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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
57/59

証拠と苦悩

 放課後、事情を伝えた綾乃と生徒会室にやって来た。

 沙織は寮の自室からまだ瑞稀に渡していない証拠を、綾乃は新聞部の部室に寄ってから改めて集まって生徒会室にやって来たため、智香と瑞稀が先に来ていると思っていたが、2人ともまだ来ていなかった。

 持っていた鍵を使って沙織が生徒会室の扉を開けた。


 生徒会室の中に入ると、綾乃を中央のテーブル前のソファーに座らせて、沙織は自分の机に荷物を置く。


「急に来てもらってごめんね。」

「いいよ、だけど生徒会が動いてくれるなんて思わなかったからびっくりしたよ。」

「私も。

 自分達がめぐみの味方として対抗していればって、それしか頭に無かった。」

「これで解決できる事を祈るよ。

 生徒会が動いて、いじめている人がちゃんとペナルティを負えば、他のいじめ問題の牽制にもなると思うし。」

「そうだね。」


 沙織は綾乃にコーヒーを淹れて渡した。


『そこまでの発想は無かった。

 やっぱり他の人を頼ると、いろんな意見に気づかせてもらえるから、悪いことではないんだ。』


 沙織は持って来た証拠のUSBメモリや、綾乃が最初に見つけた用紙などを机の上に出して確認していく。


「改めてすごい量だね……。」


 ソファーに座っていた綾乃からも、思わず声が漏れる。


「数日で集まったとは思えない量だよね。」


 この証拠によって状況が好転することを願っていると、智香と瑞稀が課題を提出し終えて生徒会室にやってきた。


「お疲れ様、綾乃ちゃんも急にごめんね。」

「全然平気です。今回はありがとうございます。」


 綾乃はソファーから立ち上がると、智香に頭を下げて礼を言った。


「これで全部?」

「そうです。さっき寮から持って来ました。」


 沙織の机の上に並んだ証拠品の数を瑞稀が確認していく。

 瑞稀は確認を終えると、証拠を全て持って生徒会室の奥の扉を開けに行った。


「瑞稀さん、綾乃がいますけど。」

「大丈夫。職員室に課題を提出しに行ったついでに、千夏先生に許可をもらっておいたから。」

「もちろん、私も許可してるから問題なし。」

「そうでしたか、それなら。」

「何の話ですか?

 もしかして例の部屋のことですか?」


 綾乃は中等部で生徒会に所属していたため、防音室のことは知っていたようだ。

 防音室のことも知っているなら、注意事項の説明は省いても問題はないだろうと智香は判断した。


「とりあえず、綾乃ちゃんは今は生徒会役員じゃないから、私たちと一緒に出入りしてもらって良い?

 注意事項は中等部と同じだから。」

「わかりました。」


 瑞稀に続けて生徒会室にいた全員が、防音室に入っていく。


「やっぱりこの防音室は中等部と同じような作りなんですね。

 中等部よりもパソコンとかの設備がすごいですけど。」


 綾乃は防音室のパソコンなどを見回していく。


『そういえば中等部よりも高等部の方がパソコンが多いって言ってたっけ。』


「それだけ高等部の方が、中等部よりも問題が起こりやすいってことなのかもね。

 現に今回のことは、沙織が先に動いてくれていなければ事実確認をするまでにもっと時間がかかったはずだから。」


 瑞稀は早速パソコンを立ち上げると、USBメモリを確認し始める。

 同時に別のパソコンで智香が作業を始める。


「沙織ちゃん、今のうちにこのパソコンにデータを入れてもらっても良いかな。」


 そう言って智香は数枚のディスクを沙織に手渡した。


「これは何ですか?」

「千夏先生からもらってきた、映像データだって。

 千夏先生が来たらすぐに全員で確認したいから見られるように準備しておけだって。」

「わかりました。」


 沙織は受け取ったディスクをパソコンに読み込ませると、いつでも再生できるようにセットする。


「綾乃ちゃんのスマホにめぐみちゃんから連絡が来るんだよね?」

「そうです。家に着いたらめぐみの方から連絡が来るはずです。」

「念の為このコードをスマホにさしてもらっててもいい?

 防音室って電波が悪いから、これを差し込んでおけば電話も通じるはず。」


 綾乃は智香からコードを受け取ると、自分のスマホに差し込んでめぐみからの電話を待った。


「遅くなった、伊藤から電話はきたか?」

「まだ来ていないみたいです。

 千夏先生から受け取ったディスクは、沙織ちゃんが準備してくれてます。」


 職員室での仕事を終えた千夏先生も合流し、全員でめぐみの電話を待つことになった。

 その間、千夏先生が渡したディスクを再生する。

 沙織がボタンを押して再生を始めると、どこかの店の映像が表示された。


「これは例の本屋のおばちゃんから貰った監視カメラの映像だ。

 おばちゃんが不審に思ってカメラの映像を残してくれていた分を、ディスクに保存してもらってきた。」


 映像を確認すると、確かにめぐみが教科書を買っていく映像が撮れていた。

 何度かカメラが切り替わってはいるが、どの映像でもめぐみが教科書を購入していることが確認できた。

 映像に表示されている日付も、沙織がめぐみから見せてもらって写真に撮っておいたレシートの日付とも一致した。


「映像からも、この教科書を購入した生徒は小林で間違いないな。」

「レシートに表示された金額から確認しても、めぐみの支払った金額は万単位でした。

 教科書以外にも、文房具やノートとかも買い直していたみたいです。」


 めぐみが買い直した物のレシートを瑞稀がパソコンの画面に表示していくと、とんでもない数のレシート画像に埋め尽くされていく。

 画面に表示された証拠画像の数に、瑞稀が頭を抱えた。


「これは加害者に請求しても問題はないと思う。

 むしろプラスして貰っても良いくらい。」

「瑞稀の言う通り、これは加害者生徒に賠償してもらわないといけないね。

 ただ、加害者生徒がはっきり確認ができないと、賠償は難しいかな……。」

「それは問題ない。」


 智香と瑞稀の2人が加害者生徒を確認できる方法を模索していると、千夏先生が力強く言い切った。

 そしてパソコンのパスワード画面に何かを打ち込むと、沙織たち生徒会役員の使っていた画面とは、また違う画面に変化した。


「何ですか? この画面。

 初めて見ます。」


 智香が食い気味に聞くと、千夏先生が智香の頭を押さえて説明する。


「これは教職員だけが知っているパスワードを、このパソコンに入力すると表示ができる画面だよ。

 この学園内の監視カメラにアクセスできて、過去半年分の映像も確認できる。

 不審者が入り込んでしまった時の位置確認や、校内で起こった問題に対応できるように設置されているカメラなんだが、今回は必要だと判断したから使うことにした。」


 学園内に監視カメラがあることを初めて知った沙織は、画面を見て驚いた。


「学園内に監視カメラがあったんですか?」

「監視カメラと言っても、火災報知器とか各教室や廊下に設置されているスピーカーなんかと一体化している物だから、ぱっと見は気が付かないだろう。」


 千夏先生の説明を聞いていると、監視カメラに驚いていたのは沙織だけではなかったようで、他の人たちも同様の反応をしていた。

 そして智香と瑞稀の2人は、すぐに情報をすり合わせていく。


「この映像でめぐみちゃんの教科書とかを盗んで行ったりしていることが確認できれば。」

「加害者生徒が確定できる。

 確定できれば、加害者生徒に対して学園から処罰を与えることができる。」


 2人の会話にワンテンポ遅れて沙織の理解も追いつく。


「学園からの処罰ってことは、停学処分とかにできるってことですか?」


 智香が頷くと、千夏先生が映像を確認しながら今後の詳細を説明する。


「それは映像を全部確認してからの判断になるが、可能性は高いだろうな。

 ただ、今回のケースは伊藤の実害が多すぎるから、最も重い処罰として退学処分も検討しなければならないかもな。」

「退学処分ですか……。」


 沙織は加害者生徒が退学処分になる可能性も高いと聞いて、一瞬は心の中でガッツポーズを取ったが、すぐに複雑な気持ちになってしまった。


『加害者生徒が退学処分になるのは全然構わないけど、生徒会として処分を伝えるのはちょっと気が重いかも……。』


 沙織の不安はよそに、千夏先生の操作によって、教室内でめぐみの所持品に手を出していた加害者生徒の映像が集まっていく。

 加害者生徒は沙織たちがめぐみから聞いていた通り、鈴本果穂、菊地由理恵、佐々本亜美の3人で確定した。


 そこまで確認し終えたタイミングで、綾乃のスマホにめぐみからの着信が入った。

 綾乃はスピーカーにしてめぐみと通話を始めた。


「遅くなりました。」

「お帰りなさい。

 今ね、生徒会室でいろいろ確認をしていたんだけど、めぐみの口から改めて説明して貰ってもいい?」

「わかった。」


 めぐみが話した内容を瑞稀がパソコンに入力して記録していき、智香がめぐみに質問を繰り返し、さらに内容を深掘りしていく。

 そして千夏先生の操作によって学園内での映像記録からも、次々に証拠の裏付けがされていく。


 めぐみが全て話し終えると、綾乃がスピーカーをオフにしてめぐみと軽く会話をして通話が終了した。


「及川の集めた証拠と今回集まった証拠で、加害者生徒の処罰を検討する必要があるな。

 小林、今回は来てくれてありがとうな。

 ここからは生徒会で話し合いをしたいから、少し席を外してくれないか?」

「はい。それじゃあ私は新聞部に戻って記事を書くことにします。

 後のことは生徒会にお任せします。」


 そう言って綾乃は沙織に手を振って防音室を後にした。


 生徒会役員と生徒会顧問の4人だけになった防音室で、確定した加害者生徒の処遇の話し合い始めた。


「まずはひとりずつ話し合っていくことにしよう。

 勝又は証拠をパソコンで選択してスクリーンに。及川は加害者生徒の生徒データをパソコンで表示してくれ。

 千葉は各生徒の処罰を用紙にまとめて書き留めておいてくれ。」


 千夏先生の指示に従い、瑞稀と沙織はパソコンを操作してその画面がスクリーンに表示される。

 智香も用紙を数枚取り出し、ペンを持った。


「まずは鈴本果穂から始めよう。

 鈴本の行った行動をひとつずつ確認していこう。」


 瑞稀がパソコンを操作して全員でスクリーンを見る。

 画面が表示されると瑞稀が先ほどめぐみから聞いてまとめた内容も同時に読み上げていく。


「彼女は主に、教室内でめぐみに対して直接暴言を吐く。後ろから背中を叩くなどの行為を確認できた。

 めぐみの所持品には手を出していなかったので、彼女には被害品の賠償をしてもらうのは難しいと思います。」

「いじめ行為には該当するね。

 ただ、瑞稀の言った通り賠償は難しいかも。」


 賠償はあくまでも実際に行動を行なった生徒に請求するらしい。

 続いて千夏先生は沙織の方の画面を見て、普段の様子がまとめられているデータを確認していく。


「及川、鈴本のことはどう書かれている?」

「彼女は中等部でめぐみと同じ陸上部に所属していたみたいです。

 高等部でも陸上部に所属していて、部活動にもしっかり参加していた記録があるので、いじめは教室内での行動のみで間違いないと思います。」


 証拠とデータを基に鈴本果穂の処分が仮決定した。

 仮決定なのは、高等部の校長に最終判断してもらうためだ。


「鈴本は1ヶ月の停学処分としておこう。

 次、菊地由理恵。」


『結構あっさりと決まっていく……。』


 加害者生徒の処罰が思っていたよりも簡単に決定していく状況に、沙織は少し拍子抜けしていた。


「沙織ちゃん、次のデータを出して貰っても良い?」

「すいません! すぐに出します!」


 智香に声をかけられ、すぐに由理恵のデータを表示する。

 画面が切り替わると、先ほどと同じように瑞稀から内容が読み上げられる。


「菊地由理恵は鈴本果穂と違い、直接的な暴言などは確認されませんでしたが、教室内の監視カメラ映像からめぐみの教科書などを盗んで捨てていたり、他のクラスメイトの所持品に誹謗中傷の書かれた用紙を紛れ込ませたりしていたことが確認できました。

 また、誹謗中傷の書かれた用紙に印刷されていた写真も、彼女が使っていた写真部の部員に貸し出されているカメラで撮影されていたことが確認できました。」


 続けて沙織もデータを読み上げる。


「瑞稀さんの言った通り、彼女は写真部に所属していてカメラも貸し出しされています。

 写真部に所属してから写真の編集方法なども教えられているようで、写真部の活動記録には問題の用紙と同じ方法で編集された写真データも残っていました。」


「菊地は学園の部活動の備品を私物化して、それを本来とは違う目的で使用しているということだな。」

「しかも、めぐみちゃんの教科書類を窃盗していたのも彼女ですから、賠償も含めて彼女の処罰は先ほどの鈴本果穂よりも重くするべきだと思います。」


 智香の意見に全員が同意した。


「よし、菊地は伊藤の支払った教科書類の代金の賠償。

 それから、部活動備品であるカメラの私物化と印刷機材や用紙の横領に伴い、写真部の除籍処分。

 そして2ヶ月の停学処分で検討しておこう。」


 想定よりも重い処分が検討されたことで、沙織は戸惑いを隠せなかった。

 智香と瑞稀が納得している中、少し考え込んでしまった。


『部活動の除籍処分てことは、そもそも所属してもいなかったって事になるんだよね?

 というか、1年生は課外活動を必ずしなければいけないはずだけど、この場合はどうなるんだろう。』


「あの、彼女は課外活動はどうするんですか?」

「及川はその校則で生徒会になったから気になるか?

 この場合は強制参加の対象外になる。」

「対象外ですか?

 つまり2、3年生と同じく強制参加ではない?」

「少し違う。2、3年生は課外活動は推奨となっていて強制ではないのは、今、及川の行った通りだ。

 ただ、一度除籍処分を下された生徒は、他の課外活動に参加する意思を示しても、他の生徒や活動自体に悪影響が出ると判断されて、参加許可が降りない場合がほとんどなのが現実だ。

 だから、除籍処分の生徒は参加できないが正しい解釈だな。」


 千夏先生の説明で、除籍処分は相当重い処罰だということを理解した。

 次第に重い処分が仮でも決まっていく流れで、ついに最後の生徒の順番が回ってきた。


「そして最後、佐々本亜美だな。

 勝又、頼む。」


「佐々本亜美は証拠映像や音声でいじめの主犯だとわかりました。

 また、先に出た鈴本果穂と菊地由理恵の2人が、いじめに加担するように唆していた事も確認できました。」


 瑞稀が教室の監視カメラの映像を表示すると、放課後の教室で2人に対していじめを唆している映像が流れた。


「また、沙織の集めてくれた証拠音声に、万引きの強要や金品を恐喝している音声も残っていました。」


 沙織の集めた証拠の音声もスピーカーから聞こえてきて、全員が確認した。


「及川、他には何かあるか?」

「瑞稀さんに渡したデータにまだいくつか音声が入っていますが、どれも同じように恐喝などの内容でした。」

「そうか。学園のデータには何か書いてあるか?」


 沙織は画面を切り替える。

 明らかに前2人とは情報量が違った。


「まず彼女は、中等部でもいじめを行っており、その時の被害者生徒は学園を自主退学していました。

 反省していなく、同じことを繰り返しているのはデータを見た通りです。」


 沙織の話に付け加えるように瑞稀がパソコンを操作すると、また別の資料がスクリーンに表示された。


「これは学園外から問い合わせのあった内容をまとめたものです。

 最近、近隣の商店街のシャッターや看板が破損されていたり、勝手に敷地内を通り抜ける生徒がいると通報を受けていたため、千夏先生が本屋さんに監視カメラの映像をもらう際に一緒に調査した結果、これらは佐々本亜美の行った行為だと判明しました。

 そうですね千夏先生。」


 瑞稀の問いにため息を吐きながら頷くと、千夏先生は今までで一番重い口を開いた。


「佐々本亜美は既に、学園で指導できる範囲を超えている。

 中等部の時から考えても、反省も改善も何もしていない。それどころか悪化している。

 他の加害者生徒である2人を唆した事も考えると、他の生徒へ悪影響が広まる可能性が極めて高い。

 私は、佐々本亜美は退学処分が妥当だと思う。」


 千夏先生は、考えうる中で最も重い処分の退学処分を提案した。

 智香と瑞稀もこれだけ多くの問題行動を起こした生徒には、妥当な処分だと納得した。

 沙織も同じく彼女の退学処分を妥当だと考え、同意した。


「よし、そしたら千葉は今から私と一緒に校長室に行く。

 生徒会で話し合った内容を伝えて、校長に最終決定をしてもらう。」


 智香はメモした用紙を中身が見えないファイルに仕舞い、席を立った。


「勝又と及川は通常業務をして生徒会室で待機しててくれ。

 私と千葉が戻ったら報告をする。」

「わかりました。」


 全員で防音室を出ると、生徒会室は薄暗くなっていた。

 沙織が生徒会室の明かりをつける前に、千夏先生と智香は校長室へと向かっていった。


 沙織は言われた通り、明日香から預かっていた部活動の予算関係の書類を手に、通常業務に入った。

 瑞稀も同様に普段通りの作業を行い、結果を待った。

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