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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
26/59

楽しみは連鎖的に増えていく

 水を飲み干して落ち着いた先生は、大きく息を吐いて呼吸を整えると、早速、梓の横に座った。


「とりあえず、無事で良かった……。」


 先生はそう言って梓の手を握った。

 相当心配していたのだろう、顔も赤く熱っていて水を飲むまでは息も絶え絶えだったのだから。


「心配させてしまったみたいですいません。」

「本当よ!

 プリントを渡したときに、放課後に中等部の正面玄関で待っててねって言ったのに、正面玄関どころか校舎内に居ないんだから……。」


「高等部の生徒会室に行くって事に頭がいっぱいで、一緒に行く事を聞き逃したみたいです。」


『入学式後のホームルームでの私と似てる気がする……。』


 先生はさらに言葉を続けていく。


「それに生徒会のみんなから、梓ちゃんは方向音痴だから絶対にひとりで向かわせないでって、口酸っぱく言われてたのよ?

 本当に……綾乃ちゃんが見つけてくれて本当に良かった。」


「そんな大袈裟に言わないでくださいよ……。」

「大袈裟じゃありません!

 梓ちゃんが中等部に入学してから初めての校内マラソンで、コースから外れて大学の敷地まで行ったこと、先生知ってるんですからね?」


『学園内で迷子になるほどの方向音痴は……たしかに心配するよね。』


 その先生も少し落ち着いたところで、千夏先生が沙織に先生を紹介してくれた。


「及川は初めてお会いするんだよな?

 こちらは中等部の生徒会顧問をされている、浅沼聡美先生だ。

 千葉と勝又は知ってるよな?」


 智香と瑞稀は頷くと、聡美先生に挨拶をした。

 聡美先生も2人に挨拶を返すと、慌てて沙織の正面に立って自己紹介をした。


「ごめんなさい!

 はじめまして、中等部で生徒会の顧問をしています、浅沼聡美です。」


「はじめまして聡美先生。

 高等部で生徒会役員をしてます、及川沙織です。

 よろしくお願いします。」


 2人の自己紹介が終わったのを確認すると、千夏先生が本題に入った。



「ここに来る間に千葉から話を聞いた。

 誰ひとり詳しい事を知らないって事と、勝又と及川はまったくもって初耳だってことも。」


 智香は視線を逸らした。


「千葉にプリントを渡して満足してたのは私だ。

 2人に連絡がいかなかったのは申し訳なかった。再発しないように注意しよう。

 さて、今から順を追って全員に説明していくから、適当に座ってくれ。」



 千夏先生からのフォローもあり、智香も顔を上げて、全員がソファー周辺に集まる形になって座った。



 千夏先生は全員に用紙を手渡していくと、その用紙を見ながら説明を始めた。


「質問があったらその都度言ってくれて構わない。

 それじゃあ始めるぞ。」


 千夏先生の説明は先程、智香や瑞稀が想像していた通り、合同で活動をする前に中等部と高等部の生徒会間での交流が目的だった。


 そして話はその交流会での内容に変わっていく。


「交流会では、生徒会役員と顧問のみが参加することだけが決定している。」


 どうやら参加者は限定されているらしい。

 完全に生徒会同士の交流会のみだ。


「参加条件は生徒会役員と顧問のみですか?」


 瑞稀が手を挙げて千夏先生に質問をした。


「そうだ、参加者は生徒会役員と顧問のみだ。

 そうだな……例えば今の中等部と高等部、それぞれの生徒会と面識がある生徒に高等部1年では、小林綾乃が居るだろう?」


「そういえば、梓ちゃんは中等部で一緒に生徒会だったって言ってたよね。

 私も同じクラスだし、智香さんと瑞稀さんも綾乃とは面識ありますね。」


「もし、その小林が交流会に参加できたら、ほとんどが小林を経由して会話を始めるだろう。

 それだと行事の時に円滑なコミュニケーションが取れるとは思えない。」


 たしかに先程の沙織と梓の会話は、綾乃という共通の接点があったから会話ができた。

 その場に綾乃が居れば、間違いなく2人とも綾乃の事を頼っていただろう。


「その理由なら納得です。

 千夏先生、続きをお願いします。」


「なので今回の交流会は、参加者は限定してある。

 勝又以外にも何か意見がある者は?」


 千夏先生は全員に確認を取ると、誰も質問が無かったので、説明は次に進んだ。



「次は日程だな。

 中等部と高等部は試験期間が同じだから、期末試験の前に実施することだけしか今のところ決めていないんだが、それぞれの生徒会がなるべく忙しくないタイミングを照らし合わせて決めようと思う。」


 千夏先生がそう言うと、瑞稀が先程確認していた仕事のスケジュールをまとめた用紙を持ってきた。

 中等部の方では、顧問の聡美先生が同じようにスケジュール用紙を取り出した。



「やっぱり高等部の生徒会は忙しそうですね……。

 中等部は期末試験前まではさほど忙しい時期は無いですね。

 高等部さんに合わせましょうか。」


「どうだ勝又。」


「そうですね……試験期間の直前だと仕事の調節が難しくなるので、1週間は空けてもらえると有り難いですね。」



 千夏先生と聡美先生も、試験問題の作成時間が必要だからと、瑞稀の意見に賛同した。


「そうすると……2週間後が1番良いタイミングになるか?」

「そうですね、中等部もその予定で大丈夫そうです。」



 スケジュール管理をしている3人が納得して、日程は2週間後の土日に決定した。



「あとは内容だな。

 及川! 何かやりたいことはあるか?」


「えっ! 私ですか?」


 急に話を振られた沙織は戸惑った。


「お前は高等部からの入学者だからな、ここに居る誰よりもこの学園に通っている期間が短い。

 これを機に学園内限定になるが、やりたいことがあったら言ってくれて構わないぞ。

 中等部の生徒会だけじゃなくて、千葉と勝又とも、親交を深める面で。」


『急にそんな事を言われても……というか、学園内で何ができるのか、サッパリわからない。』


 沙織が困っていると、智香が助け舟を出した。


「千夏先生が言う通り、沙織ちゃんが案を出すのは賛成。

 だけどせっかく2日間の日程があるなら、沙織ちゃんの意見を元にした案を高等部から、中等部からも意見をまとめて案を出してもらって、2日間の内容にしたらどうですか?」


 千夏先生と聡美先生は、智香の提案に賛成した。


「それなら中等部もみんなに意見を聞いてこないといけないわね!」

「準備に時間がかかりそうなことは、早めに提出してもらえば問題は無さそうですね。

 わかった。高等部と中等部で今週中に意見をまとめて、事前に準備が必要なものをリストアップした用紙を私と聡美先生にそれぞれ提出してもらうことにしよう。」


「聡美先生、金曜日か来週の月曜日の放課後、お時間いただけますか?」

「それでは、金曜日の放課後に私が高等部の生徒会室に伺いますよ。」



 大まかな事項が決定して、今日の話し合いはお開きとなった。



「お邪魔しました、また金曜日に。」

「先輩方、お話しできて嬉しかったです。

 交流会楽しみにしてます!」


 聡美先生と梓が中等部へ帰るため、生徒会室から廊下へとでた。

 高等部生徒会の面々は、見送りのため2人と同じく廊下へと出た。


「だいぶ暗くなってきたので、気をつけて帰ってくださいね。

 梓ちゃんも聡美先生から離れないでね。」


「もちろんです。

 今度は聡美先生から離れずに移動するので、皆さんも安心してください!」



『今の発言がフラグにならない事を祈ってるよ!』



 2人が見えなくなると、沙織たちは生徒会室に戻り、早速話し合いが行われた。


「まずは今週中に仕上げなくちゃいけない仕事の確認と、あとはさっき決めた交流会でやりたいことの集計作業。

 集計は……千葉! 任せていいか?」

「へっ? やったー!

 てっきり瑞稀に任せるもんだと思ってた。

 頑張りまーす。」


『私も瑞稀さんが集計作業をすると思ってました。

 瑞稀さんが1番集計作業が得意そうだし……。』


「勝又は仕事のスケジュール調整をしてもらいたいからな。

 何でもかんでも勝又頼みは良くないだろう?」


 千夏先生は瑞稀の負担を考えて判断したらしい。

 生徒会顧問は伊達では無いようだ。



 頼られてたことが嬉しくて、浮かれた様子で作業を始めた智香を尻目に、千夏先生は瑞稀と沙織に耳打ちした。


「何か仕事を任せないと不満になりそうだったからな……。

 何かあったらすぐに報告してくれよ。」


「もちろんです千夏先生。

 私もスケジュール調整が終わり次第、智香にそれとなく聞いてみます。」


『あっ……瑞稀さんも千夏先生も完全には任せるつもりは無いんですね。』


「及川は千葉と勝又の両方のフォローを頼む。

 フォローといっても作業を手伝ったり、千葉が集計しやすいように早めに交流会の計画案を出したり……それとなくで頼む。」


「わかりました。善処します。」



 3人がこっそり話していると、智香が「できた!」と言って3人に1枚ずつ用紙を渡してきた。


「これにひとり1つは案を出して、書き終わり次第私に返してください。」


 智香が渡した用紙には、やりたい事柄の記入欄とその下に、場所、所要時間などの記入欄が続いている。


「ちょっと待て、私も提出するのか?」


 千夏先生にも同じ用紙が当然のように渡されている。


「もちろんです。

 今回の交流会は生徒会役員だけでなく、生徒会の顧問である千夏先生と聡美先生も参加するって、千夏先生自身がさっき言ってましたから、もちろん提案してもらいますよ?」


 智香は本気のようで、真っ直ぐな目で千夏先生にそう言うと、千夏先生が折れた。


「わかった……早めに提出するよう努力する。」

「そう来なくっちゃ!

 瑞稀と沙織ちゃんも早めに提出してね!」


 有無を言わさず全員に提出を約束させると、智香は本来の自分の仕事に取り掛かりはじめた。


 沙織は智香に手渡された用紙を見て、学園内で行った事が無い場所が多くて、何ができて、何ができないのかわからなかった。

 沙織が知っているのは、高等部の入学パンフレットに書かれていた内容だけだからだ。


「千夏先生、学園内でどこまでの事ができるのか想像がいまいち出来ていないんですけど、具体例はありますか?」


「そうだな……まず場所は基本的には中等部と高等部の敷地内が妥当だろう。

 それと、他の生徒や部活動に迷惑をかけない内容が好ましいな。

 生徒会の交流会で周りに迷惑をかけてしまったら、生徒会への信用問題になるからな。」


「それは大事な事ですね。

 絶対に迷惑をかけない交流会にしないとですね。」



「それから、あまり遅い時間帯になりそうなものも無しだな。

 仮にも一緒に交流会をするのは中等部の生徒だ。中等部の生徒を夜遅くまで活動させるのは、教員として許可できない。」



 千夏先生がそう言うと、瑞稀が質問をした。


「学園内にある合宿所を借りてのお泊まり会……とかも、難しいですか?」


『そういえば申請すれば使える合宿所が、学園内にあるってパンフレットに書いてあったような……。』


 千夏先生は少し考えてから瑞稀の質問に答える。


「申請して許可が出れば可能だけど、中等部の生徒には自宅から通っている生徒も居たはずだから、まずはひとつの案として提案して、保護者の許可を得てからになるだろうな。」


「そっか、私たちは全員が学生寮だけど、中等部の生徒会には自宅生も居るのか……。

 そのあたりも考えて、早めに提案した方が良さそうですね。」


「先に合宿所に空きがあるかどうかだけ確認して、空いていたら仮予約しておいたほうがいいな。

 明日までに確認しておこう。」


「お願いします。」



 どうやら瑞稀は、中等部の生徒会と合宿所でのお泊まり会を計画したいらしい。

 そんな瑞稀と違い、沙織はやっぱり具体案が出てこない。

 原因は言うまでもなく、この学園にまだそこまで詳しく無いからだ。



「あの瑞稀さん。

 私はまだこの学園内のことにそこまで詳しくありません。

 なので、明日の放課後、一緒に学園内を回ってくれませんか?

 せっかく交流会をするんですから、いろいろと見て回ってから提出したいんです。」


 沙織の提案に、瑞稀は二つ返事をした。


「それなら、今日はいつもより少し残って仕事を多めに終わらせておく。

 それなら明日は心置きなく沙織と学園内を回れる。」


 瑞稀は明日の学園散策が楽しみらしい。

 その様子にどうしても仲間に入りたいのは、言うまでもなく智香だ。


「えー! 瑞稀ばっかりずるい!

 私も沙織ちゃんと一緒に回る!」


 瑞稀は自分に向かってそう言っている、智香の体の向きを沙織に向け直す。


「沙織が私を誘ってくれたの。

 一緒に来たいんだったら沙織に誘ってもらって。」


 瑞稀に言われた智香は、すぐさま沙織にお願いをした。


「もちろん、智香さんも一緒に来てくれたら尚更嬉しいです。」


「やったー!」


 こうして明日は沙織、瑞稀、智香の生徒会役員3人で学園内を散策する事が決定した。

 そうなると早速、3人とも仕事に取り掛かる。

 沙織は瑞稀のスケジュール調整で、前倒しに変更した仕事の中で自分にできる仕事に取り掛かった。


 3人の様子を見て、ソファーに座っていた千夏先生が立ち上がった。


「じゃあ私は、合宿所の確認をしたらそのまま帰るから、お前たちも気をつけて帰れよ。

 あんまり遅くまで残ってるんじゃ無いぞ。」


 職員室に戻る千夏先生に、瑞稀が「合宿所の事は……。」と言うと、千夏先生はなんて事ない表情で普通に返した。


「3人とも、明日の昼休みに保健室に来てくれ。

 合宿所の事はその時に報告する。」


 そう言って千夏先生は職員室に帰って行った。


「お疲れ様でした。」


『なんで保健室?

 でもまぁ、明日は放課後に学園散策だから、今は仕事に集中しよう。

 予定が目白押しだ!』


 沙織は仕事を片付けながら、明日以降の楽しみな予定に胸を躍らせた。


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