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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
58/59

処罰

 瑞稀と2人で通常業務をこなしながら結果を待ち始めて、早くも数時間が経過していた。

 窓の外は既に暗くなっていて、屋外で行っている部活動の声も少なくなってきた。


 緊張した様子の沙織をよそに、瑞稀は明日の分の仕事にも取り掛かり始めていた。


「瑞稀さんは、結果が気にならないんですか?」

「気にしてもしょうがないから。

 私たちは生徒会としてそれぞれの処罰を検討したし、私はその内容に納得した。

 あとは智香と千夏先生から校長の最終決定を聞いて、本人たちに伝えるしか仕事は残ってないし。」

「伝えるのも私たち生徒会の仕事なんですね……。」


 いじめの加害者生徒とはいえ、同級生に停学処分や退学処分を伝えるのは、いささか気が重かった。


「沙織も明日の仕事を少し進めていた方がいいと思う。

 明日はあまり仕事をする時間がないと思うから。」

「やる気も起きなさそうですし……進めておきます。」


 沙織も仕事を進めていきさらに時間が経過した。

 ついに外が真っ暗になって、ようやく智香と千夏先生が戻ってきた。


「学校長の許可が降りた。

 生徒会の出した処罰案で最終決定したから、明日の朝、対象者の3人を生徒会室に連れてきて内容を伝える。

 今日は最終決定内容を確認したら、帰宅してくれ。」


 千夏先生は、それぞれの生徒の処分が書かれている用紙の入った封筒を智香に渡すと、智香が自分の机の引き出しにしまい鍵をかけた。

 明日の朝までそこに保管するらしい。


「鈴本果穂、菊地由理恵、佐々本亜美の3名は、明日の朝一に生徒会室に連れてきて停学、または退学等の処分を言い渡す。

 期日は明日の処分を言い渡した時点から有効になる。」

「千夏先生、つまり伝えた瞬間から彼女たちは停学、退学になるって事ですか?」

「そうだ。だから生徒会役員は明日の朝、今朝と同じ時間に登校してほしい。

 生徒会室に荷物を置いたら、昇降口で3名を見つけ次第生徒会室に連れてくるように。」


 千夏先生は淡々と明日の行動の説明だけしていく。


「封筒を開封して内容を伝えるのは全員が揃ってから行う。

 おそらく一限の授業には遅れると思うが、終わり次第、授業に合流する形になるから教科書はしっかり準備しておくように。」


 沙織は一限目の授業に遅れる程度で停学、退学が伝えられる事に驚いたが、既に処分内容は決定しているのだから、何ら不思議はない。

 沙織と違い、智香と瑞稀はすぐに承諾した。


「それじゃあ、明日も早いから今日はもう帰れ。

 流石に疲れただろう。私も疲れた……。」


 千夏先生はあくびをしながら、沙織たちが早く帰るように急かしたてる。

 3人は急いで荷物をまとめて生徒会室を出た。


「明日も朝からで悪いな。とりあえず、あとひと踏ん張り頼む。

 及川もいろいろあって疲れてるだろうから、今日は早く寝るんだぞ。」

「はい、お疲れ様でした。」


 職員室に戻っていく千夏先生を見送り、学食で夜ご飯を済ませると、3人は各自の寮に帰った。


 部屋に戻った沙織は、気持ちを落ち着けるために素早くシャワーを浴びに行った。

 頭に当たるシャワーから出たお湯が、身体の表面を暖めていく。

 数分間ほどその状態のままでゆっくり呼吸を整えていく。

 それほど沙織にとって、同級生に生徒会役員として処分を言い渡さなければいけない事は、多大なストレスになっていたらしい。


『明日で同級生が減るんだ……。

 めぐみを苦しめていた人達だから、全く同情はしていない。

 だけど、どうしても自分が辛く感じてしまうのは、生徒会役員としてのプレッシャーなのかな……。』


 先ほど食べた夜ごはんも相まって影響しているのか、胃袋周辺がキリキリしてなんとなく調子が悪いと感じた。

 千夏先生に言われた通り、疲れが溜まっているのだろう。


 普段ならそこそこにして寝てしまうボディーケアも、何故だか念入りに行ってから布団にくるまって眠った。



 翌朝、普段よりも寝ているはずなのに、なぜか疲れが取れないまま、沙織は生徒会室へと向かった。

 生徒会室では既に、千夏先生が待機していた。


「おはよう及川。

 睡眠不足以外で不調か?」

「おはようございます。

 睡眠は充分取れたんですけど、胃が痛くて……。」

「ストレスだな。

 ほら、これでも食べて少し休んでろ。

 まだ千葉も勝又も来てないからな。」


 千夏先生はご丁寧に、土鍋でたまご粥を作って来てくれていたようだ。

 昨日から沙織の様子をずっと気にしてくれている千夏先生に、感謝を込めて「いただきます。」と言って口に運んだ。


「お粥は胃にも優しいし、たまごは栄養があるからな。

 温かいもので身体の中から温めて、気を落ち着けておけばマシになるだろう。」

「ありがとうございます。

 ……千夏先生って、やっぱり料理上手ですよね。

 結婚のご予定は。」

「無い! 静かに食べろ!

 冗談が言えるくらい元気なら、気を使わなくてもよかったな……。」


 たまご粥を完食し、沙織の身体が温まった頃、智香と瑞稀も到着した。


「おはようございます。」

「おはよう。

 なんかいい匂いする!」


 智香は、生徒会室に漂っていた良い匂いをクンクンしながら歩いて来た。


「私が作ったたまご粥の匂いだ。もう無い。」

「えー!」

「今度、気が向いたらな。」


 智香はいつも通りの立ち振る舞いで、これからの事はあまり気にしていない様子で千夏先生と会話をしている。

 気にしないように、普段通りを心がけているとも感じられる。


「美味しかった?」


 瑞稀はまだ朝早いからか、いつもよりもふにゃふにゃした様子で沙織に味の感想を聞いてきた。


「はい、美味しかったです。」


 沙織の感想に満足したのか、2人は荷物を自分の机に置いて沙織を連れて生徒会室を後にする。


「私は鍋を洗ったらそのまま生徒会室で待機してるから、3人が登校したら順に生徒会室に連れてきてくれ。

 逃げる事は無いとは思うが、一応生徒会室の中まで頼む。」


 千夏先生に見送られ、3人は昇降口にやって来た。

 まだ早朝という事もあり人通りはほとんど無い。


 時間が経ち次第に生徒が登校し始めると、生徒会役員が朝から揃っている事を不思議に思った生徒たちが、探りがてら挨拶をして教室へと向かっていく。

 その様子は徐々に生徒会が挨拶を活性化させるためにしているような状況になっていた。


 大勢の生徒に挨拶を返す事に手一杯になりかけていたその時、目的の人物の1人目が現れた。

 沙織が動くよりも先に智香が動いた。

 目的の人物の前に自ら歩み寄っていき声をかける。


「1年A組の鈴本果穂さんですね?」

「そうですけど……。

 すいません、今から陸上部の朝練があるので通してもらえませんか?」


 果穂の前に立ちはだかるようにして智香は一歩も動かない。


「いやね? ちょこっと生徒会室に来てもらいたいなって。

 陸上部には生徒会から説明しておくから、朝練の心配はしなくて良いよ。

 瑞稀、この子を生徒会室にお連れして。」

「わかった、こちらにどうぞ。」


 智香と瑞稀の圧に押されて、果穂は生徒会室に連れて行かれた。

 先程まで和やかに挨拶をしていた生徒会役員が急に生徒を生徒会室に連れて行った光景は、周りにいた生徒達の視線を集めるには充分だった。

 その場に残った智香と沙織の方を見ながら、あちらこちらでヒソヒソと話しているのが嫌でも目に入ってくる。


「さて沙織ちゃん、気が重いだろうけど続けようか。」

「そうですね……本当に気が重いですけど。

 あと、視線が辛いです。」

「こう言う役回りだからね、生徒会は。

 だけど間違った行動をしていない時には堂々としないといけないよ。

 そうじゃ無いと多くの生徒が学園に不信感を持たせてしまうから。」


 そういうと智香は何事も無かったように平然と挨拶を続けた。


『智香さんのメンタル強いな……私も頑張らなくちゃ。』


 そこからさらに時間が経ち、始業時間まであと10分程になった頃、遠くから残り2人が一緒に登校して来る姿を視認した。

 由理恵と思われる生徒は首からカメラを提げて時々写真を撮っている。

 2人が昇降口前に差し掛かると智香が動いた。

 沙織も今度は智香について行く。


「おはようございます、菊地由理恵さんと佐々本亜美さんで間違いありませんか?」


 声をかけられた2人は顔を見合わせると、由理恵だけ頷いた。


「そうですけど……。」


 生徒会室に先に連れて行った果穂から連絡が行ってないのか、2人は果穂の時と同様に警戒しているのが見て取れた。

 亜美の方は余裕がある顔つきをしているが、どこか無理をしているように焦りも感じる。


「2人とも私たちと一緒に生徒会室に来てくれるかな?

 大切な話があるんだけど。」


 由理恵は持っていたカメラのストラップをギュッと握り、表情が明らかに暗くなった。


『そんな顔するなら最初からやらなきゃ良かったのに……。』


 沙織は口から出そうになった言葉を呑み込み感情を出さないように気をつける。

 周りには他の生徒も多く注目を集めやすいからこそ、生徒会として堂々としなければならない。

 智香の斜め後ろで彼女と同じように背筋を伸ばして2人の顔を見た。


 その姿について行く選択肢以外は無いと悟ったのか、2人は大人しく生徒会室に連れて行くことができた。


「おかえりなさい。」

「ただいま。2人ともそこのソファーに座ってくれるかな?」


 智香の指示したソファーには、先に来ていた果穂が俯いて目線も下を向いて座っていた。

 智香と沙織と同時に由理恵と亜美がやって来たため、顔からは血の気が引いて青白くなっていく。


 全員が揃い千夏先生の指示で智香は例の封筒を引き出しから取り出した。

 そのまま3人の前にあるテーブルに、それぞれの名前が書かれた封筒を並べていく。

 『またこれかよ……。』と言いたげな表情の亜美と、その封筒がなんなのか見当もついていない様子の果穂と由理恵の3人に、千夏先生が説明を始める。


「その封筒にはそれぞれの名前が表に書かれているが、まずは経緯の説明からしていくから聞いてほしい。

 生徒会役員の3人も座って聞いてくれ。」


 千夏先生の指示で沙織たち3人は、呼び出した3人と向かい合うように反対側のソファーに座った。

 そして千夏先生はテーブルの横に立って説明を続ける。


「まず急遽呼び出したのは、君たち3人が行っていた行為について学園、ひいては生徒会から伝える必要のある事項ができたからだ。

 3人は同じ1年A組の伊藤めぐみに対して、とても良く無いことをしていると報告があり、生徒会が調査した。

 その結果、問題ありと判断した。」


 大人しく聞いていた3人だったが、3人の中でも特に問題があると聞いていた亜美がソファーにもたれかかって反論してきた。


「生徒会が調査したって、めぐみが勝手に自分が被害者だって言ってただけなんじゃ無いですか?

 それにめぐみとお友達の人が生徒会役員をやってますし、濡れ衣ですよ。」


『こいつ! マジで腹立つ!』


 嘲笑うようにふざけた事を言い出した亜美に、沙織は嫌悪感を感じ拳を握りしめる。

 そんな沙織をよそに、千夏先生は淡々と話を続ける。


「そこまで言うならちゃんと目を通してもらおうか。

 勝又、持ってきてくれるか?」


 瑞稀は自分の机からノートパソコンとファイルを持ってテーブルの上に広げていく。

 ファイルからは最初のきっかけになった用紙を含め、生徒会が集めた証拠の書かれた用紙が。ノートパソコンからは暴言の数々がスピーカーで流れ出した。


 自分達の悪事が目の前に広げられ、果穂と由理恵は今にも泣き出しそうな顔をしている。

 そんな2人の横で亜美はため息をついた。


「なんだよ、ここまでバレてたのかよ……。

 それで? 何日退学すれば良いんですか生徒会さん!」


 逆切れとしか思えない態度でまるで反省する様子のない亜美は、生徒会室でひとり異様に浮いていた。

 けれどそんな彼女を生徒会が許す事は決して無い。


 瑞稀がノートパソコンをいじると画面が切り替わり、それを見た亜美は隣の2人と同じくらい表情が青ざめていった。


『……遅いんだよ。』


「これは別件として学園に通報があり、生徒会が調査した結果です。

 これは佐々本亜美さんで間違い無いですよね?」


 瑞稀が見せた画面には物を壊したり、万引きをしたり、勝手に敷地内に侵入している亜美の姿が映されていた。


「なんでこんなものが!

 いや……たかがそんな事で、どうせ家で大人しく反省しろとか言うんだろ!」


 自分が今までに無いくらい不利だと悟ったのか、急に喚き散らし始めた亜美に向かって、瑞稀が冷静にとどめを指す。


「そんな事で済まないから今ここにいるんだろ?

 ちなみにわかりやすく説明するからよく聞いて。

 まず、万引きでは無くこれは窃盗罪。

 他人のものを壊したら器物損壊。

 他人の敷地への不法な浸入。

 これら全て学園の規則では無く、法律で犯罪と判断される行為だと認識してもらわないと困る。」


 犯罪と言われてようやく亜美以外の2人も口を開く。


「犯罪って……そこまで大それたことは……。

 私も果穂も少しめぐみに嫉妬してしまって……嫌だったから」

「そうですよ! 私はめぐみが帰宅部に入ってから付き合いが悪くて、由理恵は写真部の先輩と話したかったのに、めぐみがその先輩と仲良く話してて会話に入れなかったから、ちょっかいかけてただけです!」


 それまでひと言も話していなかった智香が前のめりに座り直すと、これまで沙織も感じたことがないほどの威圧を感じるくらい智香がドスのきいた声で静かに吠えた。


「その内容がちょっかいの範囲を出ているから、生徒会室に来てもらっているんだけど?」


 あまりの圧に生徒会室にいた全員が黙り込んだ。

 加害者3人は俯いてスカートの上に乗せた自分の手を見ているようで、3人とも呼吸が浅くなってしまっているのか少し肩が上下に動いていた。


「それじゃあ、自分たちのやってしまったことの大きさをある程度理解してくれたようだし、最初に渡した封筒を開けて中身を確認してもらおうか。

 封筒の中にはそれぞれの処分内容が書かれているから、しっかり目を通して確認してね。

 質問は今この生徒会室でのみ受け付けるから。」


 智香は3人が封筒の中身を確認する様子を眺め、瑞稀は使ったパソコンや資料を片付けていく。

 沙織は瑞稀の手伝いをしながら3人の様子を見ていると、徐々に諦めの表情に変わっていくのがわかった。


『あれだけの事をしておいて、自分がその代償を払う時にそんな表情をするんだ……。

 本当に都合がいい人達。』


「そんな……写真部の除籍と2ヶ月の停学処分?」

「私は今年度の陸上大会全て出場停止と1ヶ月の停学処分。」


 写真部の除籍処分を受け入れられずにいた由理恵は、自身と違って部活動を除籍にならなかった果穂に人が変わったように食ってかかった。


「なんで私だけ除籍なのよ!

 果穂は今年度の大会に出られないだけで、私だけなんで!」

「そんなの私に聞かないでよ!

 私よりも由理恵の方がやばいことしてたって事じゃ無いの?」


 果穂に突き放された由理恵は智香を睨むように視線を移すと、智香はそんな視線に一切動じた様子を見せる事なく淡々と説明だけする。


「とりあえず中を全部読んでからにしてもらえるかな?

 全部の処分にちゃんと理由が明記されてるからさ。」


 智香はそれ以上何も言わずに、3人がそれぞれの処分内容を確認し終わるのを待った。

 沙織と瑞稀も片付けが終了し元の場所に座り待った。


「それで? 何か質問ありますか?」


 読み終わってそれぞれ用紙をしまった3人に対し、智香が質問を聞く体制に入ると果穂と由理恵の2人は首を横に振ってそれぞれ処分を受け入れた。

 そんな2人と違い、亜美は一切反応を返さない。


「2人は無いみたいだけど、あなたはどうなの?

 質問とか無ければそこに書かれた通りになるけどいいの?」


 智香が最終確認としてもう一度だけ尋ねると、亜美は肩を小刻みに動かして笑い始めた。


「私だけ退学処分で終了か……もう手に負えないってことか!」


 亜美はこの後に及んで全く反省していなかった。

 智香はそんな亜美の姿にガッカリした。


「その通りです。あなたはこの学園ではどうする事もできないくらい社会性がまるで無い。

 私たち生徒会は高等部の生徒が学園生活を安全に健全に過ごせるように環境を整備することが活動目的。

 佐々本亜美さん、あなたはこの学園の他の生徒に悪影響を与え、さらに行動に改善の余地がない。

 私は中等部の時にあなたが改善することに賭けて停学処分を決定しました。

 全て無駄だったみたいで残念です。」


 智香はそれだけ言うと千夏先生の方に視線を移し、3人の処分を確定させて生徒会室から退出させた。

 3人の後ろ姿に沙織はようやく終わったと安堵した。

 3人はこのまま自宅に帰り、佐々本亜美はこの学園に来ることは無いのだ。


「それじゃあ、3人とも授業に戻っていいぞ。

 私はあの3人の保護者にそれぞれ連絡するから。」


 千夏先生がもう一踏ん張りだと気合を入れて生徒会室から出ていくと、残された沙織たちも各々荷物を持って各教室に向かった。


 沙織が教室に入ると、早朝の生徒会役員の様子を見て登校した生徒が沙織に話を聞きたそうにしているが、授業中のため大人しく授業に戻った。

 授業が終わると沙織はクラスメイトに囲まれて質問攻めにあった。


「生徒会の仕事でね……。」とだけ言って誤魔化したが、昼ごはんを食べる時に綾乃とめぐみにだけ全てを話した。


「今朝は教室にあの3人がいなかったから……そっか、終わったんだ……。」


 めぐみの安心した表情を見て沙織は自分の行動を肯定して精神状態を落ち着けた。

 智香の言った、生徒が安全に健全に過ごせる環境を整備するのが生徒会だと。その言葉を心に刻んだ。

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