解散
ワクワクしながら席に座って待っていると、千夏先生と聡美先生が全員が座っている席の前に立った。
先生が前に立つと、全員、背筋を伸ばして黙った。
いよいよ最終問題が出題されるとあって、妙に緊張している沙織達に対して、教師2人は楽しそうに準備をする。
そして聡美先生がニコニコしながら取り出したのは、【目録】と書かれた封筒だ。
「結構本格的な優勝商品にしてみました!」
「私と聡美先生が用意できる物で、結構いい物が準備できたと思うから、頑張れよー。」
優勝商品を目の前にして、沙織達生徒会メンバーのテンションは跳ね上がった。
『たかがレクリエーションのクイズ大会だったはずなのに……。本当にこの学園はすごいな。』
沙織も【目録】と書かれた封筒に目が釘付けにされる。
ここで千夏先生が手をパチーンと叩くと、聡美先生がノリノリで紙とペンを全員に配り出した。
全員がよくわからないまま受け取り終わると、千夏先生が最終問題のルールを説明し始めた。
どうやら前回と違うルールで行うらしい。
「今回は最終問題だから、全員に記述してもらおうと思う。」
誰よりも楽しそうな表情で智香が手を挙げた。
「千夏先生! 正解者が複数人いた場合はどうするんですか?」
「心配は無用だ。その場合は正解者全員に優勝商品を渡す。」
『太っ腹〜……。じゃない!』
「千夏先生! そんなに優勝商品を用意できるんですか?」
「なんだ及川? 全員が正解するのが決まっているみたいな言い方して。
安心しろ。優勝商品は原価ゼロだ!」
『ドヤ顔でそんなこと言わないでくださいよ。』
「原価ゼロって何ですか?」
『ほら! 中学生が興味持っちゃった!』
「まぁ、その辺は……後で聡美先生に聞いてください。」
「ちょっと千夏先生?」
聡美先生がひとつ咳払いをしたところで、ようやく問題が出題された。
「問題! この学園で一番偉い学園長の名前をフルネームで漢字で答えてください!」
「ちょっと先生。その問題は難しすぎませんか?」
「最終問題だからな! なんだ勝又、この学園の学園長の名前くらい書けるだろう?」
「フルネームでしかも漢字は……自信無いです。」
「まぁ、物は試しだ! 何でもいいから書いておけ。
まぐれで正解かもしれないぞ。」
『そんなの無理だろ。』
沙織はペンを走らせ書き終わると、紙を伏せて待った。
「よしっ。全員書き終わったな。それじゃあ解答オープン!」
紙を表に出して聡美先生が提示した正答と照らし合わせる。
「沙織ちゃん……正解してない?」
智香がぼそっと言った一言で、沙織の周りにたちまち集まった。
「本当だ。沙織すごいね!」
「進学先を決める時、学校パンフレットを貰ったんですけど、そこに書いてあった記憶が微かに残ってたみたいです。」
「そんなのあったっけ?」と生徒会メンバーが顔を見合っていると、千夏先生が思い出したように「あ〜、あの外部向けのパンフレットか。」と言った。
聡美先生も「学園内にも置いてあったから、みんなも見ていれば正解できたかもね〜。」と笑って言った。
千夏先生は納得した様子で沙織の頭を撫でる。
「完璧な正答だな。他に正解者はいないみたいだし、優勝は及川で決定だな。」
沙織に全員から拍手が送られる。
そのまま全員の前で千夏先生から【目録】と書かれた封筒を受け取った。
「優勝商品はなんですか?」
「気になるなら開けたらいいだろう。優勝したんだから。」
『もう開けていいんだ。』
沙織はゆっくりと封筒を開くと、中から【許可証】と書かれた首下げストラップが出てきた。
「これって何ですか?」
「これは学園の生徒職員が、他の敷地内に入ることを許可する許可証だ。
日付けは決まってるが、その期間内なら中等部だろうが大学だろうが自由に出入りしていいことになってる。
立ち入り禁止区域はダメだけどな?」
「それって、結構お宝アイテムじゃないですか!」
「期間は今月末までの長期間に設定してあるから、ゆっくり見学してみればいい。」
「沙織先輩! 是非ともその許可証を使って中等部生徒会に来てください!
みんなで待ってますから!」
梓をはじめ、中等部メンバーが嬉しそうにしている表情を見て、折角だからと沙織は頷いた。
「その時は案内してくれると嬉しいな。」
「私が案内します!」
案内を買って出てくれた梓には悪いが、一瞬、沙織の表情が引き攣った。
『梓ちゃんって、確か方向音痴だったような?』
沙織の思考を察知したのか、美琴がすかさず梓の前に立ちはだかってくれる。
「梓ひとりでは案内しませんので、安心してください。
最低でも私が付いてます。」
「ありがとう、美琴ちゃん。」
「さすがに中等部はもう迷わないよ!」
「どうだか? 沙織先輩を案内してる間に迷ってる事が容易に想像できるけど?」
「美琴に同じく。」
『うわっ。美琴ちゃんも奈々ちゃんも容赦無い。』
「とりあえず、これで生徒会の交流会は全日程は終了。
全員楽しめたようでなによりだ。」
千夏先生はそう言って少し嬉しそうだ。
「さてと。それじゃあみんな、忘れ物がないようにしてくださいね。
千夏先生、私は戸締まりの確認をしてきますので、うちの子達をお願いします。」
「わかりました。」
聡美先生は自分の荷物を持って、そのまま戸締まり確認をしに向かっていった。
「全員、荷物を持ったら外に出て待ってろよ。
人数確認したら鍵閉めるから。」
各自、荷物を持って外に出る。
外は太陽が照っていてとても明るく、肌が少しだけ焼けるように感じる。
「お待たせしました。戸締まりのも忘れ物も無さそうです。」
「ありがとうございます、それじゃあ鍵閉めますね。」
合宿所の鍵が千夏先生によってかけられ、生徒会の交流会は終了した。
「ありがとうございました。」
「こちらこそ、またよろしくお願いします。」
先生同士で挨拶をしている横では、この二日間で仲良くなれた生徒会メンバーが連絡先を交換していた。
全員と連絡先を交換し終えると、中等部メンバーは聡美先生と一緒に中等部校舎の方へ帰っていった。
「私たちも帰るか。」
「お疲れ様でした、千夏先生。」
智香は鞄から缶ジュースを取り出して千夏先生に差し出す。
「いいのか?」
「要らないなら私が飲みますけど。」
「いる。ありがとな。」
千夏先生が缶ジュースを受け取ると、智香は瑞稀と沙織にも缶ジュースを差し出した。
「いつの間に準備してたの?」
「伊達に沢山の荷物を持ってきた訳じゃないよ!」
得意げに渡してくる智香は、缶ジュースを一気に飲み干していった。
沙織も貰ったジュースを飲みながら歩いていると、高等部の校舎が見えてきた。
「お前達はそのまま寮に戻るんだよな?」
「そうですね、荷物も片付けたいですし。」
「私も、部屋で葉月が待ってくれてるみたいだから、真っ直ぐ部屋に帰ります。」
「及川は?」
「私も荷物を片付けて、今日は部屋で過ごします。
学校パンフレットでも見ながら、優勝商品の許可証を有効利用できるように、下準備でもして過ごしますよ。」
「そうか。それじゃあここで解散しよう。
私も部屋でのんびり過ごすとしよう。」
千夏先生は大きく背伸びをすると「明日からは通常通り、生徒会活動が再開するからよろしく。」と言って軽く手を振りながら帰っていった。
「それじゃあ沙織ちゃん、また明日ね。」
「また生徒会室で。」
「はい、お疲れ様でした!」
2人とも別れた沙織は、ひとりで1学年の寮に向かって歩き出した。
寮に到着して自分の部屋のドアを開ける時、後ろから慣れ親しみ始めた感触で抱きつかれた。
「びっくりした! 驚かさないでよめぐみ。」
「ごめんごめん! おかえり沙織!」
「まったく、めぐみったら……。急に部屋から出て行ったから何事かと思った。おかえり沙織。」
めぐみと綾乃の出迎えに、沙織は笑顔で応える。
「ただいま!」
せっかく来てくれたのだからと、沙織は2人を部屋に招き入れた。
部屋にある本棚は、綾乃に貸した分の漫画が収納されていた場所がポッカリと空いている。
その場所が目に入ったのか、綾乃は漫画を取ってくると言って一度自身の部屋に戻って行った。
「漫画ありがとね! すっごく面白かったよ!」
「めぐみも読み切ったの?」
「昨日も朝から綾乃の部屋に行って、2人でずっと読んでたら読み切っちゃったんだよね〜。」
めぐみは満足そうに言うと、沙織の部屋の床にぺったりと足を伸ばして座った。
「今飲み物持ってくるよ。」
「ありがと〜。」
沙織が飲み物を準備している間に綾乃が戻ってきた。
「ごめんね沙織、漫画楽しかったよ!
貸してくれてありがとう。」
「楽しんでくれて何よりです。」
「棚に戻しちゃって良い?」
「その辺に置いてていいのに。
でも、お願いします!」
綾乃は漫画をせっせと本棚に戻していく。
沙織も飲み物を準備し終え、お菓子と一緒にトレーに乗せて持っていく。
「はい、どーぞ。」
「ありがと!」
めぐみは早速お茶を飲み始め、漫画を仕舞い終わった綾乃もお茶に手を伸ばす。
「そういえば、交流会どうだった?
楽しめた?」
「うん、とっても楽しかった!」
だろうねと言わんばかりの顔で、めぐみはお菓子に手を伸ばす。
「寮の外歩いてる時に、鼻歌でも歌ってるのかと思うくらい楽しそうに歩いてたから、相当楽しかったみたいだね!」
「めぐみ見てたの?!」
「見てなきゃ綾乃の部屋から出ていけないでしょ?」
当然でしょ? と表情をしているめぐみを横目に綾乃は呆れている。
「窓開けてそわそわしてると思ったら……。」
「そわそわしてたの?」
「朝から部屋に来たと思ったら、ずーっとチラチラ外を見てるから、めぐみが出て行った瞬間、あっ沙織が帰ってきたんだなってすぐにわかったよ。」
「あははは……。」
呆れている2人を尻目に、めぐみはお菓子をもぐもぐ食べていた。
「ところで、その【目録】って何か貰ったの?」
沙織の鞄から飛び出ていた封筒が目に入った綾乃が、話題を交流会についてに戻す。
「実は交流会でクイズ大会をするって言ってたんだけど、流れで今朝、最終問題を千夏先生達が出して、答えられた人に優勝商品を渡すことになったんだけど、正解できたみたいで貰ったんだ。」
「何貰ったの!」
興味津々の2人に、沙織は封筒の中身を取り出して見せた。
「これって許可証じゃん! しかも期限がすごく長い。
私も中等部の生徒会の時に一回だけ貰ったけど、当日限りの期限だったのに。」
「すごい! 私なんて初めて見たよ!」
沙織は自宅から持って来ていた学校パンフレットを取り出してテーブルに広がる。
「そこでなんだけど……立ち入り禁止以外はどこでも見学していいみたいで、期限も長いし見られる所は全部行ってみようかと思ってるんだけど。」
学校パンフレットを見た2人は、初等部、中等部の敷地案内図をみて懐かしみ始めた。
「2人は初等部からこの学園に通ってるんだったよね?」
「そうだよ。めぐみとは幼稚園から一緒だったけど、この学園は初等部からだからね。」
「幼稚園の頃はここまで仲良くなるとは思わなかったけどね。」
「そうなの?」
『てっきり最初から仲良しだと思ってたよ?』
「見ての通り、よくチグハグな組み合わせだって言われてたけど、お互いにそれが心地よかったのかずっと一緒にいる感じ。」
「綾乃は真面目なタイプ。私は自由人タイプ。
正反対とまでは言わないけど、初めて会った時はお互いに探り探りだった事は微かに覚えてる。」
「へー、そうだったんだ。」
そんな話をしながら、綾乃とめぐみの2人は、学校パンフレットの案内図を指差しながら、その箇所がどんな所なのか過去の出来事を交えながら説明してくれた。
2人の話を聞きながら、案内図を見て楽しみが膨らんでいく沙織は、早速、生徒会の仕事に支障が無い限りは見学に出向こうと決めた。
初等部、中等部の話だけでお昼時間を過ぎてしまった頃、「そろそろ沙織は休まないと疲れが取れなくなっちゃう。」と綾乃が気を使ってめぐみを引っ張って部屋に帰っていった。
帰り際に、今度は小説が読みたいと言った2人に、沙織はそれぞれオススメの小説を1冊ずつ貸した。
2人が帰っていって、沙織はゆっくりと交流会に持っていった荷物を片付けて一息ついた。
コーヒーを淹れてテーブルに広げた学校パンフレットの案内図をもう一度ゆっくり眺める。
案内図には先程、綾乃とめぐみが書き込んでいったどんな授業をした教室なのかメモが記されていた。
コーヒーを飲みながら、そのメモを目で追っていく。
『私も、もっと早くこの学園に入ればよかったな……。』
そんなことを思いながら、沙織はパラパラと学校パンフレットを見返していった。




