寝不足の女子高生
購入した本を読み漁り、気が付けば午前5時になってしまった沙織は、とりあえずシャワーを浴びて部屋に戻ってきた。
「さっむ!」
まだ夏になる前の季節なだけあって、朝っぱらからシャワーを浴びると少し冷えてしまう。
沙織は急いで部屋のエアコンをいれてドライヤーで髪の毛を乾かしていく。
「ゴー!」っという大きな音が静かな部屋に響いている。
『このドライヤーの音、他の人に聞こえてないよね?
まだ6時前だから、迷惑になってないといいけど……。』
沙織は「さっさと乾かけ!」と思いながらドライヤーを続けていった。
どうにか乾かし終わり、ヘアブラシを通して整える。
シャワーのついでに着替えも終わっていたため、一旦ベットに座り、今日、日曜日をどう過ごすか考えた。
『一旦寝る……のは今、普通の服に着替えてしまったから逆に面倒くさい。
シャワーも浴びちゃったから目も冴えちゃったし……。』
沙織は「うーん……。」と悩み続けること数分後、沙織は開き直って起き続けることを決め、テーブルに広げっぱなしの本の山を、本棚へと並べて収納していくところから行動を開始することにした。
『この間の試験勉強からずっと本棚に布がかけっぱなしになってたけど、面倒だしもう外そっかなぁ。』
そう思った沙織は本棚に掛けていた目隠し用の布を剥がし、クローゼットにしまっていく。
ついでにパソコンの布も剥がそうかとも思ったけれど『パソコンの隙間に埃が入るかもしれない……。』と思いとどまった。
布を取り払い、本棚に本を収納し始めると、そこで沙織のこだわりが発揮される。
作者や出版社、漫画や小説など、沙織自身がこだわって分類した方法に従って本の山が本棚へと収納されていく。
「はぁ〜……終わったぁ。」
テーブルに広がっていた本の山が、無事に本棚へと収まり、テーブルの上を拭いてきれいに整え終わった。
全ての本が収まった本棚を眺めて、自己満足に浸りながら用意した珈琲を飲んで少しリラックスをしていると、帰宅してからそのまま放置していたスマホを手にする。
スマホは充電器に差、挿していなかったため、残りのバッテリーは半分も無かった。
「ヤバっ!」
慌てて充電器を挿し充電が開始したスマホにホッとしたのも束の間、今までの人生で1番多い件数のメッセージが溜まっている表示が目に入った。
「すんごい件数溜まってる……。
誰からだろう。」
沙織がメッセージを確認すると、智香と瑞稀からの生徒会関係の連絡と、綾乃とめぐみからの日曜日に遊ぼうといったメッセージが溜まっていたメッセージの主な内訳だった。
沙織はスマホに表示されている時計で時間を確認すると、時刻はそろそろ7時になろうかという時間に差し掛かっていた。
「このくらいの時間なら、メッセージを返しても迷惑にはならないかな?」
沙織は先に生徒会関係の連絡に返信をして、続けて綾乃とめぐみからきていた遊びの誘いメッセージを読んでいると、智香と瑞稀から直ぐに返信が返ってきた。
智香と瑞稀からはそれぞれ、本の読み過ぎに対する寝不足を心配しての返信が来た。
『結構心配させちゃったな。』
「今日の夜はゆっくり寝るので大丈夫です……っと。」
続けて綾乃とめぐみからのメッセージに返信を送る。
「今日は少し寝不足だから、出かけるのは少しきついかも。
もしよかったら私の部屋に来ない?」
そうメッセージを送ると、めぐみと綾乃の2人とも「行く行く! でも本当に行っても大丈夫?」と返事が返ってきた。
「全然いいよっと……そうだ、お昼は昨日のショッピングモールで買ってきてたお惣菜があるから、一緒に食べよっと。」
2人にお昼ごはんは沙織の部屋で一緒に食べたいから、持って来なくても大丈夫と付け足してメッセージを送信しておいた。
最終的には午前10時に沙織の部屋に2人が訪ねてくることになった。
「さてと、そしたら2人が来る前にもう少し片付けておこうかな?」
沙織が片付けたのは本だけで、それ以外の場所には物が散らかっていた。
2人分のスペースを使うほどは散らかってはいないけれど、それでもルームメイトが居ないため部屋の管理はまあまあ残念なことになっていた。
沙織は寝不足の体に気合を入れて、重い腰を上げ、目についたところから片付けて行った。
部屋の荷物が収納されて、大体の物が整理された部屋になった。
沙織はもう一度時間を確認すると、時刻は午前9時。
片付けが苦手な方の人種の沙織にとっては、これでも結構頑張った方だ。
「人が来る約束をしてから片付けると効果があるって聞いたことあったけど、あれって本当に効果があるんだ……。」
自分でも感動するくらい手早く片付け終わったことに、感動してしまっている。
ここで片付けが苦手な人の悪い癖が沙織にも発生した。
「どうせなら掃除機とかもかけちゃおっと。」
片付けが苦手な人が良くやってしまう「いっぺんに全てをやろうとする。」を、沙織も例外なく始めてしまった。
窓を開けて外の空気を入れると、颯爽と掃除機を取り出して部屋を掃除し始めた。
そして沙織は掃除機だけにとどまらず、水回りの掃除までやり始めてしまった。
当然ながら集中力は凄まじかったけれど、普段は掃除をしていないところまで手をつけ始めてしまったら、誰であっても1時間で終わるはずもなかった。
「ピンポーン。」
インターホンが部屋に鳴り響き、沙織は慌てて時計を確認すると、既に約束していた午前10時になる直前だった。
「やっば! はーい、今行くからちょっと待ってて!」
慌てて掃除道具を片付けて、手を洗い玄関のドアを開いた。
「おはよう沙織!」
「おっはよー! 一応時間通りで来たんだけど、大丈夫だった?」
綾乃は沙織の慌てた様子に、本当に来てよかったのか心配して尋ねた。
「全然大丈夫! ちょっと掃除してただけだから。
ほらっ、入って入って!」
「だってさ、お邪魔しまーす。」
「それじゃあ私も。お邪魔します。」
2人を部屋に招き入れ、沙織は玄関のドアを閉めた。
「久しぶりの沙織の部屋だー!」
「ちょっとめぐみ、リラックスしすぎでしょ。」
「いいって綾乃。めぐみは自転車で来て疲れてるでしょ? 少しくらいリラックスしてもなんとも思わないから。」
「やったー!」
めぐみは沙織の部屋の床で脚を伸ばしてくつろぎ始めた。
「まったく……そうだ沙織、これ。」
「何?」
綾乃は沙織にビニール袋を手渡した。
中を確認するとお菓子やジュースが入っていた。
「ありがとう! 美味しそう。」
「一緒に食べよ! ジュースは少し冷やしたほうがいいかも。」
「うん、わかった。」
沙織は受け取ったジュースを冷蔵庫に入れに行くと、めぐみも沙織に持って来た袋を渡した。
めぐみの渡した袋の中には、小さな白い箱が入っていた。
「それ、私の家から学園に来るまでの間にあるケーキ屋さんのケーキ。
美味しそうだから買ってきちゃった!」
「めぐみもありがとう! これも冷蔵庫に入れておくね。」
2人から受け取ったジュースとケーキをそれぞれ冷蔵庫にしまい、とりあえず瑞稀からもらって冷蔵庫に入れていたお茶を代わりに2人に出した。
「ありがとう。」
「ありがとう沙織。」
ペットボトルでは味気ないのでコップに注いで渡すと、2人ともそれぞれひと口飲んでひと息ついた。
沙織も2人に続いてひと息つくと早速、綾乃が持ってきてくれたお菓子と、沙織が元々買っておいたお菓子をテーブルの上に並べて出した。
「好きに食べてね。」
「はーい!」
「いただきます。」
お菓子とお茶でのんびりした時間を過ごしながら、3人でたわいもない会話に花を咲かせた。
すると話の流れで各自の部屋の話題になった。
「それにしても、部屋に来る度に沙織は掃除をしてるね。
荷物とかも片付いてるし。」
「そうそう! 前回来た時には綾乃が荷物を取りに戻った間に、部屋中の物を隠そうとしてたっけ!」
「あははは〜、そんなこともあったね……。」
めぐみと綾乃は少し部屋を見渡す。
「だけど、そんなに隠すような物ある?」
めぐみがそう言うと、綾乃はめぐみとは違った意見を話し始めた。
「でも私は同じ寮生だから、人の目が気になる気持ちわかるかも。」
「そうなの?」
いまいちピンときていない様子のめぐみに、綾乃が詳しく話していく。
「学生寮では沙織以外の全員が、2人ひと部屋で生活しているのは知ってるでしょ?」
「それくらいは知ってる。
沙織はひとり分のスペースしか使っていないことも。」
めぐみの言ったことに、沙織は2回頷いた。
「自分の部屋って言っても、必ずルームメイトって言う自分以外の人が同じ部屋に居るの。
自分の個室以外は全て誰かの目があるって考えると、少しでもきれいにしなくちゃって思うようになる。」
「でもそれだと、部屋はきれいなはずじゃない?」
「そう、共有スペースは! ね。」
めぐみは「あ〜……。」と言って綾乃の説明に納得した。
「つまりは共有スペースは普段からきれいにできるけど、自分の個室は人を招く前には全部掃除とか片付けをしないといけないって事か。」
「そういうこと。」
綾乃がうまく説明してくれたようで、めぐみも沙織が部屋の片付けなどに注力していたことに理解を示した。
「それに沙織はひとり部屋だから、私たち他の寮生よりも、余計に部屋に人を呼ぶのに気を使うと思うよ。」
「そうだね……部屋の掃除お疲れ様、沙織。」
めぐみはそう言うと沙織の肩を揉み出した。
「あ〜そこそこ……。」
「沙織、なんだかお婆ちゃんみたい。」
孫に肩を揉まれてリラックスしたお婆ちゃんのように、のほほんとした様子の沙織は、めぐみの肩揉みがとても気持ちよくてウトウトし始めていた。
沙織の様子を正面から見ていた綾乃は、沙織が眠そうなことに気がついた。
「沙織? 眠いの?」
「うーん……。」
沙織はこのタイミングで睡魔と同時に空腹にも襲われた。
「お腹すいた……。」
「少し早いけどお昼ごはんにしようか?」
沙織はゆっくりと頷いた。
「私が準備するよ。皿とか持ってきても良い?」
「お惣菜が冷蔵庫にたくさん入ってる……。」
「わかった、準備するね。
電子レンジ借りるよ。」
綾乃の問いかけにもう一度頷くと、綾乃は早速キッチンから皿や冷蔵庫に入れてあったお惣菜を取り出して、ラップをかけて電子レンジで温め始めた。
その間めぐみはずっと沙織の肩を揉み続けた。
「できたよ! 食べよう。」
数分で綾乃がお昼ごはんの支度を終えて、テーブルに大量のお惣菜が並んだ。
全部ひとりで食べるつもりで買っていた沙織だったけれど、寝ぼけた頭でもわかるくらい、明らかに買いすぎていたのがわかった。
『2人が来てくれて良かった……。』
「すごい量だね。本当に……。」
「うん、温めてた時に何度もお皿を持ってたら、少し腕がつった。」
綾乃とめぐみはテーブルに並んだお惣菜の量と種類に驚いていたけれど、普段の学食と違って時間を気にせずに、おしゃべりをしながら食べていたこともあり、3人であっさりと完食してしまった。
そして食後は、昨日の瑞稀と同じく「デザートは別腹!」理論でこれもあっさりと食べ切ってしまった。
「もー食べられない……お腹いっぱい。」
「そうだね。私も流石に食べ過ぎたかも。」
「2人ともありがとうね。
よく考えたら、ひとりであの量のお惣菜を食べきれなかったよ。
だめになる前に一緒に食べてくれてありがとう。」
2人にお礼を言いながら、沙織はさらに勢いを増した睡魔に対抗していた。
そんな沙織に気を遣ってか、めぐみと綾乃は少し声のトーンが下がって、部屋はお昼寝するにはちょうどいいくらいの静かさになった。
「少し横になってていいよ?
私たちは静かにしてるから。」
「そうだね、沙織、本棚の本読んでてもいい?」
「いいよ……ごめんね、せっかく遊びに来てくれてるのに。」
「いいって! それじゃあ私は少し本を借りるね。」
「私も漫画を借りるよ。」
綾乃とめぐみがそれぞれ、本棚から小説や漫画を選んで静かに読み始めた。
ゆったりした時間に「ペラっ。」と2人が本のページを捲る音が不定期に聞こえてくる。
沙織はリラックスした状態で布団に入った。
ものの数分で、沙織は寝息を立て始めた。
「沙織、寝た?」
「うん。寝たみたい。」
綾乃とめぐみは2人揃って沙織の寝顔を覗き込んだ。
「沙織の寝顔、可愛いね。」
「そうだね、私もこれくらい可愛く寝られたら学生寮に入ったんだけどなぁ。」
「そうなの?」
初めてそんな話を聞いた綾乃は少し驚いた。
「実は私、親から寝顔も寝息も酷いから、絶対に学生寮に入ったらルームメイトに迷惑かける。
入るなって言われて……。」
「それで自転車で通ってるの?」
「そう。」
そんな会話を2人がしているのを知らない沙織は、ぐっすりとお昼寝を続けた。




