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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
28/59

学園内だけど外の施設なんです

 沙織は2年生の学生寮前で待っていた、智香と瑞稀と再び合流して、高等部の敷地内にある屋外施設の散策がスタートした。



「まずは学食から行こうか!

 軽食でも買っておいた方がいいかもしれないし。」


 智香がそう言うと瑞稀が賛同する。


「たしかにそうだね。

 夕食の時間に間に合わなくなるのも嫌だし。」


「そんなにたくさん回るんですか?」


 夕食を食べ損なう心配をするほど、沢山の施設を見て周ることに驚きを隠せない沙織は、声を大にして2人に聞いてしまった。


「えっと……そんなに遅くにはならないよ。

 とりあえず、小腹が空いた時につまめるものでもって意味で、瑞稀が言った間に合わなくなるって言うのも、遅くなると好きなものが頼めなくなっちゃうって意味だよ?」



『うっそ!

 なんだか私、すごく食い意地張ってるみたいになっちゃってる!

 恥ずかしい!』



 沙織が頬を赤らめて恥ずかしがっていると、智香と瑞稀は顔を見合わせて笑った。


『いや……本当に恥ずかしい。

 どこかに異世界への入り口でも開いてないかな……今なら躊躇なく飛び込める。』



 沙織はのそんな願いはどこにも届かず、ただただ2人が笑い合う平和な空間が存在していただけだった。



 智香と瑞稀が笑い疲れてくると、やっと話が進み始める。

「まぁ……このくらいにして、そろそろ行こうか!

 まずは学食へ!」



 智香の先導で学食に向かい、軽食を買うと智香と瑞稀は沙織が入ったことの無い扉の方で手招きをしていた。


「ここは?」

「ここから先は調理部と購買部の生徒が主に使っているスペースに繋がってる扉だよ。」


 智香はそう言って扉を開けると、沙織の目の前には普段の学食とは違った光景が広がった。



 智香は学食の手伝いをしていた事があるからなのか、扉の奥へどんどん進んでいく。

 沙織と瑞稀はそんな智香について歩き進めると、ひとつの部屋にたどり着いた。



「ここは調理部と購買部の部室だよ。

 お邪魔しまーす。」


 智香がそう言って扉に手をかけると、先に内側から扉が開いて人が出てきた。


「あっ! ごめん、大丈夫?」

「うん……大丈夫。」


 扉は智香の右足を強打したようだ。

 右足を抱えて悶絶している。


「大丈夫ですか?!」

「自由に動き回るから……気にしないでいいから。」


 智香を心配する沙織と、内側から出てきた生徒に気にしないように言う瑞稀。


「もぅ……本当に瑞稀は冷たいなぁ……。

 でも大丈夫、気にしないで。」


 智香はゆっくりと立ち上がりその生徒に問題ないと伝えると、その生徒は智香にお辞儀をして学食の方へと歩いて行った。


「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫! ちょっとはしゃぎ過ぎた。」


 智香がそう言うと瑞稀が智香の肩を持ち、部室に入って行く。

 沙織は2人の後について部室に入った。



「あれ、生徒会じゃん。

 何か用事?」


 智香達と同じリボンをつけた生徒の1人が声をかけると、部室にいた部員たちが一斉に3人に視線を移す。


「今、学園散策中なんだ。

 ちょっとぶつかっちゃってね……あははは。」


 瑞稀は空いている椅子に智香を座らせると、智香の足を出して怪我の確認をし始めた。


「とりあえず、傷は無さそう。

 痛みは?」


「ちょっと痛いだけ、全然なんともないよ!」


 智香はそう言っているが、沙織は智香の足の指先が少し赤くなっているのに気づいていた。


『指先が赤くなってる……本当は痛いと思うけどなぁ……。』


 智香は笑いながら誤魔化していたけれど、沙織もそうだけれど、瑞稀にもそれは通用しなかった。

 瑞稀は智香の右足をゆっくりと両手で支えると、智香が座っている椅子の真向いに膝をついて座った。


 そしてその膝の上に智香の右足をゆっくりと乗せると、制服のポケットから湿布とガーゼ、そしてガーゼを固定するための白いテープを取り出して、手際良く智香の足にそれらを着けていった。



『瑞稀さん……カッコいい……。

 少女漫画にあったな、こんなシーン。

 ヒールで踊っていたヒロインが足を痛めて、それを主人公が手当てするシーン……。

 まさに今! 目の前に!』


 沙織が感動していたのと同じく、部室に居た他の生徒たちもそんな2人の姿に目を奪われていた。


 瑞稀の髪色が金髪なのが余計にそう見せているのだろう。



「これで大丈夫……のはず。

 痛かったら言って。」

「うん、ありがとう瑞稀!」


『美しいです先輩!

 今この場に葉月さんがいたら、迷わず写真を撮ってもらって待ち受けに設定したいくらいです!』


 瑞稀が智香の右足を手当てをし終えると、部室に居た部員たちが少しずつ元の活動に戻って行く。



「ごめんね沙織ちゃん、もう大丈夫だから散策を続けようか!」


 智香はそう言って手当てしてもらったガーゼや湿布が剥がれないように、慎重に立ち上がった。


「本当に大丈夫ですか智香さん。」

「ダメそうだったら私が担いで連れて帰る。」


 瑞稀はそう言いながら手当てセットを制服のポケットにしまっていった。


「瑞稀さんはなんでその応急手当てセットを?」

「これ? これは智香はすぐに調子に乗って怪我をするから、いつでも持ち歩いてる。

 他にもいろいろ持ってるけど、今日はもう使う事は無いと思う。」


 瑞稀はそう言って、応急手当のセットをしまったポケットを軽く「ポン!」と叩いた。



「とにかく、学食はこのくらいにして、次はどこに行こうか?

 沙織ちゃんはどこに行きたい?」


 智香にそう聞かれて、沙織は瑞稀から地図を受け取ると、学食に近い場所から順番にと提案する。

 智香の右足を気遣っての提案だ。


「まぁ移動距離も1番短くて済むし、そうすればひとつひとつの施設をじっくり見られるから、それでいいんじゃない?」


「それもそうだね!

 よしっ、次はここに行こう!」


 智香が地図上で指さしたのは、和室だった。



 和室に到着した沙織が目にしたのは、茶道を習っている茶道部と、華道を習っている華道部だった。


 先程までの女子高生の「キャッキャ、ウフフ」な声は全く聞こえず、静かで洗練された空間だった。


 そこで活動している部員達からは、とても同じ高校生には見えないくらいの落ち着きと優雅さを感じる。



 そんな部活動の様子を遠目で見ていた生徒会の3人は、静かに和室から離れた。


 ある程度離れたことを確認して、沙織が久し振りに大きく息を吐いた。


「この学園の和室は、卒業するまでに入る資格を持てる生徒はどれくらいいるんでしょうか……。」

「この学園の生徒なら、誰でも入る資格はあるけど。」


 真顔でそう言う瑞稀に、すかさず智香がツッコんだ。


「そういう意味で言ったんじゃ無いよ。

 ねー、沙織ちゃん!」


『智香さん、さっき瑞稀さんに手当てしてもらった事、忘れてないですか?

 その言い方、すごく瑞稀さんのこと煽ってます!』


 沙織の心配はよそに、瑞稀は「そうなんだ……。」とだけ言うと、何事も無かったように地図を広げて、次の場所を智香と決め始めていた。


『瑞稀さんって、意外と鈍い?』



 その後も智香の足もなんとも無い様子で、順調に外の施設散策も最終目的地でもあった合宿所にやって来た。


 合宿所は中等部と高等部のちょうど中間地点にあり、そのどちらかの生徒であれば申請して利用できる施設だと、合宿所に来るまでの道のりで沙織は2人から聞いていた。


 2人から話を聞く限り、よくある幽霊が出そうな薄気味悪い合宿所では全く無く、清潔感があり、施設を利用している間は集中して活動が出来そうな雰囲気の建屋だと想像していたが、まさにその通りの施設だった。



「……。」


 沙織はこの学園に入学してから、どの施設も設備も普通の高校とは全然違うと思っていたけれど、この合宿所はそのどれよりもインパクトがすごかった。


 普通は学園内に合宿所なんて無いし、あったとしてもここまで綺麗に保たれた立派な合宿所は、他の高校には存在しないだろう。

 それだけこの学園は特殊な学園なのだと、沙織は合宿所を前にして思っていた。



「沙織ちゃん?」


「あっ……。」


「大丈夫? 沙織、ここに来てからぼーっとしちゃって。」


 智香と瑞稀が沙織のことを心配している。


『いや、本当に……なんで私、こんな学園で生徒会役員なんてやってるんだろう……。』


 学園内の施設散策をして、今日1番の沙織の感想は、まさにそれだった。

 これだけの学園で、高等部をまとめる立場の生徒会役員になり、仕事を続けて行く自信がなくなって来てしまっている。


 同時に、そんな学園で生徒会会長を務める智香と、副会長を務める瑞稀を心から尊敬した。



『この先輩達には、たまに「えっ!」って思うこともあるけど、それ以上にすごい先輩達なのに、私なんかと仲良くしてくれて。

 あとほんの少しでも、近くにいたい……。

 この先輩達に相応しい後輩になりたい……。』


 沙織の心の中は先輩への尊敬と、自分への卑下する感情でいっぱいになった。


「私……もっと智香さんと瑞稀さんと仲良くなりたいです。」

「まだ仲良く慣れてなかった?」

「そうじゃなくて、今の私では先輩達の横に立つことが苦しいんです。」


 沙織は下を向いて話を続ける。


「先輩達と一緒に笑いながらも、真剣に生徒会の活動をしたいと、今日の散策を通して思いました。」


 そして沙織は2人の顔を見ると笑顔で話した。


「おふたり共、私の大好きな先輩です!

 だから……交流会では先輩達とも楽しめることがしたいです!

 中等部の生徒会の子達だけじゃなくて、先輩達とも交流会を通してもっと仲良くなって、生徒会の仕事を頑張りたいです!」


 沙織は自分の感情を2人に曝け出し、素直な気持ちを口にした。

 沙織の気持ちは、2人にしっかりと届いたようだった。


「よしっ! それじゃあこれで高等部関係の施設散策は全て終了したし、まだいつもの下校時間よりも少し早いから、学食で一緒に夜ご飯でも食べながらゆっくりと提案書を作っていきますか!」


「いいかも……学食でゆっくり夜ご飯食べるのも久しぶりだし。」


「はい!」



 3人は学園散策前よりも、距離が縮まっていた。


 沙織は学食に向かいながら、交流会では何をすればみんなが楽しく、距離感が縮まるのかをあれこれ考えながら歩いていた。


『お泊まり会ができた時には、お泊まり会に合わせての予定をと思っていたけれど、大幅に違った予定を立てるのは千夏先生にも負担をかけるかもしれない。

 だったらお泊まり会の前にやる予定を共通して決めるのはどうだろうか……。』



 沙織は千夏先生と聡美先生も含めた、参加者全員が楽しめる交流会になるように、思考をフル回転させた。


 学食に到着すると、3人は早速夜ご飯を選んでテーブルに着き、各々メモ帳を広げた。



「千夏先生と聡美先生にも負担をかけないように、だけどしっかり楽しめて中等部の生徒会の子達とも仲良くなれる企画を考えたいです!」


「沙織ちゃんやる気だね!

 それじゃあ、その方向で具体的内容を決めていこうか。」


「私はやっぱりお泊まり会がしたい。

 昨日生徒会室に来た、中等部の生徒会長の……熊谷梓って子。絶対に私のこと怖がってたから……仲良くなりたい……です。」


 瑞稀はどうしてもお泊まり会をして、中等部の生徒会役員と仲良くなりたいらしい。

 沙織たちのおかげで高等部の1年生には、多少怖がられることは減ったらしいが、中等部は全く別だ。


 校舎が違うから、普段の瑞稀の様子を見ることが無いから、完全に見た目だけで怖がられてしまっている状態だ。

 歴代の生徒会役員に、瑞稀のようなグレまくってる容姿の先輩は全く居なくて、どちらかと言えば智香や綾乃のような後輩からしたら話しかけやすい生徒が多かったらしい。


 今の中等部3年生はそんな先輩が3年生に上がったタイミングで、自分たちは1年生として入学するわけだから、相当瑞稀のことが怖いのだろう。



『たしかに、瑞稀さんがぬいぐるみが無いと不安になるような、か弱い乙女心を持っている人だなんて、今の中等部では誰も想像していないだろうなぁ。

 私も瑞稀さんの部屋に入らせてもらう前には、そんなことちっとも想像できなかったし。』



「もちろん瑞稀の出してくれたお泊まり会は、第一候補として提出するつもりだよ。」


「そこでなんですけど、交流会でそのお泊まり会が開催できてもできなくても、どちらになっても平気な予定を立てたいと思います!」


 沙織が自信満々に宣言すると、智香と瑞稀も沙織の提案に俄然乗り気になった。


「もしかして沙織ちゃん、いい案が思いついた?」

「どんな案? 私も知りたい。」


 智香と瑞稀は沙織の提案に興味津々だ。


「お泊まり会はもちろん、夜に開催されますよね?

 だからそのお泊まり会よりも前時間に……。」


 沙織は2人に自分の考えた案を丁寧に伝えていった。


「それはいいかも!

 それならみんなで楽しめるし、先生たちも疲れ無さそう!」

「後片付けとかも少ないし、他の部活動にも迷惑をかけることがない。

 沙織の提案に賛成。」



 智香と瑞稀は2人とも賛成してくれた。

 そこから3人でどんどん話を詰めて行く。


 三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものだ。

 次から次へとアイディアが出てきて、結局はいつも生徒会の仕事を終わらせてから来ていたのと、同じ時間帯まで学食で話し続けた。



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