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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
40/59

戦い方は十人十色

「聡美先生、そろそろお願いします。」

「わかりました、行きましょうか。」


 お昼ごはんを食べて談笑していると、千夏先生と聡美先生は席を立ち部屋の外へと向かっていく。


「あれ? 先生たち、どこに行くんですか?」


 いち早く気がついた美琴は、そう言って2人を呼び止めた。


「今日のお泊まり会で使う予定の布団とかを受け取りに行ってくるだけだから、みんなはもう少しゆっくりしてて。」


 聡美先生はそう言って美琴に席は戻るように促すけれど、聡美先生の発言に伴って、美琴以外の生徒も全員が立ち上がった。


「私たちが使う布団なんですから、自分たちで運びますよ。

 それに全員が自分の使う布団を運べば、何度も往復しなくて済みますよ?」


 智香の言葉に全員が頷き、結果的に全員で布団を受け取りに向かうことになった。


「本当にみんな良かったの?

 ご飯食べてからすぐに動くと、脇腹とか痛くならない?」


 移動している間も、聡美先生は談笑時間を削ってしまって本当に良かったのかと、沙織たちに何度も聞いてきた。


「いいんですよ聡美先生。気にしないでください。

 それにそのくらい自分たちでやらないと、今日の夜は寝心地悪くなりそうですから。」

「そうですよ。

 それに今、移動しながらも先輩達と会話できてますから。

 楽しいですよ? ですよね、沙織先輩!」


 未来は午前中のクイズ大会で、だいぶ沙織たち高等部メンバーと打ち解けたのか、なんとなく距離が近くなった気がする。


「みんなが楽しいのなら……それでいいのかしら?」

「それでいいんです。」


 最後のひと押しとして奈々が締めると、ようやく聡美先生は納得してくれた。



「さてと……もうそろそろ被服部が布団を持ってきてくれるはずの時間だけど……。」


 千夏先生は腕時計で時刻を確認して、被服部が来るであろう高等部の校舎に繋がっている道を目を細めて見ていた。


 すると、高等部側の道から、一台の車がやって来た。


「もしかしてあの車ですかね?」

「そうだと思います……。」


 先生たちも車で持ってきてくれるとは思っていなかったらしく、自信が無さそうに「たぶんあの車かな?」くらいに様子見をしていた。


 そして全員の注目を集めた車は、沙織たちの立っていた合宿所の正面入り口にピッタリと横付けされた。



 後部座席には布団がたくさん積み込まれているのが、窓越しに見えた。

 そして運転席から出てきたのは、予想もしていなかった人物だった。


「みんな〜楽しんでる?」

「真理先生!」


 いつもと同じ白衣を身につけた真理先生が、運転席から降りてきたのだ。


「どうして倉持先生が?」


 真理先生の登場に1番驚いていたのは、千夏先生だった。


『千夏先生があんなに驚いてるなんて……だけど、たしかにどうして真理先生が私たちの布団を持ってきてくれたんだろう。』


 驚いている高等部メンバーを尻目に、真理先生は聡美先生と中等部メンバーに自己紹介をしてから後部座席のドアを開ける。


「実は被服部の由紀ちゃんから車を出してもらえないかって頼まれたのよ。

 いつもお世話になってるから、それくらい任せてって言って車を出したの。」


 真理先生が事情を説明している間に、助手席からひとりの生徒が降りてきた。


「あっどうも〜。

 智香ちゃんと瑞稀ちゃんと千夏ちゃん、お久〜!

 被服部部長の加藤由紀でーす! お初の子達もよろ〜!」


 イケイケギャルみたいな私服姿の由紀は、ニコニコしながら後部座席に乗っている大量の布団類を手際よく降ろしていく。

 沙織たちもそれに続いて一緒に降ろして行った。


 由紀はこの作業や布団の重さにに慣れているのか、会話しながら降ろしているけれど、全く息が上がった様子は無かった。


「由紀ちゃんにはいっつもお世話になってるから、このくらいはお手伝いしないとね!」

「お互い様っしょ!

 私も真理ちゃんにはいつも助けてもらってるからね!」


『由紀さん……先生のことをちゃん付け……。

 これが陽キャの力なのか? ちゃん付けなのに全然先生のことを舐めてる感じがしない。

 むしろ先生の事を慕っている感じがすごくする!』


「倉持先生と加藤が2人で布団を持ってきてくれて助かったけど、ひと声かけてもらえれば私が車の運転したんだけど。」


 千夏先生は土曜日に真理先生に生徒会の仕事を手伝ってもらってしまったと、気にしている様子だ。


「全然気にしないで?

 今日は保健室の布団とか、カーテンとかを由紀ちゃん経由で被服部に頼んでおいたから、それを受け取っていたのだけど、いつもより被服部の部員が多かったからもしかしてここかな? と思って声をかけたのよ。」


「それで真理ちゃんから良かったら車を出そうか? って言ってもらえて、ありがたくお願いしたって訳なの!」


 真理先生と由紀は「ねー!」と仲良く声を合わせて笑っていた。


「だから、これは私の気まぐれ。

 千夏先生が気にすることは何も無いわ!」


「そうですか。

 ありがとうございます。」


 あっという間に布団類は合宿所のお泊まり部屋へと運ばれていく。



「これで最後だねー!」


 そう言って由紀の持っていた枕が最後に布団の上に置かれて、布団類の搬送は終了した。


「助かりました、ありがとうございます由紀さん。」

「どーいたしましてー!

 それじゃあ代表で……智香ちゃん! この書類にサインちょーだい!」


「布団の手配をお願いした時に、私もサインをしたと思ったんだが?」

「千夏ちゃんからもらったサインは、どこに何セットの何を用意して欲しいのかを確認する手配書のサイン。

 被服部で取り扱っている布団類は学園の備品扱いだから、手配書は教職員にしか書いてもらえないからね!

 今私が欲しいのは、その手配書と相違が無いかを確認してもらったよ〜の証明書のサイン。

 こっちは生徒代表でもオッケーだから、せっかくだし生徒代表中の代表、生徒会長の智香ちゃんに書いてもらいたいな〜って!」


 智香は由紀から書類を受け取り、受領と書かれた枠内にサインをした。


「……うん! たしかにサインもらったよ!

 それで……これが布団の返却時に借りた人にお願いしている事が書いてある書類と、受領書の控えね!」


 智香は由紀から書類を受け取り、これでお泊まり会の全ての準備が整った。

 後は流れに任せて交流会を楽しむだけだ。


「真理ちゃん本当に助かったよ!

 さーて、少し遅いけどお昼ごはん食べに行こーっと!」

「あら? 由紀ちゃんもお昼ごはんまだ食べてなかったの?

 よかったら私と一緒に食べない?」

「食べる!

 それじゃあ、交流会楽しんで! じゃあね〜!」

「お邪魔しました〜」


 真理先生と由紀の2人は、軽くなった車に乗り来た道を戻って行った。



 2人を見送った一向は、お昼ごはんを食べた部屋に戻ってきた。

 そして布団運びで適度に身体を動かしたからか、そのまま午後のレクリエーションは少しアクティブにしようとなり、ツイスターゲームを開催することになった。

 お昼ごはんを食べた時に使用した椅子とテーブルを部屋の隅に置き、スペースを確保する。


 ツイスターゲームのシートが合計で4枚だったため、くじ引きで2人1組となり、ツイスターゲームの指示は千夏先生と聡美先生が行うことになった。

 なんでも先生たちは2人とも、ツイスターゲームに参加してしまったら速攻でゲームを終了して保健室に運び込んでもらわないといけないと言って、断固として参加を拒否されてしまったのだ。



「それじゃあ早速、ツイスターゲームのシートに番号を割り振ったので、くじを引いてその番号のシートに立って準備してください!」


 指示役としての参加になった千夏先生と聡美先生は、とても生き生きしていた。

 聡美先生が指示を出し、千夏先生がくじの入った箱を揺らして中身をかき混ぜている。


「よーし! それじゃあ順番にくじを引こう!」


 次々とくじを引いていき、書かれていた番号と同じ番号が書かれたシートの前に立っていく。



「4番は……。」


 沙織は自分の引いたくじに書かれていた4番のシートに立った。


「沙織先輩! よろしくお願いします!」

「よろしくね、梓ちゃん。」


 沙織の正面に立ったのは梓だった。



 こうしてツイスターゲームの組み合わせは、

 1番、智香、真奈美。

 2番、瑞稀、美琴。

 3番、奈々、未来。

 4番、沙織、梓。

 の組み合わせに決定した。

 それぞれの組でじゃんけんをして、勝った方が後攻だ。


「さて、全員位置に着いたな。

 それじゃあ始めるぞ!」


 千夏先生はどこから持って来たのかわからないが、面白そうだからと軽快な音楽をかけ始め、聡美先生に合図を送ると聡美先生によって勢いよくルーレットが回された。


「最初は〜……左足黄色!」



 開始からわずか7手目。

 徐々に体勢がキツくなって来た人から、荒い息づかいをし始めた。

 沙織も少し呼吸が荒くなって来ていた。


「まだまだ序盤だぞー。

 最初に脱落するのは誰だ〜。」


『千夏先生、自分がやらないからって好き勝手に……。

 羨ましい!』


「聡美先生! 早く!」


 3番のシートで戦っている奈々から、必死な叫び声が聞こえた。

 沙織は隣の3番シートに、体勢を崩さないように注意しながら視線を向けると、同じ回数、指示に従ったとは思えないくらいとんでもない体勢になっている奈々と未来の姿があった。


『何をどうしたらあんなに混じり合うの?!

 未来ちゃんは腕立て伏せをするときの体勢で、さらに身体を捻っているし、奈々ちゃんは腕が交差した状態でブリッジしてるし!』


 驚いた沙織は、さらに別のシートに視線を移す。


 1番のシートは智香と真奈美がお互いの方に足を向けているくらいで、そこまで苦しそうな体勢をしている様子は無い。

 強いて言えば、智香が真奈美との接触を避けようと少しコンパクトに収まっている印象だ。


『ちっちゃくまとまってる智香さん、超かわいいんですけど!

 真奈美ちゃんとセットで見ると、戯れて遊んでるペットと飼い主みたい!』


 2番のシートでは美琴が息を切らし辛そうな体勢になっているけれど、瑞稀はまだまだ余裕そうな表情をしている。


『瑞稀さんは考えてから動いているんだろうなぁ……。』



 そして沙織と梓が戦っている4番のシートは、割といい感じに勝負している気がしていた。

 お互いの腕と足が交差していたり、どちらがどう動くかによってお互いの体勢が変化していく感じだ。


『梓ちゃんも結構息が上がって来てるみたいだし、お互いに自分の楽な姿勢を維持するのが勝負の決め手かな?』


 それぞれの組が自分たちらしい戦いをしているのを、先生2人は気がついているのか、とても楽しそうに見守っている。


『そういえばこのツイスターゲームって、何回もやるんだっけ?

 クイズ大会の時みたいに、変に盛り上がって2回戦、3回戦とか優勝決定戦なんて言い出したりする?

 想像したくない……。』


 体力にそこまで自信のない沙織は、頼むから何回もやらないでくれという思いと、楽しいから他の人とも戦いたいという思いでよくわからない感情になってしまった。


『まぁ休憩を挟んでもらえれば……なんとか?』


「はーい! 左手赤!」


 ぼーっとしていた沙織は急いで左手を赤に移動させる。


「あっ!」


 何も考えずに急いで移動させたばっかりに、先程よりも辛い体勢になってしまった。


「きゃー!」


 沙織が自分の辛い体勢をどうにかしようとモゾモゾ動いていると、隣のシートから悲鳴が聞こえた。



「今のは未来ちゃんが倒れて、奈々ちゃんが巻き込まれた感じね。

 ということで、ビリは未来ちゃんね!

 奈々ちゃんは元の体勢に戻って復活しても良いけど……。」

「ビリじゃないので復活は遠慮します……。」


 ぜぇぜぇと肩を動かして呼吸をしている奈々は、そのままシートにへたり込んだ。

 一方で未来は、ビリになったというのになんのリアクションも示さない。

 先程沙織が見た時の体勢が相当キツかったのか、未来は声すら出さない。

 完全に力尽きていた。



「さて! まだまだ余裕そうな残りのメンバーに、新しい指示を出しますよ〜!」


『聡美先生ってもしかしてS?』


「次の指示は〜……。」



 聡美先生の容赦ないルーレットに、沙織たちは次々と脱落していった。

 脱落した者は自分のシートの傍に倒れ込み、対戦相手が先に倒れてしまった者は、ひとりになって楽な体勢を作りやすくなったといった安堵と、どうせなら巻き込んで一緒に倒れたかったと思った者がほとんどだった。



「もぅ……無理……。」


 そう言って智香が力尽きると、同じシートで戦っていた真奈美も同時に倒れ、これにより優勝者が決まった。

 優勝者は美琴だった。


 沙織は未来と奈々のすぐ後に脱落し、残っていた他の人を見ていた。

 冷静に考えて動いていた瑞稀は、美琴のトリッキーな動きによって体勢を崩して脱落した。

 その後はひとりでシートを使うことになった美琴は、元々体力があったらしく全く疲労も見せることなく優勝した。


「優勝は美琴ちゃんね!

 拍手〜!」


「おめでとう!」


 最後まで争っていた智香と真奈美以外からは、おめでとうと歓声が上がった。

 智香と真奈美は、震える手でなんとか拍手を送った。



「それじゃあみんな、もう一回やる?」

「ちょっと待ってください!」


 聡美先生はニッコリ笑ってルーレットを回した。

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