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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
23/59

完敗では無い

 週末の試験後の勉強会も終わり、また新たな1週間が始まった。

 授業では教科担当の先生からの試験用紙返却と、正答解説がされ、火曜日には全教科の返却が終了した。


 そして全ての教科で試験結果が確定して、生徒の元へ成績評価が帰りのホームルームで各クラス担任から手渡された。


 沙織達のクラスで成績評価を渡していた千夏先生は、全員分を渡し終えると「これでやっと終わった。」と言った。


『千夏先生お疲れ様でした。』


「全員、今時間をとるから中身を確認しておけよ。

 点数とかの表示が違ったら今日中に修正しなくちゃいけないからな。

 これで今回の中間試験の成績は最終確定。そしたら順次、保護者へ成績表の郵送が行われるから、保護者の方には連絡しておいてくれ。」



『保護者か……。』


 沙織は恐る恐る渡された自分の成績評価を覗き見た。



『各教科の点数は、ほとんど瑞稀さんに採点してもらった通りだった……。

 あとは順位……。』


 折りたたまれていた部分をゆっくりと開いていくと、徐々に今回の成績があらわになっていく。

 そして最後の部分に書いてあった、クラス順位と学年順位を確かめた。


『クラス順位4位、学年順位7位……。』


 想定以上の好成績に沙織は成績評価をもう一度閉じて、ゆっくり深呼吸をしてからもう一度確認した。


 そして先程と同じく、クラス順位4位、学年順位7位の成績は変わらず成績評価として用紙に記載されていた。



『先輩達の学年の基準で考えてたから、想像以上に良い成績で驚いちゃった……。

 どの教科も教えてもらったり、教え合ったりしたおかげで、中学の時と試験の手応えが全然違った。

 結果も上々だし、頑張ってよかった〜。』



 沙織がホッとしていると、千夏先生がクラス全員を見渡して軽く頷いた。


「よし。誰も修正箇所は無いみたいだな。

 これで今回の成績表は確定する。

 今回の成績に満足しすぎると、今度は教科数が増える期末試験で足を掬われることになるから気を抜くなよ。

 良くない成績だった者は、1年生の中間試験だからあまり気負いすぎず、次回頑張れ。以上。」



 千夏先生はそう言ってホームルームを締めると、颯爽と職員室へと帰って行った。



 ホームルームが終わると、教室ではお互いの成績評価の話題で持ちきりになった。


「沙織はどうだった?」

「瑞稀さんに採点してもらったのとほとんど同じ点数だったから、順位だけ確認したけど、思っていたよりも良くて安心した。」


 沙織は綾乃に成績表を見せた。


「見ていいの?」

「土曜日に一緒に答え合わせしたから、点数は知ってるでしょ?

 今更恥ずかしがってもしょうがないし、綾乃の方が点数高かったんだから、順位も綾乃の方が高いでしょ?」


 沙織がそう言うと綾乃は少し照れて自分の成績表を沙織に渡した。


「それならこれでおあいこ。

 私のも見ていいよ!」



 お互いの成績表を交換して、改めて開いて見合った。


『クラス順位1位、学年順位1位……?!』


 綾乃の成績表を見て、沙織は椅子から転げ落ちそうなくらいビックリした。


「綾乃……すっごく頭良いんだね。

 なんか私の成績表なんか見せて、ごめん。」


「そんなこと言わないでよ!

 お互いに見せ合うって言ったじゃん。

 この成績が取れたのも、沙織とめぐみが一緒に勉強してくれたから。それに、先輩達にも勉強会でわからないところを教えてもらったからだよ?

 先輩達と勉強会ができたのは沙織のおかげなんだから。

 ありがとう。」



 沙織は綾乃にお礼を言われるほどのことをしたとは思っていない。「むしろ一緒に勉強してくれてこちらこそありがとうございます。」と言って、お互いの成績表を返した。


「ヤッホーおふたりさん!

 成績評価はどうだった?」


 めぐみが2人のところに突如やって来た。


「なんだか、めぐみがこのクラスに遊びに来るのも慣れて来ちゃった。

 すぐに沙織に抱きつくのも癖になっちゃってるし。」


 綾乃がそう言っている傍から、めぐみは沙織に目配せをしてから抱きついていた。


「うん。ほとんど毎日来てくれるよね。」


「沙織をぎゅーっとするためなら、授業の合間の休憩時間にも来ちゃうよ〜。」


「それは沙織が疲れちゃうから辞めなさい。」

「スキンシップは嬉しいけどね……。」


「冗談だってば。

 それで? どうだったの成績は。」


 沙織と綾乃は手に持っていた成績表を、今度はめぐみに渡して見せた。


「ひゃー……2人ともすごいね!

 私の成績表も見てよ。」


 めぐみが沙織の机に、自分の成績表を広げて2人に見せた。


「クラス順位12位、学年順位27位。真ん中よりは上だけど、パッとしない成績だよ。

 それに比べて2人は上位。

 一緒に勉強してたのに……これが地頭の差か?」


 めぐみはそんなことを言ったけれど、綾乃と沙織はそんな事は思っていなかった。

 めぐみの成績が上がりきらない原因に、なんとなく察しがついていたからだ。


「そうとも言い切れないよ?

 土曜日の答え合わせをした時にも思ってたけど、めぐみはケアレスミスが多かったじゃない?」


「そうだっけ?」


 綾乃の指摘に対して、めぐみはピンと来ていない様子だ。


「ケアレスミスが無くなれば、それだけで全教科の点数が上がって、必然的に順位も上がると思うんだけど……。」


「ケアレスミスねぇ〜。」


 めぐみは腕組みをしながら苦い顔を見せる。


「綾乃の言う通り、私も土曜日にそう思った。

 ゆっくり見直しをするだけで、だいぶ点数が変わると思う。」


「見直しか……してなくは無いんだけど。」


 めぐみが手を頭に乗せて「おっかしいなぁ。」と言うと、綾乃が何かに気がついた。


「もしかしてめぐみ、解答欄がズレていないか〜とか、名前書いたっけ〜とか、そんなレベルの見直しじゃ無いよね?」


 綾乃の考えを聞き、沙織とめぐみは動きを止める。


『いやいや、高校生にもなってそのくらいしか見直ししない人は、流石にいないと思うけど?』


 沙織はそんなことを思い「そんな訳。」と呆れた表情を見せるが、めぐみは沙織とは違った反応を示した。


「それ以外に見直しする事ってあるの?」


『うっそ! めぐみ、嘘でしょ?!』



「それだね原因は……。」

「いや綾乃、それが原因ってどう言うこと?

 全然わからないんだけど。」


 全く見当がついていないめぐみに、綾乃と沙織は頭を抱えてため息をついた。



「今度は勉強する前に見直しの練習をさせた方がいいかもね。」

「そうだね……綾乃はよくその考えにたどり着いたね。

 私は想像もしなかったよ。さすが学年1位。」


「ちょっと2人とも! 私のこと見えてる?!」



 めぐみを置いて、綾乃と沙織は次の期末試験までにめぐみをどうするのか話し合うことにして、この日は解散になった。


 綾乃は試験明けで新聞部が忙しいらしく、荷物を持って部室へと早足で向かって行った。

 残った2人は、生徒会室に向かう途中まで、一緒に廊下を歩いていた。


「試験中の見直しなんて、誰も教えてくれないから知らなかったよ……。」

「まぁ、試験中に他の人の様子を見るわけにもいかないし、しょうがないかもしれないけどね……。」


『だけど問題文に目を通さないのは、私も流石にビックリしたよ? めぐみさん。』



「だけど、次の期末試験まで成績を維持して、見直しもできるようになれば、めぐみの順位は上がるはずだよ!

 成績が上がればもっと!」


「そう考えると……他の人よりも順位が上がりやすい気がして来た。

 頑張るよ!」


 めぐみは沙織のほっぺたを両手で軽く挟み、むにゅむにゅっと揉むと、手を離した。



「それじゃあ今日はここで!

 また明日ね〜。」

「うん、また明日。」


 めぐみとも別れて、ひとり生徒会室へ向かった。



 生徒会室の前に到着すると、ちょうど千夏先生もやってきた。


「千夏先生、こんにちは。」

「おう及川、お疲れ。

 生徒会の仕事溜めてて悪かった。直ぐに片付けるからもう少し待っててくれ。」


 教室で既に疲れていた千夏先生を見ていたから、沙織は千夏先生が心配になった。


「千夏先生、そんなに急がなくても……。」


 沙織の心配に千夏先生は少し笑顔を見せる。


「あんまり生徒に心配かけない程度に頑張るよ。

 だけど、この学校は部活動が支えている面が多いことは、及川ももう知ってるよな?」


 沙織は千夏先生の問いに大きく頷いた。


 学食では調理部や購買部。

 行事や連絡事項は、新聞部や写真部が校内新聞を制作して報告や連絡を。

 学校の費用の管理は経理部。


 たったの1ヶ月ちょっとだけれど、それだけの部活動が学校を支えているのを沙織は知っていた。


「その部活動が円滑に活動するには、学校を取りまとめている、生徒会の許可が必要な場合が多い。

 今回の試験期間でも、生徒会の許可が必要だっただろ?」


「はい、沢山の許可申請書に目を通しました。」


「そして私はその生徒会の顧問だ。

 及川達、生徒会役員が許可した書類を最終確認して、学校長や各部活の顧問に報告したり、質疑応答するのが私の仕事なんだ。

 だからあまり仕事を溜めるのは、学校運営に支障をきたしてしまう。」


 千夏先生は沙織の頭をそっと撫でた。


「今日が最後の踏ん張りどきなんだ。

 だから、頑張らせてくれないか?」


 沙織の頭を優しく撫でる千夏先生は、やっぱり疲れが見てとれた。

 目の下のクマはメイクでは誤魔化しきれ無いくらい、沙織にはハッキリと見えた。


『そんなに疲れてるのに、千夏先生はまだ頑張るんですね……。』



「千夏先生、私もできることはご協力します。

 なので、なんでも言ってください!」

「ありがとな、及川。」



「あの〜沙織ちゃん、それじゃあ私のことも助けてもらえないかな?」


「うわっ! って、智香さんびっくりしたー。」

「おう千葉。おつかれ。」


「お疲れさまです千夏先生。」


 生徒会室のドアから顔だけ出していた智香は、廊下に出てきて千夏先生に挨拶を返した。


 深呼吸をして落ち着いた沙織は、先程智香が言った「助けて。」について聞いた。


「智香さん、助けてって何かあったんですか?」


 沙織が聞くと、智香は詳しく話を始めた。


「実は私の成績がね、上がってたんだ。

 点数も順位も……。」


「そうだったんですか?

 おめでとうございます!」


 沙織がお祝い言うけれど、智香は微妙な表情だ。


「うん、ありがとう沙織ちゃん。

 それでね、点数と順位は上がったんだけど、全教科平均点以上は取れなかったんだ……残念ながら。」


「それは……たしかに残念でしたね。

 智香さん、目標にしてましたし。でも、成績は上がったんですよね?

 それなら喜んでも……。」


 沙織がそこまで言うと、智香は手を横に振って「違う違う! それはたしかに嬉しいし、喜んでるよ。」と言った。


「それなら、さっきの助けてって一体。」


 沙織は全く理解できていなかったが、千夏先生はなんのことだかわかったみたいだった。


「千葉。もしかしてあれか?」

「はい千夏先生。あれです。」



 そう言うと智香は生徒会室のドアを開けた。


 沙織と千夏先生が智香に続いて生徒会室に入ると、生徒会室には特に変わった様子は無い。


 千夏先生待ちの書類の山、窓から入る日の光。風に揺れるカーテン。

 沙織は何が2人が話していた「あれ。」なのか、サッパリ分からなかった。



 すると智香は沙織を手招きで呼び寄せる。

 ある所まで沙織が寄ると、智香の手招きは終了した。


『ここって……。』


 そして智香は、そこにあった椅子をずらして、そこを指さした。


 沙織は「あれ。」の正体を知らないので、智香が指さした場所を、恐る恐る覗き込んだ。


 すると、薄暗い中に人の背中が見える。

 見覚えのある金髪と、きらりと光るピアスが見えた。


「……瑞稀さん?」


 沙織が覗き込んだそこには、瑞稀が体育座りで丸まって落ち込んでいた。


「智香さんと千夏先生が言ってた「あれ。」って、瑞稀さんの事だったんですか?」


「瑞稀の事って言うか、瑞稀の状態というか……。」


 うまく説明することができない智香をよそに、千夏先生は瑞稀の様子を見ると、生徒会室に来た本来の目的に取り掛かり始めた。


「とりあえず、しばらくは勝又が使い物にならないのは確定だな。

 よし、書類を片付けてしまうか。」


「ちょっと千夏先生? 瑞稀さんをこのままにしておくんですか?!」


「さっき及川に言った通りだ。

 私がこの溜まった仕事を終わらせないと、学校運営に支障が出るって。

 それに、その状態の勝又は私にはどうすることもできない。

 及川、私に協力してくれるってさっき言ってくれたよな?」


『千夏先生……まさか。』


「勝又をなんとかしておいてくれ。

 勝又が使い物にならないと、私の仕事が滞る。」


『私の言ってた協力と違う!』


「沙織ちゃんお願い!

 私と一緒に瑞稀をどうにかしてちょうだい!

 このままだと今週の生徒会の仕事が終わらなくなっちゃう。」


 智香に懇願された沙織は、仕方なく協力することにした。


「……わかりました。」



『まずは、どうして瑞稀さんがこんな状態になったのかを、智香さんに聞くところからだな。』


 沙織と智香は生徒会室のソファーに腰掛けた。

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