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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
52/59

情報

 どうにか、いじめられている事の原因がめぐみにはないと2人掛かりで説得し、これからの対策を検討し始めることができた。

 まず初めに、めぐみに対していじめを行なっている人物の情報から共有していく。


「それで? めぐみに嫌がらせをしている人は誰なの?」


 綾乃からはめぐみを傷つけている人物への怒りが表情や声から伝わってくる。

 めぐみも自分が不当な扱いを受けている事を自覚したため、素直に現状を話せるようになっていた。


「同じクラスの子で、3人。

 鈴本果穂、菊地由理恵、佐々本亜美。この3人なんだけど。」


 めぐみが挙げた3人の名前に対し、綾乃は過剰に反応した。


「ちょっとめぐみ!

 果穂は中等部で同じ陸上部として仲が良かったし、由理恵は元々大人しい子でいじめをするなんて思えないような子じゃない!

 亜美は……想像できちゃうけど、なんでそんな事になったわけ?」

「落ち着いて綾乃!

 とりあえず、ひとりずつ説明してもらってもいい?

 私はあまり他のクラスの子を知らないから。」


『綾乃のこの反応は……何かあるんだろうな。

 特に佐々本亜美って人は……問題がありそう。』


 綾乃に水を飲ませて落ち着かせると、めぐみからそれぞれの人物の話を詳しく聞く。


「まず鈴本果穂から。

 果穂は今、綾乃が言ったように、中等部で私と同じ陸上部に入ってたんだ。

 同じ陸上部の同級生の中では1番仲が良かったと思う。

 私が高等部では陸上部に入部しないって言ってからは、少し距離ができて、ただのクラスメイトくらいの関係だったと思う。」


「少し疎遠になってたってことか……。」

「そういえばこの間、陸上部の取材に行った時に果穂の事を見かけたけど、記録が伸びてないらしくて機嫌が悪かった。」

「そういったストレスも、めぐみにぶつけて発散してるのかもしれない。」


 目の前で綾乃が怪訝な表情をしている。

 そんな事が原因でめぐみを傷つけているのかと、とても不愉快な様子だ。

 しかし、あくまでも仮説の状態なのでそれ以上は突っ込まないで次の人物に話が移行する。


「次は菊地由理恵。

 由理恵は正直なところ、あまり話したことが多くないんだよね。

 由理恵は中等部から入学してきたから、同じクラスになったのも今年が初めてだし、部活動も文化系の部活だったはずだから接点もほとんど無い。」

「ちなみにその由理恵って子は、今は何部に所属してるの?」


 めぐみは本当にあまり接点が無いのか、部活動がなんだったか思い出すのに時間がかかる。


「えっと……今は確か写真部だったかな?」


 めぐみの反応に、沙織は余計に由理恵って生徒が何故めぐみをいじめているのか想像ができない。


「本当にあまり関わりが無いんだね。

 由理恵って子は、なんでこんな事をしているのか今の感じじゃ理由が想像できないな……。」


 綾乃も沙織の意見と同じで、どうも腑に落ちていないらしい。


「私も由理恵が他の2人と一緒にいる事自体が、よくわからないんだけどね。

 さらにめぐみを傷つけているなんて、中等部の頃の様子からは想像ができない。」


 綾乃は腕を組んで考え込んでいる。

 由理恵との面識がありそうな反応をしている綾乃に、沙織はどんな様子の子なのか質問してみる。


「綾乃は由理恵って子と面識があるの?」

「多少ね?

 文化祭の時だったと思うけど、私が生徒会の仕事で校内を周っていた時、部活毎にやっていた校内展示の作業をやっていた由理恵と少し会話をした記憶があるくらい。

 私もめぐみと同じで由理恵と同じクラスになった事が無いから、あまり詳しくは知らないけど、大人しい子って印象。」


 2人からそれぞれ聞いた印象からも、由理恵は本来の様子からいじめる側の人間といった印象は全く感じられなかった。

 そして最後に沙織が1番気になっていた人物の話に変わった。


「最後は佐々本亜美。

 綾乃はもちろん知ってるよね?」

「知ってるもなにも……うちの学年で1番の問題生徒じゃない。

 なんでそんな厄介な人に絡まれちゃったのか……。」


 綾乃が目の前で頭を抱えているところを見て、想像以上に厄介な相手なのかと沙織は少し緊張する。


「その佐々本亜美って子はそんなに問題がある人なの?」


 2人は問題生徒と認識している様だが、沙織は佐々本亜美の名前を初めて聞いた為にそう質問をすると、沙織の質問に綾乃は食い気味で反応する。

 その綾乃の様子からもよっぽどな人物らしい。


「問題多あり!

 有り過ぎて何から話していいのかわからないくらいよ!」


 綾乃に押され気味の沙織は、思わず当事者のめぐみに話を聞き返す。


「めぐみは何でその人に?」

「それがわからないんだよね。

 初等部では何度か同じクラスになった事はあったけど、その頃はまだ問題生徒って感じじゃ無かったし、問題を起こし始めた中等部では同じクラスにならなかったから。

 そもそも、中等部の時の事があったから私もなるべく関わらない様にしていたんだけど。」

「中等部の時に何かあったの?」


 綾乃とめぐみは2人とも少し黙り込んでしまった。


『相当とんでもない事をしたんだろうな、この佐々本亜美って人は……。』


「亜美は……中等部の時にもいじめをしていて、それが原因でひとりの同級生が退学しちゃったの。」


 沙織の想定以上の内容に、思わず言葉を失ってしまった。


「退学したって……そんなに酷いいじめをしていたの?」


 綾乃が暗い表情で頷く。


「亜美がひとりでやっていたらしいけど、校内だけじゃ無くて校外でもいじめをしていたみたい。

 1対1のいじめで、私たち同級生にも気付かれないくらい陰湿ないじめだったみたいで、発覚した時は皆んな信じられないって思ってた。」


 綾乃の話に続いて、めぐみが亜美の事を詳しく説明する。


「その事があったから、高等部で同じクラスになった時はクラス全員が亜美から距離をとっていたんだけど、試験期間の辺りから果穂と由理恵の2人が亜美と一緒に行動をする事が増えてきて、試験期間が終了してから嫌がらせが始まった。」


『まぁ、中等部でいじめをしていて、被害者生徒を退学に追い込んだ人と距離を取るのは普通の防衛策だと思うし、めぐみ以外の人も距離をとっていたのなら、めぐみ一人にいじめの矛先を向けた理由としては弱い気がする。

 あと、急に2人と行動を一緒にし始めたのも気になる……。』


「あまり聞くのは酷だとは思うんだけど、具体的にどんな事をされたのか詳しく教えてもらえる?

 内容によって対策ができるかもしれないから。」


「わかった。」


 自己防衛の手段があるならば、それをするに越した事はない。

 沙織は部屋にあったルーズリーフをテーブルに広げて、ペンを持ちメモをとる体制を整えた。

 綾乃はそんな沙織の横に並び、めぐみが話し出すのを待った。


「まず初めは、教科書を隠されることから始まったかな。

 落書きされて読めなくなったり、隠されたまま見つからなかったりした時は、当日中に本屋さんに寄り道して買い直したりもした。

 課題ができないと困るから。」


 沙織はめぐみの話を聞きながら、メモをとりながら質問をしていく。


「その時のレシートとかは残ってる?」

「一応残ってるよ。

 お小遣いから買い直してるから、お小遣い帳にも書いてある。結構痛い出費額になってきちゃって……あははは。」

「笑い事じゃないでしょ?

 まったくめぐみは……今は誤魔化さないくていいんだから。

 わかった?」

「わかったわかった!」


 めぐみを注意をする綾乃の横でメモをとる沙織に、綾乃はどうしてレシートの有無を聞いたのか質問をした。


「レシートが残っていると、実害が発生している事の証明がしやすいし、いつ教科書とかを隠されたり無くなってしまったのかを明確にしやすいからね。

 やられやすい日時があれば、私や綾乃が教科書を預かって対処する事もできるかなって。」


 綾乃は「なるほどね……。」と言って沙織の書いたメモを見る。


「教科書類を教室に置いていた事も原因のひとつだから、毎日、全教科書類を持って帰ってるんだけど、授業の合間の休み時間とかに私とクラスメイト含めて見ていない時に隠されたり、正直なところ、これ以上の自己防衛は難しいと思ってた。

 授業の直前に無くなった事に気が付いたりした時は、隣の席の子に見せてもらったり、教科書を貸してもらったりしてたし。」


「今日の午後、綾乃に教科書を借りにきたのはそういう事?」

「うん。」

「どうして授業の直前に来たのかと思ってたけど、休み時間中ずっと教科書を探して訳ね。

 言ってくれれば何も言わずに貸したのに……。」

「今日は助かったよ、ありがとう。」


 今日の授業にも支障が出ている事を沙織は再度確認して、メモに書き残していく。


「他にはどう?」

「さっき、教科書を買い直しに本屋さんに寄って行くって言ったでしょ?

 その時に本屋さんの前で『商品を盗んで来い。』って言われた事もある。」


 めぐみの話に綾乃の怒りが一気に爆発した。


「そんなの犯罪じゃん!」


 横にいた沙織の耳がキーンとなった。


「どうどう……とりあえず綾乃はお水を飲んで深呼吸しておいて。

 ごめんめぐみ、続きをどうぞ。」


 綾乃の口元に水の入ったコップを持って行き、強制的に黙らせると、めぐみの話に戻した。


「もちろん断ったよ?

 普通に無視して教科書を買って店を出たら、今度は『その商品を買う事ができる分の金を寄越せ。』って言われた。」


 めぐみの言葉に、綾乃はお水の入ったコップを持つ手に力が入っている様で、指先が真っ赤になっている。

 紙コップだったら原型を留めることなく、握りつぶされているだろう。


 しかし、沙織はそんな綾乃の様子を見て少し安心していた。

 先程めぐみに電話をする前と違って、綾乃が怒りを露わにするほどめぐみの味方でいるからだ。

 いじめられた経験のある沙織からすれば、身近に相談できて、さらに一緒にいじめに対して拒絶反応を示してくれる存在は、とても貴重で絶対的な味方だと思えて安心するからだ。


『全然心配無いくらい、めぐみに寄り添えてるじゃん。』


「まだ他にもある?」

「うーんと……。

 あとは教室で有る事無い事言われたり、クラスメイトの持ち物に変な事が書かれた用紙を入れられたりしてた事もあったらしい。

 今のところはそのくらいかな?

 用紙に関しては3人がやった証拠が無いからってうやむやにされたけど。」


『これのことか。』


 綾乃と沙織は目の前に広げられたままの用紙を見て、まさにこれのことかとため息をついた。


「あれ?

 もしかして2人が気がついたのって、何かを見たり聞いたりしたから?」

「今日は特に様子がおかしいなとは思ってたけど、確証を得たのは綾乃が同じ部屋の子から教科書を借りたら、まさにその用紙が挟まっていたから。」

「課題をやろうとして同室の子に教科書を借りたら、こんな用紙が出てきたから……。

 私もどうしていいのかわからなくて、沙織に相談して今に至るってわけ。」


 2人が気がついたきっかけに納得しためぐみは、その用紙について知っている事を話し出した。


「時々、クラスメイトの誰かの教科書にランダムで入ってる用紙を引くなんて、すごい確率だね。」

「感心してる場合じゃ無いでしょ!」


 感心しているめぐみを綾乃が声を荒げて叱った。


「ランダムで入ってるって事は、バレないタイミングを見計らって適当に入れ込んでいるってことかな……。

 とにかく、今現在ではめぐみに対するいじめの内容はこのくらいあるって事で間違いない?」

「うん、今のところはこれくらい。」


 沙織はメモをとったルーズリーフを手に持ち、改めて内容を見直していく。

 綾乃も横で同じようにルーズリーフに書かれた内容に目を通して、小声で「こんなに……。」と呟いたが、その後すぐに、電話の向こうのめぐみに向かって声をかける。


「今のところって……これ以上悪化しない様に対策しないとでしょ?」


 沙織は早速、綾乃に意見を求める。


「そうだね。綾乃は何か考えがある?」

「そうだな……。

 まず、さっき沙織が言ったように授業の合間時間に教科書とかを隠されたり、落書きされたりする事に関しては、私か沙織が教科書を預かったりして対策するのが確実だと思う。」


 他のクラスメイトが勝手に机を漁っていると大いに目立つため、おそらく加害者の3人はそこまでのリスクは避けるだろうと予想した。


「あとはボイスレコーダーでも持っておけば、教室で有る事無い事言われた事の証拠になると思うから、常に持っておいた方がいいと思う。

 クラスメイトの証言も貰えればもっと確実だけど、それは大丈夫そうだし。

 いくらするのかわからないけど……私もお小遣い出すから買おう!」


 綾乃の言った通り、物証が無いものに関しては自分達で物証を揃えるしか無いと沙織も同じ考えだった。

 そのため、沙織も協力を惜しまない。


「ボイスレコーダーなら、私が持ってるから、明日の朝にめぐみに渡すよ。」


 沙織の言葉に、横で綾乃が驚いた表情で聞き返す。


「沙織はボイスレコーダーを持ってるの?」

「うん、ペン型のやつ。」


 そう言って沙織は机の中からペン型のボイスレコーダーを取り出した。


「全然ボイスレコーダーだとは気付かないくらい、普通のボールペンに見える。」

「カメラも付いてるから、映像も撮れるよ。」


 綾乃はペン型ボイスレコーダーを手に取って、まじまじと見つめている。

 沙織は他に案がないか2人に聞く。


「電池とか確認しておく。あとは?」


 はっとした綾乃もめぐみと一緒に他の案も考え始めるが、ボイスレコーダーのインパクトが大きかったのか、それ以上の案は出なかった。


「本屋さんの前で、めぐみに商品を盗んでくるように言った時の映像でも有れば良かったんだけどなぁ。」

「流石にその時にカメラは持って無かったからね。

 同じような事が起こった時に、沙織が貸してくれるボイスレコーダーに証拠が残ればいいよ。」


 過去の証拠を確保することはできないため、とりあえずは自衛とこれからのいじめの証拠を完璧に抑えるために動く事に決め、めぐみとの通話を終了した。

 めぐみは最後に、改めて2人に「ありがとう。」と言った。


「私はボイスレコーダーのメンテナンスをしてから寝る事にするよ。」

「私も、とりあえず今日は課題を終わらせたらすぐに寝るよ。

 明日からは私も気合を入れないと!」


 学校にいる間だけでも、なるべくめぐみと一緒にいる事を取り決め、綾乃は自室へ戻った。


「さてと……私も気合を入れないと。」


 沙織はルーズリーフを机の中に仕舞い、そのままボイスレコーダーのメンテナンスに取り掛かろうとした時、机の別の引き出しに他にもボイスレコーダーを持っていた事を思い出した。


 探してみると案の定複数個あり、その中で使えそうな物は合計でペン型ボイスレコーダーが2つ、普通のボイスレコーダーが1つの合計3つになった。


「電池の確認と……音声もどのくらい鮮明に録音できるのか確認してっと……。」


 ペン型ボイスレコーダーは2つとも毎日データのバックアップをとって容量を確保する等のメンテナンスをすれば、1台ずつ交互に持っていれば問題は無いだろう。

 普通のボイスレコーダーは寝ている間に充電していれば、日中ずっと電源を入れていても問題は無さそうだし、USBが組み込める仕様になっているので交換すれば容量の心配は無さそうだ。


 沙織は試運転として鞄の中に入れてどのくらいの声が録音できるのかや、ペン型ボイスレコーダーの録画映像の彩度調整を気が済むまで行った。


『絶対にめぐみの力になる。』


 そんな気持ちの沙織には、一切の余念はなかった。

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