、こっちになにかいい事あるんですか?良いネタが取れるとも限らないのに...」
「見過ごすなんて良心が痛むでしょ?」
「......」
なんで社長に直談判すればいいとか言ったんだろ。
先に事情、聞いとけばよかった。
『当機は間もなく着陸致します...』
中東のある国の空港。
新しい環境に移り、何かとついていけず、憂鬱な日々過ごしざる負えない季節と季節の移り目。
そんな時期の空港は少し空いていた。
通訳として来た彼は、春に入ってから特段何もしていないのに、疲れた体を動かしていた。
あの地獄の時間が原因だろうが。
「なあ、函南くーん。海外は初めて?」
そんな時、特派員の一人である先輩に言われた。
「初めてですけど」
「それなのになんでそんな、外国語を喋れんの?」
「教授がホントにイかれてたんですよ。1日中、レポート書くためにPCに張り付いて海外の文献漁って。いつの間にか覚えていたって感じです」
改めて思うと、大学の頃の経験があってこその今なのだな...2つの意味で。
「そりゃあ大変だったねー。ていうかよく留年しなかったね。今、入社1年目でしょ?」
「入社1年目です。我ながら留年しなかったのは奇跡だと思いますね」
ホテル
高級感あふれる大理石が用いられ、所々にこの国の文化が取り入れられた、少なくても自分たちの様な、しがないサラリーマンには縁がなさそうなホテルであった。
「思った以上に豪華ですね」
「ま、他国の俺らみたいな記者や高官とか、そういう奴らのためのホテルとして作られたからな」
「そんなのがあるんですね」
「貧困地帯と言ってもこの地域ではマシだし、治安も比較的いい方だ」
「それもそうですね」
ロビーとは打って変って、日本のビジネスホテルの様な部屋であった。
高級ホテルからサラリーマン用のものへ。
自分たちの様なサラリーマンとは縁のないホテルに泊まれるって少し興奮気味だったが、下民は下民として生きろってことか。
「調子に乗るなら方がいいな」
しかし、そんな事よりも気がかりなのはあの父親の調査だ。
結局またもや1年前と同じ結果になってしまった。
人が歴史から学ぶものは人は歴史から学ばないという事だけという言葉があったが、全くその通りだった。
「明日は聞き込みか...」
憂鬱な気分であった。
この4年間、ずっとおもりを背負ってるような気がする。
受験生時代も換算すると5年。我ながらメンタル鋼である。
日本とは比べ物にならない日差し。一向に変わらない光景。
どこもかしこも日干しレンガのが使われた、砂の様な色の家。
住宅街を歩いているはずなのに砂漠を歩いている様な感覚であった。
風とうしが良く、比較的に涼しいはずなのに酷いくらいに彼は暑く感じていた。
『フジサワ?あー少し前にそんな日本人がいたわ。だけど最近どっか行ったみたいだけど大丈夫なの?』
『彼は行方不明になっています』
『多分だけどそれ...』
『大丈夫です。わかっててやってます。ご協力ありがとうございました。』
かれこれ3時間聞き込みをしていたが、大きな収穫はなし。
彼が潜伏していたと思われる都市で聞き込みを開始したが、誰もかれもが少し知ってるよ程度。
それよりも思った以上に誰も絡まない。なんなら心配してくれるレベルだ。
次行こう。
『こんにちはー。誰かいますか?』
扉の前で立ち、扉を叩きながら叫ぶ。
『はい...』
出てきたのは165cm程の小柄のアラブ系の男性だった。。
彼はまじまじと自分の顔を見る。
『日本人ですか?』
『そうですがなにか?』
『フジサワを捜しているんですよね』
『なんで知っているんですか!?』
『ちょっと待って下さい』
彼はメモ帳を取り出すと(通信機器を全部だせ。事情はそれを別の場所においてからだ)と書いた。
俺はスマホを取り出しながら言う。
正直言ってかなり怪しい。部屋の中に誘導して殺す気だろうか。
念のため腰に隠し持った、拳銃に手を当てる。
『あなたが日本人だからですよ』
『フジサワとはどういう関係だったんですか?』
『友達でした』
『なるほど』
彼は渡されてた携帯を急いで別の部屋へ移す。
そして家の中に入るように促した。
『なぜ今更?』
『フジサワの娘に頼まれましてね』
『フジサワの?』
『ええ。それで事情とやらを説明してもらえますか?』
『それはこれから見せるもの見てもらった方が早い。』
『あるもの?』
『彼が死ぬ前に残した物です』
と、言って彼はある部屋に入った。
『こっちに来てください』
彼について行く。
部屋はアラブの普通の民家そのものであった。少なくてもテロを企てている奴ではなさそうに思える。
俺は拳銃から手を離す。
『彼が最後に残した映像を映します』
彼は小さな机、例えるならちゃぶ台の様な机の上に置いているパソコンにUSBを差しながら言った。
そして彼が少しパソコンを操作したら、動画が再生された。
『俺の名前は藤沢正二。日本人のジャーナリストだ。』
画面には以前ニュースで見た藤沢の顔とどこかわからないが、アラブ風の部屋が映っていた。
改めて見てみると、娘の沙也加とどこか風貌が似ている。
『今から話すことはすべて事実だ。フィクションではない』
彼は急いでいるみたいで早口で喋っている。
『ここ中東で今起きている合衆国の横暴を話す。
写真もこのUSBの中に入っているだろう。それが証拠だ。これらの映像、写真の提供者は匿名を希望している。
最初に彼らは国際法上認められていない尋問方法を使っている。例えば殴る、蹴るなどを始めとして、裸にさせ吊るすや、水攻め、虫攻めなど明らかに肉体的、精神的な拷問をして、強制させられている。
そしてこれはジュネーヴ条約の第十三条〔捕虜の人道的待遇〕、第十七条〔捕虜の尋問〕などに違反している。
その他にも彼らは民間人や非武装の者を理由もなしに殺したり、レイプをしてる。USBにいくつか映像があるだろう。そして彼らはそれらを隠蔽するためにアメリカの世論で言う、テロリスト集団がやったと偽装工作をしている。』
彼は淡々と合衆国がやったことを話していく。
自分にはその話が嘘のような気がしたし、そうでもないような気がした。
しばらくして、フジサワの話が終わり、男がその証拠写真とやら見せてくれた。
『これが写真です』
そこに映っていたのは頭に覆面を被らされた裸のアラブ人が吊り下げられて、白人がそれを笑顔で眺めている様子であった。
『これは...』
もはや言葉すら出こない。
次は映像であった。覆面を被らされた男が棺桶の様な物に入れられ、ムカデやゴキブリなどの虫をその棺桶の中に入れて蓋をした様子が映され、最後には棺桶の中の男が泣き叫ぶ声が聞こえたところで終わった。
正直、編集には見えなかった。異様に生々しさがあり、本物ではない方がおかしいレベルだ。
自分がこれをさせられと思ったらゾッとした。
『....なぜこれを公表しないのですか...?』
『ネットは奴らに監視されています。ここら辺で下手にネットを使えば位置を割り出ししてくるのです。しかもsnsに挙げたところでAIによって挙がる前に消されます。少なくてもこの国ではできない』
『私にその役目を頼みたいと?』
『日本ならできるかもしれません』
そう言って、USBを突き出してくる。
『世界のためです』
『わかりました。やりましょう』
『そういえば名前は?』
『ハダノです。そちらは?』
『アーキル。そういえばフジサワの娘に頼まれてここまで来たと言いますが、職業は?』
『日本のネット記者で特派員として来ました』
『特派員として?護衛とかどうしたんですか?』
『抜け出して来ました。護衛はついていません。』
『そうなんですか!?早く戻ってください!見つかります!』
『仲間にはちゃんと言ってありますから』
『奴らは携帯電話の位置情報から位置を割り出しくるんですよ!早く行ってください!』
彼はUSBを渡してくる。
『えぇ..わかりました』
ホテルレストラン
ホテルの豪華な中庭を覗ける、横が床から天井までガラス張りの豪華なレストラン。
それはもうサラリーマンが来るような場所じゃなく、世界中から来る大統領や高官のためのレストランであった。
しかし今この地域が危険な状態であるからなのか、人が異様に少なかった。
いるのは、彼らの様な特派員と思われる白人の者ぐらい。
そんな中、彼らは自分達には身の丈に合わないのではあるけれども、社長の川崎に一回ぐらいは会社の経費で行けばいい言われ、どうせなら行こうという事で覚悟を決めて、行こうとしていた。
「俺こんなところ来るの昔、彼女にプロポーズするために行ったきりなんだが...」
「お前独身だよな?」
「察しろ」
そんな雑談をしている時、ホテルの従業員が近づいて来て英語で言った。
『お連れの方が少ないようですが。どうされましたか?』
彼らに戦慄が走る。
『あー、あいつらは誘ったんですけど部屋で食べるから大丈夫だって。あいつら、真面目ですから部屋で記事でも書いてるんじゃないですかね?多分』
『そうですか』
そう言って去っていく。
「なぁ、わざわざそんな事聞くか?」
「聞かないだろ普通」
「勘繰られた可能性が高いな」
「社長に誤魔化してるだけでいいって言われただろ。それで大丈夫だ。なんにもする必要はないだろ」
「それもそうだな」
彼らはご飯を食べることにすら苦労するレベルに緊張していた。
「流石に遠くへ行き過ぎたか...」
徒歩で行ける範囲とはいえ、1時間かかる。無許可で外出したため、迎えは望めない。
彼は汗だくになりながら早歩きで来た道を戻っていく。
どこもかしこも同じ砂の様な色。直射日光も相まって、砂漠のど真ん中にいる様な暑さになったいた。
猛烈な暑さに彼の体が悲鳴を上げ始めた。
「休憩をしよう...」
彼はどこか日陰で暑さをしのげる場所を探す。
丁度、良い感じの路地裏を見つけ急いで避難をする。
彼はそこに座り込み、ため息をつく。そして水筒の水を飲む。
残りもう僅か。あと少しで着くとはいえ心許ない量であった。
『動くな!』
アラビア語でそんな声が聞こえた。
空を見て、たそがれていた、彼は声が聞こえた右の方を見る。
覆面を被った男がAK47をこちらに構えていた。しかも2人。
左の方を見るこちらにも同じ服装、武装をした奴が立っていた。
自分にはこいつらが何なのかわかった。
「合衆国め...」
『手を頭の後ろにつけて跪け!』
ここで諦めて投降しても、どの道拷問されて死ぬだけだ。
俺は腰に隠し持っていた銃に手を当てる....