健闘
平日は綾乃とめぐみと3人で試験勉強を続けて、ついに中間試験がスタートした。
沙織は高等部に入学して初めての試験にとても緊張して、ちゃんと問題を解くことができるか心配していた。
けれどそれは必要の無い心配だった。
『先輩達に教わったところが……簡単に解ける!
綾乃とめぐみと3人で試験勉強していたところも。
自分が天才にでもなったみたいにスムーズに解答欄が埋まっていく。』
無事に2日間の中間試験が全て終了し、あとは試験結果を待つだけとなった。
全ての試験が終了した……つまり週末の金曜日。しかも試験は午前中に終了しているため、今日の午後から課外活動が全面解禁になった。
学食でお昼ごはんを食べている生徒達は、やっと試験から解放されたと喜んでいる生徒も居れば、手応えがあまり良くなかったのか、不安そうな表情をしている生徒など様々だ。
かくいう沙織は、試験勉強の成果があり手応えは充分、試験からの解放を喜んでいる方の生徒だった。
それは一緒に勉強をした綾乃とめぐみも同じだった様子で、今は3人で楽しくお昼ごはんを食べていた。
「いや〜、無事に中間試験が終わってよかったよかった!
これで今日からゆっくり帰れる。」
「本当にね。私もこれでやっと部活動に復帰できる!」
「私も今日から生徒会に復帰だよ〜。」
沙織はそんな事を言っているが、試験期間中も生徒会は仕事があり、実際には毎日放課後の1時間は活動をしていた。
「沙織は本当によくあのスケジュールで試験勉強できたよね。
私も中等部の時に生徒会の仕事が試験期間中にあったけど、疲れて試験勉強どころじゃなかったよ。」
「瑞稀さんが試験勉強が優先できるように、試験期間中の生徒会の仕事が最小限になるように調整してくれてたの。
今日はその調整して、後回しにしていた分の仕事を片付けるって言われたかな。」
「前もってやった分と、今日これから追い込みをかける分に分けたってことか……。
私も中等部の時にそうしておけば、もう少し成績良かったかも……。」
綾乃は少しため息をついてそう言ったけれど、めぐみはそんな綾乃のため息を吹き飛ばす勢いで綾乃を慰める。
「中等部の時の綾乃は頑張ってた!
たしかに瑞稀さんみたいに、仕事の優先順位を決めて予定を立てておけば、試験勉強にも集中しやすかったかもしれないけど、中等部の時の生徒会で誰がその仕事の調整と管理ができたと思う?」
綾乃は黙って考えて、数秒後、首を横に振った。
「でしょ? 瑞稀さんだから予定を立てておく余裕もあって、今の生徒会メンバーだからその予定通りに仕事ができたって事。
それに、中等部よりも高等部の方が自分たちでできる仕事も増えてるだろうし。」
『それはめぐみの言う通り、一理あると思う。
中等部の生徒会は高等部の生徒会よりも、生徒会顧問の先生に確認しなきゃいけない事が多いって、この間聞いたし。』
「まぁ、たしかにそうなんだけどさ……。
前もって終わらせることくらいはできたかなって思ってね。」
「長期休みの宿題と同じ考えってこと?」
「そう! 沙織が今言った例えそのまま!
宿題は前もって片付けておいたりしたのに、どうして生徒会の仕事はそうしなかったのか……。」
綾乃は宿題の例えがよっぽどしっくりしたのか、尚更凹んだ。
『余計に落ち込んでる……。』
そんな綾乃をめぐみは「まぁまぁ。」と言って肩を叩いた。
「過ぎたことをくよくよ考えても仕方ないって!
それに、今は新聞部の活動が楽しめてるんだから、それでいいじゃない?」
「……それもそうね。」
そう言うと綾乃は何かを思い出し、勢いよく残りのお昼ごはんを食べ終えてしまった。
「そんなに勢いよく食べたら喉に詰まっちゃうよ?」
沙織が綾乃に水を差し出すと、綾乃はその水も一気に飲み干した。
「……綾乃?」
呆気に取られた2人に、綾乃はトレーを持って立ち上がった。
「ごめん! 新聞部の活動、午後から始まるの思い出した。また明日!」
綾乃はあっという間に学食から姿を消した。
「そんなに急ぐほど時間ギリギリだったのかな?」
「試験期間中に新聞部の活動ができなかったの、とっても残念がってたから早く部室に行きたいのかも。
生徒会に提出された書類には、新聞部は今日の午後14時から部活動再開予定って書いてあった気がするから。」
残された2人でゆっくり残りのお昼ごはんを食べ終えると、めぐみは「ゆっくり帰宅部の活動して帰るよ。」と言って、学食で沙織と別れて帰宅して行った。
お昼を食べ終えて、沙織ものんびりと生徒会室に向かうと、瑞稀と智香が既に生徒会室に居た。
「お疲れ様です。お二人とも早いですね。」
「お疲れ様沙織ちゃん!
実は瑞稀と一緒に、今回の試験の自己採点をしていたところだったんだ〜。
お昼は朝のうちに学食で買っておいた物を、ここでささっと食べちゃってね!」
そう言った智香の机には、軽食が入っていたであろう空っぽになった容器が端っこに避けてあった。
「結果はどうでしたか?」
沙織が聞くと、智香はニッコリ笑って点数をまとめた用紙を沙織に見せた。
「自己採点ではいい感じ。
あとは平均点以上が取れているか。」
「すごいじゃないですか!
この点数なら最下位は無いですね!」
沙織がそう言うと、智香と瑞稀は「うーん……。」と言って黙ってしまった。
「もしかして、この点数でも最下位の可能性があるんですか?」
瑞稀が困った様子で説明する。
「点数的には悪く無いんだけど、私たちの学年は頭が良い生徒が多いらしくて。
自己採点で平均点が70点を超えていても、最下位の可能性があるんだよね……。」
『そんなに点数が取れていても最下位?
私だったら絶対に最下位に君臨するよ!』
「だから瑞稀に、平均点以上が取れるような勉強を教えてもらう約束で、写真撮影会を我慢したってわけ……。」
「そういうことだったんですね……。
智香さんもすごいですね。私だったら心が折れちゃいますよ。」
「中等部の時からほとんど最下位だったから、今更って思ってたんだけど、高等部に入って、生徒会長になって。
欲が出てきたみたい。」
智香は笑顔でそう言うと、自己採点した用紙をもう一度見てから鞄にしまった。
智香の話を聞いて、自分の点数も気になってきた沙織は、時計を確認した。
『まだ少し生徒会の仕事を始めるまで時間あるし、私も自己採点しておこうかな……。
でもまだ正答がわからないし、かと言って教科書とかノートを見てやり始めたら中途半端になって、生徒会の仕事が手につかなくなりそうだし。
でもやらないのはもっと……。』
沙織が悩んでいると、それに気がついた瑞稀が手を挙げた。
「沙織のも見てあげようか?
たぶん採点できると思うけど……。」
自分で採点するよりも、遥かに正確に素早く自己採点が完結しそうな瑞稀がそう提案してくれ、沙織は喜んでお願いした。
「いいんですか?
ぜひお願いします!」
瑞稀は沙織から問題用紙を受け取り、答え合わせを始めた。
その様子を沙織と智香が横から見守る。
「沙織ちゃんは問題用紙に、ちゃんと自分の答えを書いててえらいね!
私なんて瑞稀に言われるまでそんなことしなかったよ。」
「この学校を受験する前に、[受験の時にやること、やらないこと]って内容のネット記事に、[問題用紙に問題を解いた過程と自分の答えを書いておくこと]って書いてあったんです。
自己採点をするためらしいんですけど、自己採点をしている間に結果が出ることが多々ありまして……。
1度も自己採点が結果よりも先に出たことが無いんです……あははは。」
「たしかに自分で採点するのは大変だし難しいから、そうなる人も多いよね。私はそうだった。
それでもちゃんと続けてる沙織ちゃんはとっても偉いと思うよ!」
智香に「えらいえらい!」と言われながら頭を撫でられているうちに、瑞稀は1教科目の数学の採点を終了した。
「もう終わったんですか?」
「私、数学が得意教科だから……。」
瑞稀はそう言うと、次の教科の採点に取り掛かっていった。
「どれどれ〜。」
智香も興味深々に採点された用紙を覗き込んだ。
「86点……。
平均点がわからないから、高いのか低いのかわからないですね。」
「瑞稀、この点数はどう思う?」
「私達の時は、そのくらいの点数で真ん中くらいだったかな。」
『86点でも真ん中……この学校のレベル高くない?』
この後も、瑞稀による沙織の採点が続き、生徒会の仕事が始まる前に無事に片付いた。
「瑞稀さん、本当にありがとうございます。」
沙織がお礼を言うと、瑞稀は優しい表情で返事をした。
「全然いいよ。それより沙織は苦手教科が無いんだね。
全教科バランスよく点数が取れてると思う。
これなら結構良い成績評価がされるんじゃないかな?」
「瑞稀さんにそう言ってもらえると、とっても嬉しいです!」
『本当は数学が1番苦手なんだけど、瑞稀さん達2年生に教えてもらったおかげで86点も取れた!
しかも苦手教科だって思われない点数だなんて、夢みたい!』
智香と瑞稀の2人に褒められて、沙織は表情筋が緩みまくっていた。
そんな時、生徒会室のドアがゆっくりと開いた。
「千夏先生?」
「おぅ……ここで会うのは久しぶりだなぁ。」
疲れ切った表情の千夏先生が生徒会室にやってきた。
「悪いけど、今日と来週の月曜日は生徒会室に来れそうも無い。
採点作業が忙しくてな……。
私が確認する書類は、まとめて火曜日に渡してくれると助かる。」
千夏先生は試験期間中も忙しそうだったけれど、試験が終了した今からが仕事本番らしい。
それもそうだ。
自分が受け持つクラスの全員分の採点をして、試験前の課題提出物の確認をして、それを踏まえた成績評価をしなければいけないのだから。
そして週明けの授業からは、試験用紙を返却して解説。なんとも頭が痛い。
そんな千夏先生の苦労を知っているのか、智香と瑞稀は千夏先生の頼みを快く了承した。
「千夏先生を見てると、生徒よりも先生の方が試験期間が大変なんじゃないかと思います。」
「及川の言う通りだな。
私も教員になる前はこの苦労を知らなかった。」
千夏先生が生徒会室を出ようとドアに手をかけると、一瞬動きを止めて3人の方に振り返った。
「そういえば及川。
お前、受験の時よりも全体的に点数が取れているらしい。職員室で他の教科担当の先生達がこぞって話しているのを聞いた。
私の教科も詳細はまだ言えないが、点数的には良い感じた。頑張ったな。」
千夏先生はそれだけ言うと生徒会室を出て行った。
『千夏先生にも褒められた!
試験勉強、頑張ってよかった!』
「智香さん、瑞稀さん。
一緒に試験勉強してくれて、ありがとうございました!」
先生にも褒められて嬉しい沙織は、いま一度、一緒に勉強してくれた2人に感謝を伝える。
「沙織ちゃんが頑張った結果だよ。
ところで明日、土曜日なんだけど今度は間違えた箇所を勉強し直す予定なんだけど、またみんなも誘って一緒にやらない?」
試験が終わっても手を抜かないから、2年生は成績が全体的に良いのだろう。
沙織も2年生に続く。
「是非ともお願いします!」
智香と沙織が仲良く予定を話し合い始めようとすると、横から瑞稀が2人の間に割って入った。
「それじゃあ、今日は生徒会の仕事に専念して、明日に備えようか。
智香も、今日は会長の仕事をたんまりとやってもらう予定だから、よろしく。」
「瑞稀のいじわる!」
「とにかく! 今日は溜まってた仕事を終わらせる。
終わらないと来週の仕事量が増えるから。」
「仕事が増えるのは困りますね。
私はまだ仕事遅いし……。」
学食で瑞稀の仕事分担がどれだけ凄いことなのか、綾乃とめぐみと話していた沙織は、これ以上瑞稀に負担がかからないよう、素直に自分の席に座って仕事を開始した。
瑞稀はもう一度智香にも声をかける。
「ほら智香も。」
「わかったよ……沙織ちゃん、寮に帰る時に明日の予定を決めようか。」
「はい!」
3人は気持ちを切り替えて、それぞれの仕事を仕上げていった。
そして帰宅時には早速、明日の予定を決めて綾乃とめぐみの2人にも連絡を入れておいた。
直ぐに返信が来て、2人とも沙織と同じく参加したいと返信がきた。
「それじゃあ明日はまた瑞稀と里菜の部屋で。
問題用紙を忘れずにね!」
「はい、今日はこれで。
お疲れ様でした。」




