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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
34/59

曝け出すと後には引けない

 昼寝から目覚めた沙織は勢いよく体を起こした。

 遊びに来てくれていた2人を放っておいて昼寝をしてしまった自分に、ドン引きしながら……。


「うわっ! びっくりした。」

「おはよう沙織。」


 急に起き出した沙織に驚いた綾乃と、まったく気にせずに声をかけためぐみに、沙織は寝起きそうそう土下座を捧げた。



「誠に申し訳ございませんでした!」

「寝起きで土下座は……なかなか出来ないね。」

「私も無理だ。」



 3人ともそのままの姿勢で固まること数秒。

 綾乃とめぐみが動いた。



「沙織! ほら起きて!」

「そうそう、ほらこっちだよー

 おいで〜!」


 どさくさに紛れてめぐみは沙織を抱き寄せる。

 綾乃は一瞬だけめぐみを静止しようとしたけれど、今は悪くないかもと思い静止を辞めた。



 沙織は無事? にめぐみの胸の中に収まった。



「そんなに気にすることでも無いのに……。」

「本当だよ、私たちは沙織が寝てたおかげで、沙織の持ってる本をいっぱい読めたんだから。」


「私の持ってる本? いっぱい?」


 沙織は2人が読み漁った形跡のある本のタイトルを遠目で読んだ。


『……あー!

 えっ、嘘! あれも読んじゃったの?』


 2人が読んだ本は、沙織の本棚に有る本の中でも、特段沙織の趣味嗜好が表れていた本が数冊紛れていた。


「……2人とも、テーブルの上にある本を読んだの?」

「うん。」

「本棚から取り出して……もしかしてダメだった?」


 沙織は赤裸々に趣味嗜好をさらけ出してしまった恥ずかしさから、手で顔を覆い隠してしまった。

 綾乃とめぐみは、もしかして沙織が寝ぼけていて、本来は他人に見せたく無い本があったのかと焦った。


「違うの! 結構好き嫌いの分かれる本が多かったから、2人が嫌だと感じる種類の本があったら申し訳なくって……。」



 沙織が理由を話すと、綾乃とめぐみは2人ともなんて事ない表情で笑っていた。


「そこまで気にしなくても、あははは!」

「そうだよ! 別に隠さなくても良くない?

 私たちもタイトルとかを見て、自分の好きなジャンルなのか、苦手なジャンルなのかくらい判断できるって!」


「だけど……。」


 沙織は2人が読んだ本をそれぞれ確認していくと、なかなかどっぷりえげつないタイトルの本も混ざっているのが確認できた。


『本当に2人とも、この本を読んだのかなぁ……。

 本当に読んだんだとしたら、もしかして相当マニアックな本もいける?』



 沙織が少し期待したその時。


「まぁでも、なかなかすごい本もあったね。

 たしか……あった! この本だ。」


 めぐみが手に取ったのは沙織が持っている本の中でも、極めてエッジの効いた漫画だった。


『いや! その本は本棚の中でも目立たないところにしまっていたはずなのに、よく見つけたね!』


「この漫画はすごかった……。

 まさか主人公とヒロインがあんな場所で……。」

「あー、あそこね!

 あれはたしかにすごかった……。」


 2人で漫画の話題で盛り上がっている状況に、沙織は耐えられなかった。


「2人ともその漫画読んじゃったの?!」


 沙織の絶叫に近い大声に対して、2人は無言で一度だけ頷いた。


「……まぁ、読んだと言っても途中までなんだけどね。」

「私は綾乃の後に読んでたから、もっと手前なんだけど、一応読んでたよ。」


 沙織は2人が読み終わった巻数を確認して、一応沙織の購入していた中で、最もエッジの効いた描写が描かれていた部分には2人とも到達していないことを確認した。


「2人とも、今のところ読んだ所は大丈夫なの?」


「うん。時々すごいシーンが入ってくるけど、ストーリーはすごく面白いし、どんどん読みたくなってくる漫画だなって思った。」

「わかる! 読み進めたくなる漫画だよね!

 いつもは文章とか読むの遅いのに、漫画だからもあると思うけど、とっても読みやすい。」


 沙織の想像と違って意外にも2人に好評だったので、それならいっか……と思った沙織は2人の前に続きの巻を積み上げた。


「こんなにあったんだ!

 てっきり本棚に入ってる分しか、まだ出版されてないのかと思ってた。」

「流石にその巻数ではまだ伏線が回収されていないし、今月に新刊も出てるからまだまだ続くと思うよ。

 新刊は昨日買ってきた。」


 そう言うと沙織は、昨日のショッピングモールで買ってきた本が大量に入っている袋を、クローゼットから取り出した。

 掃除を急いで行ったおかげで、クローゼットの中にしまっておいた分に、例の漫画の新刊が含まれていた。



「今回の新刊、結構すごかったけど、それでもよかったら……。」


 沙織は、恐る恐る綾乃に新刊を差し出した。


「ありがとう、ちょっとこの漫画ハマりそうだから、今後も貸してもらえたら嬉しいな!」

「あっ私も!」


 綾乃に手渡された新刊を見て、めぐみも貸して欲しいと沙織に迫った。

 沙織に抱きついてねだりまくる。


「わかった、わかったから!

 綾乃、読み終わったらめぐみにそのまま貸してあげて!」


 そんな2人の様子に綾乃はクスッと笑った。


「わかったよ、読み終わったらめぐみにね。

 はいはい。」




 少し昼寝をしたからか、眠気が若干緩和された沙織は、冷蔵庫にしまっておいた綾乃からもらったジュースと一緒にお菓子をテーブルの上に出した。



「ありがとう沙織。」


 めぐみはテーブルの上に並んだお菓子とジュースを眺めて、続けて部屋の時計を見ると目を輝かせた。


「そろそろ3時のおやつタイムにしよっか!」


 お菓子をつまみ、ジュースを飲んで、漫画の話に花を咲かせる3人は、今までで1番赤裸々にそれぞれの感想を言い合った。


「あそこで主人公があんなこと言うなんて思わなかったから、驚いちゃった。」

「あぁ、あそこでのあの発言はちゃんと主人公なりに理由があってさぁ……。」

「待って2人とも! 私まだそこまで読んでない!」


 ネタバレをしないように気をつけながらも、思い思いの感想を言って会話は尽きなかった。



 お菓子もジュースもあっという間に、3人の胃袋に収まっていき、気がつけば時計の針も沙織の部屋に綾乃とめぐみがやってきてから、もうすぐで8周をしようかという所だった。



「そろそろ私は帰ろうかな。

 お菓子も結構食べちゃったし、遠回りして帰ろうかなぁ。」


「私も夜ご飯は要らないかも。

 結構食べちゃったし、お腹いっぱい。」


「私もそうする。

 今日は2人とも来てくれてありがとうね!」



 ひと足先にめぐみが沙織の部屋を後にした。


「じゃあね!」

「気をつけて帰ってね。」

「また明日ね。」


 めぐみを送り出し、続けて綾乃もと思っていた沙織だったけれど、綾乃は沙織の部屋に戻っただけで、まだ自分の部屋に帰る様子は無かった。


「綾乃はまだ帰らないの?」

「うん、食べ散らかしたままだからね。

 このコップとかお皿くらいは片付けていくよ。」


 綾乃はテキパキと洗い物を片付けていく。


「それくらい私がやるから気にしなくてもいいのに……。」


 沙織がそう言うと、綾乃は笑顔で返事をした。


「私が気になるの!

 それに2人で片付けた方が早く終わるでしょ?」


「まぁ……そうだけどね。」


 腑に落ちない様子の沙織は、とりあえず綾乃が洗い物をしてくれている間に、テーブルの上を拭いたり、食べきれなかったお菓子を封を閉じて戸棚にしまっていく。


 綾乃の言った通り、2人で片付けると10分ほどで片付けてが終わってしまった。



 2人を迎え入れる前と同じか、それ以上に綺麗になった部屋を見て沙織は大満足だ。


「ありがとう綾乃!

 おかげでこんなに綺麗になった。」

「どういたしまして。

 私もこれくらい片付けたら、心置きなく自分の部屋に帰れるよ。」



 綾乃はそう言うと、一瞬だけ沙織の顔を見てすぐに自分の荷物に目を移した。


「さてと、私もそろそろ帰ろうかな!」


『今、一瞬だけど私を見た気がする……。

 気のせいだったかなぁ。』


 沙織はめぐみの時と同じように、綾乃を見送るべく玄関へと向かうために、綾乃の横を通り過ぎようとした。

 その時、綾乃が沙織の腕を掴んだ。


「えっ……。」


 突然腕を掴まれて驚いた沙織は、驚きのあまり体と脳みその動きが両方とも停止してしまった。

 そんな沙織とは違い、自分からそんな行動を取った綾乃は、沙織の腕を掴んだまま黙ったままだった。



「あ……綾乃?」



 沙織がどうにか綾乃の名前を口に出した瞬間、それがきっかけになったかのように、綾乃は掴んでいた沙織の腕をそのまま引っ張り、その拍子で沙織はベッドに尻餅をついた。


「ちょっと綾乃?!

 どうしたの?」


 沙織の問いかけに未だ返事を返さない綾乃は、ベッドに尻餅をついた沙織から表情が見えない。

 沙織も今まで感じたことがないくらい、心臓がドキドキして止まらない。


『何……この状況……。

 綾乃はどうしちゃったの?』


 よくわからない不安が沙織の心に湧き上がってくる。


 その時、一瞬だけ沙織の目に綾乃の表情が写った。

 沙織が認識したのは、悲しそうに目に涙を滲ませた表情をした綾乃だった。


『どうしたの綾乃……なんでそんなに悲しそうな顔で私のことを見ているの?』


 綾乃のそんな顔を見ても、自分がどうすればいいのかわからない。

 沙織は正解が分からずに、綾乃に押し倒されたままの姿勢でじっとしていた。



「……まったく沙織ったら……。」


 沙織が動かずにいると、何事も無かったかのように、綾乃は沙織から離れ出した。

 急にいつも通りの綾乃に戻ったことで、沙織の脳みそも綾乃からワンテンポ遅れながらも思考を再開し出した。


「ちょっと綾乃……今の何?」

「今のって……。」


 綾乃はそう言うと先程話題になった漫画を取り出して、あるページを開いて沙織に見せた。


「ほらこのページ。」


 綾乃が開いたページには、今まさに綾乃が沙織に行った行動と全く同じことを、主人公がヒロインにしている描写が描かれていた。


 そしてそのページの下部分には、シャーペンで「このヒロインが羨ましい。誰かこのページと同じ事を私にやってくれないかなぁ。」と、紛れもなく沙織の文字でハッキリと書かれていた。


「こう書いてあったからやってみたのに、全然反応が無いから焦っちゃったじゃない!」


 綾乃はそう言って沙織から顔を背けた。

 沙織は綾乃が開いたページを凝視してどうして綾乃があんな事をしたのか、やっと理解した。

 同時にそんな感想が書かれていた漫画を2人に見せてしまった恥ずかしさでいっぱいになった。


「あわわわわ、違うの!

 本当に急すぎて分からなかったの!

 ごめんて綾乃!」


『さっきの悲しそうな表情は、私が気づかなかったからかー!

 あんなに泣きそうになるくらい、恥ずかしい事をやってくれたのに、私はそれに気がつかないばかりか無反応だなんて。

 最低過ぎるだろ私!』



 昼寝後の土下座以上に全力で綾乃に謝り倒す。


『本当になんであんな事書いちゃってたの?

 そりゃあ人様に薦める予定が無かった漫画だったから、あんな事書いていた事自体すっかり忘れてたよ!』


 頭の中で自分で自分にツッコミをしながら、綾乃への土下座を継続し続ける。

 そんな沙織を綾乃は優しく体を起こさせ、立ち上がらせた。


「もういいよ沙織、私も急にやり過ぎた。

 突拍子もない事を急にやってごめんね?」


『あんなに恥ずかしい事させたのは原因は私なのに、どうして綾乃はこんなに優しく接してくれるのだろう。』


 沙織は綾乃の心の広さに感謝した。


「それにしてもこの漫画、本当にすごいね。

 所々にこのページみたいに沙織の願望? みたいなのが書いてあったけど、まだまだいっぱいありそうだし、新刊が出るのが待ち遠しいって思った。」


「そうなの!

 この漫画は新刊が待ちきれないって読者がとても多くて……今なんて?」


「えっ?」


「私……他のページにも何か書いてあった?」


「……うん。」


 綾乃が少し言いづらそうに返事した。


『嘘でしょ嘘でしょ?!

 あんな恥ずかしい事、他にも書いてあったの?』


「綾乃……この漫画、貸すのまた今度でもいい?」

「いいよ。」


 沙織は綾乃の手を握って、もうひとつお願いをした。


「このことは誰にも言わないで!」

「私も恥ずかしいから、言わないよ……。

 というか言えない……。」


『だよね……やっぱり恥ずかしいよね。』



 どことなく気まずい空気になってしまったが、気を取り直して綾乃を見送るために改めて玄関へと向かった。


 今度は何事もなく玄関までたどり着き、綾乃は自分の持ってきた荷物と、自分の部屋の鍵を確認して靴を履いた。


「それじゃあまた明日。」

「うん、また明日ね。」


 綾乃は玄関ドアを開けて廊下へと出た。

 ドアが閉まる直前に、綾乃は小さな声で「もう少し強引にすれば……。」と言ったけれど、沙織はその声に気がつかなかった。


 ドアが閉まりそのまま部屋に戻った沙織は、一目散に部屋にある全ての漫画のページを確認し始めた。

 そして片っ端から自分の感想を消していった。


『本当に……なんでこんな事書いちゃったの私は!』


 沙織は睡魔に負ける直前まで消し続けた。

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