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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
56/59

過去

『花村詩音 (ハナムラシオン) 1年B組

 バスケットボール部所属。(マネージャー)


 ……亜美って人と同じバスケットボール部だ。

 そこで何かあったのかな。』


 沙織は成績欄から備考欄まで画面を飛ばした。


『備考(中等部)

 同部活所属の佐々本亜美が退部した直後、バスケットボール部を退部する。

 退部理由は、佐々本亜美の精神フォローをする為だと顧問に伝えている。

 退部してからは佐々本亜美と行動を共にしており、彼女が問題を起こす際は、隣で止めるように注意している姿が報告されている。

 佐々本亜美の素行不良が悪化し、精神的なストレスを抱え込み始めたため距離を置くように説得するが至らず。

 冬季休み前の試験期間において、佐々本亜美からのいじめ行為が発覚し、休学届を受理する。

 その後、回復する事ができず3月末日をもって自主退学を受理する。


 ……前のいじめの被害者だった花村詩音って人は、私と同じで自分が学校を離れることを選んだんだ。』


 学園の生徒データに保管された情報から、加害者生徒は同じことを繰り返している可能性が極めて高い事が見てとれた。

 それに、加害者生徒は中等部でも同じ事をして停学処分になっていたのに、反省する事なく高等部でも同じ事をしている事実は、めぐみの友人として、そして生徒会役員として見過ごすことはできない。


「及川、何か見つけたのか?」


 画面を凝視していた沙織を心配して、千夏先生が沙織の横に座った。

 沙織の見ていたパソコン画面を見ると、沙織のおでこ中心に指を当ててゴリゴリと押し始めた。


「ちょっと千夏先生!

 急に何するんですか!」

「ここにシワができてたぞ。

 こんな所にシワがあったら、私よりも年寄りに見える。」

「私はまだ15歳、高1です!」

「パソコン画面は少し離れてみないと視力が落ちるぞ。」


 そう言って、また智香の席の方に行ってしまった。


『また力が入りすぎてたのかな……。

 智香さんは千夏先生とパソコンを見ながら話してる。

 瑞稀さんはヘッドフォンをしてるから、多分さっき渡した音声を聴いてるんだろうな。

 瑞稀さん、最初に会った時と同じくらい目力が強くて怖いけど、私と違って冷静な事は見てわかる。』


 沙織は少し首を回して固まっていた箇所をほぐしていると、部屋の灯が1度だけ消えた。


「これって確か。」

「生徒会室に誰か来たみたいだな。

 及川、悪いが出てもらえるか?」

「はい。」


 沙織は教わった通り部屋を出て扉にロックをかける。

 と言っても、扉を閉じただけで勝手に電子ロックの方はかかるようだった。

 念のため扉が開かない事を確認してから、生徒会室の扉を開けた。


「あれ、沙織さんだけ?」

「明日香さん、こんにちは。」

「こんにちは。生徒会に各部活の予算関係の書類を持って来たんだけど、渡しても大丈夫?」


 明日香は結構な書類量を持って来ていた。

 それを持って帰らせるのは酷な話だ。


「もちろんです。私が責任を持ってお預かりします。」

「それなら、お願いします。」


 明日香から書類を受け取り、自分の机に置いて確認する。


「私はまだ授業があるからこれで。

 そうだ、智香達のクラスの子からの伝言もお願いできる?」


「いいですよ。」

「午前中の授業の課題は今日中に提出して欲しいと、教科担当の先生から言われたからって。」

「わかりました、伝えておきます。」

「仕事頑張ってね。」

「ありがとうございます。」


 明日香は次の授業に遅れないようにと、少し早歩きで教室に帰っていった。


 生徒会室の扉を閉めて、沙織は受け取った書類を自分の机の中に保管する事にした。


『予算関係の書類だから、鍵がかけられる引き出しにしまってと……。』


 引き出しにしまって、奥の部屋に通じる扉のロックを解除すると、扉は再び開いた。

 自分の学生証でも開けられる事を確認して、沙織は部屋に戻った。


 部屋に戻ると、沙織に行くように頼んだ千夏先生が、誰が何の用件で尋ねて来たのかを確認する。


「誰だった?」

「経理部の明日香さんでした。

 各部活の予算関係の書類を持って来てくれたみたいです。」

「そうか、書類はそのまま及川と勝又で処理を頼む。」


 瑞稀も一旦手を止めて頷くと、そのままパソコンの画面に視線を戻して作業に戻る。

 音声データの確認が終了したのか、瑞稀はヘッドフォンを装着しなかった。


「わかりました。

 えっとそれから、明日香さんから智香さんと瑞稀さんのクラスの方からの伝言を預かりまして。」


 沙織はすかさず明日香からの伝言を2人に伝える。


「伝言を? なんて?」


 2人が沙織に視線を戻したのを確認してから、伝言を確実に伝える。


「午前中の授業課題は、今日中に教科担当の先生に提出するようにと。」

「今日中か……瑞稀、放課後生徒会室に来る前に職員室に寄って出す?」

「私はそうする。

 お昼ご飯はちゃんとゆっくり食べて休みたい。」

「それじゃあ、私もそうしよっと。

 ありがとね!」

「いえ。」


 沙織は自分の作業していたパソコンに戻って、改めてフォルダの内容を詳しく見ていく。

 ほとんどが在籍している生徒のデータや、各年度ごとの予算案と決算。あとは行事関連の資料データなどが分類ごとに分けられている。

 先程、明日香が生徒会室に持って来た書類も、沙織達生徒会役員がこのパソコンから入力することになるのだろう。


『生徒会役員って、改めて考えると結構重要な仕事してるんだな……。

 普通の学校なら見ることも難しい、在籍している生徒のデータまで閲覧する権利が有るんだから、当然、問題が発生した際には責任を持って対処するべきだと思う。』


 沙織はパソコン画面に表示されているデータの、重要性を感じ始めていた。

 それに伴って、不安な気持ちが徐々に大きくなっていく。


『だけど、今の私にそこまでの責任は持てるのかな……。

 めぐみがいじめにあっている事を知ってから、生徒会役員の立場も忘れて、自己満足で行動してしまったし、智香さんや瑞稀さんのように行動できる自信がない。

 この部屋に入ってからも、生徒会役員としてって意気込んではいたけど、ただ力が入っただけで、やったのは過去の情報を確認するくらいだし……。』


 沙織はここ最近、少し自分に自信を持っていた。

 生徒会の仕事を覚え、瑞稀や智香から仕事を任せてもらえるようになったり。

 中等部の生徒会役員から、先輩として慕われ始めている感じがしていたり。

 大切な友人のために、自分にできる事を考えて、行動できている。

 そんな自分に自信を持ち、そして思い上がっていた。


 それが実際は、勝手な行動をとって生徒会に迷惑をかけたのだから、思い上がりもいい所だった。

 挙げ句、千夏先生にも気を使わせている状況から、沙織の自信は地に落ちた。

 

 沙織が大きなため息を吐いて落ち込んでいると、作業に集中していた瑞稀が声をかけた。


「沙織、今日はお昼一緒に食べない?」

「今日ですか?」


 ゆっくり食べたいと言っていた瑞稀から誘いを受けるとは思っていなかったが、こんな時にそばにいてくれようとする人の存在はとても大きくて、沙織はつい頼ってしまう。

 この時ばかりは、心から寄りかかりたかった。


「ご一緒します。」


 沙織は綾乃達に連絡を入れて、そのまま生徒会室に戻った。

 生徒会室では智香が鞄を持っていて、瑞稀は智香の事は誘わなかったらしく、移動準備をしていた。


「それじゃあ、私は教室でご飯を食べるよ!

 課題も全部やってあるか不安だし。」

「私も職員室で午後の授業の準備をしておかないといけないから、今日は放課後にまた来る。

 遅くなるかもしれないが、先に進めててくれて構わない。」


 智香と千夏先生が生徒会室を後にして、沙織は瑞稀と2人きりになった。


『瑞稀さんと2人きりになるのって、いつ以来だろう……。』


 ほぼ毎日顔を合わせているのに、2人きりになった途端生徒会室にはなぜか緊張感が漂っている。


 とりあえず、2人は生徒会室のテーブルを向かい合うように挟んで座った。

 瑞稀は横に置いた鞄からガサガサと何かを取り出すと、テーブルの沙織側のスペースにそれを置く。


「瑞稀さん、これは?」

「沙織の分のお弁当。

 朝の呼び出しメッセージを見て買っておいたから、よければ。」

「すいません! お代はいくらですか?」

「いい。今日は沙織とゆっくり話したかったから、その分だと思って受け取って。」

「それじゃあ……いただきます。」


 ぎこちない雰囲気が漂い、さながら初対面の頃のような懐かしい気もする。

 そんな中、それぞれお昼ごはんを食べ始めると、瑞稀の方から会話を切り出す。

 やはり誘ったのは理由があるらしい。


「その……急に誘って悪かったです。」

「そんな、むしろ嬉しかったです。」

「そっか……実は今日は元々、沙織をお昼に誘おうと思ってたの。」


『やっぱり、最近の私の様子がおかしかったからかな……。』


「すいませんでした。

 勝手な行動をとってしまって。」


 やはり生徒会に迷惑をかけてしまったんだと思い、沙織が謝罪をすると、瑞稀は慌てて否定した。


「それが原因でお昼を誘ったんじゃないから。

 その、ちょっと昔話を聞いて欲しかっただけ。」

「昔話ですか?」


 何の話だろうかと疑問に思っていると、瑞稀から中等部の頃の話が語られ始めた。


「私と智香がまだ中等部の2年だったころ、智香は生徒会の副会長をしてたんだ。」

「智香さんは中等部の頃から生徒会役員だったんですね。」


 そこで沙織はひとつの疑問が浮かんだ。

 智香と綾乃の事だ。

 2人とも中等部で生徒会役員だったと聞いていたが、最初に会った時、どこかよそよそしかった記憶があったからだ。


「あの瑞稀さん。

 智香さんと綾乃は同じ中等部の生徒会だったんですよね?

 面識がある割には……。」


 瑞稀は沙織の疑問を予期していたのか、すぐに返答する。


「多分、生徒会の引き継ぎくらいでしか、面識が無かったからだと思う。」

「引き継ぎだけですか?」

「智香が2年から3年に進級する前に、生徒会副会長の仕事を辞退したから。」

「辞退ですか?!」


 智香が生徒会副会長の職を辞退した事は、沙織は初耳だったため、生徒会室に響く大きな声で反応してしまった。


『待って……智香さんが2年から3年に進級するタイミングって、花村詩音さんが自主退学したタイミングと同じ。

 ということは、もしかして……。』


「瑞稀さん、もしかして智香さんが生徒会副会長を辞めたのって、今回のめぐみの件にも関わってる佐々本亜美って人も関わりがあるんですか?」


「大いにあるよ。

 沙織の言った通り、佐々本って生徒が智香が中等部の時に、生徒会副会長を辞退した原因だからね。

 やっぱりそこまで調べてたんだ。

 千夏先生があんな事したから、もしかしてとは思ったけど。

 沙織は調べるのが上手なのかもね。」


 瑞稀の言った『千夏先生がとった行動。』といえば、沙織の額に指を押し当てて「シワが〜。」の事だろう。

 沙織も千夏先生の担当のクラスだから、千夏先生のあの行動は予想外で、いささか驚いた。


「調べることが上手にできても、プラスにならなくちゃ意味はないと思います。」


 思った以上にへこんだ様子の沙織を、瑞稀は自然とフォローしていく。

 手始めに沙織の横に移動した。


「沙織が何もしなきゃ、ただマイナスになるだけの状況だった。

 行動した結果、変化が起こったのならそれはいい事なんじゃないかな。

 少なくとも、めぐみの精神状態はプラスになったんじゃない?」

「そうかもしれませんけど……生徒会に迷惑をかけてしまった事はマイナスです。」


 瑞稀は「しょうがないな……。」と言って沙織の膝に手を置いて沙織が自分の方を見るように仕向けると、沙織の上半身を優しく抱擁した。


「今の沙織は、中等部の時の智香と似てる。

 あの時の智香はひとりでずっと悩んで、全部抱え込んで、最終的には自分だけが責任を取って生徒会副会長を辞めた。

 それが嫌だったから、私は智香のそばにいることにした。

 その時の智香と同じように沙織がひとりで抱え込んでいる、今の状況も私は嫌だ。」


 沙織の肩を掴んだまま、瑞稀は抱擁を解いた。


「さっきもらった証拠は、絶対に無駄にはならないし、無駄にさせない。

 だけど、沙織がひとりで抱え込んでいると、無駄になっちゃうこともある。

 同じような経験をした智香なら沙織の力になれるし、私が2人のそばにいるから、頼って欲しい。」


 沙織の肩を掴む瑞稀の手には、力がこもっていた。

 沙織はめぐみを助ける事に必死すぎて、自分のキャパをオーバーしていた事を、その時自覚した。


「……まだ、頼ってもいいんですか?」

「まだ入学して数ヶ月しか経っていない沙織をひとりにする程、私も智香も、千夏先生だってそこまで薄情じゃない。」


 たったひと学年しか違わない先輩は、沙織にはとても大きくて温かい存在だった。


「それなら、思いっきり頼らせてもらってもいいですか?」

「もちろん。」


 その日の放課後、沙織は準備してきた証拠を全て持ってくる事、生徒会としてめぐみから改めて話を聞く機会を設ける事を約束した。


「めぐみを突然生徒会室に呼び出すと、いろんな意味で良くないだろうから、めぐみが自宅に帰宅してから電話で話を聞く事にしよう。

 それから、綾乃は沙織と中等部に行った記事の関係で話があるって呼び出してもらえないかな。」

「わかりました。」

「なるべく加害者生徒に生徒会が動いている事を悟られないように、今まで通り行動して。」

「はい。」


 沙織は瑞稀の助言に助けられながら、今回の件に生徒会として関わる事に対して、改めて気を引き締めてお弁当を食べ終えた。

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