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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
43/59

食後はまったりが限界です

「よし、全員注目!」


 自由に過ごしていた全員が、千夏先生の方を向き静かに注目する。


「今日はこれでひと段落する。

 あとは好きにお風呂に入ったり、遊んだり、テレビを見たりしてくれて構わない。

 ただし、朝はちゃんと起きてくれよ。」


 質問があるのか、奈々が手を挙げた。


「はい、久保。」

「千夏先生、就寝時間は決まってないんですか?」

「節度ある中等部、高等部の生徒会役員だからな。

 わざわざ私達教員が声をかけなくても自制できるだろう?

 ですよね、聡美先生。」

「そうですね。今日1日を振り返ると、みんなに任せても大丈夫だと私も思いました。」


 生徒全員はお互いの顔を見合って、意思疎通を行い頷いた。


「よし、他に質問がある人は居るか?」


『今日はこれから自由時間か。

 あっ、明日の予定は聞いておいた方が良いよね?』


「明日の起床時間は何時ですか?

 あと、クイズ大会の賞品はいつ買いに行くんですか?」


「その事なんだが、夕食時に聡美先生と話していたんだけれど、景品に関しては私と聡美先生だけで買いに行こうと思っててな。」

「そうなんですか?」


 聡美先生も頷いている。


「及川も景品を貰う可能性があるだろう?

 それなら、景品を知らない方が楽しめるんじゃないかって聡美先生が言ってくれたんだ。」


 智香と瑞稀も先生からの提案に賛同する。


「たしかにその方が沙織ちゃんも楽しめるね。

 千夏先生と聡美先生にお任せしようよ!」

「全員が楽しめた方がいいと思う。」


「それじゃあ……千夏先生と聡美先生にお任せしてもいいですか?」

「わかった。それじゃあクイズ大会の景品は私と聡美先生が、責任を持って準備しておく。

 あとは……明日の予定か。」


 千夏先生はプリント用紙を取り出して、書かれている内容を確認し終えると話を再開した。


「明日は朝7時に起床してくれ。というか、朝7時にこの部屋に集合だ。

 そこから朝食の準備と施設内の片付け、清掃作業にそれぞれ取り掛かってもらう事になっている。

 担当は、今決めてしまった方がいいか。」


 聡美先生もホワイトボードを持って来て、『朝食担当』『清掃担当』とホワイトボードに書き込んだ。


「朝食担当には今日の夕食で使っていない食材を全て使い切ってもらいたい。冷蔵庫の中も清掃してから、合宿所を返却しなきゃいけないからな。

 清掃担当は今回の交流会で使用した場所を全て清掃してもらいたい。余裕が有れば、今回使っていない部屋も軽く清掃してもらえると嬉しい。」


「夜ご飯担当だったとかも関係なく、自由に決めてね。」


 聡美先生はそう言ってホワイトボードの専用ペンを持つと、迷いなく『清掃担当』側に名前を記入した。


「千夏先生、よろしくお願いします。」

「はい、聡美先生。

 あぁ、それと朝食担当は朝の6時半に調理室に集合で頼むな。」


 先生2人はあっという間に役割分担を終えてしまった。

 沙織達もぼんやり考えながら、決めた人からホワイトボードに記入していく。


『夜ご飯は作ってないから、朝ごはんの担当にしてみようかな。みんなでご飯を作るのって、楽しそうだし。

 早起きは……頑張ろう。』


 沙織は『朝食担当』の方に名前を書いた。


 中等部のメンバーも夜ご飯の時と違い、真奈美と奈々だけが朝食担当で、残りのメンバーの梓、美琴、未来の3人は清掃担当になった。高等部は沙織と智香が朝食担当に立候補して、瑞稀は清掃担当に立候補していた。


「あれ? 梓ちゃんは朝食は担当しないの?

 夜ご飯を作ってる時、料理が楽しいから朝ごはんも作ろうかなって言ってたのに。」

「すみません、智香先輩。

 実は私、寝起きがあまり良くないので朝食は多分作れそうにないんですよね。起床時間が7時ならなんとか大丈夫だと思うんですけど、6時半は多分起きられないです。」


「また半数ずつに分かれたか……。

 よし、それじゃあ朝食担当の4人は朝6時半に調理室に集合を頼むぞ。

 他の清掃担当メンバーはこの場所に朝7時に集合だ。今日は解散!」



 千夏先生の号令によって生徒達は個人で好きに行動をし始める。

 千夏先生と聡美先生は明日の予定の確認をと言って、別の部屋へと行ってしまい、残った沙織達生徒は完全に自由行動になると、高等部は智香、中等部は梓と、お互い生徒会長のところに集まった。

 沙織と瑞稀は自然と智香のところに集まった。


「沙織ちゃん、明日は朝からよろしくね!」

「よろしくお願いします。

 瑞稀さんも、明日もよろしくお願いします。」

「よろしく。」

「だけど瑞稀、清掃担当で大丈夫なの?」


 智香は片付けが苦手な瑞稀が、夜に引き続き朝も清掃担当に立候補して、心配を隠せない。


「大丈夫。早起きよりは得意だと自負してるから。」

「たしかに早起きよりはマシかもしれないけど、朝の清掃担当は高等部からは瑞稀だけだから、中等部のみんなのこと頼むよ?」


 智香の言う通り、朝食担当に智香と沙織。それに千夏先生まで行ってしまうから、清掃担当は高等部からは瑞稀のみの参加になる。

 今までの瑞稀ならば慌てているところだけれど、交流会で少しは距離が縮まったのか、うろたえている様子は見られなかった。


「頑張ります。」

「頑張って!」

「頑張ってください瑞稀さん!」

「2人も早起き頑張ってね。」


 高等部メンバーが励まし合っていると、梓を筆頭に中等部メンバーが近寄って来た。


「あの、先輩達がご迷惑でなければ、一緒にお風呂に行きませんか?」

「いいね! 行こう行こう!」


 智香が即決して全員でお風呂に行くことに決った。

 智香がみんなを後ろからお風呂場へ誘導し始める。


『お風呂……裸? やばいな、お腹も二の腕もやばいかも。

 少しでも体を動かしてから入りたいなぁ。』


 沙織はお腹だけでも少し引っ込めたいと考えていた。


「食後にすぐお風呂に入るのは、あまり良くないと思うので少し時間を空けませんか?」


 沙織の提案に真奈美がすぐに賛同する。


「そうですね。沙織さんの言う通り、食後すぐにお風呂に入ると胃腸の調子が悪くなると母に言われたことがあります。

 1時間ほど時間を空けてからお風呂に行きましょう。」

「そうなんだ……。2人とも物知りだね!」

「まぁ……。」


『今知りました。プニプニのお腹を先輩後輩に見られたくなかっただけどは……今更言えない。』



 とりあえず、食後直ぐにお風呂に入るのは取りやめ、それぞれ好き勝手に1時間ほど過ごすことにした。


 テレビを見たり、合宿所に元々置いてあったボードゲームやオセロをしたり。

 沙織はテレビを見て過ごすことにした。

 テレビの前に設置されていたソファーには、沙織の他にも数人が集まって来た。

 その中で未来ひとりだけ、床に座ってストレッチをしながらテレビに視線を向けている。


『ご飯を食べ終わって直ぐにストレスしてる。

 私もやろうかな……。』


 沙織も未来を見習ってストレッチをしようした時、隣に座った真奈美がリモコンでテレビをつけた。

 テレビの電源がつくと、放送していたバラエティ番組が映った。


「あっ! この番組、たまに観るんですけど面白いですよね。

 沙織さんは普段はどんな番組を見てますか?」


 真奈美とは反対隣で一緒にテレビを見ていた奈々が沙織に聞いた。


『ストレッチはお風呂に入ってからにしよう。』


「私はほとんどネットで見てるから、テレビをつけて番組を見ること自体が珍しいかも。

 奈々ちゃんは、実家暮らしだとやっぱり家族みんなでテレビはよく見るの?」

「そうですね。父がテレビが好きで、常に何かしらの番組を見てますね。

 そのまま寝ちゃったりして母に怒られてますけど……。」

「そうなんだ、それじゃあ結構テレビを普段から見てるんだね。」

「そうなんですよね……。ただ、試験期間もテレビの音が聞こえるので、集中できないことが多かったですね。

 今は慣れちゃいましたけど。」


「それでも成績は下がってないんでしょ?」

「元々が中の下くらいなので、下りようが無いんですよ。

 これ以上、成績が下がったら母の雷が落ちますよ……。」


 奈々はその光景を想像したのか、少し顔が青ざめると軽く身震いをした。


『そんなに怖いんだ、お母さん。

 だけど、奈々ちゃん家族は仲がすごく良さそう!』


「そうなんだ、だけどやっぱり実家はいいよね〜。

 真奈美ちゃんも実家だよね? 久美さんとも一緒にテレビ見たりするの?」


 奈々と同じく、自宅生の真奈美にも話を振ってみる。

 夜ご飯の時に話していたおかげか、自然と会話ができるようになっていた。


「お姉ちゃんは気に入った番組は欠かさないで見てますけど、新しい番組や特番とかはあまり見ないですね。

 見てたとしても最小限というか、視点が違うというか。」


「視点が違うって?」

「この言い回しなら続きが気になるなとか、ほとんど新聞部の活動に役に立つかに重きを置いているので、その辺が普通の視聴視点とは違うかなって。」

「たしかに、そんな視点でテレビを見たことないかも。」

「お姉ちゃんくらいだと思いますよ?

 テレビをそんな見方しているのって。本当に、新聞部の活動のことばかり考えてるから……。」


「そのおかげで、我が高等部の新聞部が発行している校内新聞は、過去最高発行部数の記録を更新しています!」


 突然背後から沙織達の座っていたソファーに、智香が飛び込んできた。


「ちょっと智香さん! 驚かさないでくださいよ!」

「ごめんごめん。」

「ところで智香さん、さっきあっちのテーブルで美琴ちゃんとオセロしてませんでしたっけ?」

「ちょうど終わったんだよね!

 今度は瑞稀と梓ちゃんで勝負らしい。」


 そう言った智香の後ろでは、瑞稀と梓がオセロを楽しんでいた。その2人の勝負を横で眺めている美琴は、唇をギュッと結び、真剣に考えている様子だった。

 おそらく智香と美琴の勝負は、智香が勝利したようだ。


『智香さんって中学生相手でも容赦ないなぁ……。

 多分、瑞稀さんも梓ちゃん相手に手を抜かないんだろうけど。

 瑞稀さんの使ってる黒い面が、オセロ盤を埋め尽くす未来が見える……。』


「オセロは得意なんだよね!」

「オセロって結構頭を使いますよね?

 どう考えて置き場所を決めてるんですか?」


 奈々からの質問に気をよくした智香は、嬉しそうに質問に答えた。


「あまり最初から、沢山ひっくり返さない事しか考えてないよ?

 最初にひっくり返し過ぎると、後半に自分が置ける場所が少なくなっちゃうから。

 それに、最後に自分の色に染め上げた方が爽快だよ?」

「なるほど……。

 たしかに最後に一気にひっくり返した方が爽快ですね!」


 奈々と智香はそのまま2人でオセロトークに盛り上がり、別のオセロ盤を引っ張り出して2人でオセロを始めてしまった。


「行っちゃいましたね……。」

「そうだね。

 ところで真奈美ちゃん。新聞部の発行している校内新聞が、中等部の校舎にも掲示されてるって梓ちゃんが言っていたんだけど、以前から掲示されてたの?」

「そうですね、私が中等部に入った時には掲示されてましたね。

 お姉ちゃんの影響なのかはわかりませんけど。」


「そっか、真奈美ちゃんは中等部2年、久美さんは高等部3年。ギリギリで被らないのか。」

「はい。お姉ちゃんは高等部に入って直ぐに新聞部に入部して活動していたので、私もそれ以前の新聞部の活動は知らないんですよね。

 ただ、お姉ちゃんが入部してから新聞部の活動がとんでもなく活発になったと聞いたことはあります。」


『久美さんってすごく情熱を持って新聞部の活動をしているんだ……。

 真奈美ちゃんも中等部の執行部長だし、姉妹そろって活動的なんだな。』


 沙織と真奈美が話していると、ストレッチを終えた未来が床に座ったまま会話に加わった。


「そういえば私、真奈美のお姉さんの話はよく聞くけど、実際に会った事ないなぁ。

 ねぇ、今度真奈美の家に遊びに行ってもいい?」

「お姉ちゃんに会うためだけにわざわざ来るの?」

「私、寮生だから外泊は届けを出しておかないとできないし、土日に遊びに行くくらいならいいでしょう?」

「泊まる気だったの?

 まぁ、遊びに来るくらいならまぁ……。」

「やったー!」

「だけど、お姉ちゃんが居るとは限らないからね?

 土日は校内新聞の取材って言って、他の部活動の活動場所に行く事が多いから。」


「真奈美ちゃん、久美さんって土日も新聞部の活動してるの?」

「放課後の取材だけだと記事の内容が薄くなっちゃうからって、土日も使って取材しに行ってます。

 以前、土日の取材は他の部活動に迷惑じゃないかって聞いたら、毎回事前に連絡して、許可を貰ってから行ってるから大丈夫。

 勝手に押しかけて好き勝手に記事を書いている訳じゃない! って怒られました。」


『あの久美さんが怒るところって、あまり想像がつかない。』


「それだけプライドと責任を持って校内新聞を仕上げているって事なんだと思うよ?

 私の事を取材しに生徒会室に来てくれた時も、1年生の私に対して、最後まで敬語で丁寧に取材してくれたし、校内新聞に掲載された記事の内容も、変に書かれていた箇所なんてひとつも無かったよ。

 正直恥ずかしかったけど、嫌な気分にはならなかった。」


「そうですか……お姉ちゃんは元から真面目な性格ですから、変な記事は書かないと思ってました。

 実際に取材を受けた沙織さんがそう言ってくれて、とても嬉しいです。」


『初めて真奈美ちゃんの笑顔を見た気がする。

 私に向かってこんなに笑顔を見せてくれるなんて……きっかけを作ってくれた久美さん、ありがとうございます!』



「みんな! そろそろお風呂に行こうか!」


 オセロトークを終えた智香が、オセロを片付けながら全員に声をかけた。

 話に夢中になっていた沙織もテレビを見ると、既に番組のエンドロールが流れていた。

 瑞稀と梓の勝負もちょうど終わったようで、沙織の想像通り、瑞稀の圧勝だったようだ。

 オセロの盤面は瑞稀の使っていた黒に埋め尽くされていた。


『本当にうちの先輩達は容赦ないなぁ……。』


 夜ご飯を食べてから程よく時間も空き、自由時間も満喫していた沙織達は、智香の声かけによってゾロゾロとお風呂場へと向かっていく。

 途中で荷物を置いていた部屋により、着替え一式を持った。

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