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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
44/59

白い湯気も謎の光も無いですね

 着替え一式を持った一行は、お風呂場に到着した。


 お風呂場は銭湯のような構造で手前に大きめの脱衣所、奥がお風呂空間となっている。

 もちろん、ただの学園内にある合宿所という施設なのでそこまで大それた設備は備わっていない。

 けれど、普通の学園施設とも思えないくらいのお風呂場だと、利用者に感じさせるほどは広がった。


『清掃の時も思ったけど、学園内にこれだけのお風呂って、なかなか無いよね。』


「私はここの棚にしよっと!」

「なら、私は隣に。」


 智香と瑞稀はさっさと自分の使う棚を決めると、着替えとその上にタオルを置いて服を脱ぎ始める。


「ちょっと智香さん、瑞稀さん!

 恥じらいは無いんですか?」

「えっ? 女の子同士、何を恥じらうものがあるの?

 沙織ちゃんもこっちおいでよ、隣の棚空いてるから!」


 智香はもう片方の空いている棚をパンパンと叩いて沙織に使うように促した。


「修学旅行とかと変わらないよ。」


 瑞稀も智香と同じく恥じらいは無いらしく、智香が沙織が話している間に下着姿になっていた。


「それに、梓ちゃん達も服脱ぎ始めてるし。」


 沙織が反対側を見るとそちらの方でも既に、梓達中等部メンバーが楽しそうに会話をしながら服を脱いでいた。


『みんな躊躇いないわけ?』


「もしかして沙織ちゃんって、お風呂とかひとりでしか入った事無かった?」


 智香が服を更に脱ぎながら話を続ける。

 沙織はとりあえず、智香指示された棚に着替えとタオルを置いた。


「そう、ですね……同年代の子と一緒にお風呂は経験無いです。」

「小中学校の修学旅行とかでも?」

「修学旅行……。」



 沙織が言葉に詰まると、お風呂に入る支度の整った中等部メンバーが、ちょうど髪の毛を束ね終わった瑞稀の手を引いて先に行ってしまった。


 明らかに様子の変わった沙織に対し、智香はいつもより落ち着いた声色で話をする。

 奥のお風呂からは、先に入ったメンバーが浴びているであろうシャワーの音が聞こえる。


「風邪とか引いちゃったりしたのかな。

 まぁ、みんなそれぞれに事情があって、沙織ちゃんにもその事情があった。無理に話すことは無いよ。

 今日明日の交流会は何も考えずに、ただ楽しめばいいだけ。」


 智香はそう言ってお風呂に向かう。


「沙織ちゃんも早く来なよ!

 早く来ないと、注目の的になっちゃうよー。」


 声のトーンは普段通りに戻っていた。


「はい、直ぐに行きます。」


 智香もお風呂に向かい、脱衣所には沙織ひとりになった。

 沙織も人の目が無くなったからか、手早く服を脱いでいく。

 服を脱いだから、沙織は少し気分がスッキリした。


 お風呂場の扉の前に立ち、軽く深呼吸をしてから扉を開けた。


 沙織が扉を開けると、中から白い湯気がモワッと沙織の体を包んだ。

 中に進むと、それぞれが洗い場で頭や体を洗い流していた。

 沙織も空いている洗い場で早速全身を洗っていく。


 沙織が頭を洗っていると周囲のシャワー音が少しずつ減っていく。先にお風呂場に向かったメンバー達が頭や体を洗い終わったためだ。

 音が少なくなっていくにつれて、話し声は増えていく。

 沙織にもその会話が少しだけ聞こえていた。

 最初に話し始めたのは未来と瑞稀の2人だ。


「瑞稀さんと智香さんは、いつからこの学園にいらっしゃるんですか?」

「私達は2人とも初等部から。

 だけど初等部の5、6年の時に初めて同じクラスになったんだ。最初の印象はお互いに最悪だったんだけどね。」

「最悪って、信じられないです。」


 2人の会話に智香も加わった。


「最悪中の最悪だったよね!

 瑞稀は人見知りが激しすぎて、私と初めて会話した時は小学生とは思えないほど視線が鋭かったしね!」

「そう言う智香こそ、小学生の頃はトゲトゲしてて怖かったよ。」

「そうかなぁ?

 まぁ、2人とも丸くなった感じはするけどね。」


 沙織は頭を洗い終え、体を洗い始める。


 智香と瑞稀の関係性に興味を持った梓と美琴も、お風呂に浸かると会話に加わった。


「最初の印象が最悪だったのに、どうやってここまで仲良くなりましたか?

 何かキッカケとかあったんですか?」

「私も気になります!

 今の中等部生徒会メンバーは結構最初から仲が良かった方なので、てっきり先輩達もそうなんだと思ってましたから。」


 智香と瑞稀は顔を合わせると、2人が仲良くなったキッカケを話し始めた。


「最初の印象は、さっきも言った通りお互いに最悪。

 絶対に仲良くなれないと思ってた。」


「私から見た智香の印象は、とにかく活発で明るい子だなって感じだった。

 クラスを引っ張っていく人。

 誰に対してもどんどん話しかけていて、人見知りの私は返事をするだけでひと苦労だった。

 心から『何で話しかけてくるんだよ』って思ってた。」


「私から見た瑞稀は、常に何か考え事をしていて、話しかけて良いのかがわからない、近寄り難いって感じ。

 それでもコミュニケーションをとろうと頑張ってたんだけど、それが裏目に出ていたのは感じてた……。

 だっていつ話しかけても『私に何のよう?』って表情されてたからね!」


「ご名答、まさにその通り。

 それを感じ取っていたのに話しかけ続けた智香の心は、まさに鋼のよう。」


 まさに交流が難しそうな組み合わせの2人が、今では一緒に生徒会に所属していて、現在進行形で楽しく一緒にお風呂に入って昔話をしている状況に、中等部のメンバーはその過程を早く知りたくなっていた。


 美琴が興味深そうに2人に対して更に話を聞く。


「そこからどうやって今みたいな関係性になったんですか?

 智香先輩が瑞稀先輩に声をかけまくり続けたとか?」


「まぁ、それも仲良くなった要因だとは思うけど、1番のキッカケは……。」


 智香が瑞稀に視線を向ける。


「あれだね。」


 瑞稀も智香の視線に頷いて応えた。


「勿体ぶってないで早く聞かせてくださいよ!」


 未来が続きを催促すると、智香が続きを話し出した。


「1番大きなキッカケになったのは、結城里菜って言う今は高等部の陸上部に所属している子がいるんだけど、その子が放課後に校庭で陸上競技の練習をしていて、私がその練習の付き添いをしていた時。」


「あの時は夕立で雨風が結構激しかったんだ。

 私は放課後に図書室で本の貸出し管理をする仕事をしていて、下校時間がたまたま遅い日だったんだけど。

 放課後に本を借りに来る生徒も居ないし、天気も悪いから早く帰って良いよって先生から言われた私は、他の生徒が下校してからしばらく経ってから学校内から出た。」


「その時、私と里菜は急いで帰ろうと瑞稀が出て来た玄関に置いていた鞄をとりに走って向かってたの。

 そしたら玄関先で里菜が思いっきり滑って転んじゃったの。」


 話を聞いていた中等部メンバーは、その光景を想像して少し表情が歪む。


「思いっきり転んだ里菜は、膝から結構出血してしまったんだけど、その時、瑞稀が応急処置をしてくれたの。」


「結構出血してたし、雨が降ってて里菜が転んだ玄関先は泥だらけだったから、早く洗い流さなくちゃって思った。」


「そんなに冷静な判断を小学生から出来ていたなんて……やっぱり瑞稀先輩は凄いです!」

「そんな事ない……。」


 未来に尊敬された瑞稀は照れ隠しで顔を半分、お風呂に沈めてしまった。


「瑞稀の指示で里菜の傷口を洗い流して、汚れを取ったら2人で里菜を抱えて保健室に向かったの。

 両膝から出血してて痛そうだったし、膝を動かすたびに出血してたからね。」


 話を聞きながら体を洗っていた沙織も、お風呂に浸かって話に加わった。


「2人で里菜さんの腕を肩に回して、抱え上げて保健室に行ったんですね。」


「そう! って、沙織ちゃんも来たからいつの間にか全員いるし……。

 なんだか恥ずかしくなって来たかも……。」

「ここまで話して、やっぱり恥ずかしいから話はここまで……ってのは無しですよ?」


 沙織を含む、全員からの圧で話題を変える事が出来ないと悟った智香は、仕方なく続きを話した。


「わかったよ。

 里菜を保健室に連れて行って手当てをしてもらっている間、私と瑞稀は廊下で待ってたんだけど、瑞稀が保健室からタオルを持って来てくれて頭を拭いてくれたの。」

 何度話しかけても素っ気ない返事が返って来てたから、他人のことが嫌いなんだと思っていたんだけど、その時初めて瑞稀は人見知りなだけで本当はとても優しい性格の人なんだってわかったの。

 それからは話しかけ方を変えたり、瑞稀からの返事をゆっくり待ったり工夫して、距離を縮めていった。それで今に至るって訳!」


「つまり智香さんは瑞稀さんに惚れたって事ですね。」

「違うから沙織ちゃん! 優しいなって思っただけだから!」

「そうは言っても智香さん、顔が赤いですけど?」

「お風呂に浸かってるんだから、顔が赤くなるのは普通でしょ!

 あんまり先輩をからかわないの!」


 智香はそう言って沙織に背中を向ける。


『智香さん、ちょっと拗ねちゃった。

 まぁ、そんな智香さんも可愛いんだけどね!』


 沙織はもうひとりの当事者である、瑞稀に視線を向けると、瑞稀は美琴、未来の2人と話をしていた。

 沙織に聞こえて来た内容は、瑞稀はその後、智香とは徐々に仲良くなった。

 智香ほど急速に心を開いた訳では無いけれど、初めて自分から話しかける事が出来た同級生という事らしい。


『逆に考えると、瑞稀さんは小学生の時に自分から話しかけられなかったって事か。

 初めにうまく会話が出来ないと、周囲の人も話しかけ辛くなるし、そういった状況は容易に想像できる。』


「それじゃあ私は先に上がるね!

 長風呂は得意じゃ無いんで。」


 智香はそう言うと、軽くシャワーを浴びて脱衣所に行ってしまった。

 残されたメンバーはまだお風呂に浸かったままだ。

 沙織も久しぶりにお風呂に浸かったので、足を伸ばしてゆっくり浸かっている。


『やっぱりお風呂に浸かった方が疲労回復には良いんだよね。

 ……これからはお風呂にちゃんと入ろう。』


 肩までお湯に浸かり「ふぅ……。」っと息を吐くと、視線を感じた。

 周囲を見ると、白い湯気の中に沙織を見ている視線が確かに感じられる。

 沙織はその視線を感じる方をジッと見ていると、先ほどまで会話に盛り上がっていた中等部メンバーが何やら沙織を見ながらヒソヒソと小声で話しているのがわかった。


『どうしたんだろう……そんなに私のことをジロジロ見たりして。足を伸ばしすぎたかな?』


 沙織が足を少し曲げていると、中等部メンバーが全員揃って近づいて来た。


「……どうしたの?」

「あの、沙織先輩。」


 梓が話しかけて来たけれど、すぐに黙ってしまった。

 他のメンバーも話を切り出しにくそうだ。


「ちょっとみんな? 本当にどうしたの?」


 沙織が再度聞くと、覚悟を決めたのか梓が1度深呼吸をしてから沙織の目を見た。


「沙織先輩は中学生の時に彼氏はいましたか?」


『えーっと……彼氏? なぜに私にそのような事を?』


「沙織先輩は外部進学で高等部に入学されたんですよね?

 私たちはこの学園に初等部か中等部から通っているので、共学の中学生は彼氏がいるのか気になって、聞いてみたかったんです!」


『なるほど? 共学の中学出身の私に、世の中の中学生には彼氏がいるのか聞きたかったのか。

 私のことをジロジロ見てたから、てっきり……。

 というか、よりによって素っ裸でお風呂に入ってる時に。』


「まぁ、中学生なら彼氏ができたって子はチラッと出てくるけどさ? ……私はいなかったけど。」


「やっぱり! 共学の中学生には彼氏がいるんですね!」


 梓は勢いよく、ザバーっと大きな音を立てて沙織の前に立ち上がった。

 するとその勢いに釣られて残りの中等部メンバーの会話も、一気にトップスピードに盛り上がる。


「私達と同い年で彼氏か……いいなぁ。

 私も少し髪の毛を伸ばして女の子っぽくしてみようかな。」

「髪の毛を伸ばすのは結構面倒くさいですよ?

 それに美琴先輩、やっぱり彼氏は共学の学校じゃないと難しく無いですか?」

「わかって無いね未来は。私達には女子校という、共学校とは違う強みが有るんだから、それを活かせば。」

「真奈美ちゃんの考えもあるけど、私達は共学校とは違って自分達で彼氏候補に出会うことから始めなくちゃいけないっていうデメリットもあって……。」

「奈々は現実的に考えすぎ!

 彼氏のことを考える時くらい、少しは夢を見ないと!」

「梓は楽観的過ぎなの!

 それに彼氏の事を考えてる時以外も楽観的でしょ? もう少し慎重に物事を考える癖をつけてもらわないと。」

「奈々は悲観的過ぎなの! もうちょっとポジティブに!」


『中学生ってこんなに彼氏の話題で盛り上がるんだ……。』


 中等部メンバーの勢いに押され、少し離れようとした沙織だったけれど、ふと先程まで近くにいたはずの瑞稀の姿が見えない。


「あれ? 瑞稀さんは……。」


 周囲を見渡しても、白い湯気でよく見えない。

 その時、扉の開く音が微かに聞こえた。


『あっ! 瑞稀さん逃げた!』


 中等部メンバーのテンションが上がりきる前に、瑞稀はこっそりと脱衣所に逃げて行ってしまった。

 逃げ遅れた沙織は、当然、中等部メンバーからの集中砲火に晒された。


「沙織先輩! ショートカットの私には彼氏は難しいですか?!」

「そんな事ないと思うよ? 美琴ちゃん可愛いから!

 ショートカットもとても似合ってるよ!」

「沙織先輩……どうしたら梓が真面目に話を聞いてくれると思いますか?」

「奈々ちゃんも、その話は私よりも瑞稀さんに聞いた方が、良い答えが返ってくると思うよ?」

「ところで沙織先輩って彼氏いなかったって言ってましたけど、おっぱいも大きめだし絶対に気になってた男子がいたと思うんですけど、卒業式の後とかにアプローチは無かったんですか?」

「未来ちゃん! 卒業式後の話にさらっと私のおっぱいのことを入れ込まないで!」

「どれどれ……。」

「ちょっと真奈美ちゃん、揉むなー!」



 お風呂場が大盛り上がりしているちょうどその時、脱衣所では智香と瑞稀が2人並んで椅子に座り、水を飲んでゆっくりしていた。

 脱衣所の洗面台前に置いてあった椅子を、智香が着替えの置いてあった棚の前に持って来ていたのだ。



「いやー、お風呂場は賑やかだね!」

「中等部の子達の会話が少しだけ聞こえたから逃げて来た。」

「なんて言ってたの?」

「彼氏がどうのって。」

「あー、それは私も逃げるわ!」


 瑞稀は水を飲み干すと、立ち上がって椅子を横に移動させた。


「智香も早く服を着ないと風邪ひくよ?」

「まだ暑いの!」

「それならせめて下着くらい身に付けなよ。」

「まぁまぁ。まだみんな出て来そうにないし、もう少しくらいいいじゃん。」


 瑞稀はさっさと下着を身に付けると、タオルを肩にかけてドライヤーの置いてあるスペース椅子を持って行く。


「ドライヤーは人数分無いから、早くしないと本当に風邪ひくよ。」

「はーい。」


 智香も渋々、下着だけを身に付けて椅子を持って瑞稀の後を追った。

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