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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
42/59

鍋淵から鍋底まで

「あっ、みんなおかえり!

 ちょうどカレーもできたところだよ。」


 挙手制で立候補した調理担当なだけに、カレーとサラダもあっという間に完成してしまっていた。

 クオリティもとても高く、サラダも彩りが鮮やかで調理以外担当の4人の食欲は一気に加速した。


「千夏先生、ありがとうございました。

 カレーもサラダもとても美味しそうです!」

「聡美先生も、お風呂場と布団の準備、ありがとうございます。」


 先生2人も今日の交流会でだいぶ打ち解けたのか、フランクな会話で笑顔も明らかに増えている。


 そんな先生2人の事を智香と梓が仲良くチラ見をしていると、先生2人は視線に気がついて軽く咳払いをする。


「ほら、カレーが冷めないうちにテーブルの準備をするぞ。」

「千夏先生?

 もう少し聡美先生とお話してても良いんですよ?

 私達の事はお構いなく!」

「そうですよ、なんだったら椅子でもお持ちしましょうか?」


 調理している間にさらに仲良くなった様子の生徒会長2人組は、生徒会顧問の先生にも容赦無い。


「千葉、中等部の生徒を変な方向に育成するな?

 すいません聡美先生。千葉が変な事を吹き込んでしまって……。」

「変な方向って、ただ仲良くなっただけです!」

「千葉と仲良くって、それが変な方向だろうが。」

「千夏先生! それはあんまりです!」


「ほら智香、早く準備しないと。

 カレーが冷めちゃうよ?」

「……わかったよ。」


 瑞稀が智香を宥め、気を取り直して夜ご飯のカレーを順番に皿によそっていく。

 もちろんご飯は自分で食べる量をよそってからだ。

 ご飯をよそった人から、カレー鍋の前に並び行列を作っていく。


 沙織の後ろには真奈美が並んだ。

 沙織は真奈美と話をしてみようと振り返ると、真奈美の持っているお皿にこんもりとよそわれたご飯が目に入った。


「真奈美ちゃん、そんなに食べるの?」

「沙織先輩こそ、その量で足りますか?」

「私はおかわりしたいなぁって思ってるから。」

「私もおかわりしますけど。」

「えっ?」


 真奈美のよそったご飯の量は、沙織のよそったご飯の約倍量に見える。

 それを食べ切ってさらにおかわりすると聞いた沙織は、目を見開いて驚いた。


「普段からそんなに沢山のご飯を食べてるの?」

「ご飯が好きって事もありますけど、今日はカレーなので。」


 真奈美がドヤ顔でそう言うと、カレー待ちの列が進み、沙織の順番が来た。

 沙織がカレー鍋を覗き込むと、まだ並々とカレーが入っていた。

 大きな鍋の上部分ギリギリにカレーの痕が付いているのを見ると、本当に大量に作ったらしい。


『沢山作れるように多めに食材を用意してたけど、まさか全部使っちゃうとは思わなかった。

 でもまぁ、この雰囲気なら余裕で無くなりそうだからいいか!』


 沙織もご飯の量に合わせてカレーをよそい、近場の空いている席に座って全員が座るのを待つ。

 沙織の隣には梓が既に座っている。

 沙織の後ろに並んでいた真奈美も、お皿から溢れる限界までカレーをよそうと、カレー鍋から1番近かった沙織の向かい側の席に座った。



「真奈美ちゃんのカレー、おじいちゃんおばあちゃんがやってる食堂のチャレンジご飯みたいになってる。」

「あの30分で完食したら無料! ってやつですよね?

 カツとかの揚げ物が乗ってたら、本当にチャレンジご飯ですね。」


「梓さんまでそんな事を……。

 人よりもほんの少し一食に食べる量が多いだけです。」

「ほんの少しの量とは到底思えないけどね……。」


 ちょうどカレーをよそって、他の席に向かっていた未来を梓が呼び止める。

 未来と真奈美は同じクラスなので、梓は普段の真奈美の昼食の事を未来に聞いた。


「未来ちゃん、真奈美ちゃんはいつもこんなに沢山食べてるの?」

「はい、真奈美の一食はこれくらいが普通ですかね?

 なんだったらお昼のお弁当は、いつも3段のお重を広げて食べてますし。」

「だからこのカレーではまだまだ物足りない量です。

 ちゃんとおかわりします。」


「それじゃあ真奈美ちゃん、サラダも多めにしようか?」


 ちょうどサラダを配り歩いていた智香が、良かれと思いサラダも多めにしてあげようとすると、真奈美の表情が曇った。


『野菜が嫌いな子供と同じ顔してる。』


「あっ、智香さん。

 サラダは大丈夫だと思います。」

「えっ? もしかして真奈美ちゃんって野菜が苦手?」


 苦い表情の真奈美に代わり、未来が話を続ける。


「真奈美は野菜が苦手というか、ご飯がいっぱい食べられなくなるのが嫌というか……。

 生の野菜を食べると、その分ご飯が食べられなくなるのが嫌らしいです。」


「ご飯が……お米が好きなんです。」

「あー、食事が好きで沢山食べるけど、1番好きなものはご飯。つまりお米って事か!」

「智香さん飲み込み早っ。」


 智香はニヤッと笑うと、他の人と同じ分量のサラダを真奈美に差し出す。


「とはいえ、野菜も食べないとね!

 みんなと同じ量は最低でも食べないとダメだよ。」

「はい、同じ量なら大丈夫です。」

「よろしい!」


 智香は真奈美の肩を2回軽く叩くと、サラダ配膳に戻って行った。


「だけど真奈美ちゃん、そんなにお米を食べられるってすごいね。」

「お米は何にでも合いますから。」

「1番好きな付け合わせは?」

「1番ですか?」


 真奈美は腕を組んで悩み始めてしまった。


『そんなに真剣に考えるんだ……。

 本当にお米が好きなんだね。』


「やっぱり白米には……でもあっちも捨てがたい……。」


 真奈美の結論が出る前に、全員の夜ご飯の準備が完了した。

 千夏先生が全員の準備が整った事を確認した後、軽くカレー鍋を覗き込んでから声を出した。


「全員、サラダも配られたみたいだし、カレーもよそってるな。あとは自由におかわりしてくれ。

 よし、千葉! 号令を頼む。」


 千夏先生に指名され、智香はその場に起立した。


「それじゃあ、千夏先生から指名されたので僭越ながら。

 皆さん! 交流会1日目、お疲れ様でした。」

「「お疲れ様でしたー。」」

 

「まだ明日も交流会は続きますが、合宿所での夜ご飯は今日しか食べません。

 存分に談笑しながら楽しく食べましょう。

 いただきます!」

「「いただきます!」」


 智香の挨拶に続いて、一斉に食事を始めた。

 それぞれでの会話も同時にスタートする。


「そうそう。実は私、真奈美ちゃんと話してみたかったんだけどいいかな?」


 会話を心待ちにしていた沙織は、勇気を振り絞り真奈美に話しかけてみる。


「そうなんですか? 私は全然構いませんけど……。」

「真奈美、沙織先輩がせっかく話したいって言ってくれてるのにカレーをガン見するの辞めなさい。」

「いいのいいの梓ちゃん、普通にお話ししたいだけだからそのままで大丈夫。気にしないで?」


「沙織先輩がそう言うなら。」

「梓ちゃんも一緒にお話ししてくれない?

 中等部の生徒会長としての話も聞いてみたいし。」

「ぜひ!」


 沙織は勢いに乗って梓も会話に誘い、見事に梓を引き込む事に成功した。

 あとは真奈美の返事待ちだ。そのためにもう少し頑張って話しかける。


「真奈美ちゃん。私はこの交流会をきっかけに初めて『執行部長』って役職を聞いたんだけど、千夏先生から仕事内容が少し似てるって聞いたの。だからどんな仕事をしているのか、詳しく聞いてみたかったの。」


 沙織は交流会前に聞いた、自分の仕事と似た仕事を普段から行なっている『執行部長』の仕事がどんな物なのか、初めからこの夜ご飯の時間で聞いてみたかったのだ。

 真奈美が沙織の向かい側に座ってくれたのは、沙織にとってとても運が良かった。


『せっかく私の向かい側に座ってくれたんだから、これを機会にちゃんと真奈美ちゃんとお話ししておきたい!

 もちろん夜ご飯もしっかり食べながら!』


 沙織は夜ご飯のカレーとサラダをゆっくり食べながら、真奈美に視線を向ける。


「そうですね……。私もまだ2年生なので、そこまで仕事に慣れているとは言えないですけど、沙織さんと仕事内容が似ているなら話してみたいです。」


 真奈美は相変わらずカレー重視の視線だけれど、会話はしっかり成立させている。


『やった! 搾りかすみたいな小さい私の勇気、よくやった!』


 沙織は真奈美に話しかけた自分の勇気を誉めると、早速真奈美に会話を振った。


「ありがとう真奈美ちゃん!

 早速なんだけど、真奈美ちゃんの役職の執行部長って現場責任者みたいな立ち位置って聞いたんだけど、真奈美ちゃん的にはどんな感じの仕事だと思う?」


「現場責任者ですか……たしかにそんな感じですね。

 行事の時はその行事の準備前から、行事終了後の報告書作成まで、ずっと学園内を走り回ってますね。」

「ずっと?!

 通りで体力があるわけだ……。」


 沙織が感心していると、ここで沙織の隣に座っていた梓も会話に加わった。


「真奈美ちゃんは自宅生だから、放課後はそんなに遅くまで残ってもらうわけにはいかないんですけど、その分、朝早くから登校して仕事を始めてくれるのでとても助かってるんですよ!」

「ちょっと梓さん!

 余計な事は言わないでくださいよ。」

「事実を話してるだけだよ?

 実際、私達はとても助かってるし。」


 梓は本心から言っているようで、真っ直ぐに真奈美を見ながら言い切った。


「まぁ……多少は考えて行動してますけどね?」


 真奈美はそれが嬉しいのか、カレーを頬張って誤魔化す。


「真奈美ちゃん……照れてますね、沙織先輩。」

「真奈美ちゃんって結構わかりやすいんだね。

 ところで、朝早くって何時くらいから登校してるの?」


「私もそれ気になってた!

 生徒会室に入ったら、もう真奈美ちゃんはいくつかの仕事を終わらせてたから、何時から生徒会室で仕事をしていたのか気になってたの!」


『朝早くから仕事を終わらせてるって、結構早くに来て取り掛かってるよね?

 それに効率良く仕事をこなしてそう! 気になる……。』


 真奈美は咀嚼していたカレーを呑み込む。


「そこまで早くないですよ?

 朝7時くらいに生徒会室に到着するくらいですかね?」


「朝7時に到着?

 仕事が終わってるはずだわ!」

「ちなみに梓ちゃんは?

 行事の時は何時くらいに生徒会室に到着するの?」


「私は寮生ですから、朝じゃなくて放課後に校内に残れる時間、作業をしてますね。

 なので朝早くは……一応7時半くらいには生徒会室に行けるようにしてますけどね。」

「それでも7時半かぁ……やっぱり中等部の生徒会も忙しいんだね。」


「そうでもないですよ?

 私は自宅生で放課後に残れない。寮生の梓さん達も、高等部の先輩達よりも放課後に残れる時間は短いですから、1日あたりの仕事量は、高等部生徒会の先輩達とは比べ物にならないと思います。」


 梓も真奈美の話に賛同しているようで、沙織の隣で頷いていた。


「私が交流会前に高等部の生徒会室に伺った時、先輩達の机の上とか棚の中に資料や書類が沢山あるのを見てました。

 中等部の生徒会室はもっと少ないです。」


 梓の声が聞こえたのか、カレーのおかわりの為に席を立っていた瑞稀も会話に加わった。


「高等部は学園内で活動している部活動が中等部よりも圧倒的に多いから、統括管理するために必要な資料や、各部活動に提出してもらう活動記録などが多い。

 あれでも最小限の量なんだよね……。」


「そういえば以前、生徒会室内の資料の整理をしてましたね。

 ほとんど瑞稀さんがやってくれましたけど。」


「自分の部屋の片付けは苦手だけど、生徒会室の書類の整理は得意。」

「えっ? 瑞稀先輩って片付け苦手なんですか?

 てっきり断捨離が得意な人だと思ってました。」

「瑞稀さんの部屋にお邪魔したことあるけど、たしかに物は多かったかな?」

「瑞稀先輩のお部屋に入ったことあるんですか?!

 どんなお部屋でしたか? いい匂いしました?」

「梓ちゃん? ちょっと趣味が……いい匂いはした。」


「あれから少しは……減った……はず。」


 瑞稀が沙織達と立ち話をしている間に、カレーを食べ終えた智香が食器を片付けながら後ろを通っていった。

 その時、一言だけつぶやいていった。


「はずねぇ……。」


「ちょっと智香!

 少しはマシになったの、本当に!」


 瑞稀はそのままカレーのおかわりに向かってしまった。

 話がズレてしまったけれど、真奈美が軌道修正してくれた。


「話がだいぶズレてましたけど、とにかく、中等部の生徒会は仕事量はさほど多くは無いです。

 かわりに時間に制限があるって感じですね。

 沙織さんは最初から高等部の生徒会の仕事量をこなされていて、尊敬します。」

「尊敬だなんて。」


 沙織は智香や瑞稀と違って、こなせる仕事の種類も質も大した事はないと実感していたので謙遜した。

 けれど中等部のメンバーからしたら、それでも尊敬するほどの仕事なのだそうで、沙織はどんどん褒められ続けた。


 真奈美が大盛りによそったカレーが無くなるまでそれは続いた。


「お腹いっぱい! ご馳走様でした!」


 梓はひと足先に食器を片付けに向かった。


「私はカレーが無くなったのでおかわりをしてきます。

 沙織さんもカレー無くなっちゃいましたけど、一緒に行きますか?

 最初におかわりするって言ってましたけど。」

「うーん。」


『褒められすぎたせいか、変なところでお腹がいっぱいなんだよなぁ。』


「サラダも一緒に食べたからちょうどいい量だったみたい。

 カレーのおかわりは大丈夫。」

「そうですか、もう少しお話ししたかったんですけど……。」


 真奈美は沙織との会話が楽しかったのか、沙織が夜ご飯を食べ終えて、少し残念そうだ。

 けれど、沙織もまだ真奈美との会話を続けたかったので、周囲の様子を確認した。


『みんな飲み物を飲んだり、カレーのおかわりしてたりするから、もう少しゆっくりしててもいいよね?』


「お茶を持ってくるから、もう少しお話ししよっか!

 真奈美ちゃんはカレーを食べてていいからさ。」

「はい! すぐにとってきます。」


 沙織は食べ終えた食器を片付け、お茶を持って席に戻ると、真奈美は既に席に戻ってきていた。


「お待たせ。

 はい、真奈美ちゃんの分のお茶。」

「ありがとうございます。」

「ねぇ真奈美ちゃん……。」

「はい、なんでしょう。」


 沙織が視線を下げると、そこには真奈美のカレー皿が置いてあった。


「これ、おかわり?」

「はい、そうですけど?

 おかわりをしに行ったら、千夏先生が最後だからってお米もカレーも全部よそってくれました。」


 真奈美のお皿には、先程食べていた量と同等かそれ以上の量のカレーがよそわれていた。


『まだまだ沢山、お話が出来そうだなぁ。』


 沙織は真奈美がカレーを食べている間、ずっと会話を楽しんだ。

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