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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
50/59

新天地見学

「おはよう沙織。」

「あっ、綾乃。おはよう。」


 部屋を出ると部屋の前に綾乃が通りががっていた。

 沙織は生徒会、綾乃は新聞部。

 各々の活動が朝に無い場合はこうして部屋の前で会うことが多い。


「綾乃、今日は朝の部活動無いんだ。

 てっきり他の取材の準備とかで忙しいから、朝から部活に行ってると思ってた。」

「うん、忙しいといえばそうなんだけど……。

 放課後に中等部に行くことになったでしょ?

 それで朝から部活動をやってたら、肝心な放課後に疲れちゃうからって、先輩達から来るなって言われてね。」

「優しい先輩達だね。」

『言い方は怖いけど。』


 2人は学生寮の玄関から外に出る。

 学生寮から登校している生徒と、自宅から通っている生徒が合流する箇所にさしかかると、2人は少しだけ周囲を見回す。

 めぐみの姿を探すからだ。

 自宅生の生徒もチラホラ目に入るが、その中にはめぐみは居なさそうだ。


「今日はいないみたいだね。」

「まぁ、歩いてるうちに後ろから来るよ。

 早く学食で朝ごはん食べよ?」


 沙織は「うん。」と返して綾乃と歩き出すも、定期的に後ろを振り返ってはめぐみの事を探してしまう。


「気になる?」

「あっ……うん。」

「どうせ朝ごはんを家でいっぱい食べてるんだよ。

 それか寝坊とか?」

「そうかもね。いつも学食で2回目の朝ごはんを食べてたら、食費も凄そうだしね。」

「そうそう。まぁ、休み時間とかには顔見せるでしょ?」


 学食で朝食を食べ終わっても、めぐみの姿は見なかったが、綾乃が放課後の話を振ってくれたおかげで、教室に到着する頃には気にならなくなっていた。


 朝のホームルームが終わると、沙織と綾乃は千夏先生に放課後、中等部に行く事を告げる。


「邪魔にならないよう、気をつけるんだぞ。」

「もちろんです。」


 無事に千夏先生への申し送りも無事に終わり、いつも通りに授業が進んでいく。


 そんな中、めぐみが2人の前に現れたのはお昼時間だった。


「おはよう、2人とも!」

「おはようめぐみ!」


 めぐみの元気な姿にを見て思わず沙織の方からめぐみに近寄っていく。

 沙織から寄っていくとめぐみは腕を広げて優しく抱擁した。

 そのまま沙織の席まで戻ると沙織を椅子に座らせて頭を撫で続ける。


『これこれ! めぐみとのスキンシップが無いと物足りないんだよね!』


 沙織のニヤけた表情を見て綾乃が安心していた。

 どうやら沙織の元気がない事を気にしていたらしい。


「まったく……めぐみが朝から居ないと沙織の元気が半減するからなるべく来てくれると有難いんだけど?」

「ごめんごめん、朝ごはんが美味しくてついね!」


 綾乃は「はー……。」と言いながら午後の授業に使う教科書を机の上に取り出す。

 すると、めぐみは沙織から離れると、席に座っている2人の間に立ち綾乃に向かう。

 次の瞬間、めぐみは腰を90度に曲げた。


「それでなんだけど、綾乃! 教科者貸してください!」


 突然、綾乃に頭を下げためぐみに少々困惑しながらも、目の前にあるめぐみのブレザーの裾をちょんちょんと引っ張ってちょっかいを掛ける。

 普段よりもめぐみからのスキンシップが軽く感じたのか、沙織には物足りなかった。

 しかし、めぐみはそのまま綾乃に教科書を頼んでいた為、沙織は空気を読んですぐに手を離した。


「めぐみ、教科書忘れたの?」

「そうなんだよ……てっきり机の中に置いてきてると思ってたんだけどねー。」


 教科書を学校に置きっぱなしにしていたつもりで忘れてきためぐみに、綾乃は呆れた様子で机の中に手を入れて教科書を探す。


「まったく、沙織はこんな人に教科書を貸しちゃ駄目だよ?

 で? 何の教科書が必要なの?」

「ありがとう! 古典の教科書です!」


 綾乃は「ほら。」と言って古典の教科書を渡した。

 めぐみが受け取ると昼休み終了の予鈴が鳴る。


「恩に着ます!」

「綺麗に返してよ?」


 めぐみは早々と自身の教室に戻っていった。


「まったく騒々しいな。」

「そうだね。」


 午後の授業が終わると、めぐみは約束通り教科者を返して帰っていった。

 めぐみから返ってきた教科書には付箋が貼ってあり、綾乃宛に「またよろしく!」の文字が書かれていた。


「何回借りる気だよ……。」

「まぁ、忘れ物した時くらいならね?」

「謙虚さが感じられ無い。」


 返ってきた教科書の端を握る綾乃の手に、沙織はとんでもない圧を感じる。


「綾乃? 取り敢えず落ち着こうか。」

「そうだね……綺麗に返ってきたし、良しとしよう。」


 その日最後の授業を終え、放課後になると沙織は早速梓にメッセージを送り、智香と瑞稀にも「いってきます。」とメッセージを送った。


「よし、綾乃! 梓ちゃんに連絡しておいたから行こっか。」

「うん。私も準備できた。」


 2人は鞄を持って早速、中等部の敷地へと歩いて向かった。

 中等部側に近くなるにつれて高等部の生徒はほとんど見かけなくなっていき、声も聞こえなくなっていった。


「沙織、ここから中等部の敷地だよ。」

「高等部と一緒で端の方は人が居ないね。」

「敷地が広いからね。

 わざわざ端に来る生徒はそうそう居ないよ。」


 そのまましばらく歩くと、次第に中等部の生徒の姿がチラホラと見かけ始めた。

 中等部の生徒達は沙織と綾乃の姿に少々驚いているようだが、みんな丁寧に挨拶をくれる。


「こんにちは!」

「こんにちは。」


 見かける生徒の数が増えるにつれて、綾乃と面識のある生徒にも出会うようになってきた。


「綾乃さんだ!」

「久しぶり。部活?」

「はい! 今からランニングです。」

「気をつけてね。」

「ありがとうございます、失礼します!」


『綾乃って好かれてるなぁ。

 中等部で生徒会に入ってたって言ってたし、顔も広いんだろうな。ほとんどの生徒が綾乃を見かけると笑顔で挨拶してるし。』


 中等部生徒との掛け合いから、綾乃が相当後輩達に懐かれていたんだと思った沙織は、自分もそんな人望がある先輩になりたいなと密かに思った。


 中等部の敷地も結構広く、待ち合わせ場所の正面玄関に到着した頃には、既に梓と美琴が待っていた。


「お待たせ、結構遠いんだね中等部って。

 敷地も高等部と変わらないくらい広いし、驚いたよ。」

「以前、梓が高等部にお邪魔した時に結構遠かったって聞いていたので、少し時間調節をしてたのでお気になさらずに。」

「2人とも久しぶり。

 梓ちゃんの感覚でよく私たちが到着する時間を想定できたね。

 その辺の感覚は流石だね、美琴ちゃん。」

「綾乃先輩、美琴と一緒に私の話をすると、相変わらず酷いですね。」

「そんな顔しないで梓ちゃん!

 それよりも、私達を案内してくれるんでしょ?

 沙織がすっごく楽しみにしてるから早速案内してよ!」

「そうでしたね!

 沙織先輩! 私達が中等部をご案内しますから、こちらはどうぞ!」


 沙織を案内する気満々の梓をよそに、沙織は美琴と綾乃に目でメッセージを送る。


『取り敢えず、梓ちゃんが変な方向に行き始めたらよろしくね?』


 美琴と綾乃はフフッと笑いながら頷いて了承した。


 靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替えて校舎内に入ると、校舎内の見学も兼ねて、校内で活動している部活動の見学から始まった。

 中等部の部活動は、高等部とは違い、沙織にも馴染みのある部活動が多かった。

 吹奏楽部やパソコン部などの文化系の部活から、卓球部や剣道部などの屋内で活動をする運動などを順番に見学していく。


『高等部では特殊な部活動が多い印象だけど、中等部はそこまで奇抜な部活動はあまり無さそう。

 活動内容も名前から想像できる内容だし。

 でもこんなに沢山の部活動を間近に見たことはほとんど無かったから、結構楽しい。』


 そんな沙織の横で綾乃は時々写真を撮りながらメモを取っている。

 新聞部として取材を任された事もあり、去年までと違う所などに質問したりして真剣だ。


 そして沙織を連れた一行は、校舎内で1番高い場所にある教室にやって来た。


「いらっしゃい。」

「聡美先生!」


 その教室には聡美先生が窓辺に立って待っていた。

 聡美先生の所に集まると、美琴がこの教室に来た目的を話し出す。


「ここで外で活動している部活を説明させてもらいます。

 外の部活は見て回るのが大変なので、ここで各部活の部長、キャプテンから書いてもらった活動内容を元に見てもらおうと思いまして。」

「なるほど、それはいい考えだね。この教室なら敷地もよく見えるし!

 沙織もさっき歩いてきてわかったと思うけど、中等部の敷地も結構広くて、部活動の活動場所も広範囲なんだよね。」

「綾乃先輩の言う通り、実はそうなんです。

 なのでここで大まかに私達から説明しますので、気になった部活には後で直接行ってみることにしましょう。」


 美琴の説明が終わると、教室内に用意していた資料を梓が持ってきた。

 その資料の束を見て、沙織は気がかりに思った事を質問してみる。


「なるほど……この教室に来た意味は理解したよ。ただ、ひとつ先に聞いてもいい?」

「はい、何でしょうか?」

「その資料、わざわざ部長やキャプテンに内容を書いてもらったりした?」


 美琴は梓の持っている資料を指差して「これの事ですか?」と返す。

 沙織が「うん。」と言うと美琴は首を横に振った。


「これは毎年、年度初めに各部活から生徒会に提出される部活動資料です。

 この資料に記載した内容に沿って、各部活は活動することになっているので、その資料を生徒会室から持ってきただけですよ。」


 わざわざ用意してもらった資料じゃ無くてよかったと、沙織は胸を撫で下ろした。


「でも、沙織先輩と綾乃先輩が来るって校内放送でもしたら、きっと全部活動が提出してくれたと思いますけどね。」

「何で?!」


 食い気味で言った沙織に対し、美琴は何の変化もなく、ひょうひょうと返答する。


「協力的な生徒が多いので!」


 梓達中等部組は笑っていたが、沙織はその放送が行われなくて本当に良かったと思った。


 気を取り直して、窓辺に立って梓と美琴に部活動の説明をしてもらった。

 時々、横から聡美先生の補足情報も貰いながら、中等部の部活動説明が終了した。


 校舎内の見学もほとんど終了し、最後に生徒会室に資料を戻しがてら見学してお開きすることになった。

 高等部と違い、中等部の生徒会室は一階にあるようで、並んで階段を降りていく。


『登ってた時は気が付かなかったけど、階段をスリッパで降るのちょっと怖いかも……。』


 スリッパが脱げそうになりながらなんとか一階まで降りると、先頭を歩いていた梓がすぐ近くにある扉を開けた。


「おかえりなさい!」

「ただいま。沙織先輩と綾乃先輩が来てくれたよ!」


 沙織と綾乃が生徒会室に入ると、馴染みの顔が勢揃いしていた。

 案内されるがままに椅子に座ると、すかさずお茶が出された。


「流石に疲れましたよね?

 生徒会室でよければ、少し休んでから高等部に戻ってください。」


 正直なところ、中等部内もとてつもなく広く、さらに慣れないスリッパでの移動だった為、沙織の体は変な所に力が加わっていて疲労困憊だった。

 そのためその提案は有り難かった。


「いただきます。」


 沙織がお茶を飲んでくつろぎ始めると、隣では綾乃もお茶を飲んで生徒会室を見渡していた。


『懐かしいのかな?』


 綾乃の動きに釣られて沙織も生徒会室を見渡してみると、高等部と違って、中等部の生徒会室は至る所に文化祭の看板や運動会で使うであろう小道具なんかが、あちこちにとっ散らかっている。

 そんな生徒会室の中で仕事をしている中等部メンバーの様子を見守っていると、聡美先生も沙織と向き合う形で座り、ゆったりとした時間が流れる。


「さてと、下校時間まであと15分くらいあるけど、どうだった今日の中等部見学は?」



「綾乃ちゃんも、どうだった?

 数ヶ月とはいえ、中等部もどこか変わったでしょ。」

「少しですけ、懐かしいなって思いました。

 生徒会室もそうなんですけど。」

「高等部の生徒会室は入ったことあるの?」

「何回かだけ。

 高等部の生徒会室は綺麗に整頓されているから、ここみたいに行事の道具を目にする機会は無いですね。

 その分、行事の時にどんな看板や道具が使われるのか楽しみではありますけどね。」


 高等部の生徒会室は、瑞稀が智香のように片付けが苦手な人でも片付けができるよう、必要な物だけを置くように徹底しているため、行事の時にしか使わない道具は倉庫にしまって管理をしているらしい。

 おそらく瑞稀が手を加えていなければ、高等部の生徒会室も中等部の生徒会室の様になっていたのだろう。


 沙織は高等部の生徒会室に慣れているせいか、中等部の生徒会室にいると『片付けなくてはいけないのでは?』とソワソワしてしまう。

 綾乃はおそらく高等部の生徒会室に入った時は、今の沙織と同じ感覚だったのかもしれない。


「沙織ちゃんの高等部生徒会としての活躍、中等部にも聞き及んでいますよ。

 こちらの生徒会にも良い刺激になってます。」

「どこからそんな話が?」

「この学園では別の部の先生とも連絡する事があるんですよ。

 その時に高等部の先生から沙織ちゃんの話を聞く事があります。」

「先生同士の話題に上がるなんて……。」


『恥ずかしい……。』


 沙織は恥ずかしさと嬉しさで頬が少し赤らんでしまった。

 そんな沙織に、聡美先生は優しく話しかける。


「良い事で話題に上がるのは素晴らしい事だと思いますよ?

 悪い事での話は意図せずとも一瞬で広がりますけど、良い事での話は話し手が広めたいと思える様な事で無い限り、第三者には伝わらない物ですからね。」


 聡美先生はふふっと笑うと、椅子から立ち上がり中等部メンバー達に声をかける。


「さて、そろそろ下校時間になりますから今日の活動はそのくらいにして、帰り支度をしてくださいね。」


 生徒会メンバーが「はい。」と返事をして片付けをしていく。

 沙織と綾乃は片付けの邪魔にならない様、先に寮に帰ることにした。


「私達もそろそろ帰りますね、今日はありがとうございました。」

「こちらこそ、気をつけて帰ってくださいね。」

「また来ますね聡美先生。

 みんなも生徒会の仕事頑張ってね!」


 綾乃は後輩達に言葉をかけると、案内をしてくれた梓と美琴が近寄って来た。


「綾乃先輩が書いた記事、中等部にも送ってくださいね!

 校舎内に沢山掲示しますから!」

「私も校舎内に沢山掲示します。

 梓だけに任せると偏りそうなので。」

「今日は迷ってないでしょ?」

「取材させてもらったし、久美さんの許可が貰えればね。」


 綾乃が今日の取材で取っていたメモを見せながらそう言うと、新聞部部長の久美の妹でもある真奈美が片付けながら会話に入る。


「お姉ちゃんが私に渡して来ると思うので、心配しなくても大丈夫ですよ。

 絶対に持って来れると思います。」

「それなら尚更、今日の取材を元に良い記事を書かないとね。

 気合い入れなくちゃ!」

「沙織先輩も、生徒会の仕事頑張ってください!」

「ありがとう、みんなが高等部に来る頃には仕事が板についている様に努力するよ。」



 中等部の校舎を出て、綾乃と今日の出来事を話しながら寮に帰ってきた。

 中等部の下校時間に合わせて出て来たからか、高等部はまだ部活動をしている生徒がいる。

 今日は2人ともそのまま寮の自室に戻ることになっており、部屋の前まで一緒に帰った。


「それじゃあ、今日は一緒に来てくれてありがとう。」

「こちらこそ誘ってくれてありがとう。

 良い記事が書ける様に頑張ります!」


 綾乃とも別れ自分の部屋に入ると、智香と瑞稀にメッセージを送った。


『とても有意義な時間でした。』


 2人から『それは良かった、お疲れ様。』と返信をもらい、沙織は気持ちを引き締めて明日の授業までにしておく様に言われた予習という名の課題に取り掛かる。


「まずは最低限、授業の予習をこなしてから、生徒会の仕事にも取り掛からないとね。」


 机に教科書を広げてペンを持った。

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