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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
37/59

ジェットコースターで例えると今、上昇中

 ついにきた交流会当日の朝。

 沙織は早速、交流会を行う合宿所に持って行く荷物をまとめたカバンを玄関に置いて準備を始めた。

 そして同じように、綾乃に渡す約束をしていた漫画も手提げ鞄に入れて準備をした。



「これで準備は全部完了!

 えーっと……綾乃に漫画を渡して、合宿所に向かいながら学食で智香さんと瑞稀さんと合流して、朝ごはんを食べたらいよいよ……。」


 たくさん準備した交流会がついに今日から2日間行われると考えただけで、沙織の心はドキドキが止まらない。



「中等部の生徒会役員はどんな子達なんだろう……。」



 唯一面識のある梓のように、慕ってくれる後輩だったら沙織も打ち解けられるだろうか。

 昨日の合宿所内での準備作業の時、聡美先生が言っていたように『協力して仕事を終わらせるような生徒達なのだから、きっと仲良くなれる……。』と沙織は自分に言い聞かせた。



「……そろそろ出ようかな。」


 時刻は朝の8時。あと30分で学食に集合なのだけれど、沙織は綾乃に漫画を貸し出すので、その分早めに出た。



『綾乃の部屋に行くの初めてだなぁ……。』


 一応知ってはいたものの、綾乃の部屋に自分から訪ねに行く事が無かったので、沙織は少し緊張していた。


「ここ……だよね?」


 部屋のネームタグにはしっかりと「小林綾乃」の名前が書かれていた。

 綾乃のネームタグの下には、沙織の知らない生徒の名前が書かれている。

 この名前の生徒が綾乃のルームメイトらしい。


『まだ話した事が無い人も居るんだよなぁ。

 名前もわからないってことは、もしかしてめぐみのクラスの子なのかも……。』


 沙織は何度も綾乃のネームタグを確認してから、ようやくインターフォンを鳴らした。


 室内からドアの鍵が開けられた音が鳴り、ゆっくりとドアが開いた。



「おはよう沙織。」

「おはよう綾乃! 持って来たよ。」


 沙織は早速、漫画が詰まっている手提げ鞄を綾乃に差し出した。

 沙織が手提げ鞄を綾乃に差し出すと、荷物が減りとても身軽になった。


「ありがとう!

 ところで沙織、荷物はそれだけ?」


 すごく荷物の少ない沙織に、思わず綾乃が聞いた。


「お泊まり会って言っても、着替えくらいしか要らないから。

 布団とかは合宿所に被服部が届けてくれるらしいし、交流会で使うものは昨日のうちに合宿所に運び込んであるから。」


「そっか、それなら大丈夫だね。

 楽しんできてね!

 中等部の生徒会役員の子達は、みんなとてもいい子達だから、仲良くなっておいで!」


「うん。いってきます!」

「いってらっしゃい!」


 中等部生徒会役員と面識が有りまくりの綾乃から声をかけてもらい、朝はドキドキしていた沙織の精神面は、ワクワクに変わっていた。



 浮かれた沙織は、意気揚々と集合場所である学食へ向かった。


 学食に到着して室内を見渡すと、端っこのテーブルに智香と瑞稀が座っていた。

 早速テーブルに向かった。


「おはようございます。」

「おはよう沙織ちゃん!」

「おはよう沙織。」


 沙織もテーブルに荷物を置いて席に座った。


「沙織ちゃんの荷物少ないね。

 ちゃんとお泊まりの準備してきた?」


 智香にそう言われて2人の荷物を見ると、やたら多く感じた。


「私はちゃんとお泊まりの準備してきましたよ。

 先輩達こそ……荷物多くないですか?」


 2人の荷物量では、とても一泊2日とは思えない。


「そんなことないけどなぁ……。」


 智香は自分の持ってきた荷物を見渡して言った。


「私もかなり減らして来たつもりなんだけど……。」


 瑞稀も智香と同じく、沙織と比べたらとんでもなく多い量の荷物を持って来ていた。


「おふたりとも、1週間くらい旅行に行くのかと思いましたよ。」



 そこへ千夏先生もやってきた。


「おはよう。」

「おはようございます、千夏先生!」


 3人が千夏先生に挨拶をすると、千夏先生はいつもと違い少し視線をわざと逸らした。


「どうしたんですか? 千夏先生。」

「どうもこうも……。」


 千夏先生のそんな様子に、なぜか智香だけがにこやかに微笑んで様子を見ていた。


「沙織ちゃん、今日の千夏先生のことどう思う?」

「どうって……。」


 沙織は千夏先生をじっと見ると、いつもと雰囲気が違う事には気がついていたものの、先週のお買い物に行った時よりも柔らかくなったように感じた。


「なんだか柔らかい印象ですね。

 先週のお買い物の時みたいに、オフの千夏先生だとは思いますけど、先週よりもさらに印象が明るくて柔らかいような……。」


 沙織の解答に満足したのは智香だった。


「さっすが沙織ちゃん!

 千夏先生の変化に気がつくなんて素晴らしい!」

「なんで千葉がそんなテンションなんだよ。」


『あっ、いつもの千夏先生だ。』


「それはもちろん、私が選んであげたお洋服を千夏先生が着て来てくれたからな決まってるじゃないですか!」


『あの時か。』


 沙織と瑞稀は洋服屋さんで、智香が千夏先生の服を選ぶと言っていたことを思い出した。


『本当に選んでたんだ。』


「とてもお似合いですね、千夏先生!」


 沙織が素直な感想を言うと、千夏先生は少し照れながらもお礼を言った。


「だから言ったじゃないですか。

 絶対に似合いますよって!」


「だけどな千葉。

 私の普段の服装からあまりにもかけ離れた服を急に着始めるのは、失恋したのか〜とか言われて面倒なことになるんじゃないのか?」


「そんな事にはなりませんよ!

 ねぇ、2人とも。」


 智香は瑞稀と沙織にも同意を求めた。


「そうですね。

 千夏先生が心配するような事にはならないと思いますよ。イメチェンしたのかな? くらいは思いますけど……。」

「私も智香さんと瑞稀さんと同じ意見ですね。」



 3人にそう言われて「そんなもんなのか?」と言いつつも、いつもと違う服装のおかげで心なしか千夏先生の感情表現が2割り増しくらいになった。



「とりあえず、朝ごはんを食べちゃいましょう!

 中等部の子達が先に合宿所に到着しちゃいますよ!」


「わかったから、とりあえずお前たち3人はさっさと朝ごはんを食べろ。」

「はーい。」


 智香と瑞稀は早速朝ごはんを取りに向かった。


「千夏先生は朝ごはん食べないんですか?」


 沙織は千夏先生が朝食に何を食べるのか、率直に気になったので聞いてみる。


「部屋で軽く食べて来てるからな。

 及川も早く取りに行け。」


「はい……。」


『千夏先生は食べないんだ……。』


 沙織は少しガッカリした様子で朝食を取りに向かった。



「ごちそうさまでした。」

「よし、全員朝ごはんは食べたな?

 それじゃあ合宿所に向かうぞ。」


 千夏先生の合図で3人は食器トレーを片付けると、荷物を持って合宿所へと向かって行った。



 荷物が少ない沙織、千夏先生とは対照的に大量の荷物を持ってきた智香、瑞稀の2人は、合宿所に向かうだけで疲れるかと思いきや、むしろ楽しみすぎてアドレナリンが出まくっているおかげなのか疲労は全く感じていないらしい。

 むしろ元気いっぱいだ。


 そんな2人について行っては、体力が保たないと感じた沙織は、千夏先生と横並びになって歩いていた。


「千夏先生、ひとつ聞きたいことがあるんですけど。」

「なんだ及川。」


「中等部の生徒会役員は全員で何人居るんですか?

 そういえば聞いてなかったなと思って。」

「あ〜……言ってなかったな。

 たしか……会長、副会長、議長、書記……あと執行部長の5人だったか。」


『この間会った梓ちゃんが会長だから、あと4人が今日はじめましてって訳か……。

 ん? 執行部長ってどんな役職だ?』


 初めて聞いた『執行部長』という役員名に、どんな仕事をする役職なのか検討も付かなかった沙織は、千夏先生に聞いてみる。



「あの、千夏先生。

 私の通っていた中学校では、生徒会役員の役職名に『執行部長』って言ったものは無かったのでよくわからないんですけど、どんな仕事をする役職なんですか?」


 千夏先生は沙織の質問に、しっかりと答えてくれた。


「執行部長って言う役職は、生徒会が決定した物事を執行するとき、それが予定通りに進んでいるか、アクシデントは無いか。

 そしてアクシデントが発生した場合の対処などをする役職のことだな。

 もっと簡単に言うと、現場責任者ってところだろう。」



 説明を聞いただけでもやる事が多そうな役職に、沙織はそんな仕事を行なっている、まだ会ったことのない執行部長の生徒に興味が湧いた。



「及川の今行っている仕事は、中等部で言うと執行部長と書記を掛け合わせた感じだからな。

 仕事の面では通じるものがあるだろうな。」


『私はまだ、そんなに沢山の仕事をしているとは思ってないけど……。』


「だけど今の説明を聞いた限り、中等部の生徒会執行部長の子は、とても沢山の仕事を行なっていますね。

 尊敬します。」


「その子と同じように仕事をしている及川も、尊敬に値すると私は思うけどな。」



 千夏先生は本心でからそう思っているようで、沙織は純粋に嬉しく感じた。


「買い被りすぎですよ千夏先生。

 だけど……千夏先生にそう言ってもらえると、とても嬉しいです。」



 交流会の直前に、新たな楽しみが増えた沙織は、足取りも軽くなっていった。



「千夏先生! 沙織ちゃん!」


 前方を歩いていた智香が声を上げた。

 その智香の後ろには、交流会の会場である合宿所が見えた。


 智香はまるで子供のように、はしゃいでいたけれど、横にいた瑞稀に何かを言われてから、急に大人しくなった。


『智香さん、瑞稀さんに「中等部の子が見てるよ。」って言われたみたいに静かになった。』


 大人しくなった智香と、その横に瑞稀が立ち沙織と千夏先生が追いつくのを待っていた。


 沙織は少し急ごうとしたけれど、横を歩いている千夏先生はマイペースに歩いていて、急ぐ気配は全く無い。



「今急いでも、体力が無くなるだけだ。

 まだ交流会は始まってすらいないのに、体力を使ってどうする。」


 千夏先生はそう言うと、気持ちスピードを遅くした。

 沙織はそんな千夏先生に歩幅を合わせて、これから行う交流会のために、少しでも体力を温存する事にした。



 ようやく2人に追いついた沙織と千夏先生は、あれだけはしゃいでいたのに疲れた様子の無い智香と瑞稀を見て、心の底から同じテンションじゃ無くて良かったと安堵した。



「よし、到着だ。

 鍵を開けるから室内に荷物を置いて、窓ガラスと扉を開けて換気してくれ。

 中等部の生徒会は10時に来る予定だから、それまでに迎え入れる準備をしておけば間に合うから、換気をしたら各自準備しておけよ。」



 千夏先生はそう言うと合宿所の入口の鍵を開けて、扉を開放した。


「及川、昨日の放課後に準備しておいたものを、千葉にも手伝ってもらえ。

 ひとりでやるには数が多いから。」


「何を手伝えばいいのかわからないけど、任せて沙織ちゃん!」

「助かります智香さん。」


 沙織は智香と一緒に、昨日の放課後に準備したものがある部屋へ向かった。


「千夏先生、私は何を手伝えばいいですか?」

「勝又は椅子とテーブルの上面を拭いて、埃が無いようにしてくれないか?

 布はこれを使ってくれ。」


「わかりました。」



 こうして各自、中等部生徒会が来るまでの時間に、掃除と今日の交流会で行うことの準備に取り掛かった。



 沙織と智香は、昨日のうちに準備しておいた物を置いてあった部屋にやって来た。


「いや〜、この合宿所は本当に広いね〜。」

「智香さんは中等部の時にも入った事があるんですよね?」

「そうだけど、頻繁に来られる場所じゃ無いから、来るたびに広いな〜って思ってる。」


「私からすると、この学園の全てスケールが大きくて、毎回驚いてるんですけどね。」


「そうなの?」

「生徒会室だってそうですよ!

 生徒会室にソファーやテーブルなんて見たこと無いですし、ましてや各自の専用の机や棚まで。」


『正直なことを言うと、未だに生徒会室に自分専用の机があるって変だなぁって思ってます。』


「ずっとこの環境だったから、慣れちゃってたのかも。

 外から見ると特殊なんだねこの学園は。」

「まぁ刺激がありすぎて、今のところは退屈はしないですね。

 私はこの学園に慣れるのは、まだまだ当分先になりそうです。」



 そんな会話をしながら、中等部の生徒を迎え入れる準備を着々と済ませて行った。



 中等部の生徒が来るまで30分を切り、3人はいよいよ気分が高揚して来た。


「緊張しますね智香さん。」

「そうだね沙織ちゃん。」


 瑞稀は緊張し過ぎてひと言も発さなくなってしまった。

 そんな3人の様子に、千夏先生は頭をかしげる。


「客観的に考えると、初対面の高校生に会う中学生の方が緊張すると思うんだけどなぁ。」


「それじゃあ中等部の子達は、私たちよりも緊張しているかも知れないですね。」



 そしていよいよ、合宿所に中等部生徒会役員がやって来た。

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