校内散策
昼休み、沙織は綾乃とめぐみに保健室に行くと言って、ひとり保健室へと向かった。
保健室に向かう途中で運良く智香、瑞稀と合流し、3人で保健室へ向かう。
「どうして保健室なんでしょうか。
多分、千夏先生の話って合宿所のことですよね?」
沙織は智香と瑞稀なら、何か知っているのではないかと思い、保健室に着く前に尋ねてみた。
「合宿所を利用するかもしれないからじゃないかな?
もし合宿所を利用していた時に、急病人が出たりしたら、真理先生に連絡が行くようになってたはずだから。」
「そうなんですか?」
『たしかに急病人が出たら医療知識のある人がいた方が安心できる。』
「真理先生は医師免許も持ってるから。
普段から学園内に居てくれてるし。」
瑞稀の付け足しに、沙織は足の動きを止めた。
「医師免許? 真理先生は医師免許を持ってるんですか?」
沙織が立ち止まって驚いたのに、智香と瑞稀は速度を緩めながらも保健室へ歩き続けながら話を続ける。
「まぁ詳しい話は保健室に着いてから。
千夏先生からの報告を聞かないと、予定が立てられないから早く行こう。」
2人はそう言って沙織を保健室まで引っ張って行った。
「失礼します。」
保健室前に到着して智香がドアを開けると、室内には真理先生と千夏先生が揃って3人を待っていた。
「いらっしゃい!
今日も具合の悪い生徒が居なかったから、保健室でお昼ごはん食べてって!」
真理先生は早速テーブルを片付けて、3人がお昼を食べられるようにスペースを空けた。
「お邪魔します。」
「もうそろそろ購買部の子達が来てくれるはずだから、もう少し待っててね!」
真理先生がそう言った瞬間に、保健室に購買部の2人がやって来た。
前回、沙織が保健室で買った時の人とは違う部員だ。
「今日は人数が多いですね。
でも、ちゃんと皆さんが買えるように取り揃えてますので、お好きなだけご購入してください!」
『購買部は商魂たくましいなぁ。』
全員が買い物を終えて、購買部が保健室から出て行くと、千夏先生が話を切り出した。
「食べながらでいいから、話を始めるぞ。
まず初めに合宿所の件だが、無事に仮予約ができた。」
「やったー!
これで瑞稀の提案してくれたお泊まり会に近づいたね!」
智香は千夏先生の報告を手放しで喜んだ。
提案者の瑞稀は智香ほどのリアクションではないが、とても嬉しそうだ。
「そこでだ。
とりあえず、高等部からの提案には合宿所でのお泊まり会を含めた計画と、万が一、それができなかった時の計画の、合計2パターンを提出してもらいたい。」
「瑞稀さんの提案書の他にもうひとつって事ですか?」
「そうだ。
勝又の提案してくれた合宿所でのお泊まり会は、中等部の生徒の内、自宅生は保護者から許可を貰わないといけないからな。
寮生でも保護者への連絡は必要だしな。」
千夏先生は中等部の生徒も全員が参加できる計画になるように、中等部生徒会の自宅生にも配慮した案も提案するように沙織たちに伝えたかったらしい。
「それじゃあ、もうひとつの案はお泊まり会ができない時の提案って事でいいですか?」
「そうだな、そう考えてもらえると対応がしやすい。
今日は放課後に学園内を3人で散策するんだろう?
その時に何か考えておいてくれ。」
千夏先生がそう言うと、真理先生が手を挙げた。
「はーい。
お泊まり会じゃなくても何をするのか、先生に教えてくれると嬉しいでーす!」
真理先生がニコニコしながらそう言うと、千夏先生が冷静に返す。
「それはもちろん。
普段と違う事をすれば、怪我をする可能性が上がりますからね。
今回は中等部の生徒も居ますし、万全の体制で交流会を開催しましょう。」
『そういえばさっき、真理先生は医師免許を持ってるって瑞稀さんが言ってたっけ。
普段はホワホワした雰囲気なのに、生徒のケアとかに関してはさすがだなって思うようになって来た。
もしかして私が思っていたよりも、とってもすごい先生?』
「とにかく、今日の学園内の散策で、もうひとついい案を提案してくれると助かる。
明日の放課後に聡美先生がいらっしゃるから、聡美先生がいらっしゃる前に提案書を私に出してくれ。目を通しておきたい。
倉持先生には予定が決まり次第、ご連絡します。」
「はーい、待ってまーす!」
こうしてお昼ごはんを食べながらの話し合いは、無事に終了して、生徒会の面々は各クラスへと戻って午後の授業を受けた。
そして待ちに待った放課後になった。
生徒会室前で待ち合わせの約束をしていたので、沙織は教室で綾乃とめぐみに別れを告げると、足早に生徒会室へ向かった。
「あっ、来た来た!
沙織ちゃん!」
智香と瑞稀は既に生徒会室前で沙織を待っていた。
「すいませんお待たせしました。」
「全然待ってないよ、さっ! 行こっか!」
智香の合図で瑞稀と沙織は後ろからついて行く。
「沙織はどこか行きたいところはある?」
瑞稀は学園内の高等部の敷地情報が書かれた紙を持って、沙織に見せながら聞いた。
「うーんと……。
校舎内でもまだ行った事が無い場所があるので、先に校舎内から案内してもらえると助かります。」
沙織がそう伝えると、先頭を歩いていた智香が紙を見てルートを考え始めた。
「ちょうど校舎内に居るし、そうしようか!
校舎内の案内が終わり次第、今度は外の施設とかを見ていこう。」
「それでお願いします。」
3人は再び校舎内を歩き出した。
2人の案内で、沙織がまだ行った事がない教室の案内が始まった。
沙織たちに1年生が、まだ受けていない授業で利用する専門教室や、主に部活動が使っている教室などを智香の案内で回って行く。
智香が案内した教室を、瑞稀が紙に書かれた地図でどこなのかを沙織に丁寧に教えて行く。
「ここが第三パソコン室。
授業で使う事はあまり無いかな。」
智香がそう言った第三パソコン室は、中から賑やかな声が聞こえて来ていた。
「誰か使ってるんですか?」
沙織がそう聞くと、智香は第三パソコン室のドアをノックしてドアを開けた。
すると第三パソコン室の中には、沙織の知った顔ぶれが何人か目に入った。
「あら? 生徒会役員が揃ってこんなところにいらっしゃるなんて。」
「お疲れ様です久美さん!」
智香と挨拶を交わしたのは、新聞部の部長、宮野久美だった。
久美の周りには奈津美や綾乃もいた。
「沙織じゃん!
そういえば今日は学園散策だって言ってたね。」
綾乃が沙織の方にやってきた。
「そうなの、今は智香さんと瑞稀さんに案内してもらってるところ。
ここは新聞部が使ってる教室?」
「そうだよ!
新聞部が校内新聞を作る時に使ってる教室。」
新聞部が普段から使っている教室だからか、教室の壁に付いてあるホワイトボードには、行事の日付や、さまざまな部活動の大会予定表などがびっしりと貼り出されていた。
予定表の下には取材に行く人の名前も書かれている。
沙織が教室を見渡していると、久美が作業の手を止めて沙織の元に来てくれた。
「行事の前後に出す校内新聞には、生徒会からのコメントとかをもらいたいから、その時には原稿を書いて持って来てもらう事があるよ。
それ以外にも、生徒会役員には年間を通して何かとお願いする事があるから、いつでも気兼ねなく来てくれて構わないよ。」
「はい! ありがとうございます。」
久美は沙織と初めて会った時にあまり話ができなかったのが、少し残念だったようで沙織が来てくれる事を心待ちにしているようだ。
『久美さんはまだあまりお話ができていない先輩だけど、これからは関わりが増えそう。』
沙織も生徒会の仕事を覚えていけば、新聞部に足を運ぶ事が増えるだろう。
「それじゃあ私たちはこれで、今日は沙織ちゃんが行った事が無いところを全部まわる予定だから。
お邪魔しました。」
「気をつけて。」
智香と久美が挨拶をすると、3人はまた校内の散策を再開した。
沙織は今まで生徒会室に来てもらって会っていた人達が、普段はどこでどんな活動をしているのか見るのが楽しくなって来た。
「次はどこに向かいますか?」
沙織が聞くと、智香と瑞稀は地図で確認してひとつの教室を指さした。
「この流れだと、次は会計室かな?」
「それがいいかな。沙織はまだ行った事が無いし、会計室ならこれから第三パソコン室と同じくらい行く事が多いだろうから。」
『会計室って事は、もしかして経理部が使っている教室なのかな?』
会計室に到着して早速中に入ると、沙織の予想通り、経理部部長の橋本明日香が居た。
「3人揃ってどうしたの?
何か経理処理が必要なものでもあったかしら?」
「違う違う!
今日は沙織ちゃんの学園散策をしてるところ。」
智香がそう言うと、明日香はホッとした表情になった。
「何か不備でもあったかと思った……。」
「ごめんね〜。」
「沙織はまだ来た事が無かったから。
アポ無しで来てごめん。」
智香と違って、瑞稀は丁寧に事情説明してから明日香に謝罪した。
「全然気にして無いから、そんなに謝らないで。
改めて、ようこそ沙織ちゃん。
ここが普段、経理部が使っている会計室だよ。」
明日香が改めて沙織に教室を案内して行く。
「ここでは経理部の部員が学園内の経理面の仕事をしているの。
沙織ちゃんがこの間覚えた経理処理の仕事は、生徒会や各部活動が経理部に提出するための仕事なの。
だから、沙織ちゃんが覚えた生徒会の経理面の仕事を終わらせたら、この教室に持って来てね。」
明日香がそう説明しながら教室内を歩いて行く。
先程の新聞部と違って、経理部は人数が少ないけれど、全員がパソコンや電卓を巧みに使いこなして仕事をしていく姿に感動する。
「経理部は部員は少ないけれど、全員がお金の管理をすることに責任感を持って活動しているの。
今は1年生と2年生しか部員は居ないけれど、2年生は全員が簿記の資格を持っているし、1年生はそんな2年生について一緒に活動しているから、安心して任せてね!」
明日香が沙織に自信満々にそう言うと、他の経理部の部員たちも自信を持った目で沙織を見てにっこりと笑った。
『経理部の人たちは、学園のお金を管理しているからどこか関わりにくいと思っていたけれど、実際はそんなことないかもしれない……。
同じ感覚の高校生でなんだか安心した。』
会計室を出て校内の散策をあらかた終えた3人は、最後に写真部が使っている部室を訪れた。
同じようにドアをノックして入ると、写真部の部員たちが数人いた。
その中には沙織が写真部員で唯一話したことのある葉月の姿はなかった。
どうやら学園内のどこかで写真撮影に明け暮れているようで、今日は部室に顔を出していないらしい。
写真部は2つの部屋を利用しているらしく、もうひとつの部屋は部員以外は立ち入り禁止らしい。
その部屋は写真の現像をする専用の部屋らしい。
『葉月さんに会えなかったのはちょっと残念だったな。
だけど、写真って奥が深い世界って感じたなぁ。』
葉月と会えなかったのが表情に出ていたのか、智香と瑞稀が沙織に声をかけた。
「葉月は学園内で写真を撮ってるはずだから、外の施設を見にいけばどこかで会うと思うよ!」
「そうだよ。
もう校内の案内は終わったし、あとは外の施設だから、どこかで会うよ。」
「そうですね。」
沙織たちは校内の散策を終えて、外の施設の散策に移ることにした。
「一旦、寮の部屋に荷物を置いてからまた散策にしようか。
荷物を持ったままだと疲れそうだし。」
「そうですね。メモ帳とペンだけ持って戻ります。」
3人は2年生の学生寮前で再集合する事を決めて、各自の荷物を寮の部屋に置いてくることにした。
『中間試験も終わって、だいぶ学校に慣れてきたはずだったけど、思いのほか知らない事が多かったなぁ。
部活動見学も、部室じゃないところで案内していた部活もあったし、校内散策だけでもすごく刺激的だった。
外の施設はどんなところがあるのか楽しみだなぁ。』
沙織は部屋に戻ると、玄関に鞄を置いてメモ帳とペンだけ持つと、急いで寮から出て智香と瑞稀の待つ2年生の寮へ向かった。




