道連れ
食事前に聡美先生からきた、お泊まり会開催決定の連絡を受けて、食事中に4人は新たに買い足す物があるかどうかの確認をしていた。
確認と言っても食事中の会話として、話題になっただけであり、もっぱらの会話はお泊まり会の夜には何時まで何をやって過ごすかに集中した。
「はぁ〜。千夏先生ご馳走様です!」
「ご馳走様です。」
千夏先生に奢ってもらった3人は、丁寧に深々とお礼を言った。
「おぅ。
さてと……お腹も膨れたことだし、あっちにあったロッカーに荷物を預けたらゆっくり店内を回ってみるか。」
「ウィンドーショッピングってやつですね!
今ロッカーに入れて来ます!」
智香はそう言って大きめのロッカーに午前中に買っておいた商品をしまい、身軽になって戻ってきた。
「よし。
それじゃあどこか行きたいところがある人はいるか? 私は特に無いから着いていく。」
千夏先生が3人に聞くと、3人ともバラバラのところを答えた。
「私は服を見たいです!
千夏先生の服も選びたいですね。」
「千葉が選ぶのか……。」
千夏先生は智香の今日の服装を上から下まで全てを見る。
「不満ですか?」
「いや、まぁ……系統はありだな。」
「やったー! じゃあ千夏先生の服も選びましょう!」
智香は千夏先生の腕を掴み、早速服屋へ引っ張って行こうとする。
「ちょっと待て、まだ勝又と及川のを意見を聞いてない。」
「はーい。
2人はどこに行きたいの?」
智香に続いて瑞稀も行きたい場所を話す。
「私はフードコートでアイスが食べたい。」
「たった今、焼き肉食べ放題を一緒に食べた気がするんだが?」
千夏先生は若干呆れ気味だけれど、当の本人である瑞稀はさも当然のような表現だった。
「食後のデザートは別腹ですから。」
「……そうか。
及川はどうだ?」
千夏先生は「流石に普通の場所だよな?」と言いたげな顔で沙織を見ている。
『千夏先生、私はさっきの焼き肉食べ放題でしっかりデザートは食べてありますので、心配いらないですよ。』
「私は本屋さんに行きたいです。」
「本屋か。たしかここのショッピングモールは大きな本屋があったような記憶が……。」
『そうなんです!
さっきお昼ごはんを食べる店を決める時に見ていた案内板で、このショッピングモールの本屋さんがとっても大きい事に気が付いたんです!』
「それじゃあどの順番でまわるか……。」
千夏先生が遠目で案内板を見た。
「えっ、全員で回るんですか?
てっきり自由行動なんだとばかり。」
沙織はてっきり自由行動だと思い込み、自分の欲望のままに本屋さんに行きたいと言ったので、それに3人を付き合わせる事になるとは思っていなかった。
「全員で回った方が面白そうだし、いいんじゃない?
みんなで千夏先生の服を選ぼう。」
「それなら、私のフードコートは最後の方がいいかな?
みんなはお腹いっぱいなんだもんね。」
瑞稀は少し残念そうにそう言った。
「でも瑞稀さんはデザートが食べたいんですよね?
私の本屋さんは多分、相当な時間がかかりますから、本屋さんよりも先にフードコートでアイスを食べましょう。」
瑞稀はパッと明るくなった。
『すごくアイスが食べたかったんですね。』
千夏先生は3人が言った場所を案内板で確認し終えた。
「それじゃあ先に服屋を回って、そのあとフードコートでアイス。
そして最後に本屋でいいか?」
「いいでーす!
それじゃあさっそく、千夏先生の服を買いに行きましょう。」
智香はお目当ての服屋が決まっているのか、どんどん先へ進んで行く。
「おい千葉、自分の服を買うって言ってなかったか?」
「訂正します。
千夏先生の服も! ですね。」
智香の後を千夏先生が追って、そのさらに後ろから瑞稀と沙織が追いかけた。
「瑞稀さんはどんな服が好みですか?
今日の瑞稀さんは試験勉強を一緒にしていた時みたいに、パーカーとジーパンでシンプルですけど瑞稀さんに似合ってて素敵です。」
瑞稀は少し照れると、沙織にお礼を言った。
「ありがとう。
実はあんまり服に興味が無くて、楽な服装を探した結果パーカーになった。
だから好みの服装は楽なパーカーとジーパンとしか言えない。」
「そうなんですね……でも、今日のパーカーはこの間の試験勉強の時と違うパーカーですよね。
たくさん持ってるんですか?」
「パーカーは結構たくさん持ってる。
季節ごと、柄、生地……色々な種類があるかなぁ。」
「相当パーカーがお好きなんですね。」
「うん。沙織は? どんな服装が好き?」
初めて私服を披露した時と今とで、沙織の服装はだいぶ印象が違う。
そのためファッションに疎い瑞稀は、沙織の好きな服装が余計に想像できないらしい。
「私も基本的には瑞稀さんと同じで、楽かどうかで決めてますね。
それ以外では自分に似合っているかどうかでしょうか。」
「そうなんだ……。
今の服装とっても似合ってるよ。」
沙織は突然褒められてとても驚いてしまった。
「……ありがとうございます。」
『本当にもう!
瑞稀さんの人たらしい!』
瑞稀と沙織がお互いの服装について話していると、前方を歩いていた智香と千夏先生がひとつの店に入っていった。
後ろからついて行っていた瑞稀と沙織が店の前に到着すると、そのお店はカジュアルな服装をメインに扱っている店らしかった。
「私たちも入ってみますか?」
「そうだね。」
「いらっしゃいませ〜。」
店内に入ると、店員の明るい声に歓迎された。
『あれ? いつもだったら店員さんがすぐに寄ってきて、オススメとかすごくされるのに、今日は全然近くに店員さんが来ないなぁ。』
ふと横にいた瑞稀に視線を移すと、瑞稀は目をガッと見開いて、終始緊張した様子で店内を見渡していた。
けれど瑞稀のこの様子を見て、瑞稀が緊張しているだけだとわかるのは、瑞稀と元々関わりのある人間だけだろう。
『あっ……瑞稀さんのこの様子、初めて見た人は怖くて話しかけられないやつだ。』
沙織はそっと瑞稀の手をとり、優しく繋いだ。
「瑞稀さん、あっちにパーカーが置いてる場所が見てみましょう!」
沙織のおかげで少し緊張がほぐれたのか、瑞稀は笑顔を見せ沙織と一緒にパーカーが並んである場所へ向かった。
そんな2人の様子に気を利かせてくれたのか、店内にいたスタッフは誰も声をかけずにゆっくりと商品を見させてくれた。
「このパーカーなんかどうですか?
ゆったり着られそうですよ。」
「たしかに……この生地感もなかなか……。」
2人がパーカー売り場でひっそりと盛り上がっていると、そんな2人の背後から智香と千夏先生もやって来た。
「2人とも何か欲しいのでもあった?」
「個人の買い物は個人で頼むぞ。
経費も私のポケットマネーも許可しないからな。」
よく見ると2人ともそれぞれ袋を持っていた。
どうやら2人とも既に服を買い終わっていたらしい。
「今、瑞稀さんの好きそうなパーカーが無いか、2人で探してみてたんです。
結構種類があって、見入ってしまいました。」
「たしかに、言われてみればここのお店、瑞稀の好きそうなパーカーがたくさんあるかも。」
「そうなのか?
千葉と勝又は服装の系統が違うと思っていたけど、私の勘違いだったか?」
「系統はたしかに違うかもしれないですけど、私と瑞稀は購入ブランドは似ているかもしれませんね。」
そんな会話をしていると、瑞稀はパーカーを2つ手に持った。
「試着してみて、よかったら買ってくる。」
「はい、いってらっしゃい瑞稀さん。」
「私は店の外で待ってるぞ、ゆっくり買い物してていいからな。」
千夏先生と瑞稀がそれぞれその場を離れて、智香と沙織は2人きりになった。
「智香さんってファッションに詳しいんですね。
私は似合ってるかしかわからないから、知識があるって本当にすごいなって思います。」
沙織がそう言うと、智香はパーカー売り場の向かい側にあった洋服を沙織の体に当てて見せた。
「ほら沙織ちゃん、鏡があるから見て。」
智香に言われた通りに鏡の前に立った。
「この洋服は沙織ちゃんに似合ってると思う?」
『うーん……この服は可愛いんだけど、私にはちょっと派手かなぁ。』
「私には少し派手な洋服に感じます。
もう少しシンプルめなものの方が良いかな。」
「そうだね、私もそう思った。」
智香はその洋服を元の場所に戻すと、その近くにあった別の洋服を持って再び沙織の体に当てた。
「こっちの方が似合ってる。」
「そうですね、さっきの洋服よりもしっくり来ます。」「沙織ちゃんが言ってた通り、似合ってる服装がわかる方が、知識よりも大切だと思うけどなぁ。
もちろん、知識があった方が似合う服装がわかりやすいから、知識を持つのも良い事だと思うけどね。」
そう言って智香は洋服を売り場に戻した。
「さっ、そろそろ試着室に行ってみようか。
瑞稀の試着が終わってるかもしれないし。」
『あっ……試着室に一緒に行けば瑞稀さんの試着を見られたかもしれなかった……。』
沙織はガッカリして智香の後をとぼとぼついて行った。
試着室に到着すると、瑞稀の姿は無かった。
かわりにカーテンが1箇所閉まっていた。
すると智香は試着室に居た店員に、瑞稀がそのカーテンの閉じている試着室を使っているのか聞いた。
「すみません。」
「はい、どうされましたか?」
「目付きがキツくて話しかけにくそうな高校生ってまだ居ますか?」
『智香さん、それはあまりにも言葉が……。』
沙織はその時、背後に気配を感じた。
智香と話していた店員も、少し困った様子で黙ってしまった。
「あの……智香さん。
後ろを向いて見てください。」
「後ろ?」
智香が振り返ると、そこにはたった今試着室から出て来た瑞稀が立っていた。
「なんだ、やっぱり瑞稀だったか。
試着は終わった?」
智香は何事もなかったように瑞稀と話し始めた。
『えっ! 智香さん?
私、今の状況についていけないんですけど!
店員さんも状況が理解できてませんよ、私と店員さんを放置しないでください!』
沙織のことなどお構いなしで、瑞稀も会話をし始めてしまった。
「着心地も良いし、サイズもちょうど良かった。
買ってくる。」
「行ってらっしゃーい。」
何事もなく瑞稀はレジに向かって行った。
「沙織ちゃんは? 洋服買わなくてもいいの?」
『あっ……店員さんはスルーしちゃうんですね。
店員さん、話振ったのは私たちなのに、本当にごめんなさい。』
沙織はまだ気まずそうにしていた店員にお辞儀をして、智香と売り場に戻った。
沙織はひととおり売り場を見てみたけれど、よく考えたら高校生になったからって理由で、中学生の時に着ていた洋服から買い替えたばかりだった。
そのまま何も買わずに店を出た。
店の外には、先に出ていた千夏先生と、会計を済ませた瑞稀が待っていた。
「お待たせしました。」
「なんだ及川。服はいいのか?」
「はい。こっちに来る前に少し買っていたので、今日は辞めておきます。」
沙織以外は無事に服を買い終わり、次は瑞稀が熱望していたフードコートに向かった。
フードコートはお昼時を過ぎたからか、少し席が空いていた。
4人はアイスクリームを売っている店の近くにあった席に座り、そこからメニューを見ていた。
「決まったか?
私のも一緒に買って来てくれ、私はチョコ味で頼む。」
「あれ? 千夏先生も食べるんですか?
瑞稀が食べたいって言った時に呆れてませんでした?」
智香は千夏先生に意地悪なことを言ったが、すぐさま返り討ちにあった。
「店をまわって焼き肉が消化されて来たのと、体温が暑くなって来たから食べようと思っただけだ。
そんなこと言う千葉にはアイス奢らない。」
「いやだな〜千夏先生!
そうですよね、お店をまわればお腹も空くし、暑くなったらアイスが1番ですもんね!
千夏先生はチョコ味、買って来ますね!」
「ほら、これで全員分まとめて払ってこい。」
「行ってきまーす!」
智香は千夏先生からお金を受け取って、アイスクリーム店の列に並んで行った。
「本当に千葉は調子がいいんだからな。」
「あははは……。
私はどれにしようかな。」
未だにメニューを見て悩んでいた沙織に、千夏先生は「千葉と一緒に並んでその間に決めろ。」と言って席から送り出した。
「沙織ちゃんはどれにするか決めた?」
「はい! 抹茶にします。」
もうすぐで注文の順番が回ってくるタイミングで、ようやく決めることができた沙織は、智香と一緒に注文して商品を受け取った。
「はい千夏先生。チョコ味のアイスです。」
「おう、ありがとう。」
4人はそれぞれ違った味のアイスを楽しんだ。
アイスを食べ終えて、ようやく沙織の念願の本屋に向かうと、到着した本屋は沙織の想像を遥かに超える広さをしていた。
「……デカくないですか?」
「こんなに大きかったか? この本屋?」
千夏先生も少し戸惑っている様子だった。
智香と瑞稀は意外と冷静だ。
「ここの本屋は、確か今年の3月に面積が広くなったって聞いた気がする。
これだけ広くなったら、智香に合う参考書が見つかるかもしれない。」
「確か漫画部とか、小説部……の普段からこの本屋に通っていた子達が興奮気味に話してたっけ……。
あれ、瑞稀なんか言った?」
『とにかく、これはとても嬉しい誤算だ!
欲しかった本が全部手に入るかもしれない!』
「流石に本は好みとかもあるし、選ぶ時間もかかるだろうから、そうだなぁ……会計を済ませたらこの場所に集合でいいか?」
千夏先生はそう言ってスマホを取り出した。
「帰宅時間のことも考える、1時間くらいなら本屋で時間をかけて大丈夫そうだ。」
『1時間かぁ。ひとりだったら全然2、3時間居座っちゃうんだけど、仕方ないか。
欲しい本を優先的に探して、時間いっぱいまで楽しもうっと!』
4人はそれぞれ目当ての本がある場所に向かって行った。
千夏先生と智香は15分ほどで戻ってきた。
その10分後に今度は瑞稀も、少し大きめの袋を手にして戻ってきた。
そして沙織は、決めていた時間ギリギリになってようやく戻ってきた。
その手には、他の3人とは比べ物にならない位、大量の本が入っているのが一眼でわかるくらい大きな袋を、なんと2つも持って戻ってきた。
「沙織ちゃん……すごいたくさん買ったね。」
「そうですか? 本屋さんではいつもこのくらいですけど?」
「なんというか、及川はとても本が好きなんだな。」
「はい! 大好きです!」
「部屋まで持って帰れる?」
「大丈夫です! それよりもこの本たちを早く部屋に持って帰って読み漁りたいです!」
「そうだな、そろそろ帰ろう。
ロッカーに預けた荷物を取り出して帰るか。」
4人はロッカーから荷物を取り出すと、学園に戻って行った。
学園に到着して、生徒会関係の物は千夏先生が一旦預かることになり、その日は解散となった。
「はぁ〜。流石に疲れたなぁ。」
部屋に到着して、沙織は早速本をテーブルに並べる。
「先に手洗いうがいっと。」
テーブルの前に戻ってきた沙織は、並べた本を遠目で眺め、早速本を読み始めた。
次から次へと本を読んでいき、買ってきた本全てを読み切った。
「んー……。」
背伸びをして凝り固まってしまった部分をほぐして、沙織は時計を見た。
「……午前5時?」
沙織はずっと本を読んでいた。




