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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
54/59

助言

 めぐみのいじめに対策を取り始めて、既に4日目に突入した。

 4日目の今日は日曜日で、昨日の夜からあまり睡眠時間を取らずに、綾乃と2人がかりでめぐみから回収したボイスレコーダーのチェックに励んでいた。


 沙織の両親が用意して持って来てくれた荷物には、編集ソフトやボイスレコーダーに使える予備のバッテリー、外付けのパソコンのデータ保存に使えるハードディスクなど、中学の時に両親が沙織のために使っていた道具だった。

 その道具のおかげで、ボイスレコーダーの記録量が増えて証拠になる映像や音声も一気に増えた。


 その一気に増えたデータを整理するため、仮眠から目覚めてすぐ朝から憂鬱な気分になりながらも2人で必死に作業をこなしている。

 日曜日はめぐみが学校に来る予定がないため、データが増えることはないと判断して昨日は、綾乃が沙織の部屋に泊まり込んでデータのバックアップを整理してくれていた。


 あの日以来、夜は沙織の部屋に綾乃がやって来てめぐみと電話をする日々が続いていた。

 自己紹介をしたからなのか、遅い時間になる前に綾乃の事を迎えに玲奈も沙織の部屋にやって来るようになった。


 沙織は「玲奈も部屋にくれば良いのに。」と本人に言ったが、玲奈本人から「可愛い子達をお迎えにあがる王子様になりたいからー。」と言われて断られてしまった。


『わからなくもないけどね? その気持ち。』


 昨日の夜は、わざわざ綾乃のパジャマや布団まで持って来てくれていた。

 沙織はそんな玲奈の事を、密かに『性格イケメン』と呼ぶようになっていた。


 そんな『性格イケメン』の玲奈が持って来てくれたおかずを食べながら、今は絶賛休憩中だ。


「美味しい! さすが玲奈!」


 綾乃は美味しいおかずとそのおかずを作ってくれた玲奈を称賛しながら、ずっと食べている。

 沙織も綾乃と同様に、美味しいおかずを掴む箸が止まらず、黙々と食べ続けている。


「そんなに美味しいって食べてもらえて嬉しいよー。」


 玲奈も美味しそうに食べる2人を見ながら、ちまちまと摘んで食べている。

 そんな玲奈は調理部に所属していて、普段から沙織が学食で食べているご飯を作っていたらしい。

 今日は休日なのに、わざわざ料理を個人的に作って持って来てくれていた。

 料理がそこまで得意ではない沙織からすると、美味しい料理をパパッと作れる玲奈に尊敬の眼差しを自然と向ける。


「料理が得意って羨ましいよ。

 私は結構料理が苦手な方で、レシピ通りに頑張って作っても美味しくならないんだよね。」

「そこは回数をこなさないと難しいかもねー。

 でも続けていれば、綾乃よりは上手になれると思うよー。」


 おいしくご飯を食べていたのに、突然ディスられた綾乃は思わずむせ返ってしまった。


「綾乃大丈夫? ていうか、そんなに料理苦手なの?」

「苦手過ぎて休みの日のご飯とか、取材の時に弁当持参の時は私が作って渡してるんだよねー。」


『綾乃にも苦手なことあるんだ。』


「ゲホッゲホッ……余計なことは言わんでよろしい!」

「いいじゃん、少しは和む事言わないとって思ってさー。」

「和むって……そんな事で和ませてどうする!」


 綾乃が玲奈の頬っぺたを摘んで横にニューっと伸ばしているが、玲奈は全く痛がる事なくむしろ気持ちの良いマッサージを受けているような表情で受け入れている。

 沙織はそんな2人の様子を微笑ましく見ていた。


『私は和んだよ!

 というか、現在進行形で和んでます。ごちそうさまです!』


 玲奈が全く嫌がる素振りも無いため、綾乃は諦めて頬っぺたから手を離した。


「2人とも表情が暗かったから、ちょっとでも和んでくれたようで何より。」

「そんなにひどい顔だった?」

「音声聞いてたんでしょ?

 あんな言葉をずっと聞いてたら、気が滅入っちゃうのは当然っしょー。」


 普段から教室でめぐみと一緒に、暴言の数々を聞いてきた玲奈は沙織たちの精神負担も気にしていたようだ。

 沙織と綾乃は昨日の夜からほとんど寝ずに作業をしていたため、寝不足と精神的な疲労から相当ひどい顔だったらしい。


「少しは休むんだよー?

 2人が疲れていたら、めぐみが気にするでしょ。」


 そう言うと玲奈は食べ終わって空になった皿を持って立ち上がった。


「それじゃ、私は部屋に戻るから。

 また夜になったら綾乃を迎えに来るからよろしくー。」


 玲奈はそのまま沙織の部屋を出ていった。


「まったく、急に来て急に帰って行くとか。」

「おかげでちゃんとご飯も食べて少し休めたし、良いじゃん?

 もう少しで作業も終わるからもう一度気合を入れ直そう。」


 沙織は自分のほっぺを手でパンパンと叩いて気合を入れ直す。

 綾乃も膝を叩いて座り直すと、2人はそれぞれの作業を再開した。


 沙織が音声をパソコンに取り込み、無音の部分のカットなどの編集を行い、編集を終えたデータを綾乃がバックアップを取りデータの保存を行なっていく。

 沙織は音声を最初から最後まで早回しをしながらも全て聞いているため、作業が進むにつれてやはり気分は沈んできてしまう。

 綾乃もバックアップをとっている間だけだが、音声や映像が情報として入ってしまうため、どうしても怒りの感情が募ってしまうようだ。


「あーもう!

 聞けば聞くほど腹が立つ!」


 最後の音声バックアップをとっている時、ついに綾乃の怒りが爆発した。

 沙織の部屋にあったクッションに顔を埋めて奇声をあげている。


「ほら綾乃、お水飲んで。」


 一足先に作業を終えていた沙織は、いつも通り綾乃にお水を飲ませる。

 綾乃の怒りが爆発すると、毎回沙織が水を渡す事がこの作業での恒例になっていた。


「コーヒーのほうが落ち着くんだろうけど、もう夜だから眠れなくなっちゃうと大変だからね。」


 綾乃は一気に水を飲み干すと、バックアップ作業も終了する。


「ごめんね毎回。」

「いいよ、当然の反応だからさ。」


 いじめに対してここまで拒絶反応を示してくれている綾乃に、沙織はますます信頼を寄せる。

 だいぶデータも集まってきており、そろそろ加害者生徒を黙らせる事ができるくらいになったため、明日から反撃に出ようかとも考えていると、玲奈が綾乃を連れ帰るためにやってきた。


「終わったかーい。」

「丁度ね、本当に腹が立ってしょうがない。」

「クラスでも結構派手にやり始めてるからねー。

 学校の外での分も入れると、めぐみの精神はそろそろ限界だと思ってるんだけど、これからどーする感じー?」


 玲奈と綾乃が沙織に意見を求めると、沙織は用意しておいたプランを紙に書いていく。


「まずは証拠の音声を使って正式に抗議する方法だけど、この手段はあまり効果が期待できないと思う。

 大抵の加害者は逆ギレしてさらに状況が悪化するから。」

「それは困る。」

「1番ありえないくらい最悪の結果になりそうだねー、却下ー。」


 沙織はプランに横線を引いて案から外し、次のプランを出す。


「次、証拠を使って加害者の社会的信用度を下げて周りを全部めぐみの味方に引き込む。」

「それも微妙じゃない?

 加害者以外はもう既に味方だから、今更、加害者が周囲の反応を気にするとは思えない。」

「だねー、これも却下ー。」


 沙織の考えた案を真剣に考え直して、次々とボツ案にしていく。


「私が考えた最後の案。

 加害者を証拠を使って退学させる。」


 生徒会で学校と生徒のために活動している自分からでた加害者生徒の退学案に少々驚きながらも、いじめを根絶する1番確実な方法だと沙織は理解していた。

 中学生の時にいじめにあった経験から、立ち直るために沙織のとった行動そのものだったからだ。


『いじめを確実に無くすのは残念だけどとても難しい。

 被害者と加害者を強制的に距離を取らせるのが1番いじめを辞めさせる確実な方法だし、今回のめぐみの状況と私の時とでの違いは学校に味方がいるところだから、この方法は効果が期待できる。

 被害者であるめぐみに味方がいるなら、めぐみが学校から距離を取るのではなく加害者の生徒が学校から離れるべきだと思うし。』


 綾乃と玲奈の2人も、この案にはいい反応を示した。


「私たちも高校生だし、いいんじゃない?

 普通の高校生は問題を起こしたら退学処分になるって聞いたことあるし、生徒会の役員やってる沙織がそう思ってるなら良い判断なんじゃないかな。」

「めぐみの環境を改善するには1番確実な方法だし、いいんじゃなーい。」


 3人で今後の方向性を決めた上で、綾乃からめぐみに話してもらうことになった。


「めぐみによろしく言っといて。」

「うん、沙織も今日はゆっくり休んでね。

 泊まらせてくれてありがとう。」

「バイバーイ。」


 2人が帰って静かになった部屋で、沙織はベットで横になる。

 スマホを取り出して画面をボーッと眺めながら、自分の中学の時を思い出していた。


「私は逃げるしかできなかったけど、めぐみにはこの学校に残ってほしい……。

 そのために今、めぐみには頑張ってもらってるし、綾乃も玲奈にも協力してもらってる。

 さっきは2人に加害者生徒を退学させるなんて言ったけど、いじめで学校が動いてくれるのかな……。」


 沙織が不安に思うのには理由があった。


 自分の中学校ではどんなに証拠を提示して被害を訴えても、重要案件と思われていなかった感覚があったからだ。

 学校側は加害者生徒にも色々あるとか、被害者であるはずの沙織にも問題があったのではと言い出し始めた事があり、それが原因で結果的に被害者であるはずの沙織の方が環境を変える結果になったからだ。


 学校側が動いてくれなかった経験があるからこそ、沙織は証拠集めのために精神を削り自身を奮起していた。

 自分と同じ経験をめぐみにしてほしくない気持ちが先走っている感覚も持っていたが、一度立ち止まってしまうとめぐみを裏切ってしまうと感じ、なおさら自分を追い詰めているのかもしれない。


 自分の精神状態が良くないと認識して、ため息をついていると、眺めていたスマホ画面にメッセージが表示された。

 メッセージは千夏先生からだった。


「千夏先生? 生徒会の連絡かな。」


 ベットから体を起こしてメッセージを確認すると『話があるので明日の朝、生徒会室に集合。』とだけ送られてきていた。

 智香と瑞稀にも送られているようで、生徒会役員に話があるようだ。


 朝からの呼び出しは久しくなかった為、遅れないように早めに寝ることにした。

 パソコンをもう一度確認してから、綾乃に明日の朝は生徒会室に行かなければならなくなったことを伝えて、シャワーを浴びてすぐに布団に入り眠った。



 翌朝、早々に生徒会室に到着した沙織は生徒会の書類を確認していた。

 休み時間に少しでもめぐみと一緒にいられるように、生徒会室にいる時間は全て仕事に取り掛かる習慣ができたからだ。


「これは今日中に終わらせて……こっちは今週中だけど早めに……。」


 沙織が仕事の整理をしていると、智香と瑞稀も生徒会室にやってきた。


「おはようございます。」

「おはよう沙織ちゃん。」

「おはよう。千夏先生はまだ?」

「はい、まだ来てません。」


 智香と瑞稀は荷物を自分の机に置いて椅子に座った。


「話ってなんだろうね。

 私も瑞稀も何も聞いんだけど、沙織ちゃんも知らない?」

「何も聞いてないです。

 昨日の夜に来たメッセージだけで。」


 千夏先生から何の話がされるのか全く予想できないまま、とりあえず人数分のコーヒーの準備をしていると、ようやく千夏先生が生徒会室にやって来た。


「悪いな朝から呼び出して。」

「おはようございます千夏先生。

 早速なんですけど、話って何ですか?」


 智香が早速理由を尋ねると、千夏先生は生徒会室の鍵を閉めて3人に座るように指示を出した。


 生徒会室中央のテーブルを囲う形で4人が座ると、千夏先生は前置きとして沙織個人に向かって「及川は知っていたか?」と言って見覚えのある用紙を取り出した。

 その用紙は沙織が綾乃から見せてもらった、めぐみへの誹謗中傷が書かれた用紙だった。


 瑞稀が用紙を手に取って内容を確認していると、千夏先生と智香が真剣な表情で沙織に詰め寄る。


「どうなんだ及川。」

「沙織ちゃんはこのこと知ってたの?」


 沙織は黙って頷き、知っていた事を認めた。


「最近、隣のクラスの伊藤がうちの教室にいる時間が多かったりしたのはそういうことか?」

「はい。私と綾乃、それから玲奈の3人でめぐみを私たちのクラスに連れて来てました。

 教室にいると辛いと聞いていたので、私たちが連れて来てました。」


 千夏先生は大きく息を吐くと、腕を組んで沙織に向かって諭すように話を始めた。


「あのな及川、これは立派ないじめだ。

 いじめは生半可な対処でどうにかなることじゃない。

 内輪の人間だけで対処しても良い方向に転がるとは限らない。」


 千夏先生の言葉に、沙織は少しだけ驚いた。

 中学の時とは違い、学校側の立場にいる先生からそんな言葉を聞いた事がなかったからだ。


「これは高等部が対処しなければいけない事案だ。

 だから及川の知っている情報は全部、今ここで話してくれないか?」


 智香と瑞稀の2人も、沙織の話を聞く姿勢を見せる。

 心強い見方に沙織はめぐみのいじめを知ってから今までのことを、包み隠さず全てを打ち明けた。

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