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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
46/59

交流会2日目の朝

 布団から這い出ると、沙織と同じく朝食担当の智香と千夏先生は既に着替えを終えて布団を片付け始めていた。


「おはようございます……。」

「おはよう沙織ちゃん!」

「おはよう。まだ少し時間には余裕があるから、しっかり目を覚ましてから来るんだぞ。

 朝から包丁で怪我をしないようにな。」


 千夏先生はそれだけ言うと化粧ポーチを持って部屋から出ていった。


「着替えたら私たちも洗面台で身支度してから行こっか!」

「はい、直ぐに着替えますね。」


 沙織の脳みそも徐々に起きてきた。

 瑞稀がまだ眠っているため沙織も静かに着替えを済ませて、千夏先生や智香と同じように布団を片付けた。


「あら沙織ちゃん、おはようございます。」

「聡美先生、おはようございます。」


 身支度を終えて部屋に戻ってきた聡美先生は、そのまま中等部と高等部を分けていた部屋の仕切りを元に戻していく。

 中等部側のスペースが見えてくると、同じく朝食担当の真奈美と奈々も起きて着替えをしていた。


「智香さん、沙織さん、おはようございます!」

「おはよう、ふたりとも起きるの早いね!

 私なんてさっき智香さんに起こしてもらったのに……。」

「おはよう! ふたりも一緒に身支度整えに行かない?」

「はいっ! 私たちも布団を片付けよう。」


 大きなひと部屋になり、目が覚めて活動を開始するメンバーが増える中、沙織たち朝食担当班が身支度を整えに洗面台に向かう頃には、瑞稀以外は全員目が覚めていた。


「瑞稀さん、なかなか起きないですね。」

「カーテンを開けて日光が当たっても、周りが騒がしくなっても、瑞稀はまだ起きないよ!

 一応大丈夫だとは思うけど……聡美先生、瑞稀がもし起きなかったら掛け布団を剥がして仰向けにしてください。

 そうすれば目が覚めるはずなので。」


『掛け布団を剥がせば起きるんだ……。

 寒くてとか?』


「わかりました。それじゃあ、朝食作りお願いしますね。

 くれぐれも怪我をしないように気をつけてください。」


「行ってきます!」


 沙織たち朝食担当班は、全員揃って洗面台へ向かい身支度を整えると、そのまま集合場所に向かった。


「時間通り来たか。寝ぼけてるやつはいないか?」


 千夏先生が朝食担当班の顔を順番に見ていくけれど、全員目はしっかりと開いており、寝不足でも無い様子だ。


「ちゃんと顔を洗ってきたので、しっかり目覚めてます!」

「よろしい! まずは怪我が無いように。

 米は昨日の夜にセットしておいたので、味噌汁とおかずを作ろうと思いますが……材料を全て使い切らなくてはいけないので品数は特に気にしません。」


 千夏先生が言った食材を全て使い切るのは、普段寮生活をしている沙織にはハードルが高く感じられる。


『だけどこの場には自宅生である真奈美ちゃんと奈々ちゃんの2人がいる。千夏先生と智香さんもいる!

 あれ? 私いらなくない?』


 沙織は他の人に頼ろうと考えてしまった自分の情けなさに、朝食担当班に立候補した事を少し後悔し始めた。


「それなら、残っている食材を全部確認して、さっさと作っていった方がいいかもしれないですね。」

「えっ?! 奈々ちゃんは食材でメニューを決められる人なの?」


 つい先程、周囲の人を頼ろうとしていた自分に情けなさを感じていた筈だったけれど、奈々のひと言は沙織の成長しようとする感情を綺麗さっぱり掻っ攫っていってしまった。


「夜ご飯を作ったりする事もたまにあるので、その時に冷蔵庫の中から適当に食材を使って作ったりはしてますけど、うまくできるかどうかはわかりません。」


「それでも、未経験者がやるよりはスムーズにできそう!

 千夏先生、朝食は奈々ちゃんの指示に従って作るのがいいと思います!」


 沙織が興奮気味に千夏先生に話すと、千夏先生はクスッと笑って顔を背けてしまった。


「いやっ……悪い、昨日の千葉と同じような事を言うから、つい笑ってしまった。」

「えっ? 智香さんと同じとは?」


 隣を見ると、苦笑いした智香の姿があった。


「私も昨日の夜ご飯を作る時に、今の沙織ちゃんと同じように「奈々ちゃん、頼んだ!」って言ったの。」

「そうだったんですか……って、智香さん、調理部のお手伝いをしてた事ありませんでしたっけ?」

「あれは本当に手伝いで、会計のところしかやってないの。

 普段から料理をしていない人が、調理部の手伝いだからって調理場に入っても邪魔になるだけだし。」


 沙織は入学したての時に学食で調理部の手伝いをしていた智香を見ていたため、てっきり料理が得意なんだと勝手に思い込んでいた。

 現に昨日の夜ご飯の担当班にもなっていた為、その智香が沙織と同じく奈々に頼ろうとしていたことに驚いた。


『それなら、智香さんはどうして調理担当に立候補していたんだろうか……。』


「こんな時しか料理しないからね!

 まぁ、1番の目的は、千夏先生の料理をすぐそばで見たかったっていうのがあったんだけどね。」

「それで、千夏先生の料理の腕前はどうでしたか?」

「及川!」


「とっても手慣れてた。」

「さすが千夏先生。

 普段からやる気が無いように見えていても、やるときはやるって知ってはいましたけど、まさか料理もとは……。

 感服しました。」


「お前らなぁ……。」


『あっ、これ以上はやめておこーっと。

 朝から地雷を踏みたくない。』


 起床後のスッキリした脳みそは危機察知に長けているのか、全員おとなしく口を閉じる。

 千夏先生は全員が黙ったので、軽く咳払いをしてから話を戻した。


「とにかく、食材を確認してから作るように。

 味噌汁は……及川! お前が作れ!」

「私ですか?」

「普段は学食で食べてるから料理はあまりやらないだろ?

 慣らしだ、慣らし!」

「はぁ……。」


『たしかに得意では無いから、メニューを決めてもらっていた方がありがたい。具材だけ考えればいいだけだからね!』


「味噌汁の具材は案外なんでもいいんだ。

 お前が好きな具材を入れて作ればいい。他の人はおかずを作ってくれ。」


 千夏先生はそれだけ言って調理台に残っている食材全てを並べ始めた。

 残っていた食材の種類は、沙織の思っていたよりも少なかったけれど、10人分となるとそれぞれの量が結構多かった。

 昨日のカレーでじゃがいも、にんじん、玉ねぎなどの食材は全て使い切っていたようで、調理台の上には無かった。


「さてと、これで食材は全てだ。

 好きな具材を持っていって、各自で調理を開始してくれて構わない。」


 しばらく食材を順番に眺めて確認していると、メニューが決まった人から食材を持って調理を開始した。


『味噌汁だからなぁ……これと、これ。あとついでに……。』


 沙織も思うがままに食材を持つと、調理を始める。


「及川、味噌汁はこの鍋で作ってくれ。」


 千夏先生が昨日のカレー鍋よりはひと回り小さい鍋を持って来た。それでも味噌汁を作るにはその鍋は大きく感じる。


「ちょっと大きくないですか?」

「10人分の料理だぞ? それにある程度の大きさのある鍋で作らないと、食材を鍋に入れた瞬間溢れるぞ?」

「なるほど。」


 沙織は千夏先生から鍋を受け取り、近くの調理台の上に置いておいた。


「そういえば千夏先生は何を作るんですか?」

「私はお前たちが残した食材で何か作る。だから早く食材を選んで作ってくれ。」


『本当に手慣れてるんだなぁ。』


「私は使う食材を全て持って来たので、後は作るだけです。」

「そうか、他もそんな感じか……さてと、私も残った食材を確認してくるか。何かあったらすぐに呼ぶんだぞ。」


 千夏先生は食材が少し残っている調理台へ移動していった。

 沙織も持って来た食材を次々と下準備して調理台の脇に置くと、先程置いておいた鍋に水と出汁を入れていく。

 自分の作業に若干の余裕がある沙織は、他の人がどんな料理を作っているのか気になりだした。


 コンロに水と出汁を入れた鍋を持っていくと、ちょうど智香が調理をしていた。


「智香さんは何を作るんですか?」

「私は人数分の卵焼きにしたよ!

 一応、出汁とか入れてそのまま食べられるようにしてみた。」


 智香はひとつの卵焼き器で、人数分の卵焼きを量産していた。どれも形が整っているし、色味も綺麗な黄色だ。


「卵焼きだけはマスターしてます!」

「とっても美味しそうです!」

「ありがとう。」


 鍋に蓋をして火にかけると、沸騰するまでの間、さらに他の人の調理見学していく。

 次に見たのは真奈美のところだ。


 昨日の夜ご飯の時にお米が好きで、お米をたくさん食べたいからといった理由で野菜が好きではないと聞いていた筈だが、そんな真奈美はサラダを作っていた。


「真奈美ちゃんはサラダ?」

「はい、昨日気が付いたんです。」

「何に?」

「自分で盛り付ければサラダの量は調整できるって。」


『あ〜なるほど。そこまでお米が優先とは思わなかった!』


 真奈美は調理台に残っていた野菜のうち、生で食べられるものをほとんど持ってきたらしく、結構な量の野菜を使っていた。


「何サラダにしたの?」

「大根をピーラーで薄切りにして三つ葉とあえたら、上にツナ缶とトマトで完成にしようかと。」

「おー! 美味しそう。」


 サラダの上にツナも乗っていて、トマトでの彩りもとても綺麗なサラダが盛り付けられていく。

 とても野菜嫌いの人間が作ったとは思えないクオリティのサラダに、沙織が若干感動していると、真奈美はボソボソっと独り言を呟いた。


「大根はピーラーで細切りにすると、ふわっと盛り付けできて量が少なくてもわからないですしね……。」

「えっ?」

「いやっ、なんでもないです。」


『今のは聞かなかったことにしておこう。』


 次は奈々のところだ。

 奈々は手際よく小魚の入ったパックを開けて作業をしている。


『しらすかな? 何を作るんだろう……。』


「奈々ちゃんは何を作るの?」

「私はこの、ちりめんじゃこで佃煮でも作ろうかと思ってました。」


『しらすじゃなくて、ちりめんじゃこだったのか。』


「佃煮が作れるなんてすごいね!」

「調味料の割合を覚えておけば意外と簡単ですよ?

 皆さんおかずを作っていたので、私はご飯に乗せるものを作ろうと思ってたら、たまたま、ちりめんじゃこが視界に入ったのでこれにしました。」


 そう言って奈々は酒、みりん、砂糖、醤油など、和食ではメジャーな調味料を使って調理を始めた。

 手際よく調味料を合わせていく様を間近で見て、沙織は料理が得意と聞いていた奈々の手際に見惚れてしまった。


『私が作るの、本当に味噌汁でよかった。』


 沙織は他のメンバーの調理の様子を見終わると、自分の調理場に戻って鍋の蓋に空いている小さな穴から、白い湯気が少しだけ出てきているのを確認する。

 蓋を開けると小さな泡がふつふつと出ていた。


「よし、そしたらこれを……。」


 沙織は準備しておいた食材を順番に入れていく。

 レタスをちぎって入れて少し混ぜると、鮮やかな黄緑色に変化した。

 菜箸で掴んである程度柔らかくなったのを確認したところで、溶き卵と味噌を順番に入れ、沙織の味噌汁はあっという間に完成した。

 一応の確認として味見をしてみると、思い描いていた味になっていた安堵する。


『なんとか、他の人に食べさせられる味噌汁になったみたい。

 味付けも大鍋で作ったことがなかったから不安だったけど、出汁も味噌も良い分量で作れたみたい。』


「出来ました。」

「お〜、味噌汁のいい匂い! 私も出来たよ!」


 智香も完成したようで、綺麗に巻かれた卵焼きが均等に切り込みが入った状態で皿に乗せられていた。


「横に少しだけ大根おろしを載せてみました!」

「いいですね、大根おろし。」


「私も完成しました。」

「私も、量は多くないけど味は保証します!」


 続けて真奈美の大根サラダと奈々のちりめんじゃこの佃煮も完成したようだ。

 あとは千夏先生の作っている料理だけになり、智香が千夏先生に様子を聞いている。


「千夏先生は、どうですか?」

「あぁ、もう少しかかるから、先に料理を並べておいてくれるか?

 私のも完成したら声をかける。」


 千夏先生はちょうど手が離せないのか、視線を料理からそらすことなく指示を出した。


「わかりました。

 沙織ちゃんの味噌汁は鍋ごと持って行こうか、あと炊飯器も。それ以外は盛り付けた皿ごとにテーブルに並べちゃおうか。」


「はい!」


 智香の指示で、沙織たちは自分の作った料理を次々とテーブルに運んでいく。

 沙織の作った味噌汁は、炊飯器の横に置かれた。


「味噌汁とご飯は昨日のカレーと一緒で、セルフでいいですよね?」

「そうだね、みんな朝ごはんの量は違いそうだし。

 体調に合わせてそれぞれによそってもらおう。」


 沙織は味噌汁の入った鍋の横に、お玉とお椀を準備してから他の人の作った料理の運搬を手伝った。

 料理を並べていると、清掃班のメンバー達もやってきた。


「この部屋、いい匂いがする!」

「朝ごはんはやっぱりご飯と味噌汁ですよね! 美琴さん!」

「そうだね。朝からちゃんと料理ができる人、本当に尊敬する。」


 清掃班の梓、美琴、未来の3人が先にやって来ると、その後に瑞稀と聡美先生が入ってきた。


「とっても美味しそうな朝ごはんね!

 あっ、智香さん、瑞稀さんの起こし方教えておいてくれてありがとうございました!

 とても助かりました。」

「いえいえ、お手数をおかけしました。」


『瑞稀さん、あの方法でようやく起きた感じだったの?

 結構強引に起こさないと起きてくれないのね。』


 当の本人はそんな会話が耳に入ってこないのか、マイペースに朝ごはん担当のメンバーに挨拶をしていた。


「おはよう、朝早くからご飯作ってくれてありがとう。

 全部とても美味しそう。」


 昨日のゲームで仲良くなったおかげか、寝起きで目つきのキツい状態の瑞稀に全く怯む様子もなく、奈々が会話をし始める。


「まだ千夏先生の料理が揃ってないですよ?

 そんなことより瑞稀先輩、いつもより視線が怖い気がします。」

「まだ脳みそが完全に起きてないから。

 そのうち目も開いてくるから心配しないで。」

「そうですか。顔に冷水でもかけますか?」

「冷水をかけるより、冷水に顔を沈める方が目が覚めるかも。」

「起きたばかりで溺死でもするつもりですか?」


『なんだろう、打ち解けてはいるんだけど、会話の内容が朝から物騒……。』


「ほら瑞稀、これ飲んで。」

「うん。」


 智香は慣れた様子で瑞稀にお茶を飲ませる。


「智香さん、そのお茶ってもしかして?」

「そう! 瑞稀の実家のお茶だよ。

 これを飲めばいつも通りの瑞稀になるよ?」


 瑞稀はお茶を飲み込むと、しっかりと目を開けた状態になっていた。


「やっぱり朝はお茶だよね。」

「そうだね瑞稀、おはよう。」

「うん、おはよう。」


『おー、いつもの瑞稀さんだ!

 朝のルーティーンってやつなのかな? 条件反射みたいな感じ?』


「おーい! 運ぶの手伝ってくれるか?」


 そうこうしているうちに、千夏先生の料理も完成したよで、調理室から声がかけられた。


「はーい。」


 全員で調理室に入ると、千夏先生の作った料理が人数分の皿に分けられていた。


「千夏先生、これはもしかして?」

「あぁ、及川。見ての通り、なんちゃって回鍋肉だ。

 誰も使っていなかったのがキャベツと豚肉くらいだったからな、適当に作った。」

「適当に料理するって時に回鍋肉なんて作ったこと無いですよ。

 味付けなんて普通は自分でできません。市販の回鍋肉セットに入っているソースで味付けしますよ。」

「調味料が豊富だったからな、味見をしてたら何となくできた。」


『千夏先生、料理得意すぎません?

 これが才能なんだろうなぁ。』


「自分の分、持っていけ。」

「はーい!」


 全員がひと皿持ってテーブルに置いくと、そのままご飯と味噌汁をよそって席についた。

 そして夜ご飯と同じく智香が号令をかける。


「それでは、手を合わせてください。

 いただきます!」

「いただきます!」


 朝ごはん担当が作った料理の話題で会話が盛り上がりながら、朝ごはんが開始された。


「とても美味しいです、千夏先生!」

「ありがとうございます聡美先生。」

「あの千夏先生? 今度お部屋にお邪魔してもよろしいですか?」

「はい?」

「今度、私に料理を教えてください。」

「全然構いませんよ。私でよろしければ。」

「ぜひお願いします。」


 先生同士の会話も弾んで、朝ごはんは賑やかに平らげられていった。

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