初めまして後輩たち!
ついに沙織たちの待っていた合宿所の一室に、中等部生徒会がやってきた。
まず初めに聡美先生が入って来て、続いて梓から順番に生徒会役員も入室して来た。
聡美先生と梓以外の中等部メンバーは、皆緊張しているのか、室内や沙織たち高等部生徒会の面々をひっきりなしにキョロキョロと見渡していた。
「高等部生徒会の皆さん、顧問の千夏先生。
事前準備や手続きまでしていただき、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
聡美先生と梓に続いて、沙織たち高等部の面々に頭を下げてお礼を言う中等部生徒会役員たち。
『さすが生徒会役員。
中学生だからって子供扱いするのは、失礼だと思ってしまうような礼儀正しさ。
むしろ私の方が子供っぽい気がする……。』
「いいんですよ、気にしないでください。
今日と明日は交流会なんですから、一緒に楽しく過ごしましょう。」
いつもと違う服装だからか、千夏先生の雰囲気が違う。
それを言うと、沙織を含めて普段は制服姿の智香と瑞稀も少し同じく私服だからか、雰囲気が違うのだが。
「そうですね……それじゃあ早速交流会を始めましょうか!」
千夏先生に促された聡美先生の号令で交流会はぬるっと始まった。
まず初めに高等部生徒会が準備していたテーブルに、座り位置などは気にせず自由に座っていく。
そして自己紹介からスタートした。
最初に始めたのは智香だった。
「初めに高等部生徒会から自己紹介しますね。
私は高等部2年、生徒会会長の千葉智香です!
交流会、すっごく楽しみにしてました。
よろしくお願いします!」
智香が自己紹介を終えると、中等部生徒会から拍手が送られる。
「いや〜、照れますね〜。」
智香は耳後ろを触りながら席に座った。
『さすが智香さんです!
自然と先陣を切って自己紹介を始めるところ、さすが会長です!』
そして智香に続いて瑞稀が自己紹介を始める。
瑞稀が席を立ち上がった瞬間、中等部の生徒から若干の緊張感を沙織は感じた。
『やっぱり中等部の子達は、瑞稀さんの事が少し怖いのかなぁ。私も初めは怖かったし……。
だけど、この交流会で瑞稀さんの優しさが伝わるはず!
頑張ってください! 瑞稀さん!』
沙織と同じく、智香と千夏先生も心の中で瑞稀にエールを送る。
中等部の生徒を目の前にして、緊張から目付きが鋭くなってしまっていた瑞稀の目元が、少しだけ緩んだ。
「えっと……高等部2年、生徒会副会長の勝又瑞稀……です。」
『瑞稀さん! 「お泊まり会楽しみです!」って中等部の生徒にちゃんと伝えてください!』
瑞稀よりも鋭い目線を瑞稀に向ける高等部生徒会メンバーの視線によって、ようやく瑞稀も自己紹介に少し言葉を付け足す。
「お泊まり会、楽しみにしてました。
あと……緊張しているだけで、決して人嫌いとかでは無いです。
中等部の子達と仲良くなりたいので……話しかけてくれると嬉しい……です。」
『素晴らしいです瑞稀さん!』
なんとか自分の口から言葉を伝える事ができた瑞稀に、沙織と智香と千夏先生は拍手を送った。
3人に続いて中等部生徒会からも拍手が送られた。
既に面識のあった聡美先生と梓は少し口角が上がっていた。
そしてついに沙織の順番だ。
瑞稀の自己紹介を見守り、安堵していた沙織は心穏やかに自己紹介を始める事ができた。
「初めまして、高等部1年の及川沙織です。
この学園には高等部から入学したので、中等部の子達とこうして交流会ができるのは、とても嬉しく思っています。
今日、明日と2日間よろしくお願いします。」
沙織の自己紹介も無事に終わり、拍手が送られた。
そして、高等部生徒会顧問の千夏先生も軽く自己紹介を述べて、次は中等部生徒会の自己紹介に移った。
初めは打ち合わせ段階で、既に沙織たちと面識のあった梓からだった。
「中等部で生徒会会長をしています、3年の熊谷梓です。
既に一度お会いしていますが、高等部の皆さん、改めてよろしくお願いします!」
『梓ちゃん、うちの生徒会室に来た時よりもしっかりして見える。
智香さんもそうだけど、生徒会長ってやっぱり人前に立つと堂々としててカッコいいよね〜。
私にはできないな〜。』
梓から始まった中等部生徒会の自己紹介に、高等部メンバーは終始笑顔で見守っていた。
ただひとり、瑞稀を除いて……。
瑞稀は仲良くなりたい一心で、梓を含めて全員をゆっくりと見ていたけれど、その表情は険しく眼光も鋭く、中等部生徒会は面識のある梓も含めて、顔が引き攣っていた。
あまりにも表情の硬い中等部生徒会に気がついた沙織は、隣に座っていた瑞稀に耳打ちで注意する。
「瑞稀さん、顔! 顔が怖いです!」
「えっ? 顔と名前を覚えようとしてるだけなんだけど……。」
真剣にそう答えた瑞稀に、思わず沙織と反対隣に座っていた智香からもツッコミが入った。
「瑞稀……真剣に聞き過ぎて表情が怖い。
中学生みんなびびってるから、もう少し優しく。
せめて眉間のシワはやめようか。」
智香にもそう言われ、瑞稀は自分の眉間をゴリゴリとマッサージしてシワを伸ばし始めた。
これで少しは大丈夫かなと思った沙織は、中等部生徒会の様子を伺う。
『中等部の子達の表情が少し和らいだ気が……。』
沙織は横に座っている瑞稀をもう一度見ると、眉間をゴリゴリとマッサージしている瑞稀は、ぱっと見ハムスターのように見える。
『瑞稀さんハムスターになってる!
金髪だからゴールデンハムスターだ!』
沙織と同じく、智香や千夏先生に至るまで声を押し殺し、肩を震わせて笑っていた。
気を取り直し、梓以外の中等部生徒会役員の自己紹介が始まった。
これから自己紹介をしてくれる中学生は、沙織はもちろん、智香と瑞稀も千夏先生も、高等部生徒会とは誰ひとりとして面識が無い子達だ。
高等部生徒会メンバーは背筋を伸ばした。
そして次は、梓の隣に座っていたショートヘアーの女の子が立ち上がった。
「初めまして、小原美琴と言います。
中等部生徒会で副会長をしています……えっと、3年です。よろしくお願いします!」
緊張しつつも礼儀正しく挨拶してくれた美琴に、沙織たちは笑顔で拍手を送る。
『副会長か……しっかりしてそうだし、梓ちゃんが迷子にならないように聡美先生に念押ししたのはこの子かなぁ?』
そして次々と順番に自己紹介をしていく中等部の生徒たちは、先程の事もあったからなのか、瑞稀の視線に早くも慣れたようだ。
「久保田奈々、3年生です。
議長をしています、よろしくお願いします。」
奈々は議長らしく簡潔に自己紹介をしてくれた。
『ハキハキ喋っていてとても聞きやすい声。
議長になるべくしてなった子って感じ。』
「2年生の菊地未来、書記です!
初めまして! 先輩!」
満面の笑みで沙織たちを見て挨拶をしてくれた未来は、誰がどう見ても人懐っこい性格のようだ。
『小動物みたいな子だなぁ。
後ろにくっついて来てくれそう。』
そして最後に自己紹介をしてくれたのは、沙織がどうしても話をしてみたいと思っていた、中等部生徒会執行部長の生徒だ。
沙織の視線は自然とその生徒に釘付けだ。
そしてその生徒は淡々と自己紹介を始めた。
「宮野真奈美です。
執行部長をしています。2年生です。」
真奈美は活動的と言うよりは、冷静に全体を見る事ができる、参謀のような印象だ。
その佇まいから、いっそう真奈美に興味を持つ沙織だった。
「さてと。
無事に全員の自己紹介が終わったところで、早速レクリエーションから始めましょうか!
遊んでいる間に、自然と会話していけば仲良くなれると思うので、早速始めましょう!」
聡美先生が張り切って前振りをしてくれたので、沙織は早速準備に取り掛かった。
ショッピングモールで買っておいたもので作った、手作りの早押しボタンを、ひとりひとりに渡していく。
お手製の早押しボタンを受け取った梓たち中等部組は、その早押しボタンをまじまじと見ている。
「この早押しボタン、沙織先輩が作ったんですか?」
早押しボタンをクルクル回して見ていた梓が、沙織に話しかけてくれた。
「そうだよ、せっかくやるなら思いっきり遊ばないとって思ってね!
だけど、あんまりお金はかけられないから手作りで申し訳ないんだけど……。」
梓の隣に座っていた美琴も、沙織に話しかけてくれた。
「沙織先輩はとても器用なんですね。」
「そ、そんな事ないよ!
こんなふうにすれば作れるかなって考えて、組み立てたら上手くできたってだけだし。」
「普通はそんなに上手く設計できないですよ。」
「沙織先輩すごいです!」
『いや〜、まだレクリエーションも始まってないのに、そんなに私をヨイショしないで〜!
というか、未来ちゃんまでやって来てくれてる〜嬉しい!』
中等部生徒会から一躍人気者のように慕われ始めた沙織に、智香と瑞稀は羨ましそうな視線を向ける。
『とっても嬉しいけど、智香さんと瑞稀さんにも話しかけてもらえませんか?』
沙織がそんなことを思っていると、梓が沙織の気持ちを感じ取ったのか智香と瑞稀にも話題が広がっていった。
「智香先輩と瑞稀先輩も一緒に作ったんですか?」
梓が2人に聞くと、智香は手を、瑞稀は首を横に振って否定した。
「私たちにはこんな物を作る技術は残念ながら無いよ。
そのかわりに、この部屋の飾り付けとか、諸々の手配なんかはやったけどね。」
「適材適所、役割分担が大事だから。
今回の交流会の企画は、ほとんど沙織がやってくれた。
私はお泊まり会って案しか出してないし。」
中等部の子達は智香と瑞稀の話に聞き入っていた。
瑞稀に対しては、最初よりも怖く無くなったのか、中等部組も少しずつではあるけれど距離が近くなった様子だ。
すると、美琴が瑞稀に恐る恐る話しかけ始めた。
「だけど、役割分担って大変じゃないですか?
私たちは役割分担が上手くできなくて、誰かに仕事が偏りやすくなってしまうので、今は全員で同じ仕事をしているんですけど……。」
話しかけられて嬉しくなった瑞稀は、嬉々として美琴の質問に答える。
「初めは何事も上手くいかない……から、全体の仕事量や分野を見て、個人の得手不得手を把握するところから始めていけば、自然と役割分担ができるようになる……はず。」
「瑞稀先輩はそこまで考えて役割分担をしているんですね……。
私も、もっと考えて瑞稀先輩みたいになりたいです!」
『美琴ちゃん! すごい勢いよく瑞稀さんの喜ぶことを言ってくれてる。
絶対瑞稀さん、喜んでるよ。』
沙織の予想通り、瑞稀は信じられない事が起こったと、嬉しさのあまり呆然としていた。
「良かったじゃん瑞稀!
後輩から慕われてるよ!」
智香が瑞稀の肩を叩き「よかったよかった。」と言っていると、瑞稀は手で顔を覆ってしまった。
「……人生のピークが来てしまった……。」
「まだ早い。」
智香と瑞稀のそんな様子に、中等部組も和んで会話が弾んでいる。
沙織はその会話に耳を澄ませながら、準備を進める。
「瑞稀先輩って、頭も良くて金髪で、ピアスも沢山付けてるって聞いた事があったから怖いって思っていたけど、全然そんな事なかったね!」
『奈々ちゃんもそう思ってたんだ。
私も初めはそう思ってたよ。』
「だから言ったでしょ?
高等部の生徒会室に行って会って来たけど、全然イメージと違って優しい人だって。」
『梓ちゃんも初めは「ひっ!」って言ってビビってたもんね。
ついこの間の事なのに懐かしいなぁ。』
「見た目は確かに怖かったですけど、仕草が可愛いですよね。」
『未来ちゃんの仕草も私にはたまりませんねぇ。
さっきも思ったけど、本当に小動物みたい。』
「高等部の生徒会はやっぱり全員すごいんだね!
そうじゃ無いとたった3人で高等部を運営するなんてできないもん。」
『美琴ちゃん……智香さんと瑞稀さんはとても凄い人だけど、私も2人と同等に見ないでもらえると嬉しいな!』
「美琴さんの言う通りです。
私は普段から沢山の生徒と関わっていますけど、その生徒をまとめあげて的確な指示を出し、高等部を運営している。
それも私達よりも少ない人数でやっているんですから、先輩達3人は本当に凄い人たちです。」
『真奈美ちゃんも! 私をそこに入れないで!』
レクリエーションの準備をするだけのはずが、なぜかあちこちで会話に花が咲いていた。
沙織の準備が終わり、その瞬間、会話も終了した。
『さっすが中等部、高等部の生徒会役員……。
すぐに会話が止んで進行が再開できる。すごっ。』
沙織は早速、自分の企画した「全員クイズ」なるものを始めるために、先程渡したお手製の早押しボタンと、簡単なルールの説明を始めた。




